表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
21/59

神狩 秀遥:参

 黒嵐(こくらん)の部屋に向かって、本部の廊下を歩く。

 真逆(まさか)草薙(くさか)特佐の召使がオリジナルだとは思わなかった。それならば、二人より一人を相手にする方が()()だろう。隊長の無名(むみょう)に会い、研究記録について聞くつもりだ。

 最初から聞きに行かなかったのは訳が有る。単純に怖いと思ったのだ。一度だけ会った事が有るが、その時に思った。


 ――()()は、人じゃない。


 強化の施術に(ともな)い、何度も贋作(がんさく)を見てきた自分が直感した。そしてそれからは、接触を意図的に避けてきた。


 だが今は、それでも会おうとしている。

 もう自棄(やけ)だ。


 しかし、流石(さすが)に二人きりで会うのは危険に思い、世輪傍(せりか)に立ち会ってくれるよう連絡を入れておいた。


 国からの援助が向けられた数日後、世輪傍は突然現れた。部屋に倒れていたのだ。(ひど)く傷を()い、声帯は原型(げんけい)(とど)めていなかった。何処(どこ)で行ったのか強化手術を()()()()()彼女は、高まった治癒力でも再生が追いつかず、強化を重ねた上で整形までしなければ、傷の跡が残ってしまう(ほど)だった。

 回復した世輪傍は、今までに無い強化を私に教えるばかりか、響子に自身の子宮の一部を移植させた。贋作のコアが欠けても(ふた)()を獲得している辺り、あの女の融合レベルが高いとしか言いようが無い。移植されて長い年月が()っているのか、数多(あまた)の戦いをくぐり抜けてきたのかどちらかだろう。


 黒嵐の居室前には、部屋から出て世輪傍が待っていた。短い(そで)と七分の袖が重なった、専用の黒い軍服で身を包んでいる。


神狩(かがり)、待っていました」


 顔は美しいままだが、浮世(うきよ)離れした印象は濃くなった気がした。


「世輪傍、久しぶりだな」

「今からは、黒嵐の参謀です」


 言いながら仮面を取り出す。そう言えば、黒嵐では仮面を着けて任務に()くと聞いた事が有る。


「先日、響子(きょうこ)が入りました」

「ほう」


 響子が……良く頑張っている。後で会いに行くか。


「予定は順調です」


 予定など知らない。この女、何をするつもりだ?


「彼女には、まだまだ力を付けて(もら)わなくては。彼女の目的を達成するタメには(さら)なる力が、絶対的な者と戦う力が必要です」

「また戯言(ざれごと)か?」

「夢を語る者など、(はた)から見ればそんなモノ」

「夢?」


 彼女の口から、夢などという言葉が出るとは思っていなかった。


「例え輪廻(りんね)の渦を(はず)れ、独りになっても、己の信じるモノを護る。それが彼女の真実」


 まるで自分の事のように(うそぶ)く。

 被っている仮面と(あい)まって、道化にしか見えない。


「アナタだけは、自分の娘の味方でいなさい」


 (つむ)がれる白々(しらじら)しい台詞(せりふ)も、姿のせいで本気なのか(わか)らない。


「少なくとも、隊長が何を言っても応じてはなりませんよ」


 やはり無名を庇護(ひご)する方便(ほうべん)か。


「入ります」


 黒嵐の執務室には、大きな机を囲み椅子が並んでいるだけ。資料の棚すら無い。会議室の様相だ。神皇の特命が任務なだけに、書類を残すのも(はばか)られているのだろうか。


「久しいな、神狩」


 無名は椅子に腰掛け、抑揚の無い声で話した。仮面を付けているので、世輪傍と同じく表情が判らない。


 やはり怖い。


 全身に鳥肌が立ち、冷や汗が震える背中を(すべ)り落ちていく。絶対的なモノに対する恐怖。内なる自分が、逃げろと叫んでいる。

 私の震えを見付けてか、世輪傍が小さな声で耳打ちした。


「神狩、恐れていても震えては駄目です。(おそ)れは人を人たらしめてしまう。仮にも貴方(あなた)随一(ずいいち)の研究所を(ひき)いているのですから、隊長とは対等で居なさい」


