拠点づくり
「というわけで、まずは拠点作りだね」
そう決めた僕は、キョロキョロとまわりを見回す。
周囲はさっき打ったファイアーボールの影響で木々が折れて
吹き飛ばされて、まるで円を書いたように開けていた。
「なんかいい感じに木々がふっ飛ばされてるし、ここに作るか」
普通なら拠点を作るときは水場の近くとかがいいんだけれど、僕には水魔法があるから関係ない。
なんなら水と土の魔法を使って井戸を作ればいいしね。
だからそんな常識を無視してさっさと場所を決めたら、さっそくどんな拠点を作るか考えはじめる。
「本ではよく土魔法を使って作ってたな。でも──」
あっという間にできる丈夫な土の家は本で読んだときに憧れたけれど、僕にはもっと憧れていたものがあった。
「ツリーハウスに住みたい」
大きな木の上に建てられた、木でできた家。
小さいときにテレビで見てから密かに憧れていた、まるで秘密基地のような冒険感あふれるツリーハウス。
前は作ることも行くこともできないと諦めていたけれど、健康になった今ならそれができる。
「うん、拠点はツリーハウスにしよう! まずはツリーハウスを建てるための土地に結界を張って整地するか。そのためにはなぎ倒された木々を掘り起こさないとな」
さっそく時空の円盤で敷地をおおい、魔法制御のために土魔法を使って、なぎ倒されて中途半端に埋まっていた木々を掘り起こして整地していく。
最初は地面から木がふっ飛んだものの、攻撃魔法ではないからか考えていたより手間取らずに木々を土から掘り出せて、きれいに整地できた。
思ったより手間取らなかったとはいえ、まだまだ魔法の制御には精進が必要だね。
「よし、次は木を木材にしていくか」
いっきにやろうとして失敗するといけないから、一本ずつ風魔法で切っていくことにして魔法を放つ。
そうしたら今回は攻撃魔法のウィンドカッターを思い浮かべて使ったからか、ものすごいいきおいで木々を切り倒しながら森の中を飛んでいった。
「うわぁ……」
僕は遠い目をしながら魔法がとおった跡を眺める。
──道ができたと思っておこう。
そう失敗をごまかしいったん作業を中断して、切り倒した木々とか草花とか目についたものを回収することにする。
「さて、なら時空の円盤で無限収納を作ってみるか!」
一応この世界に似たような魔法やアイテムがないか調べてみたけれど、容量がすくなかったり時間停止できなかったりしていたから今回は見送った。
はじめて使う魔法だし、失敗しないように気合いを入れてイメージを固めたあと、時空の円盤を発動させる。
「──よし、できた! 出来具合はっと……うん、完璧!」
発動させたときに変な違和感もなかったし、使ってみてもおかしいところもないし大丈夫だろう。
「あ、ついでに家を作るときに使う道具とかも作っとこっと」
ロープとか金づちとか釘とか、いる物はたくさんあるからね。
今度は創造の槌で作るからよりしっかりイメージしないと。
まずは小さい釘からにしよう。
どれくらいしっかりとイメージすれば失敗しないのかわからないから、出来るかぎり細かく細部までじっくりとイメージしてく。
「──よっし、まずはひとつ完成! さて、確認っと」
完成した釘をさきほどの二の舞にならないように見る情報を制限して鑑定し、しっかりとできているか確認する。
問題はなかったから、ほかの道具も同じように作っては鑑定してをくり返して揃えていった。
「ふぅ~、全部用意し終わったぞ」
ちょっと神経を使いすぎて疲れたけれど、これもツリーハウスのためだと思えばどうってことはない。
全部用意し終わりさっそく作った道具を無限収納の中にしまって、まわりの切り飛ばしちゃったものも無限収納の中に入れていった。
「無限収納はやっぱり便利だなぁ。ちょっと時間かかったけど作ってよかったよ、うん」
無限収納に回収し終わったら、今度は同じ失敗をくり返さないように木を空に浮かして切ったあと、そのまま無限収納に入れるという感じにした。
あとは切った木材が曲がったりしないように時空の円盤で木材の時間を進めながら、錬金術の分離で水を徐々に抜いていけば完成だ。
「これで木材作りは終了~」
苦戦もしたし失敗もしたけれど、なんとか最後まで処理し終わってホッと一息つく。
