特訓のはじまり
窓から差し込んだ陽の光が顔に当たって、徐々に意識が浮上してくる。
そのままうっすらと目を開ければ、昨日枕元に置いたあの花が見えた。
枕元にあったその花を手に取ると、口元が自然とゆるむ。
「これは、夢じゃない」
無限収納から取り出してだいぶ経ったからか少し萎れているけど、陽の光のもとで見るその花は夜とはまた違ったよさが見える。
その美しさを堪能してから、感謝の言葉を伝えて無限収納にしまった。
「よし、さっさと着替えて特訓をするか!」
機嫌よく鼻歌を歌いながら、昨日脱いでからしまったままの服を無限収納から取りだす。
けれど──
「ローブもシャツもズボンも汚れてる……」
昨日あれだけ動いたんだ。
当然、汚れてるよね。
「別の服を作って着てもいいけど、この白いローブ気に入ってるんだよね」
大きなフードがついていて縁に金色の繊細な刺繍がされた、いかにも魔法使いという感じの白いローブは僕の厨二心をつかんで離さない。
女神様から貰った服っていうのもあるしね。
「洗っちゃおうか。でも水魔法で洗って~とかいちいちやるのは大変だから、それ用の魔法を作っちゃおう」
さっそく知識の書から情報を引きだして、この世界に服を洗う魔法がないことを確認してから、どんな魔法にするか考えて創造の槌で魔法を作っていく。
今回は今までつくったものみたいに既存のものをつくるわけではないから、すこしだけ気が楽だった。
それからしばらく経って、無事に魔法ができあがった。
対象を傷つけずにどんな汚れも落とし殺菌する洗浄魔法、『クリーン』
これさえあれば、魔物を倒したときの返り血もへっちゃらだ。
さっそく服をクリーンできれいにして、パジャマからきれいになった服へ着替える。
「うん、いい感じ」
くるりと回ったり体を動かしてみたりしたけれど変なところはない。
いちおう傷ついていないか確認鑑定をしてみたけれど、こちらでも問題はなかった。
だけど──
「待って、この服の性能やばい!」
鑑定結果はこうだ。
名前/防守のローブ
種類/上着
持主/齋部 和
『性能』
物理攻撃耐性/Lv.10、魔法攻撃耐性/Lv.10、状態異常耐性/Lv.10、疲労回復/Lv.10、自動修復、自動帰還、温度調節、サイズ調節
名前/防守のシャツ
種類/上服
持主/齋部 和
『性能』
物理攻撃耐性/Lv.10、魔法攻撃耐性/Lv.10、状態異常耐性/Lv.10、疲労回復/Lv.10、自動修復、自動帰還、温度調節、サイズ調節
名前/防守のパンツ
種類/下服
持主/齋部 和
『性能』
物理攻撃耐性/Lv.10、魔法攻撃耐性/Lv.10、状態異常耐性/Lv.10、疲労回復/Lv.10、自動修復、自動帰還、温度調節、サイズ調節
名前/防守のソックス
種類/靴下
持主/齋部 和
『性能』
物理攻撃耐性/Lv.10、魔法攻撃耐性/Lv.10、状態異常耐性/Lv.10、疲労回復/Lv.10、自動修復、自動帰還、温度調節、サイズ調節
名前/防守のブーツ
種類/靴
持主/齋部 和
『性能』
物理攻撃耐性/Lv.10、魔法攻撃耐性/Lv.10、状態異常耐性/Lv.10、疲労回復/Lv.10、自動修復、自動帰還、温度調節、サイズ調節
うん、すごいね。
すんばらしいほどの護りですね。
でも一言だけ言っていいですか?
どんだけ心配性なんだ女神様!
でも無効系ではないし、一応はやりすぎにならないよう抑えたんだろう。
耐性系だと、レベル10でもすこしは攻撃がとおるはずだ。
たぶん、ダメージ1くらいだけれど。
ま、まぁとにかく、これなら特訓もはかどりそうだね!
