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世界樹と女神様  作者: 七華
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戦火の記憶

その煌々と燃え盛る炎をみて、芸術的だと……あるいは、神秘的だと感じることはあるのだろうか。

大地を喰らう蛇の如し勢いで燃え上がるその火柱の中心にあるのは巨大な木、それは私たちの世界そのもの――名を、ユグドラシル。

住んでいた館が燃え尽きるのも、育ててきた気が焼け落ち始めるのも、戦士達の霊が叫び声をあげて飛び回る地獄絵図も、全て私たちには分かっていた……分かっていて、それを止める権利も時間も与えられていなかった、願わくば……もし、僅か少しの確率にでも、再び最終戦争が怒る前に戻ることができれば、その時私は――



「ヴェルダンディよ、今再び目覚めの時だ……」

黒く閉ざされた世界が急速に彩りを見せる、長らく感じていなかった感覚に思わず目を開けるとそこには白が広がっていた。

見える世界の先が淡い白色の光を放ちながら徐々に広がっていく、まるで0から1が生成されているような光景、しかしその後に眼下に見えた景色に思わず「えっ……?」と声を漏らしてしまう。


そこには、館が新しく作られていた

――生きていた頃に住んでいた館と全く同じものが。


「……どうやら、記憶は正常に受け継いでいるようだな」

先程と同じ聞き覚えのある声が真後ろから聞こえる、その声の主を探すために後ろを振り返るとすぐ近くにその男は見つかった。

羽の装飾が施された兜に重厚なる造りの鎧、羽織った緑色のマントは風にたなびいて音を立てる。白く長い髭と鋭い目つきからは彼がどれだけの修羅場をくぐり抜けていたのかが容易に見て取れるだろう。……しかし、彼のことを語る上で一番大切なものはそこではない、彼の手の先、並々ならぬ筋肉が付いている右腕でガッチリと掴んでいるそれは彼の身長を容易に追い抜く長さと、構えれば身体の殆どが隠れてしまうであろう太さを併せ持っている。

その性質は、勝利の運命。つまりその武器の名は――


「……お久しぶりですね、オーディン様、元戦死者に言うのも何ですが、お元気そうで何よりでございます」

グングニル、槍を向けた軍勢に対して強力な運命の加護を授ける効力に加えて敵を刺し貫くと光によって敵対するものを消滅させて手元に戻るという、ミョルニルに並ぶであろう最強の武器、そしてこの武器の持ち主はただ1人、この世界の主神にて嵐の神としての神格を持つ武神、他の神と同じくあの最終戦争によって戦死したはずのオーディンである。

「……早速、質問があるのですが、答えてくれますよね……?『なぜ、私達は蘇ったのでしょうか?』」

「『ラグナロクが再び起こる』」

「っ……!?それは、どういう事ですか!?」


彼の発言に身体中が殴られた様な大きな衝撃を受ける、ラグナロクを再び?つまり、この蘇生は……


「前回の敗戦の前、この槍を使うことにより運命が揺れ動いたようだ、そしてこの世界が再び構築され始めている……全員が、記憶を引き継いで、だが」

『記憶を引き継いで』、仕掛けてきた彼らの動機は殆どが復讐だ、その記憶を引き継いだままの再構築ということは

「再び、ラグナロクは起こるだろう……そして、それに何も手を打たなければ滅びは同じように我々に襲いかかる……そこで、時女神の1人である貴殿に頼みたいことがある」


これは、決してお願いなんかではない、再び館を焼かれ、ユグドラシルを焼かれ――姉妹を焼かれたく無ければ、協力しろという脅しである

「……分かりました、何をすれば良いのかしら?」

協力、つまり本来のラグナロクにいなかった人材を増やすことで運命を変えようということだろう、しかし私の戦闘能力は自慢するまでも無くあまり高くはない、一応能力によって上げられなくはないが、あれは戦いに関与できない第3者の必要が――


「……第3者?」

「……気付いたか、無論この世界の人ではない、再構築時にズレが発生したようでな、今この世界は日本と呼ばれる国の裏側に存在しているようだ」

なるほど、言いたいことはだいたいわかった……つまり、その日本から人材を1人連れ出して共に戦わせろということだろう、当然私にその作戦に付いての拒否権はない。

「了解いたしました、必ずやあなたの助けになれるような人材を探し出してみせましょう」

彼から顔を背けながら世界の裏側へと進むための門を開ける、ここまで簡単に開くのは再構築の影響でこの世界が未だに不安定だからだろうか?そんなことを考えながらいざ日本とやらに踏み出そうとしたところで、彼が最後に、と話しかけてきた


「北欧という別の地域の神に関わったものをそのまま返すわけには行かない、最悪向こうの神との戦争になるからな……出来るだけ、死んでも困らないであろう人間を選んでこい」


了解、とは言えなかった

私が、私達ノルンが決めた運命ではないのにその死という運命を、1人とはいえ乱すのだ、決して頷くことは出来なかった。

しかし、それでも――この戦争は、止めなければいけない。

そんな確固たる思いとともに、私はユグドラシルをあとにした。

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