弔辞
「この度の訃報、今でも私は信じることができません。このような日が来るなど、いや、いずれは来るはずのこの日が、しかしこんなにも早く訪れることになるとは、なんとも信じられぬ気持ちでいっぱいなのす。
あなたと私は、偶然にも、生まれた時から一緒でしたね。この場にいらっしゃっている方々の誰よりも、一番の付き合いではないかと思います。思えば、たくさんの喧嘩もしましたね。小学五年生のころ、私は本が 大好きで、昼休みはいつも図書館で読書をしているような、物静かな小僧でありました。しかし、運動が得 意で、サッカーが大好きなあなたは、遊ぶ人数欲しさに、私の腕を無理矢理に掴み、校庭へと引っ張り出して行きましたね。実はあの時、どうしてこんなことをするんだと憤慨すると同時に、とても嬉しい気持ちでもあったんですよ?
また、高校生のときには、恥ずかしながら、万引きをして停学中であった私を説教しに、家まで足を運んで下さいましたね。あの時に顔をはたいて、本当にすまなかったと、今更素直になられたらあなたは困惑するのでしょうか。
さて、お互いに大学に進学したころ、あなたは、徐々に、そして刻々とその明るさを失っていきました。彼女に別れを告げられたと言っていましたね。今までの分、今度は私があなたの支えになろうと、なってやろうと思いました。あなたが好きそうな音楽を探して、無理矢理CDを押し付けましたね。またある時は、朝まで飲んで、その想いの淵を語りあかしましたね。今となっては、それがあなたを死に追いやってしまったのだと思っています。思ってしまいます。
そちらの様子はどうですか?きっとあなたのことでしょう。老若男女問わず、周りにたくさんの笑顔があるのでしょうね。私もいずれそちらに向かいます。何年後か何十年後か分かりませんが、その時は必ずやってきます。もし、そちらで出会えたなら、また一緒にサッカーをして、時に喧嘩をして、そして好きな音楽と好きな人について語り合いましょう。では、その時まで。」