あ、ちなみに下着も似たような性能でした。
でも女神様がつくった下着って、なんだか恥ずかしいな。
「そういえば、今何時だろう? ……あ、そうだ」
これからの予定を立てるために時間を知りたいけれど、さすがに時計を創造の槌で作るのは大変だ。
けれどすぐにピンと閃いて、知識の書を発動させる。
そうしたら──
「おぉ、時間がわかった!」
すこし賭けだったけれど、無事に時間を知ることができた。
説明のときに女神様は百科事典のようなものだと言っていたけれど、この知識の書はインターネット百科事典のほうに近いみたいだ。
そのことを改めて知って、僕は思う存分使わせてもらおうってその有用性に感謝した。
「さて、お昼までそんなに時間ないし、特訓がてら食べられそうな魔物を狩って朝食兼昼食にしよっかな」
そうと決まればすぐ準備に……と思ったけれど、その前に現状の確認だ。
それによって、特訓の内容とかが変わるかもしれないからね。
僕はさっそく自分を鑑定する。
そうして見えたステータスはこれだ。
名前/齋部 和
年齢/15
種族/半神
職業/修行者
天職/神みならい
HP:9999999
MP:9999999
『加護』
女神テラスの加護
『称号』
神を目指す者
加護を受けし者
異世界転移者
魔導王
武道王
『職業スキル』
知識の書/Lv.2
真実の目/Lv.2
巧者の耳/Lv.1
八丁の口/Lv.1
治癒の手/Lv.1
創造の槌/Lv.2
時空の円盤/Lv.2
守護の壁/Lv.2
『エクストラスキル』
HP自動回復/Lv.10、MP自動回復/Lv.10
『ユニークスキル』
クリーン/Lv.1
『耐性スキル』
物理攻撃耐性/Lv.5、魔法攻撃耐性/Lv.5、状態異常耐性/Lv.5、肉体苦痛耐性/Lv.5、精神苦痛耐性/Lv.5
『魔法スキル』
火魔法/Lv.5、水魔法/Lv.5、木魔法/Lv.5、風魔法/Lv.5、土魔法/Lv.5、光魔法/Lv.5、闇魔法/Lv.5、無属性魔法/Lv.5
『武術スキル』
剣術/Lv.5、槍術/Lv.5、斧術/Lv.5、槌術/Lv.5、棒術/Lv.5、弓術/Lv.5、体術/Lv.5、盾術/Lv.5、
『技術スキル』
危険察知/Lv.5、気配察知/Lv.5、気配遮断/Lv.5、錬金術/Lv.5、付与術/Lv.5、鍛冶/Lv.5、建築/Lv.5、家事/Lv.5
1日しかたっていないけれど色々と上がっていた。
神みならいスキル以外は上がっていないけれど、それはすでにレベルが高いからだろう。
制御が上手くいかなかったのは、初めから高レベルだったせいもあるかな?
これで特訓の内容は決まったね。
特訓の内容が決まったら、つぎこそ準備だ。
まずは特訓に使う各種武器。
鍛冶スキルがあるけど、用意をすると時間がかかりすぎるから今回は創造の槌でつくることにする。
初めての武器なんだから今できる最強の品質を……といきたいところだけれど、そんなものを持ちあるいて悪目立ちしても嫌だし、今の状態じゃ武器に使われてしまいそうだからやめておく。
武器の力に溺れて死んじゃうキャラとかいたし、気をつけないとね。
悪いテンプレは回避だ。
武器の素材は鋼で、不壊を付与するぐらいでいいだろう。
そう決めて、武術スキルを持っている武器を次々とつくっていく。
思ったとおりにつくれるのは魅力的だけれど、それだけ細かく想像しなくてはいけないのは疲れるし、今度からは鍛冶スキルのお世話になろう。
頑張ってスキルレベルを上げないとなぁ。
つぎは、万が一スキルが使えなかったとき用の各種ポーション。
こちらもすこし面倒くさいけれど、創造の槌でつくる。
いずれは敷地に薬草畑でもつくって、錬金術で色々作れるようにしたいな。
これも頑張ってレベルを上げよう。
なんか、やりたいことがどんどん増えてくな……
やりたいことが増えていって、それを自由にすることができる。
それがすごく嬉しくて、幸せで、口元がゆるりとほどけた。
「よしっ! やりたいことをやるためにも、特訓を頑張るぞ!」
時間を無駄にしたくないから、すぐにゆるんだ頬を両手で叩いて気合いを入れる。
それから、創造の槌でつくったポーチを腰につけてポーチの表ポケットに各種ポーションを差しこみ、自分の背くらいある杖を持ったら出発だ。
僕はツリーハウスから飛びおりて、目についたものを無限収納に入れながら森のなかをどんどん進んでいく。
けれど、どれだけ歩いても魔物一匹見当たらない。
