表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
25/59

桔梗 小夜子:肆

 目の前に炎が広がった。


「ち、ちちち、(ちけ)えー!」


 近い近い近い!

 死ぬ! 燃える!


 神狩(かがり) 響子(きょうこ)め、なんて女だ。そりゃスタイルは上だからって、何をしても許されると思っているのか。この。


 いきなりスライディング。


「アブゥ!」


 わたしの足をすくう攻撃に、変な声を上げながら倒れる。


「ナニしやがる!」


 その時、『外』から(きし)んだ音が響いた。


「あの音は?」

「シカトすんな!」

「……あの音は?」

「鏡だよ! 開いたンだろ!」


 ()ぐに駆け寄り、鏡を(のぞ)き込む。


「オイ!」


 三面鏡に光が(とも)り、連なった鏡面の()()()に、響子が立っている。


「ん……んー?」

「ナンだ、どうした?」


 首を(かし)げていると、横から本人も覗く。


『開いてネェのか?』


「行きます!」


 響子が写っている事など構わず、わたしは鏡に滑り込んだ。


「えっ……置いてくな、コラ!」


 一緒に走り出す。


「……あ……ああ……」


 後ろから贋作(がんさく)が追って来ているみたいだが、構ってはいられない。


「おりゃあぁぁぁ!」

「あああああああ!」


 二人で負けじと叫びながら、果てしない鏡を(くぐ)り続ける。止まってなるものか。



 三面鏡から出ると、やっぱり()()()()()()()が立っていた。


「くふ」


 奇妙な笑い方をしている。


「あン?」


 同時に鏡から出た響子は、別の自分を見て(いぶか)しげな声を上げた。


「弱くもないが強くもない。無能な女、後は任せよ」


 続いて贋作も()い出て来る。


「チッ……初撃、足を(つか)んできます」


 もう一人の響子は、時計屋さんの言葉を聞き、その場でジャンプ。

 言葉通り足を掴もうとした腕は、(むな)しく(くう)を切った。


「くふ」


 そのまま着地で腕を踏みつけ、動きを封じる。


「ああぁ……」

「あまり美味くもなさそうじゃが……喰ろうてやろう。(わらわ)を前にして姿も見せぬ下郎(げろう)め、その下卑(げび)た肉を見せてみよ」


 ()()()()()()()鏡に手を入れ、贋作を引きずり出した。

 一気に引き抜かれたが腕は踏まれたままなので、勢いにぶちりと引き千切(ちぎ)れる。


「あ……あ……あ……」

「汚い口を開くな……くふ」


 踏んでいた贋作の腕を持ち上げる。()()ないくらい(ふく)らんだ顔が、その腕を丸呑(まるの)みした。

 

「ナンだ……コイツ……」


 本物響子が(つぶや)く。自分の顔が人の腕を丸呑みにしていたら、そりゃ引くだろう。


「ふむ、やはり不味い」

「ああぁぁぁ……」

(しゃべ)るなと言うておる」


 響子が()らいで見えたかと思うと、分厚(ぶあつ)い鉄板へと姿を変えた。


 これ……変化(へんげ)……?


 そそり立つ鉄板は、そのまま床にひれ()す贋作に倒れた。



 ぐちゃり。


 ぐちゃり。


 わたしのトラウマを刺激する音がする。

 倒れた鉄板が人に姿を戻し、潰れた贋作を喰べているのだ。


「オイ、時計屋……」

「チッ……先程の客人です」


 やがて贋作を喰べ終えた人が、その場に立ち上がった。 

 縁日(えんにち)で見るようなキツネ面を被り、黒い軍服を身に(まと)っている。黒を基調としてデザインが違う黒嵐(こくらん)の軍服だが、彼女――わたしより可哀相な大きさに膨らんでいる胸の女性には、全身に金色の刺繍が(ほどこ)されていた。


 何て派手(はで)な。


 軍服の黒さなんてあったもんじゃない。例えて言うなら、喪服で空色の傘を差しているようなもの。


「……くふ」


 この人は――駄目だ。

 わたしの中の悪意だ。

 心がどうなっているのか(わか)らない。響子はどう思うだろう。


『面を付けたままで、どうやって喰ったンだ?』


 あ、そっち?

 うーむ、確かに。


「っつーか、テメー誰だよ」

稲荷(いなり)と言う、(そち)と同じ黒嵐が一人よ」

「ヘンなヤツ」

「初対面に無礼な女、(ぬし)も喰われたいのか?」

「イヤに決まってンだろ、カンベンしろ」


『この女、どっかで会った気がすンな。まさか神皇か?』


 え、神皇陛下?


『イヤイヤ。コレほどの力があンなら、自分で鏡を始末するだろ』


 そうそう。


『でも、表立って動けネェっつー理由はあるか』


 それはありますね。


『少なくとも御所(ごしょ)にいたんじゃ、人の目もあるし親族もいる。鏡に手は出せネェかもな』


 なるほど。


『でも黒嵐に依頼して持ち出したら、後はテメーが動きゃいい』


「可能性はありますね」

「……あ? オメー、いきなりナニ言ってンだ?」


 しまった。


 (あま)りに大きくて、自然に聞こえる『声』だったから、つい普通に言葉を返してしまった。


「い、いえいえ! 喰われる可能性があるってボケですよ」

「不吉なコト言うな」

「……さて、久しぶりに喰えたことじゃし、妾は帰る」


 二人で話していると、お稲荷さまが口を開いた。

 

「つーか汚してネェで、片付けてけよ」


 響子の言葉を無視して三面鏡を拾い、ごく自然に出て行った。


「オイ!」


 彼女は危険だ。

 その行動を、止めなければ。


 次に出会ったら、命を賭けてでも彼女を止めよう。


 わたしは、わたしの残滓(ざんし)と向き合うべきだ。


「このままじゃ死ねませんね」

「あ? ナニ?」


 そこで、押し黙っていた時計屋さんが口を開いた。


「チッ……やはり貴女(あなた)は、死なないのですね」


 どういう意味ですか?


「ナンだよ、オメーまで失礼なヤツだな」

「帰ります……チッ」

「待てや! コトの発端(ほったん)なら、片付け手伝ってけ!」


 響子の言葉は、再び無視されて時計屋さんの背中に反射した。


「あー」


 深い溜め息を吐いて、彼女は自分の部屋を見渡す。(すす)と肉片で、はっきり言って(ひど)有様(ありさま)だ。例えて言うなら、焼肉の終わったご家庭の鉄板。鉄板さんが荒らしただけに。


「わ、わたしも帰りまーす」

「あぁ?」


 がっしり腕を掴まれる。

 さっきの贋作にしか見えませんよ。


「お、お客ですよね? お邪魔しましたあ」

「客じゃない、メイドだ」

「へ?」

「メイドよ、掃除しろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