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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
24/59

神狩 響子:肆

 小夜子(さよこ)とか名乗る女を部屋の片隅に置き、時計屋(とけいや)と酒を()む。


「クソッ」


 三面鏡を出てから、ヒドイ頭痛がしやがる。強化を受けてっから、ほとんど病気にはならない。アタマいてぇのナンて、ここ数年じゃ初めての経験だ。


「酒に弱いですね……チッ」


 時計屋が、横で()()()()()()()を言った。

 強化を受けたヤツは、アルコールの分解も異常に早い。人によっちゃ、ほとんど酔わないヤツもいるぐらいだ。オレはその部類。


「大丈夫ですか?」


 小夜子が顔を(のぞ)き込んでくる。


「アンタ何なの? 天使?」

「え?……ああ、はい」

「否定しろ」


 この女、(れい)の補佐とか言ってやがったが、ナニモンだ?

 オレの考えるコトに、イチイチ突っ込んできやがる。

 面倒クセェ。

 まさかとは思うが、心を読む能力者じゃネェだろうな。


 そう考えると、当の本人はビクッと身体を震わせた。


 単に仮面がおっかネェだけか?

 ぶっちゃけ、オレも自分で気味ワリイと思うよ。

 しかし、零のヤツはナンだって自分が来ネェで、こんな女を寄越(よこ)しやがったんだ。

 久しぶりに会いたかったのによ。


 改めて、(うつむ)きながら座っている小夜子を見た。視線がたまにかち合う辺り、チラチラとコッチを見てやがる。


 オメーは子犬かっての。


 長い髪をクビの後ろで(たば)ね、キッチリとしたスーツを着て正座。


 フン。

 スタイルはオレの勝ちだな。

 零、オメーも少しは見直せ。

 それともオメー、貧乳が好みだったのか?


 ナンだか、イラついてきた。

 タバコの箱を出して、姿勢も正しく座ってやがる小夜子のアタマに()せてみる。


「おお、載る!」

「ちょっと、ナニするんですかあ」

「落とすなよ」

「へあ?」


 小夜子はバランスを取りつつ、頭上の箱を触感で確認。


「はい!」


 ノリのいいヤツ。

 つーか、落ちネェだろ。姿勢も返事も良すぎ。


「いづッ!」


 ナンか、頭痛がヒドくなってきやがった。


「ちょっとカオ洗ってくら」


 

 カオを洗ったトコで、痛みが引くカンジしネェ。それどころか、もっとヒドくなってきてやがる。


 マジにヤベェぞ、こりゃ。


 強化されていても危険信号が強くなっているってコトは、明らかに異常な頭痛だ。っつーか、もう痛みナンてモンじゃなく、アタマをブン殴られてるみてェな衝撃を感じる。


 まさかバケモンじゃネェだろうな。

 周り見ても、オレ以外にダレもいねえけど。

 気のせいか?


 ふと、鏡に向かう自分の瞳が大きくなっているコトに気付いた。


「あ?」


 鏡を覗いて、瞳を見てみる。


「……ッ!」


 目に、三面鏡のバケモンが写りこんでやがる!

 コイツ、オレに()きやがった!


 贋作(がんさく)は目ン中で拳を振りかぶり、オレの後頭部を殴りつけている。


 執念深(しゅうねんぶけ)え。

 けど、コレが頭痛の正体か。


 とっさに振り返るが、ソコにバケモンはいない。しかし再び鏡を向くと、シッカリ目に写っている。合わせ鏡と同じく、反射する物が向かい合う時しか見えない。


 どうする。

 どうすればコイツを倒せる。

 人のアタマ殴りやがって、ぜってーブン殴ってやる!


 部屋で転がっている三面鏡が、アタマに浮かんだ。


 壊れてネェ。

 なら本体は、まだ『中』に()るハズだ。

 しかも鏡から出たコイツには、タバコの火が()いた。

 ソレなら、あの鏡から引きずり出せば、攻撃出来るっつーワケだ。


 ンなコト考えてる間にも、目ン中じゃゴンゴン殴りつける動作は続いてる。クソが、いい加減にしろっての。早いトコ手を打たネェと、オレのアタマが破裂でもしちまいそうだ。


 こりゃ、おびき出すしかネェな。



 半開きにされた三面鏡の前に、時計屋が仁王立(におうだ)ちしている。


「……それで、何故(なにゆえ)ワタクシが(おとり)なのですか……チッ」

仕方(しかた)ネェじゃん。客に囮ナンて、させられるかよ」

「チッ……ワタクシも客のつもりだったのですが」

「オメーは相棒だろ、客じゃネェよ」


 客と呼ばれた小夜子は、キンチョーしたカオで部屋の片隅に正座している。っつーか帰れよ。零の寄越したアンタにナニかあると、オレの立つ()がネェんだよ。


「まァ気にすンな。どのみち、オレらのドッチかが攻撃しなきゃならネェんだ」


 頭痛は――消えたな。

 来やがれ!


