第二十三話 テンプレはフルボッコ
「てめぇ、聞いてんのか!!」
どう対応しようか迷っていた神鬼の態度を、無視していると勘違いした男はさらに声を荒げた。
「あ~あ。あの新人、『たかりのウル』に目ぇつけられたみてぇだな」
「やれやれ、ご愁傷さま・・・」
周りの話から聞こえてくる話によると、この男はこんなことの常習犯のようだ。
それに、カウンターの方からは誰も助けたり、止めさせるように言う者はいない。
どうやら、こんないざこざは自分たちで何とかしなきゃいけないようだ。
でも唯一一人だけ、俺の冒険者登録の時世話してくれた人だけは、どうしようか迷っているようだ。
「きいてますよ・・・。で?何か用ですか?」
「人様にぶつかっておいてなんだその態度は?!まぁ、てめぇの有り金、それと持ってるもん全て渡すってんなら、この場は勘弁してやるぜ?」
男は下品な笑みをうかべると、神鬼の体をじろじろと見てきた。
どうやら、神鬼の持っている物の価値を判断しているようだ。
「いやだね。つーよりも、俺がお前にぶつかったなんて証拠がどこにある?」
「うっせぇ!!新入りのくせに生意気だぞ!」
「兄貴、もうめんどくせぇからとっとと身ぐるみはいじましょうぜ!!」
支離滅裂なことを言っている男の後ろから、さっきから様子をうかがっていた男が話に割り込んできた。
この男の手下のようだ。
「ま、そうだな。どうせ奪うことに変わりはねぇんだ、やっちまうぞ!!」
男の掛け声に、カウンターの奥にいる職員は目をそらし、周りにいた冒険者たちは悲哀の目でこちらを見てきた。
しかし、その場にいた者たちは全員次の瞬間、鳴り響いた音に驚愕の表情を浮かべた。
迫られてきていた神鬼が少し体を動かしたかと思うと、先に突っ込んできた後ろ側の男が、いきなり真上に吹き飛んだのである。
目の前で起こった現実に、一瞬あっけにとられていた男は、憎々しげに目の前にいる神鬼を睨んだ。
「てめぇ・・・いま、何をしやがった?」
「なんだ、あれも見えなかったのか。あんた、武闘家としての才能無いね」
神鬼は質問に挑発で返すと、先ほどした行動を口にした。
「単純だよ。向かってきたあいつの鳩尾に足を引っかけて、上に蹴り飛ばしただけさ」
まるで井戸端会議をするかのように、さらっと言った神鬼の言葉を、目の前の男はすぐには理解できなかったが、理解した瞬間、とっさに鳩尾を押さえた。
ちなみに、神鬼がとったこの行動とても威力を押さえているのである。
なぜならこの行動を全力で行えば、簡単に人の胸を真っ二つにできるのである。
鳩尾に足を引っかけるという事は、そこに突っかかりができるという事であ。
突っかかりができるという事は、そこから蹴り上げるという事ができるという事である。
神鬼にとって蹴り上げられるという事は、物体を引き裂けるという事なのである。
それゆえに、神鬼がそれだけで物体を切り裂けるとまでは思いつかずとも、その一撃を喰らったらやばいと感じた男は、とっさに鳩尾を押さえたのである。
「まぁ、もう一度それをやる気はないから安心して。次はそうだねぇ・・・。そうだ、さっきあんたが言ってたこと、少しだけかなえてあげる」
神鬼はそういうと、右手を男に向けた。
「【異空間武器庫】展開」
神鬼が最初の一文を唱えると、神鬼の手に闇がうまれる。
「この武器をあんたに向けて使う。さぁ、あんたは生きていられるかな?」
神鬼は鈍く笑みをうかべると、すぐに表情を戻して言葉を発した。
「来い、【飛刀・天駆馬】!」
その言葉を唱えた瞬間、闇が動き始め、一振りの刀を形作り始めた。
そして、闇が少しずつ引いていくと、中から刀が現れ始めた。
その刀は、切先から根元までが翡翠色をしており、柄は若紫色をした柄巻で艶やかな雰囲気を醸し出していた。
刀身の横側には、風に毛をたなびかせる馬が彫られていた。
反りは浅いが、直刀というほど浅くはない。
「なんだよコレ・・・。てめぇ、今何をしやがった?」
突如現れた刀に少し驚きつつも、男は尋ねてきた。
「この刀を出した方法、そしてこの刀について聞く必要は一切ない」
そこで神鬼はいったん言葉をきると、また言葉を続けた。
「なぜならお前は、知る間もなく、倒されるからだ」
神鬼が告げ、刀を床に突き刺した瞬間ーー
男の体が3メートルほど宙に浮かんだかと思ったら、すぐさま後ろに吹っ飛び、出入り口の扉のすぐ上にぶつかって地面に崩れ落ちた。
「ね?わかる暇なんて、なかったっしょ?」
地面に崩れ落ちる男を見て、面白いものを見た、と言った表情で、神鬼は男を見た。
ーー【飛刀・天駆馬】
これも【異空間武器庫】に元から入っていた武器の一つである。
この武器には、天空を駆け回り、龍に次ぐ空の支配者といえる幻獣、ペガサスの力が込められている。
その力は基本的に、『風を操る』というものであるが、これはとてつもない力である。
例えば、風を操ることによって『気流』を操作し、竜巻や台風を生み出すことができる。
ほかにも、風自体を操ることができるので、その風の『速度』や『密度』も操ることができる。
『速度』を操れば、鎌鼬を起こすことができ、刀を持ちながら遠距離の相手に斬撃を与えられる。
『密度』、つまり酸素などの物質濃度を変えた風を相手にぶつけ、その気体に火を投げ込んで爆発させたり、窒息させることもできるのである。
いちおう長年冒険者をやっている男二人組がいきなり倒されたことに、集会所内は変な空気が漂っていたが、扉を勢い良く開けてきた装備がボロボロの青年の発した言葉に、空気が一変した。
「大変だ!村に盗賊たちがやってきた!!この村以外にもたくさん来てるみたいだ!!」




