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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
16/59

神狩 秀遥:弐

 私は、研究所で無線機の前に座っていた。

 研究員がこれ以上減っても困るので、今回草薙(くさか)邸への派遣は被検体でも優秀な者に無線機を持たせた。


「もう少しで到着です」

「感度は良好だ」


 これで何が起こっているのか(わか)る。


「着きました」


 無線に繋いだ録音機のスイッチを押す。


 扉をノックする音が続いたが、誰かが開く様子は無い。


「誰か()ませんか?」


 呼び掛けにも無反応。

 無線機からは、しばらくの静寂(せいじゃく)が流れた。


「何か御用(ごよう)でしょうか?」


 数分の(のち)、扉が開かれる音と低い女性の声が聞こえてくる。


「失礼、私は神狩(かがり)博士の使いで参りました」

「……御上(おあ)がり下さい」


 草薙大佐の遺産である屋敷に、特佐と召使で二人暮らしの(はず)だ。


「キャハハハ!」

「また来たよ」

「どうしようか?」


 だが、これは何だ?


 無線機を通じて、小さいが複数の声が聞こえたような気がした。


「外からも見ましたが、いざ中に入ると広いお屋敷ですね。こちらには、お二人だけでお住まいですか?」

「はい」

「嘘つき」

「みんな居るよ」


 今度は、はっきりと聞こえた。


「失礼かと(ぞん)じますが、(いま)所用(しょよう)御座(ござ)います……御用件(ごようけん)は?」

「邪魔だ」

()()ね」


 二人の会話に入り混じり、老若男女様々な声が(かぶ)さっている。

 何人か判別(はんべつ)出来ないくらい多い。まるでパーティ会場だ。


「お時間を取らせてすいません。草薙特佐は、神崩博士から、何か研究記録のような物を受け取っていらっしゃいませんか?」

「……当方(とうほう)に、そのような物は御座(ござ)いません」

「しかし今まででも、何人かの研究員が聞きに(うかが)ったかと……」

「来ましたな」

「アイツら、どうしたんだっけ?」

「ああ……」

「御座いません」


 抑えた口調で答えてはいるが、声には低さが増している。

 まずいな。

 怒気が(ふく)れ上がっているようだ。


「しかし」

「御座いません」

「ねえ、どうしたんだっけ?」

「確か……」


 ――()()()()()()()()()()――。


 駄目だ!


「おい! 何をしている!」


 無線の声が相手に聞こえる危険を無視し、被検体に叫んだ。


「聞こえてないのか! 逃げろ! 囲まれてるぞ!」

「えっ? なんだ、これ……さっきまで……ギャ!」

「どうした! 何が有った!」

「もういいよ」

「コイツも喰べちゃえ」

「ひ……ひいぃ!……あぐ……ぐ……」


 無線機からは、生きながら腑分(ふわ)けされる嫌な音が聞こえてくる。


「ははははははははははははは!」


 交信が途絶(とだ)えた。


 何だ、今のは……。



 念の(ため)、録音した音声を保存しておこうと、セットしておいたレコーダを巻き戻す。

 静かな室内に、キュルキュルとした音が鳴り続けた。


 ――これほど長く録音しただろうか?


 私がスイッチを押した時間より、明らかに長く巻き戻っている。

 いや待て、先ほどスイッチを押そうとした時、違和感が無かったか?


 スイッチは、()()()()()()()()()()()()


 その時、始まりまで巻き戻ったレコーダが再生された。


「無能な男が、(みずか)深淵(しんえん)に足を踏み入れるとは()骨頂(こっちょう)


 召使の声が冒頭に録音されている。


「感度は良好……」

「私が手助けしているからだ。(おの)(うつわ)を知れ」

「……あぐ……ぐ……」

「……おい、貴様」


 最後まで声は(つら)なっている。


「土足で他人の家に()(びた)るなら、そろそろ殺すぞ」

「な……に?」

下痢(げり)にも等しい肉の(かす)に変えてくれる」

「何者なんだ!」


 声が返ってくる筈も無いレコーダに叫ぶ。


「深淵を(のぞ)くならば、自分も深淵に覗かれている事を自覚すべきだ。それとも、それすら理解出来ぬ(ほど)阿呆(あほう)か?」


 止めようと何度もスイッチを押すが、再生が止まる気配は無い。


「私は深淵(しんえん)(おう)――今後一切(いっさい)、私と(れい)に手出しするな」

(ふた)()!? 深淵の王か!」


 オリジナルでは、私の被検体が(かな)う筈も無い。


(わか)ったか? 糞尿(ふんにょう)()まった肥溜(こえだめ)が」

「……う……」


 今の声は、()()()()()()()()()


「解ったのか?」


 後ろに、居る。

 先に録音スイッチを押していたのは、この女だったのだ。


「私は何処(どこ)にでも居る」


 女の言っている事は嘘ではない。草薙邸に居ながら、この場所にも()()()()()()()()


「う、あ。」

「逃げようとして、すんなり逃げ切れると思うなよ? ただ歩いているだけの木偶(でく)め」



 どれほどの時間が()ったか判らない。

 振り返ると、そこには誰も居なかった。

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