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053 新たな部品とキラキラ

前回のあらすじ

 Q ミシェルさんから怒られました。でも、色々と心配してくれたみたいです。そんな彼女にも貰い手は居ますか?

 A 居るといいですね

「すげえなお前ら。こんな大粒、あんまり手に入るもんじゃねえんだが……。本当に南の森で取ってきたのか?」

「そうだよ、結構入り組んだ場所で取ってきたから。もうヘトヘト……明日は筋肉痛になっちゃう……」


 冒険者ギルドでバッタの買い取りをしてもらい、ファンデル金物店への黒粘土配達を終えた俺達は、オッチャンが用意してくれた椅子の上で四肢を投げ出していた。

 これで今日の仕事は終わった形になるのだが、もう疲労困憊もいいところだ。気が抜けたことも相俟って、ドッと疲れが押し寄せてきている。

 だが、だからこそ達成感もそれなりだ。途中のトラブルなんかも含めて、一仕事終えたという感覚を強く抱けている。

 ちなみに冒険者ギルドにて買い取ってもらったニジイロバッタなのだが、買い取り価格は120ブールだった。肢が欠けすぎていたのがよろしくなかったらしい。

 だが、翅が付いている胸部も美味しいのだそうで、まだまだ食べられる部分は残っていたようだ。

 お腹の部分も一応は可食部らしいのだが、内臓の処理が遅れると匂いが移ってしまうらしく、既に手遅れだった。ではどうするのかというと、堆肥にするのだそうだ。それはそれで良い肥料になるらしい。

 また、翅が完全な形で残っていたこともプラスになった。なんでもあのバッタの翅、熱を加えると溶けるらしく、食器等に利用されるのだとか。プラスチックの代用品といったところなのだろう。流石はニジイロバッタさん、捨てる部分なんてどこにもなかった。

 しかしそう考えれば、死体を投げ捨てられていたマダライヌに思うところが出てくる。肉は不味いらしいが、ならば堆肥として利用するのも手ではなかったのだろうか。

 結局は冒険者側のモラルに直結してくるのだろうが、ああいった真似はしたくない。あのニジイロバッタも打ち捨てられたマダライヌの死骸に引き寄せられていた訳で、俺はこれからもちゃんとしようと心に決めていた。

 冒険者ギルドでの買い取りはスムーズだったと思う。

 イリスさんの対応は淡々としたもので、過ぎた行動に対する注意も申し訳程度だった。多分、それはミシェルさんの仕事だと身を引いたのだろう。


「エイル、本当によかったの? こんなに貰って……」


 セシルは冒険者ギルドで貰った皮袋を大事そうに眺めている。

 その中に入っているのは、バッタの買い取り価格の半分だ。たかが60ブール、日本円にして600円。それでも、彼にしてみれば大金に見えるのだろう。


「いいんだよ。黒粘土が集まったのもセシルのおかげだし、あの時の援護も助かったんだから。臨時収入として取っておけばいい」


 疲れた足を揉み解しながら、畏まっているセシルに返す。

 お世辞抜きにして、セシルの功績はかなりの大きい。黒粘土の運搬だけではなく、湧水の発見、ニジイロバッタ戦の援護と、同行者の領分を越えた活躍だった。

 ニジイロバッタの時など、勇気がなかったら逃げ出していただろう。それで俺が氷魔法を使えなかったという話もあるが、彼の勇気とは無関係だ。

 そしてなにより、あのプニプニしたバッタ様のお腹に耐えてくれたという最上級の度胸。俺ではバッタを引き摺るのが関の山だったとしか思えない。

 とにかく、戦利品の運搬でもかなり助けられた。黒粘土に加えてニジイロバッタまで一人で運ぶとなれば、もう立ち上がるのも億劫になっている俺では無理な話だ。


「よっぽどの大冒険だったみたいだな。まあしかし、おかげで助かった。そろそろ黒粘土の在庫が底をついちまうところだったんだ。ああそうだ、ローラーベアリングっていったか? あれを試しに作ってみたんだが、かなり良いな」

「え!? もう作ってくれてんの?」

「おうよ! 一応、お前も目を通してみてくれ。熱処理もやっておいたが、まだ粗があるかもしれねえ」


 オッチャンはゴソゴソ背後の箱を弄ると、丸い部品を取り出した。

 それはネジ止めされた蓋の付いた、一風変わったローラーベアリングである。既に組み上げているらしく、見た目は俺が望んだ通りのシルエットとなっている。


「凄い……ここまで再現できると思わなかった。回転も悪くなさそうだし、これはちょっと試してみたいな……」

「それって凄いの? 僕にはただの鉄の塊にしか見えないんだけど……」

「おうセシル、それがそうじゃねえんだよ。不思議に思うなら、これで何か作ってやるよ。そうしたら凄さが分かるだろうぜ」


 ガハハと笑うオッチャンを横目に、俺はローラーベアリングに夢中だ。思った以上の出来栄えと滑らかな回転に驚かされている。もう少し性能の悪い物を予想していたのだが、とんだ計算違いだったようだ。

 自転車作りをオッチャンに頼んで大正解だった。これならば、かなり満足度の高い自転車を作れるかもしれない。


「オッチャン凄い……なんか格好良く見えてきたんですが」

「そうか? 俺もやる時はやる漢なんだよ! まあ、そのせいで黒粘土が無くなりかけたんだけどな……幾つか形を変えて作ってみて、ソイツが一番具合の良かったヤツだ。初めて作ってみたにしちゃ、結構良い出来栄えだろ?」