けれど休むわけにはいかない。
まだまだやることはいっぱいあるんだ。
「次はツリーハウスを建てる木だ! 家を建てられるくらいの木を作らないとな」
木魔法を使えば木を生やすことも出来るけど、どうせなら吹き飛ばしちゃった木で作ろう。
さ~て、どんな木を使おうかなぁ。
そう考えながら無限収納に入れたいくつもの切り株を鑑定していくと、ちょうどよさそうなものを発見した。
「薬樹……か。虫が寄ってこなさそうでいいね! よし、これにしよう」
埋める切り株を決めたら土地の中央まで行って、無限収納から取り出した薬樹の切り株を土魔法で埋めたあと木魔法を使った。
大きく頑丈に、ツリーハウスを建てられる枝ぶりを。
そうイメージを浮かべて木魔法を使った薬樹の切り株はすくすく育ち、もっとすくすく育ち、思ったよりもだいぶすくすく育ったところで成長を止めた。
その姿は、まるでどこかのご神木みたいだった。
「ちょ、ちょっと浮かれすぎてたかな」
か、完全に自分の魔法威力のこと忘れてたや……
でも、大きくなりすぎたけれどこれくらいなら問題ない。
むしろ小さいほうが安定しなくて後々問題になっただろう。
これで場所も材料もできたし、やっとツリーハウス作りに入れる。
「じゃあ、念願のツリーハウスを作るぞー!」
そう声を上げて、高くなった身体能力を使って木の枝に飛びのる。
まだ体の扱いにも慣れていないせいか、予定よりすこし高く飛びすぎたけれど気にしない。
ちょっとした誤差だ。
「こっちも上手く制御できるように頑張らなきゃな」
そう呟いてから、あらためて木の様子を見る。
一番気になっていた木の枝ぶりは、ツリーハウスを建てられるようにイメージしたからか建物を水平にできるように生えていた。
これなら水平になるように地面に柱を立てなくて済むだろう。
「さっそく作業に入るか……って、改めて見ると高いな」
今いるところは地面より20メートル近く上だ。
下にいたときとは違った景色に、これからこの景色を毎日見るのかと少しワクワクした。
けれど今は目の前のことに集中だ。
ワクワクした心を静めるように小さく息を吐いてから、無限収納から取り出した丸太を頑丈なロープで木の枝に特殊な縛りかたで括りつけていく。
補強のために釘を打つのも忘れない。
「創造の槌さまさまだな」
途中で余分なところを切るときにすこし失敗しそうになったけれど、無事に土台作りは終わった。
次は床を作るために無限収納から板を出して釘を打ちつけていく。
「──すっごいスムーズに進むな」
これが建築スキルLv.5の恩恵か。
思わずそう呟いて、そのスキルをつけてくれた女神様に感謝した。
そうして床を作り終えれば、次はツリーハウスの軸組作りだ。
このあたりが寝室、この辺りがトイレ、なんて大ざっぱに考えながら作っていく。
ちなみにキッチンは作らないことにした。
せっかく作ったツリーハウスが火魔法の制御ミスで燃えるのは避けたいからね。
「家の中で暴発とかシャレになんないよなぁ」
そうしてできた軸組へ、無限収納から出した普通の板と半月型に切った板を釘で打ちつけて壁と屋根を作っていく──予定だったけれど、思いついたことがあってすこし寄り道をした。
寄り道の内容は、今は秘密だ。
「よっし、続きだー!」
無事により道を終えて、中断していた壁と屋根作りを再開する。
予定どおり普通の板は中の区切りと屋根に、半月型の板は外の壁に打ちつけていった。
屋根には木の皮をつけることも忘れない。
「うん、いい感じ」
壁と屋根を作り終えたら次は窓ガラスと扉の取りつけで、これが最後の大仕事だ。
さっそく窓ガラスと蝶番をつけていって、それからしっかりと扉が開け閉めするか確かめたあと、付与術で不壊をつけて──
「ツリーハウスの完成だ!」
けっこう高めなところに木の枝に支えられて、大きな木を囲うように作られたツリーハウス。
窓ガラスや扉がついているけど、木の皮がついた屋根や半月型の外壁のおかげか、けっこう冒険感あふれる見た目になっていた。
「憧れの、ツリーハウス……」
僕は少しの間、悦に浸りながら自分で作ったツリーハウスを眺める。
ずっと憧れてきたツリーハウスの完成だ。
そのくらいは許されるだろう。