霞む影
《時間軸》
【Darkness Eagle】
【紅い雨が降る刻】
【特務課】
海藤が特務課に入隊してから数ヶ月経ったある日のことだった。
「へぇ、政府要人の連続暗殺事件……ね」
オフィスの椅子に座りながら、何気なく朝刊を見ていた海藤はそう呟く。
記事によると、最近になって要人が暗殺される事件が増えているということだ。
ターゲットは勿論、警護していた者やその目撃者まで全て殺されている上、
犯人の痕跡は全くといっていいほど無いらしい。
余程手際のいい暗殺者なんだろうと、人事のように感嘆する。
【漆黒の鷲】と恐れられていた海藤もこれぐらいの事はやろうと思えばできるが、
全ての痕跡を消してその場を後にするなど器用な真似は正直苦手だ。
……と、そこで自分も警察の人間になったことを思い出し、
「そういや隊長さん。
こういった要人の警護ってのはオレらが動くもんなのか?」
ふと浮かんだ疑問をそのまま部屋の奥で書類整理をしている三嶋に投げかける。
そこで書類から目を離した三嶋は、
「今のところ出動の要請は来ていない」
と簡潔に応える。
「……ま、だったらいいけどよ」
朝刊を畳んだ海藤は、視線を自分の机上へと移す。
そして目の前に広がる積み上げられた書類を見て小さく肩を落とした。
「それに、今度の要人には本部の警護課がつくらしい。
しかも警護課のトップが自ら現場に赴くそうだからな、敗北はありえないだろう。
他のメンバーはともかくとして、現警護課長である葛城誠司はたかが暗殺者に敗れるような男ではない」
警護課出身である三嶋がいうのならそうなんだろう。
なにしろこの男にそこまで言わしめるほどだ、只者じゃないのには違いない。
「アンタが言うのなら間違いないだろ。
さてと……この書類の山どうすっかなぁ……」
頭を掻きながら海藤は書類に目を通し始めた。