「興味のないことはしない」といわれている発達障害者が、コーランを暗記しなければいけない国の人だったら
ほとんど想像で書きました。イスラム教の教義や慣習と違っている点が多々あると思われます。
その場合は、ご指摘ください。
必要な事でも興味がないことはしたがらないという自閉症スペクトラムの特性に悩んでいて、もし自分がイスラム教徒だと仮定して、コーランに興味を持てなかったらどうなるだろうかと想像して書いてみました。
文中に出てくる、名前はそれらしい名前を空想しただけで、実際の名前とそぐわないと思われます。
どうかご容赦の程、よろしくお願いします。
ヨシュリムの母アーマードは、息子がコーランに関心を示さないのを悩んでいた。
アーマードの夫である、ザウカの仕事の関係で、いま日本にいる。日本の環境は祖国に比べて、色とりどりの自然に恵まれ、ヨシュリムの好奇心を嫌が上にもかき立ててしまう。
ヨシュリムはコーランを一読もせずに、野山の草花や昆虫に見入ったり、時たま近所を走り抜ける電車に注意を取られている。
もし生まれ故郷の国だったら、砂漠と土色のレンガでできた同じような家々が連なる街にいたのだから、ヨシュリムの関心を引き付けるものは少なく、コーランの暗記に集中できたかもしれないとアーマードは思った。しかし、ここは日本である。コンビニには様々な漫画誌が売られ、祖国にはないバラエティなお菓子もある。
「コーランに集中できる環境ではないわ」とアーマードはため息をついた。
礼拝所で、彼女は息子のことを祈り、「インシャラー」と締めくくった。すべては神のご意思にという意味だ。母の願いもむなしく、ヨシュリムは、コーランを読もうとはしなかった。父のザウカは、厳しくあたったが、ますます息子はコーランの暗記に反発するようになった。
たまりかねた母は、児童相談所に相談してみた。専門家が出てきて、ヨシュリムの知能検査をした。その結果、息子は自閉症スペクトラムだと診断を受けた。
専門家は伝えた。「興味のないことはしたがらない傾向が強いです」
母は落胆した。ザウカにそのことを伝えたが、「お前のしつけ方が悪い」と叱りつけられただけだった。
母は同国人のイスラム教徒が住む家に遊びに行き、その家の子供にコーランを暗唱してもらった。その子はヨシュリムより三歳も若かった。歌うようにコーランの一節をそらんじる子供に対抗心を燃やしたのか、ヨシュリムはアニメソングを歌って応戦した。
アーマードは、この時悟った。ヨシュリムがコーランに興味を示すまで気長に待とうと。今はまだその時期ではないと。いつか、ヨシュリムもコーランの大切さに気付く時が来るだろう。その日まで待とうと思った。
母は、ヨシュリムを受け入れたが、奇跡は起きなかった。相変わらずヨシュリムはコーランに目もくれず、昆虫と魚の図鑑にうつつをぬかしている。ついにザウカが怒り、ヨシュリムに厳しく、コーランを覚えるように連日指導した。
ヨシュリムは、昆虫や魚の名前を覚えるのに費やす時間の十数倍もかかってコーランをなんとか丸暗記した。残念なことに、人々の心を震わせる流暢なメロディーまでは習得することができず、棒読みするのが精いっぱいだった。
ノルマを果たしたヨシュリムは、また昆虫や魚の名前やお菓子の分類に熱中する日々に戻った。
この子は、何かの博士になるかもしれない。とアーマードは期待をしている。ザウカは息子の興味が偏っていることに不満げであった。
ラストが不満だったので少し変えました。主人公が最後までコーランを暗記しないというストーリーも考えてはみたのですが、そうなるとまとめるのが少々難しくなるので、それは止めておきました。