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異世界で最初のごはん


 完成したツリーハウスを思うぞんぶん眺めたあとは、ベッドとか机とか細々としたものを残った木材や創造の槌でつくっていって、全部終わったときには外がだいぶ暗くなってきていた。


「う~ん、本当は明るいうちに夕食の調達に行こうと思ってたんだけど……集中しすぎたな」


 そう言いながら暗くなっていく外を眺めて苦笑する。


 ここは森のなかということもあって、明かりは空に浮かぶ月くらいしかない。

 満月だから明るいほうだとは思うけれど、鬱蒼(うっそう)とした森のなかを歩くには足りないだろう。


「出歩くのは止めておくかぁ」


 ステータス的になにか危険があるとは思えないけれど、なにがあるのかわからないのが異世界だ。

 最初は警戒しておくに越したことはないだろう。


 そう決めたはいいけれど、問題は夕食だ。


「……ちょっと怖いけど創造の槌でつくってみるか。想像しやすいから、病院でよく食べたうどんにしよう」


 さっそく集中して、うどんをイメージしつつ創造の槌を発動させる。

 そうするとすぐにうどんができたけれど──


「な、なんか、食品サンプルみたいなのができた」


 見た目はすごく美味しそうなうどんだけれど匂いはないし、箸を入れて麺をすくおうとすると冷凍されたうどんみたいに塊になっている。

 鑑定してみたら食べられると表示されていたけれど、これを食べる勇気は僕にはなかった。


「しっかり想像しないと中途半端なものができるって言ってたもんな……」


 最初からこんな高度な食べものを創造の槌でつくろうとしたのが間違いだったんだよ!


 そう気を取りなおして、もっと簡単なものからいこうとふたたびつくるものを考える。


「調味料ならいけるかな? 醤油とかいけそうな気がする」


 きっと、液体なら個体よりもつくりやすいだろう。


「ではさっそく!」


 失敗しないように知識の書で醤油のことを調べて、強くイメージしながら創造の槌を発動させる。

 そうしてできたのは、みんなが一度は見たことのあるビンに入った醤油だ。


「よし、じゃあしっかりできてるか鑑定っと」


 そうやって鑑定された結果はこれだ。


 名前/醤油

 種類/食品

 穀物を発酵させて製造する液体調味料。

 味がすこし薄め。


「よかった、しっかりできた」


 はっきり醤油と表示された鑑定結果にホッと息を吐く。

 味が薄めだと表示されたことがすこし気になったけれど、それは食事がいろいろ制限されて薄味だったからだろう。


 イメージしてつくったものだから、こればっかりはしょうがないよね。

 本物の味は、こっちの世界で見つけたときに楽しませてもらおっと。


「でも、調味料ができてもなぁ」


 これだけではなにもつくれない。

 食材もつくれたらと思うけれど、うどんの二の舞になりそうだったからすぐにその考えはやめた。


「なにかないかな……あっ、そうだ無限収納のなか!」


 なにか食べられるものはと考えていたらふいに、切り飛ばした木を回収したとき目についたものも一緒に回収していたことを思い出す。


「なにか食べられるものがあるかも! えーっと、無限収納の中身をわかりやすいように表示してっと」


 ゲームのアイテム欄みたいなものをイメージして無限収納を発動すると、目の前に半透明の画面が浮かんでそこに収納したものがズラリと並んで表示された。


「うん、見やすい! さて、食べられるもの、食べられるもの……あった!」


 見つけたのはいくつかの野草と木の実。

 それを食べられるか鑑定すると、食べられるものが何個か見つけられた。


「薬草の癒し草と毒消し草に、ノアクルの実……あ、これクルミだ」


 美味しいのか不安なものがふたつほどあるけれど今はしょうがない。

 覚悟を決めて、さっそくどうやって食べるか考えはじめた。


「う~ん、食べるとしたらサラダかな」


 草というだけあって癒し草は水菜のような見ためで、毒消し草はシソのような見た目だ。

 調味料も用意できるしサラダにするのが最適だろう。


 品目は決まったから、すぐに夕飯づくりに入る。


「まずは癒し草と毒消し草から!」


 癒し草と毒消し草を無限収納から取りだして、それを水魔法で出した水の玉のなかに突っこんできれいに洗ったあと、癒し草は一口サイズに、毒消し草は細かくちぎってお皿に盛った。


