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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
26/59

神狩 秀遥:肆

 娘に会うのは、実に数年ぶりになる。今まで研究に(かま)け放置していた代償だ。


「さて、留守で無ければ良いが……」


 部屋のチャイムを鳴らすと、以前より少し大人びた娘が現れた。


「オヤジ、どうした?」

「少し話をしたくなってな」


 放置し過ぎていた所為(せい)か、娘の部屋に入るのは初めてだった。

 当然の事ながら、国から援助を受けている研究所より格段に狭い。玄関からリビングに続く廊下は人が一人通れる程度で、両側に風呂場とトイレのドアが在る。


「お客様ですか?」


 脱衣所から、シャツの(そで)(まく)った女性が声を掛けてきた。スーツを着た若い女性だ。


「お、お久しぶりです。神狩(かがり)博士」


 (ちぢ)こまって頭を下げられる。


「君は……桔梗(ききょう)中将の娘さんだったかな」


 確か父親の我侭(わがまま)に付き合わされ、心を読む贋作(がんさく)を移植した女性だ。かなり精神が衰弱していたが、意志の強い響子とは心が聞こえ(やす)い分、馬が合うだろう。


「君が()るとは思わなかった」

「こちらこそ、覚えておいででしたか」

「なに、父君の圧力が強かったからな。印象に残っているだけだ」

「そ、それはすいません」

「いや、冗談が過ぎたな。申し訳ない」


 父については真実持って冗談だ。強化とは人体実験。どんな理由があったにせよ、せめて被害者を忘れぬようにしておかねば、私は外道の法すら犯してしまう。だから覚えている。

 言葉を返していると、娘が割って入った。


「オレのメイド」

「はあ? 違いますう! なに言ってるんですかあ!」

「ケッ、シッカリ掃除しとけ」

「むっきゃあー! だいたい、なんでお風呂まで掃除しなきゃいけな……」

「ウルセー、ウルセー」

「き、きいぃぃぃぃ!」


 ……君達、本当に仲は良いのか?


 そのまま彼女を風呂場に残し、二人でリビングに座る。隣室にはベッドが置かれた寝室が在るが、リビングから寝室まで家具が取り囲んでいた。両方合わせても七畳がせいぜい。やはり実家に住まわせればと、改めて思う。


世輪傍(せりか)に聞いたぞ。黒嵐(こくらん)に入ったそうだな」

「ンで、今日はナンだよ。ワリイけど、千客万来(せんきゃくばんらい)で疲れてンだ」

先程(さきほど)無名(むみょう)に会ってな。気になる事を言っていたので、何かの時の(ため)に、お前にも伝えておこうと思ったのだ」

「マジかよ……今日は脳ミソのキャパがイッパイイッパイだから、後にしてくンねえか?」

「まあ聞け」


 無名が言う贋作について告げ、続いて本題に入る。


「どうやら、贋作を生み出した発端となる人物が居るらしい」

「……ナニ?」

(ふた)()、『源典回帰(げんてんかいき)』と呼ばれる能力者のようだ」

「でもよ。ヤツが言う情報なんざ、信用出来たモンじゃネェぞ」

(わか)っている。だが真偽(しんぎ)を確かめようにも、世輪傍が割って入ってしまい、追い出されてしまった」

「オヤジ……弱ッ!」

「……私は研究者であって、軍人では無い」


 実際、私は戦闘の才能が無い。自身の武器を作るより、他を強化したり神器を作り出す方が、遥かに実用的だと思っている。


「ンで、源典回帰って誰よ?」

「恐らく、オリジナルの一人では有るだろう」

「だから誰だよ」

「世輪傍が割って入ってしまい……」

「肝心のトコ聞いてネェのか」

「結果を正確に(とら)えるならば、そうなる」

「……役立たネェー」

「はっきり言うが、私は精神が打たれ弱い。(あま)り責め続けるなら、此処(ここ)で涙を流すぞ」

「その情報いらネェし」

「しかし、二つ名を持っている事は判った」

「ナルホドな、神皇も知ってるヤツってコトだ」

「世輪傍が張り付いている所為で、無名に私から聞き直すのは無理だろう」

「ならオレが無名に聞くか、オヤジが神皇に聞くか……だな」

仕方(しかた)無い、私が神皇に聞こう」


 (あら)が見えては援助に支障が出るので気は進まないが、形振(なりふ)り構っていられない。


「むしろアネキに聞くのもアリだな」

「世輪傍に?」

「オレは任務があっから、メイドをアネキに行かせよう」

「彼女か! それは名案だ。彼女の能力なら……」

「お掃除、終わりましたよ」


 シャツの袖を直しながら、桔梗の娘が姿を現す。


「……え?」


 私と響子の視線に、彼女は何故(なぜ)か照れ笑いを返した。


「い、いやあ。そんなに見つめられると……」

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