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プロローグ①


 人生のほとんどを病院で過ごしてきた僕は、自由な時間をほとんど読書とゲームに費やしていた。

 そんな僕は親友に、『死んだあとは異世界にでも転生して楽しく過ごすよ』なんて言っていたけれど──


「おめでとうございまーす! あなたはこの世界の輪廻から外れ、異世界へ行くことになりましたー!」

「……へ?」


 まさか、本当に異世界へ行くことになるとは思っていなかった。


◇◇◇


 僕の名前は斎部(さいべ) (なごむ)。享年16歳。

 ついさっき家族に看取られて死んだ、死にたてほやほやの死人だ。


 だけどそのまま人生を閉じたと思いきや、なぜか僕は花が咲き乱れる庭園のような場所に立ち、背中に白い羽を生やした白髪の少女にクラッカーを鳴らされて祝福されていた。


 えっ、この状況はなんだ?

 もしかして……死んだと思ったけど意識がなくなっただけで、夢でも見てるのかな?

 いや、でも夢独特の感覚がないしやっぱり死んでるよね。

 ということは──


「ふっふっふ~、嬉しすぎて声も出ませんか~。それはそうですよね~、なんたって異世界に行けることになったのですから!」

「異、世界……?」


 状況を把握しようと辺りに視線をさまよわせながら必死に頭をフル回転させて考えていると、気になるワードが耳に入ってきて視線を白髪の少女に戻す。

 そうすれば僕が興味を示したのが嬉しかったのか、白髪の少女が元から高かったテンションをさらに上げて話しはじめた。


 それに僕がタジタジになっていると──


「しかも少年が一度は憧れる剣と魔法のある世界にかみ──「落ちついて、ハクシロ。彼が困っているわ」


 そう言いながら、黒い長髪の美女が現れた。


 おぉ、すごく綺麗な人だ……


 僕は、自分の前まで静々と歩いてくる黒い長髪の美女に思わず見惚れてしまう。

 昔から美醜に頓着しないたちだった僕でも思わず目を奪われてしまうのだから、その美しさは相当だ。


 透き通るような白い肌、絹のような漆黒の長い髪。

 小さい顔に完璧な配置で収まる高くスっとした鼻や、小さくふっくらとした桜色の唇に、優しいアーチを描くおひさま色の瞳。

 まとっているオーラも神々しくて、とても普通の人とは思えなかった。


 きっとこれが、人外級の美しさというやつだろう。


 でも、この人はいったい誰なんだろ?

 定番の流れだと、神様とか選定者とかなんだけど。


 そう思って内心で警戒しながら見つめていると、こっちを向いた美人さんと目が合う。


(わたくし)神使(しんし)がごめんなさい。いきなりあんな勢いでいろいろ言われて、おどろいてしまったでしょう?」

「あっ……いえ、大丈夫です!」


 目が合ったあと、申し訳なさそうにそう言ってやわらかく微笑みかけられた僕は少し頬を赤くして、頭の隅で『美人さんの微笑みの効果ってすごいなぁ』なんて考えながら慌てて答えた。

 美人さんはそんな様子の僕が面白かったのか、笑みを深めてゆっくりとその口を開く。


「私は女神テラス。亡くなったあなたの魂をここに呼びよせたものです」


 そう言われた瞬間、『だからこんなに神々しいんだ』と納得した。

 神様だったらあんなに美しいのも当然だ。


 はぁ~、神様ってすごいなぁ。


 そんな風に思っていると、女神様は視線を横にいる白髪の少女に流して僕に少女を紹介しはじめた。


「こちらの子は私の神使であるハクシラ。ハクシラ、挨拶を」

「女神テラスの神使、ハクシラと申します。さきほどは失礼しました~」


 神使のハクシラと紹介された少女はそう言ってペコリと頭を下げる。


 さっきとは打ってかわって間延びしたような喋りかたなのが気になったけれど、それほどあのときは興奮していたんだろう。

 そう納得して、大丈夫だから頭を上げるように言ってあらためてハクシラ様を見る。


 さっきは状況把握にいっぱいいっぱいで気づかなかったけど、整った顔立ちをしてるし神々しいオーラも感じる。

 やっぱりお使いのかたもすごいんだなぁ。


「よく言えました。ここはもう大丈夫だから下がっていて?」

「は~い」


 そう女神様に促がされたハクシラ様はその場で軽くトンと飛び、一瞬にして目の前から消えた。


 はじめて見た瞬間移動に思わずハクシラ様のいた場所をジッと見つめてしまったけれど、ハクシラ様がいなくなったことで挨拶するのを忘れていたことに気づいて、僕はすぐにしっかりと頭を下げながら女神様に挨拶を返す。


「あ……僕は齊部 和と申します。よろしくお願いいたします、女神テラス様」


 忘れていたぶん丁寧に挨拶したけれど、なにも反応がない。


 やっぱり挨拶を忘れるなんて失礼だし、怒ってるのかな?

