表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
22/59

行平 康太:参

 今日も自分は、相も変わらず茶を(すす)っている。

 静かな空気が流れる中、独り慎吾(しんご)がパタパタと動き回っていた。


「平和だねえ」

「お(ひま)でしたら、手伝って下さいよ」


 姫桜(ひめざくら)は彼の言葉が聞こえなかったかのように、ゆっくりと茶を口に含めた。信悟は笑顔ながらに溜め息を吐き、再び書類を抱える。


「手伝うか?」

貴方(あなた)は結構です」


 腕まくりを手で制され、宙に浮いた心だけが残される。


「場所を知らぬ人間が触ると、配置(ガーデニング)が乱れます」

「姫桜はどうなんだよ」

「彼女は部隊長です。部下の仕事を救援(フォロー)する義務が有ります」

「やりませーん」


 彼女は両手を広げ、口を(とが)らせた。

 これは当人で無くても、何とも憎たらしい。

 信悟は顔を(くも)らせ、無言で部屋の奥へと消えていった。


「おい」

「ほっときなよ」

「そう言う訳にもいかないでしょう」


 資料整理部の部屋は、姫桜用の座敷を囲んで本棚がズラリと並んでいる。信悟が仕事をしているのは、その本棚の一番奥。新参者の自分には、哀しいながら机も無いのが実情だ。


「信悟」

「何ですか?」


 机に向かった信悟は、声を掛けると笑顔の眉間(みけん)(しわ)を寄せた。


「今は何をしてるんだ?」

「見ての通り、仕事中です」


 苛立(いらだ)ちも手伝い、ろくに仕事をしない自分への嫌みだろう。


「そうじゃなくてさ」

「分かってますよ。失礼、大人気(おとなげ)なかったですね」


 彼は苦笑して言葉を繋ぐ。少々真面目過ぎるが、根は優しい男だ。


「狐の贋作(がんさく)について、過去の集計(データ)を整理していました」

「狐?」

「ええ、中々(なかなか)多いんですよ。神皇(しんのう)陛下に移植されているモノと、同じ贋作(タイプ)ですしね」

「神皇?」

「陛下、です。言葉が足りませんね」


 神皇が移植を受けていたなんて初耳だ。


「軍属には有名です。フラリと戦場に現れて、敵を蹴散らし、またフラリと去る」

「へえ」

「ただ、いつ手術を受けたのかは謎ですけどね。噂では神狩(かがり)研究所発足(ほっそく)前らしいですが」


 発足は大分(だいぶ)前の話だ。強化手術を受けた者は、贋作の特性と同じく年を取れば取るほど強くなり、身体の適合レベルも上がると聞いたことがある。もはや神皇の強さは、オリジナルに匹敵するのかもしれない。


「狐の能力って何なんだ?」

変形(へんげ)です。何せ狐ですから」

「神皇も化けるのか?」

「ですから、陛下と言う言葉を忘れないように……」


 慎吾が、再び机に目を落とす。


「資料では、戦闘での記録が残っていますね」

「私生活の中では?」

真逆(まさか)、神皇陛下ですよ? 意味が有りません」

「侍女を驚かせたり」

「それは無いでしょう、が……」


 信悟は腕を組み、独り首を(かし)げた。


「何だ?」

「侍女達が、頻繁(ひんぱん)暇を出(クビに)されてますね」

「嫌われた奴じゃないのか?」

「家に戻った記録、無いんですよ」

「おい、それって」


 まさか。

 ()()()()()()()()()()()()


「どうでしょう、ね」


 自分の心中を見透(みす)かしたかのように、慎吾は続く言葉を()んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