 その時、玄関の呼び鈴が鳴る音が聞こえた。


「お客ですよ……チッ」

「ほっとけ」


 呼び鈴が再び鳴る。っつーか、ピピピピピンポーンと、呼び鈴が連打された。


「えぇ……ちょっ……ナニ? ナンなの?」

「チッ……ワタクシが出ましょう」


 時計屋は鏡から離れ、玄関へ消えた。


「危ネェな、鏡閉めろよ」


 鏡の前に行き閉めようとしたトコで、背筋が凍りついた。


「マジか」


 鏡には、(すで)に贋作が写っていた。ダラリと下がった(あご)で、目だけ笑ってやがる。


「クソッたれ!」


 とっさに息を吸い込み、目の前に魔法陣を出現させる。が、()ぐ腕が(つか)まれた。そのまま一気に持ってかれる。

 

 ――間に合わネェ!


「ファイトォ!」


 引き込まれそうになったオレの腕を、小夜子が掴んだ。


「ここはイッパーツ! とか叫ぶところじゃないですか!」

「……ナニ言ってンの?」


 ソレどころじゃネェよ。


「つーか、掴んでも引きずられてるじゃネェか! リミッター外しとけよ!」

生憎(あいにく)わたしは、(ふた)()なんて持ってないんですよ! 許可が下りないと外せません!」

「じゃあ帰っとけよ!」

「……やっぱ無理……ごめんなさい……」

「諦めンの(はえ)え!?」


 オレと小夜子は、二人で鏡に引きずり込まれた。



 壁掛けの時計を見て、イッキに滅入(めい)った。

 数字が反転してやがるよ。


「またか」


 明らかに鏡の中だ。一日に二度も入るナンて思わなかった。


「オイ、起きろ」


 横で微笑(ほほえ)みながら、スヤスヤ寝息を立てている小夜子を蹴る。


「もう悪戯(いたずら)っ子なんだから、特佐は……げへへ……」


 起きネェし。

 特佐とかって、零のコトじゃネェだろうな。だったらムカつく。


 今度は、アタマを思い切り蹴飛ばしてやった。


()った! ちょっと! もっと優しく起こして下さいよお」


 アタマさすりながらブツブツ言う小夜子をムシして、床に転がる三面鏡に目を向けた。

 真っ黒く塗りつぶしたように、闇が広がっている。要するに、鏡の『外』が閉じられている。


「時計屋! 三面鏡!」


 思いっ切り叫んだつもりだが、鏡は黒いままだ。


「シカトすんな!」


 ヤツは死んでンのか?

 まさか『外』には、『中』の声は聞こえネェのか?


「うるさいですよ、何事(なにごと)ですか」


 横の女は鏡を開いた。家具が並んでいる部屋の中で、()()()()()()()()()


 ナンでだ?

 さっきの言葉しかり、この女、やっぱナンか力を持ってやがる。


 考えるオレの後ろで、ナニか動く気配がした。


「小夜子とか言ったな、そのまま動くンじゃネェぞ」

「は?」

「来やがった」


 時計屋、早く開けろ!


「ああああぁぁぁ」


 イライラして周りを見ると、再び壁の時計が目に入った。数字が反転している。


 ……そうか、そうだった。


 時計屋の時計、何個かは数字が反転していなかった。それは多分、アッチで確認しながら引き込まれた現象は、コッチに持って来れるってコトじゃネェだろうな。

 前のオレは、引きずり込まれる鏡だけ見ていたから、視界に入る自分の身体以外、ほとんどが反転しちまった。時計屋は時計を見ながら引き込まれたから、いくつかの時計は反転しなかった。


 息を吸い込み、精神を集中する。

 目の前に魔法陣が現れた。


 ヤッパな。

 ()()()()だったから持って来れてるゼ。


「ああああぁぁぁ」

「ナニ言ってっか解んネェよ! しっかりホザけ!」


 振り向きざま、贋作に炎を吹きかけた。

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