幕間:先輩と父と兄弟
最初に見たときから懐かしさを感じていた。
本部の休憩スペースで煙草を付加しながら雑誌がおいてある棚を眺める。さすが男だらけのレジスタンスというべきかそういう本が置いてある。おそらく、アタエがミヤビに見つかる前にと置いたのだろう。気に入ったものがあったら自室へもっていってミヤビに見つからないように保管するというのが暗黙の了解で、今、たくさん持っているのはユイだろう。
「長澤の息子が二人か」
どこか面白さを感じながら俺は煙草をおいてコーヒーを飲む。本来、俺は五島のところにいるべきなのだが、今はその長澤の息子のサポートするように言われている。
「もうそんな年になるのか」
俺と七つも離れながら、早くに嫁さんもらって、子供も産んでもらって。あの時に見せてもらった、産着に包まれ、嫁さんに抱かれた赤子が、今や、この組織で、ユウとしてミヤビを支えようとしてくれている。
そう思うとかなり感慨深いし、自分も年を取るわけだと思う。一応、これでも長澤の指導を請け負った先輩隊員だったりする。プライベートでも唐崎ほどではないが、それなりに親しかった。
だが、あの兄は父を否定して、この弟はそんな兄に疑問を感じているんだろう。父に関しては理解はするが納得はしないということなのだろう。それでいい。大人には納得しなくてもいいこともある。
まだ、彼らは非情さを、組織としての最善、と学ぶには幼く柔らかい心を持っている。ミヤビもしかりだ。
「チイ?」
振り返ると白衣の美女。天使といえないほどの魅力を湛えた彼女はその顔に疲れた表情を浮かべて肩を竦めた。
「バカ相手してたらつかれちゃった」
「アタエか……」
「もう年なのに今までと変わりなく動くから……」
「限界感じるまでそのままだ」
「あのバカ」
舌打ちまじりにつぶやいてヨウは適当にコーヒーを作って俺の隣に座る。ツンとした消毒剤の臭いから傷の処置をしてきたのだろう。
「俺たちはそんなもんさ。アタエもそろそろだ」
「って言ってるのに聞かないのよ、あの筋肉バカ!」
たん、とコップを机にたたき付ける彼女に俺は苦笑して煙草に手を伸ばした。
「チイも年なんだから……」
「煙草に関しては聞けないな」
笑って言って、疲れたと呟く彼女の肩を叩く。
「あんただけが頼りなんだよ。あんたがいるから安心してでていける」
そういって立ち上がる。ヨウは俺を見て笑って、そして、そういえばと口に出した。
「五島のところに行くの?」
「午後暇なときな。なんかあったか?」
「ちょっとね」
声をひそめて彼女に近づいて耳を傾ける。
「……、お前」
「ってヨシが言ってたの思い出したのよ」
「そりゃ五島もちの案件だな」
「だと思った」
薄く笑う彼女に俺は頷いて部屋から出た。
「イサムの生存確認か」
時たまヨウは忘れたころに大切なことを思い出す。一種の勘を持っているのだろうか。
できるならば、その勘が外れてほしいと思いながら、俺は、とりあえず、ユウにちょっかいを出しにスパールームに向かった。
ぼちぼち六章上げていこうと思います。ちょっと時間をください。