 でも、今までの様子じゃそんなすぐ怒るような感じじゃなかったと思うけど……


 そう思ってチラリと見上げてみれば、女神様はきょとんとした顔で僕の顔を見ていた。

 予想していなかった女神様の様子に、不思議におもって言葉をかける。


「あの、どうかしましたか?」

「いえ……あなたは、動揺しないのですね」


 女神様の言葉に僕は考える。


 それって、女神様が目の前にいること?

 それとも、僕がもう死んでること?


 しかし、どちらにしても答えはあまり変わらない。


「死んだのは嫌っていうほどわかってますし、こういう展開は本でよく読みましたから」


 死に対してはもう長くはないと覚悟できていたし、ずっと本とゲーム漬けだった僕にとってこの流れは定番で耐性ができている。


 まさか、本当にこんな展開が起こるとは思ってなかったけどね。


 だから僕は動揺していなかった。

 でも、動揺はしていなかったけれど興奮はしてる。


「なら、話は早いですね」

「はい、僕はなにをすればいいんでしょう? やっぱり定番の退治系ですか? あ、それとも発展系ですか? 僕としては、勇者とか憧れますけどちょっと怖いので発展系のほうがいいのですが……」


 嬉しそうに笑った女神様に、僕は興奮した気持ちのまま今まで読んだ異世界転生ものの内容を思い出しながらワクワクと次々に言っていった。

 けれど──


「いえ、あなたには神みならいに転生して異世界で修行してもらいます」

「は?」


 どれも違ったみたいだ。

 でも、そんなことどうでもよかった。


 今、この女神様はなんて言った?


 僕はぼんやりと、耳に残った女神様の言葉をくり返す。


「神、みならいですか?」

「はい。そして修行したあかつきには、神になっていただきます」

「はぁぁああ!?」


 予想もしていなかった単語に、僕は思わず叫び声をあげた。


「な、なんで神様に!?」

「──じつはつい最近、神に欠員が出たのでその空きを埋めるためです」

「へぇ、神様にも欠員とかあるんだ……じゃなくて! ど、どうして僕なんでしょうか?」


 別に誰かを助けたわけでも善行を積んできたわけでもなかった僕は、そんな自分が神様になるなんてわけがわからなかった。

 つい罠ではないかと考えてしまうけれど、嘘をついていたり騙そうとしているようには見えない。


 人を見る目、というか負の感情には敏感だから自信があるんだよね。


「今、神みならいに転生できるほど経験を積んだきれいな魂で、役目がないのはあなただけなのです」

「経験を積んだきれいな魂、ですか」


 物語では定番の理由だな。テンプレってすごい。

 でも、それで選ばれたってなんでだろう?

 まだ若いし、産まれてからほとんど病院で過ごしてたから?

 けど、けっこうえげつない内容の本やゲームを見たり遊んでたりばっかりしてたんだけど……元の魂がよっぽどすごかったのかな?


 真実がどうなのかはわからないけれど、僕は心から感謝する。


 だとしたらありがとう。

 そのおかげで、僕は異世界転移できます!

 か、神様みならいなんて大それたものに転生してだけど……


 すこし思うところはあるけれど、悪い感情はない。

 僕は話のつづきを求めるように女神様を見つめた。

 そうしたら、それに気づいた女神様はふたたび嬉しそうに笑う。


「理解が早くて本当にありがたいです」

「さっきも言いましたが、こういう展開は本でよく読みましたから」


『なので、感謝するなら世のラノベ作家さんたちにいってください』と、僕はつづけた。


「ふふっ、なら会ったときにはそうしてみます。……では、説明のつづきに入りますね。あなたに行ってもらう場所はパスフリーデン。その世界の神が笑顔あふれる平和な世界になるようにと人の心を善に傾けて創り、そのバランスを取るために魔物の心を悪に傾けて創っているので、凶暴で凶悪な魔物がたくさんいます」

「凶暴で、凶悪な魔物……」

「はい。もちろん、差はありますけどね」


 すべてがすべてそうではないとわかって、僕は安心して小さく息を吐く。


 よかった……

 凶暴で凶悪な魔物だけの世界とか怖すぎるって。


「そしてそんな魔物に対抗するためにその世界にはスキルというものがあり、ほとんどの種族が魔法を使うことができます」

「ほとんどの種族ってことは、エルフとかドワーフとかいるんですか?」

「はい、いますよ。他にも魔人族など様々な種族がいます」

「おぉっ、異世界ものではけっこう定番な世界ですね」


 ついワクワクして前のめりになりながら女神様の言葉に食いつく。


 とくに魔法とか、誰もが一度は使うことを夢見るものだよね!


 しかし僕には、少し気になることがあった。


「あの……その世界に、魔王っているんですか?」


 さっき退治系って言ったときに反応がなかったけど、実際はどうなんだろう?


 もし修行で戦うことになったらどうしよう、と内心で焦る。


「魔王はつい最近、勇者に倒されたばかりなのでいません」

「あ、そうなんですか」


 よっし、助かった!

