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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
28/59

行平 康太:肆

 本棚の並んだ中で、慎吾(しんご)が手帳を広げていた。


「信悟」


 声を掛けると、手帳を閉じて自分を見る。


「悪い、調べ物だったか?」

「いえ、これは私物(もちこみ)です」


 言いながら、手帳を(ふところ)にしまう。


「どうしました?」

姫桜(ひめざくら)が構ってくれってさ」


 溜め息を吐いて、やれやれといった様子で答える。


「まだ仕事が残ってます」


 恐らく休憩がてら、さっきの手帳を眺めていたのだろう。

 根っからの真面目人間だから、湿気を嫌う紙の前では水分を()らない。休憩は目を閉じて椅子にもたれ掛かっているか、何かを眺めているだけだ。

 それでも元気そうに見えるのは、いつも笑顔だからだろうか。


「まあ……その、何だ。(あま)(こん)詰めるなよ?」

「ありがとう」


 最近では、かなりの信頼関係が築けてきたと思う。時には二人で結託(けったく)し、我らが姫君の態度を切り返すようになった(ほど)だ。


「ところで、今日は何を調べているんだ?」

「館について」

「やかた? 建物の屋敷か?」

「有るものなんですよ。情報の統計(インザプール)が終わりまして、今日は整理しています」

「お、お化け屋敷か?」

「あれ? もしかしてコータさあ、お化けキライ?」


 すっかり忘れていた姫桜が、本の(かげ)から顔を出した。


「な、何を馬鹿な!」


 (あわ)てて否定したが、自分は幽霊と呼ばれる者が苦手だ。

 贋作(がんさく)の出現から、その(たぐい)顕著(けんちょ)に姿を現し始めた。

 彼らはいわゆる残留思念の(かたまり)――自分の事ばかりで、会話が成立しない。そして、ほぼ贋作に殺された人々。

 自分にひたすら訴えかけられても、何をする事も出来ない。

 力任せに消滅させても、本当に救われたのか(わか)らない。だから苦手だ。


「ホントかにゃー?」


 姫桜の追撃から(のが)れようと、再び信悟を見る。

 彼はと言えば、また手帳を見ていた。


「おい、本当に大丈夫か?」

「ええ」

「もう! 仲間に入れてえ」


 姫桜が力を抜いた身体をぶつけてくるが、ここは無視。


「一箇所、どうにも気になる館が在りまして」

「何で?」

集計(ダイブ)してみると、報告の実に六割が同じ屋敷なんですよ」

「お化けかあ……行ってみたい!」


 駄目です。


「でも奇妙なんです。外装や話から、同じ場所(デジャヴ)だとは思えるんです、が……」

「どうした?」

「中での体験が違うんです。複数の人間が、全く違うモノを見ているんですよ」

「それって、やっぱり幽霊なのか?」

「どうでしょうかね。それでも、目撃された半分は同じと思われる人物、ですから」

「単純に、誰か住んでるだけじゃないのか?」

「それもどうでしょう。年を取らない女性二人と、男性二人です。女性は強化が有りますからまだしも、男性が年を取っていない理由が有りません」

「それはすごい! ますます行きたいですぞ!」

「止めて下さい」

「なぜじゃあー」


 姫桜がさらに(すが)り付いてくるので、もう背負(せお)ってやる事にした。


「うむ、ナイス見はらし!」

「……何をしているんですか」

「それより、それ何処(どこ)なんだ?」

「行方不明となった軍属が住んでいた、草薙邸(くさかてい)です」

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