黒剣②
ナイツ卿の屋敷からの帰り道。昔のことを思い出していた。
自分の能力に気が付いたのは、前の国である盗賊のアジトを襲った時だ。俺は、その時は黒剣ではなく普通の剣を使っていた。黒剣はよく切れなかったし、持つと何とも言えない気持ち悪さがあった。だからと言って捨てると呪われそうなので、一応持ち歩いていたのだ。
盗賊は小規模の集団だったので、楽な仕事だと思っていたが、思った以上に抵抗された。その戦いの中、持ってきた剣が折れてしまい、俺は仕方なく黒剣を使った。その時、偶然に俺は気が付いたのだった。
黒剣は血を吸う。そして血を吸えば吸うほどに強くなる。盗賊に切りかかり、わずかに傷をつけた時、そして仲間から流れた血が黒剣にかかった時、血を吸った黒剣は今までにないほど切れ味が良くなり、俺の体もそれに比例して強くなっているようだった。
その日から、俺は黒剣を使って手柄を上げ続けた。問題は、黒剣は生きている人間の血しか吸わないこと、そして俺が人を切ることに快感を覚えたことだ。
人の皮膚を肉を骨を、黒剣で切るのは心からの快感だった。さらに相手が威厳ある人間だったり、美しい人間だったら尚のことである。痛みと恐怖でゆがむ顔を見るのは堪らない。そう考えると、あのナイツ卿と三人の娘は最高だ。でも、感情に任せてはいけない。ゆっくり考えて、ベストな選択をするのだ。
と、思いつつも、彼女たちを切るときっと気持ちいいのだろうという考えを止めることはできなかった。
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ある日の夕暮れ、俺はナイツ卿の屋敷の前に立っていた。だが今回は話をしに来たのではない。結局、全員死んでもらうことにしたのだ。だが、何も考えがないわけではない。ナイツ卿が死ねば、騎士団統括長には誰か他の貴族が任命されるはずだ。
その新しく任命された奴に取り入るほうが、ナイツ卿に認められたり、騎士見習いをするよりも手っ取り早い。
ナイツ卿とその娘たちは毎月妻と母親の墓参りに行くことが決まっている。夕暮れの時間に屋敷の近くの森の中にある墓を見舞って、帰ってくるのだ。その帰りを狙う。黒剣を使っている間の俺の身体能力は、馬車よりも早い。馬車に着いていくことも、抜かして工作をすることも簡単だ。
墓の場所がわからないので、行きに俺はバレない様に森を進んで、彼らの馬車に着いていく。帰り道に、木を倒しておけば馬車の足止めになる。馬車が止まった時に、黒剣の能力を全力で使えば、肉塊を作るのに十秒もかからない。
……いや、三姉妹はそのまま殺してしまうのは勿体ない。犯した後に殺すか、殺した後に犯してやろう。そして獣が彼らを襲ったように偽装する。完璧な作戦だ。
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俺は予定通りに計画を進めた。馬車が通った道に細い木を横倒しにする。そして、確認のために馬車に着いていき、墓参りの様子を観察した。墓は森の中心の小さな広場にあった。夕暮れでオレンジに染まる広場に、ナイツ卿と三人の娘たちが並ぶ姿は何とも絵になる。
喜ぶといい。お前たちも妻、母親と一緒のところに行くのだ。忘れないように、付き人も確認する。馬車の御者の老人が一人、以前会った召使の男が一人、ついでに死んでもらうことにしよう。
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殺す頭数も確認できたので、俺は隠れていた茂みから、静かに移動を始めた。急いで、襲うために準備した待機場所に向かう。
まずは、御者と召使を殺す。その後、ナイツ卿、娘たちの順番だ。俺は興奮を抑えきれないまま。待機場所に到着した。
「……なんだ。……お前、どうして」
おかしい光景だった。待機場所には一人の男がたたずんでいた。俺は能力を使っても汗だくなのに、男は涼しい顔で俺を迎える。
男は、さっきまで墓にいたはずの召使だった。