 魔王とかいたら討伐フラグが立つかもしれないからね。


 だけど、まだ安心はできない。

 ほかにも気になることはあるのだから。


「ちなみに、その勇者さんって僕と同じ異世界転移組じゃ──」

「ありません。あの世界の勇者です」


 その答えを聞いた瞬間、心の中で握ったこぶしを振りあげた。


 よっしゃー、完っ全勝利!

 魔王討伐後の異世界転生者の勇者とかトラブルの匂いしかしないからなぁ。

 よかった、よかった!


 僕は機嫌よくニコニコと笑顔を浮かべた。

 しかし、そんな僕の気持ちをくもらせることが女神様によって告げられる。


「あと……魔王はいないと言いましたが、神もいません」

「えっ、神様もいないんですか!?」


 待ってよ、神様って世界の管理とかしたりするんでしょ?

 そんな存在がいないなんて、大丈夫なの?!


「はい……あの世界の神は邪神に堕ち、勇者によって滅ぼされました」

「じゃあ、僕はその世界の神様になるんですか?」


 だからその世界に行って修行するのかな、と首を傾けた。

 けれど、それはすぐに否定される。


「いえ、違います。それではあなたが神になる前に世界が滅んでしまいますから」

「なら、どうしてその世界に?」


 なにかそうしなくちゃいけない理由でもあるのかな?


「あなたに、あの世界を笑顔であふれるようにしてほしいからです。だから修行内容も、『笑顔の人を増やすこと』にする予定です」

「世界を笑顔であふれるように、してほしいから?」


 なんだか、理由としても修行内容としてもずいぶんとアバウトだな。


 もっと深刻な理由があるのかと思っていただけにその答えを変におもって聞きかえすと、女神様が静かに話しはじめた。


「はい。あの世界は、とても……とてもやさしい神に作られた、笑顔あふれる世界でした」


 女神様はそこまで話すと、悲痛な顔をしてなにかに耐えるようにギュッとこぶしを握った。

 その握ったこぶしは力の入りすぎか、指先が白くなっている。


「しかし今は魔王による被害と、管理する神が邪神に堕ちたことによって生じた歪みの被害のせいで、悲しみに満ちています。彼女がやさしく平和な世界に……たとえ悲しみが訪れたとしても笑顔の絶えない世界になるようにと、大切に、大切に作った世界だったのに」

「女神様……」


 きっと、その邪神に堕ちた神様は女神様の知り合いだったんだろうな……


 女神様のあまりに悲痛な様子に、自分まで悲しくなって顔を歪める。


「だから、やさしい神だった彼女のためにも、あなたにあの世界をふたたび笑顔であふれるような世界にしてほしいのです。修行といいつつ、私情にまみれているとわかっています。でも、どうか……どうかあなたの力で、あの世界を笑顔であふれるようにしてください!」


『あなたのペースでいいですから、お願いしますっ!』と下げられた頭に、思わず息をのむ。


 このひとは神様だ。

 神みならいになるとはいえ、今はただの人間である僕に頭を下げるなんてとんでもないことだろう。


 神様としてのプライドもあるだろうし、ほかの神様にばれたら笑われたり怒られたりするかもしれないのに……それなのに、こんなに必死になって頼んでるんだ。

 これで嫌とか言ったら、男じゃないでしょう!


 それに、僕にもやりたい理由がある。


「まかせてください、女神テラス様」


 そう言って、静かな決意をこめて女神様に笑いかける。


「僕がその世界を、笑顔があふれるような世界にしてみせます」

「和さん……」


 女神様は、その宣言にホッとしたように僕の名前を呼んだ。

 だけど、表情はどこか罪悪感が見え隠れしていて暗い。

 僕はそんな女神様に自分の想いを打ちあける。


「そんな顔しないでください。女神様がお願いしたからってだけで、決めたわけじゃないですから」

「あの、それは……?」


 女神様は僕の言葉に不思議そうにして、うかがうように見つめてきた。

 僕はその目を見つめかえして、きっぱりと言う。


「恩返しがしたいと、思ったからです」

「恩、返し?」


 やりたい理由とはこのことだ。


「生前、僕は色んな人に優しくしてもらいました。ただ生きているだけでなにもできなかったのに、いっぱい、いっぱい助けてもらいました」


 両親や友達、病院の人にまわりの人、それにあったことはない誰かにだって、僕は支えられていた。

 だから僕は、元気になったら恩返しがしたいと思ってたんだ。


「もうその恩をその人たちに返すことはできないけど、せっかく受けた恩だから、たとえ違う世界の人でも報いたいんです。その思いを、優しさを、途切れさせたくないから」


 返すことができないからこそ、繋げていきたい。


 そう思いをこめて言うと、女神様が瞳を潤ませながら僕の手を握ってきた。


「素晴らしい心意気です。呼びよせた魂が貴方でよかった……」

「いや、ただの自己満足ですよ。あ、それに神様になるための修行ですしね」


 手を握られて褒められたことに照れてそうおどけて言うと、照れたことに気づいた女神様は微笑ましそうにしながら手を離して優しく笑ってくれた。

はじめての異世界転移小説ですし見切り発車なのでお見苦しいところがあるかもしれませんが、頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。

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