この世界では魚とかウサギとかの人語を話さないような生き物はぜんぶ魔物で、地球みたいにふつうの動物は存在しない。
いるかはわからないけれど、ミミズだってアメンボだってみんなみんな魔物だ。
友達になれるかもわからない。
それに僕が拠点を構えたこの森は『終焉の森』と呼ばれていて、凶暴な魔物がたくさんいることで有名な場所だと知識の書で調べて知っていた。
だから簡単に魔物が見つかると思っていたんだけれど──
「まったく見つからない。なんで見つからないんだろう?」
すこし不思議に思うけれどそんなこともあるかと気を取りなおして、僕は真実の目を使って魔物を探すことにした。
「お、あっちにイノシシっぽい魔物がいる!」
さっそく見つけた魔物に、テンションを上げながら魔物がいたほうに向かって一目散に走っていく。
だけど──
「あれ? いない」
さっき見たときはたしかにいたんだけれど、いまは跡形もない。
ふたたび不思議に思いつつ、今度は真実の目を発動させながら追いかけることにする。
「お、新しい魔物発見!」
さっそく見つけた魔物を真実の目で逃がさないように見ながら追いかけた。
そうしたら、どうして魔物がいなかったのかすぐにわかった。
「僕が近づくと、すっごい勢いで逃げてくよ……」
偶然かもしれないからもう一度別の魔物で同じようにしてみたら、その魔物もまるで恐ろしいものでも近づいて来ているみたいにものすごい勢いで走りさっていく。
「僕はまだなにもしていないのに、なんで姿も見えないうちから逃げてくんだ?」
そんな遠くまで届くほど殺気だってたかな?
思わずそう首をひねっていたけれど、その瞬間、脳裏にひとつの答えが思いうかぶ。
「あっ、違う。僕の強すぎる魔力に怯えて逃げてるんだ」
僕の魔力は9999999という、この世界では飛びぬけた多さだ。
必然とその体から漏れでる魔力も多くなるから、それに気づいた魔物は必死に逃げたんだろう。
「本で似たような話を見たことがあったし、多分そうだ。でも目星はついたけど、このままじゃ特訓もご飯を食べることもできないな」
なにか手はないかと考えていたら、自分の持っているスキルに気配遮断があることを思い出した。
それを使えば、きっと気づかれずに魔物まで近づけるだろう。
「ではさっそく」
気配遮断のスキルを発動させて、魔物がいそうな方向へ進んでいく。
そうすれば、すぐに角の生えたウサギの魔物を見つけた。
「──いたっ」
けれどそれが嬉しくて思わず声を出してしまったせいで、気配遮断の効果が切れて魔物が逃げてしまう。
焦った僕はとっさにファイアーボールを打ってしまったんだけれど──
「──ギュッ!」
焦ったせいでうまく制御ができずにまわりの木々は爆風でなぎ倒されて、ファイアーボールが当たったウサギの魔物は消し炭になった。
「ウ、ウサギさん……」
戦うときに焦りは禁物なんて本で何度も読んだのに、逃がしてしまうと焦ったばかりにひとつの命を無駄にしてしまった。
僕は、なんてことをしてしまったんだろう。
沈痛な面持ちで、消し炭になったウサギの魔物を見つめる。
「今度は見つけても静かに、逃げられても焦らず対処だ」
このことは教訓にして、犠牲を無駄にしないようにするよ……!
消し炭になったウサギに両手を合わせて、僕は気持ちを新たにしてつぎの魔物を探しはじめた。
けれど、すぐにつぎの問題へ直面する。
それは、なぜか魔物を弱いものいじめしているようになってしまうことだ。
いまも大きな牙が特徴のグロッスクロツァングボアというイノシシの魔物と戦っているんだけれど──
「フ、フゴッ……プギ! プギーッ!」
と、こんなふうに怯えて後退りながら悲痛な鳴き声をあげている。
消し炭にしたりしないように調整をしつつ攻撃をしているから倒すまでに時間がかかるし、気配遮断が切れて僕の漏れでる魔力に怯えた魔物たちは、悲痛な鳴き声を上げて必死に逃げようとするからものすごく気まずい。
肉を食べるために殺さなくてはいけないことには覚悟できていたけれど、さすがにこうなってしまうのは辛かった。
「どうにかならないかなぁ」
なんとか倒したグロッスクロツァングボアに手を合わせたあと、無限収納に入れて深いため息をつく。
だけどまったくいい考えは浮かばない。
それでもない頭をひねって一生懸命考えていると、突然グゥ~と盛大にお腹が鳴った。
「……お腹が空いてたらいい考えも思いつかないよね、うん」
聞いている人がいないってわかっていてもすこし恥ずかしくなって、ほんのり頬を染めながらご飯を食べるために家へ戻りはじめた。