行平 康太:肆
本棚の並んだ中で、慎吾が手帳を広げていた。
「信悟」
声を掛けると、手帳を閉じて自分を見る。
「悪い、調べ物だったか?」
「いえ、これは私物です」
言いながら、手帳を懐にしまう。
「どうしました?」
「姫桜が構ってくれってさ」
溜め息を吐いて、やれやれといった様子で答える。
「まだ仕事が残ってます」
恐らく休憩がてら、さっきの手帳を眺めていたのだろう。
根っからの真面目人間だから、湿気を嫌う紙の前では水分を摂らない。休憩は目を閉じて椅子にもたれ掛かっているか、何かを眺めているだけだ。
それでも元気そうに見えるのは、いつも笑顔だからだろうか。
「まあ……その、何だ。余り根詰めるなよ?」
「ありがとう」
最近では、かなりの信頼関係が築けてきたと思う。時には二人で結託し、我らが姫君の態度を切り返すようになった程だ。
「ところで、今日は何を調べているんだ?」
「館について」
「やかた? 建物の屋敷か?」
「有るものなんですよ。情報の統計が終わりまして、今日は整理しています」
「お、お化け屋敷か?」
「あれ? もしかしてコータさあ、お化けキライ?」
すっかり忘れていた姫桜が、本の陰から顔を出した。
「な、何を馬鹿な!」
慌てて否定したが、自分は幽霊と呼ばれる者が苦手だ。
贋作の出現から、その類は顕著に姿を現し始めた。
彼らはいわゆる残留思念の塊――自分の事ばかりで、会話が成立しない。そして、ほぼ贋作に殺された人々。
自分にひたすら訴えかけられても、何をする事も出来ない。
力任せに消滅させても、本当に救われたのか判らない。だから苦手だ。
「ホントかにゃー?」
姫桜の追撃から逃れようと、再び信悟を見る。
彼はと言えば、また手帳を見ていた。
「おい、本当に大丈夫か?」
「ええ」
「もう! 仲間に入れてえ」
姫桜が力を抜いた身体をぶつけてくるが、ここは無視。
「一箇所、どうにも気になる館が在りまして」
「何で?」
「集計してみると、報告の実に六割が同じ屋敷なんですよ」
「お化けかあ……行ってみたい!」
駄目です。
「でも奇妙なんです。外装や話から、同じ場所だとは思えるんです、が……」
「どうした?」
「中での体験が違うんです。複数の人間が、全く違うモノを見ているんですよ」
「それって、やっぱり幽霊なのか?」
「どうでしょうかね。それでも、目撃された半分は同じと思われる人物、ですから」
「単純に、誰か住んでるだけじゃないのか?」
「それもどうでしょう。年を取らない女性二人と、男性二人です。女性は強化が有りますからまだしも、男性が年を取っていない理由が有りません」
「それはすごい! ますます行きたいですぞ!」
「止めて下さい」
「なぜじゃあー」
姫桜がさらに縋り付いてくるので、もう背負ってやる事にした。
「うむ、ナイス見はらし!」
「……何をしているんですか」
「それより、それ何処なんだ?」
「行方不明となった軍属が住んでいた、草薙邸です」