 洗うために出した水の玉が思ったよりも大きくなったのはご愛敬だ。


「つぎはクルミ(ノアクルの実)!」


 こちらは地球のクルミより大きめですこし分厚い殻におおわれていたから金槌で叩いて中身を取りだして、その実を細かく砕いてからお皿に盛った癒し草と毒消し草に振りかける。


「つぎはドレッシングづくりだ!」


 つくるのは、家でいつも使っていた和風タマネギドレッシング。


 集中して、醤油と同じ要領でそのドレッシグを創造の槌でつくる。

 そうしてできたものを鑑定してみると──


 名前/和風タマネギドレッシングもどき

 種類/食品

 和風タマネギドレッシング味の液体。

 食べられる。


 なんとも微妙な結果が出た。


「……うん。なんか固形物が沈んでるし、ちょっと食べるのは止めとこう」


 タマネギドレッシングもどきの底に沈む刻まれたタマネギっぽく見える謎の物体に、思わず不安げな顔をしてそれを無限収納のなかに封印した。


「ま、まぁ、これをわざわざ使わなくても醤油があるから、創造の槌でお酢とみりんを出してドレッシングをつくればいいよねっ!」


 そう決めて、さっそく醤油と同じように創造の槌でお酢とみりんをつくって鑑定する。

 そうしたらこちらもすこし味が控えめになっていたけれど、しっかりとお酢とみりんだと表示された。


「これと醤油を混ぜてっと……よし、ノンオイル和風醤油ドレッシングの完成!」


 そうしてできたドレッシングは、材料を制限したからか記憶のドレッシングとは味がすこしちがうけれど充分美味しいものだった。

 一応これも鑑定してみたけれど、しっかりとノンオイル和風醤油ドレッシングだと表示された。


 大丈夫だとはわかっていたけれど、その結果に安堵のため息を吐く。

 ずっと成功つづきだった創造の槌での作成で、慣れ親しんだうどんにドレッシングまで失敗したんだからこの反応は仕方ないだろう。


「あとはこれを回しかけて~、サラダの完成だ!」


 完成したサラダは葉物をちぎってつくったせいか野性味あふれる見た目になっているけれど、上に砕いたクルミ(ノアクルの実)が振りかけてあるからかすこしおしゃれっぽくなっているし、とても美味しそうだ。


「それじゃあ、いただきますっ!」


 そう言ってしっかりと手を合わせてからつくったサラダを食べはじめる。

 最初は薬草だというのが引っかかって恐る恐るだったけれど普通に美味しくて、一口食べたあとはパクパクと食べすすめていく。


 癒し草は水菜みたいな見た目だったけれど味はほうれん草みたいで、毒消し草はシソみたいな見た目だったけれど味は春菊みたいだった。

 上に砕いて振りかけたクルミ(ノアクルの実)は見た目どおりの味だったけれど、苦みはほぼなくローストしていないからかすこしやわらかい食感でほんのり甘くて美味しかった。


「ごちそうさまでした」


 食べおわった食器を机に置いて一息つく。

 最初はどうなるかと思ったけれど、無事に美味しい夕食が食べられて満足だった。


 でも欲をいえば、オーク肉のでっかいステーキとか巨大魚の塩焼きとかもっと冒険感あふれる異世界らしいものが食べたかったなぁ。

 癒し草とか使ったけど、見た目も味も思ったより普通ですこし物足りなかったからね。


「よし、明日は頑張って冒険感あふれる異世界らしいご飯を食べられるようにしよう!」


 そう決めて、明日の食事に楽しみを抱きながら使った食器を洗いはじめた。


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