 背中に軽く拳を当てられた。どうやら、彼女なりに身内を気遣(きづか)っているようだ。


神崩(かみなだ)の研究記録が欲しい」

「何?」


 声のトーンに変化は無い。


 私の質問を、どう受け取ったのだろうか。


 まるで、声が吸い込まれてしまったようだ。空中に霧散(むさん)するのではなく、見えない生物が音の震えを食ってしまった。そのくらい変化が無く、得体(えたい)が知れない。世輪傍の発破(はっぱ)が無ければ、ただの人である私は、続く言葉を(しぼ)り出せなかっただろう。


「……だから、記録を……」

(れい)を何度か訪ねているのだろう? そんな物は無い」

「ならば、どうやって」


 言葉を続けようとしたところ、無名が手で(さえぎ)った。


「貴様は、贋作を何だと思う?」

「何とは?」

「何処から来た何なのか」


 この言い方、自分は知っているとでも言うのだろうか。


「人を殺し、人を喰う。行動は直情かつ本能的なのに、()えず餌場(えさば)に入り(びた)らないのは、一体何故(なぜ)か――」

「それは……そうだが……」

「贋作は、人が死に絶えれば消滅する存在。更に言えば、人の考えた恐怖の具現化だ」

「そんな馬鹿な!」

「事実だ。だから人の思う、聖なるモノが通用する」

神器(じんぎ)か」

「話が()れた。人から生まれた存在だから、人が居なくなれば消滅する。奴等は本能的に、それを知っている。だから、絶えず市街地を攻め入るような真似(まね)はしない」

「ならば、どうして発生したのだ」

「別の世界に留まっていたが、容量が一杯になったのだろう。そして(あふ)れた、この世界に」

「負の感情だけが、何故?」

「人が(とら)われ(やす)いのが要因だ。楽しい事は()ぐに忘れ、反芻(はんすう)しない。だが恐怖や不安は、何度も何度も考える。溜まってきて、とうとう溢れてしまった」

「しかし、贋作を目の当たりにすれば」

「人は恐怖する」


 そして更なる贋作が発生する。

 悪循環(あくじゅんかん)だ。

 本当だとすれば、既に溢れてしまった贋作を止める(すべ)は無い。人が絶滅しない限り。


「神狩。ここからの話は、二人だけになる必要が有る」

「隊長!」


 世輪傍が、悲鳴にも似た声を上げた。無名の保身を気にしているのか、私の身を案じてくれているのかは判らない。


「神器に関する事だ」


 どうする。

 情報は可能な限り欲しい。


「分かった」

「神狩!」

多層回路(たそうかいろ)、出て行け」


 二つ名で呼ばれた世輪傍は、躊躇(ちゅうちょ)しながらも静かに部屋を出た。


「――さて神狩、出向いてくれて助かった。こちらからは無理だったからな。神崩を憎む貴様だからこそ言える。味方になれ」

「味方だと?」

「本当の敵は、贋作などでは無い。先刻までの話は、参謀が居る為に吐いた嘘だ」

詭弁(きべん)か? 策を(ろう)しているようには見えんが……」

「信用出来る人物が必要だ。その点では、お前は及第点に(あた)る」


 貴様に信用されても、困る。


「――神崩には、まだ生き残りが居る」

「今の他に、という事か?」

「暗躍している」

「それは、オリジナルがクーデターを起こそうとしている。と考えて良いのか?」

「構わん」


 とんでもない事だ。

 オリジナルは『最低でも』一個師団に相当する。


「正確には、起こそうとしている、では無く、既に起こしている」 

「それは……」


「そう、神崩消滅だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