「うん。これも全部オッチャンが?」

「いや、コロの部分と輪っかになってる部分は他の工房に頼んだ。俺も一応は作ってみたんだが、どうも思った通りの形にならなくてな……」

「あ~……それは仕方ないと思うよ。これってかなり精度が必要な部品だから」


 技術、設備、そういった足りない部分にまで一気に手を伸ばすのは難しい。より良い物を作ろうと思うならば、他を頼るのは当然のことだ。

 オッチャンの判断は間違っていない。自転車が多くの部品から形作られている以上、そうしなければならない時は必ず出てくる。ローラーベアリングにはその必要があったというだけだ。

 保持器兼外枠の作成、組み付け、軽いテストなんかはオッチャンがやってくれたらしいので、それで十分だと思える。


「ふむふむ……でも、予想以上にいい感じでビビっております。これって一つだけしか作ってない?」

「いや、調子に乗って6つほど作っちまった……。まあそんなこたぁどうでもいいだろ? ガタがきた時にでも取っとけばいいんだからよ」


 どうやらオッチャン、またもや過剰に頑張ってくれたらしい。交換用のパーツまで作ってくれているとは、嬉しい反面、この店の経営が心配になってくる。本当に大丈夫なのだろうか。

 しかし、余計に数があるなら話は早い。俺達が困っていた事柄への救いの手となるのだから。


「あのさオッチャン、なにか箱みたいな物にそれを組み合わせて、荷車とか作れないかな? まだ森の中に運べなかった黒粘土があるんだよ。性能を確かめるのにも都合がいいし、簡単なヤツでいいから……お願い! 代金は依頼料から引いちゃって構わないから!」

「ん? ああそうか、確かにそんなモンもあった方が便利っちゃ便利なのか……。よし分かった、作ってやるよ。そんな難しいモンでもねえし、金のことは気にすんな。ただし、見た目には文句付けんなよ?」

「ヒュー! 格好良いわ、この人……。見た目なんて気にしないから、頑丈なヤツを頼みます」


 なんて気前の良いナイスミドルなのだろう。オッチャンの背景に虹が見えてきた気がする。これが所謂ヘブン状態というヤツなのだろうか。……いけない、吐き気を催してきた。

 ちょっと胃の底が気持ち悪くなるものの、オッチャンの心意気には感謝しておきたい。エリクシア貯金の口座は母上様によって凍結されているので、費用次第ではツケになっていただろう。


「ありがとうございます!」

「オッチャンが輝いて見える……ウプッ、ありがとう……」

「ガキがそんな畏まんなよ。おいエイル、なんでお前は吐きそうになってんだ? もしかして無理させちまった……んだろうな。悪りい、明日までにはちゃんと作っとくから、朝にでも取りに来い。滅茶苦茶頑丈なのを作っててやるからよ」


 どうしよう、キラキラ具合が止まらない。オッチャンを登場人物とした乙女ゲーを発売してもいいのではなかろうか。きっと採算が取れないと思います。

 なんにしても、これなら明日は楽ができそうだ。正直なところ、今日は足に限界が来てしまっている。この分だと、明日も引き摺ってしまうだろう。

 筋肉痛は確実に起こるはずなので、運搬手段を作ってくれると言うオッチャンの好意はとてもありがたい。ローラーベアリングの試験も同時にできるので、まさに一石二鳥である。


「ローラーベアリングの調子も見ておきたいから、このネジ用のレンチって……あそこがレンチを置いてる所?」

「れんちだあ? ああ、ネジ回しのことか。そうだ、そこに置いてるヤツがそれになる。結構強く締めちまってるから、お前だと長めのヤツにしといた方がいいぞ。回すのが楽になる」

「ほいほい、そうする」


 50ブール均一のレンチ達の中から、ローラーベアリングに取り付けられている五角の物を探す。

 どうやらこの世界のネジの規格は、五角と六角の物になるらしい。レンチは5~8本でセットになっており、暫らくして俺でも使いやすそうな物が見つかった。


「これおくれやす」

「おう、別に金払わなくてもいいんだぞ? 先に払った自転車の代金で釣りは出てくる。そんくらいなら持ってけよ」

「いや、それはそれで変な癖が付きそうだから……」


 カードローンとかツケとか覚えそうで怖い。この世界にもキャッシュカードがあるのかは知らないが。

 一応は手持ちもあるので、現金払いができるならそれが一番だと思う。

 母上様お手製のウサ耳財布から50ブールを取り出すと、先程のふっくらフェイスが嘘のようにペチャンコになった。最早その見た目はウサギのゾンビである。

 バッタの臨時収入もあったのだが、それを含めても今日は浪費が激しい。やはり、朝にリュックサックとセシルのナイフを買ったのが大きかったようだ。明日は俺も母上様からオニギリを作って貰おう。


「変な癖か……そりゃそうだ! ははは、お前の母ちゃんはしっかりしてるみてえだな! そうだそうだ、ガキが変な金の使い方を覚えちゃいけねえ。……いつか俺も謝らなねえといけねえな」

「度々ご迷惑お掛けしております……」


 5万ブールもの大金を掛けた自転車。その時点で俺の説得力は皆無なのだが、オッチャンも共犯者である。

 お金については、もっと考えて使いましょう。オッチャンと俺と母上様とのお約束です。

 まあ、それも依頼の数をこなしていけば問題はないはずだ。一つ星なので大した依頼は受けられないが、子供の稼ぎとしては十分に過ぎる。

 依頼で必要になってくる費用もあるだろうが、残った分は貯金しておこう。俺自身は物作りでもしない限り大人しくしているつもりなので、普段は駄菓子でも食べられたら満足である。ウメト○兄弟が好きだったのだが、この世界でも販売してくれないだろうか。

 そんな昔懐かしい記憶に思いを馳せつつ、10ブール硬貨である銅貨をオッチャンに5枚手渡した。


「あいよ、確かに受け取った。……今更ながら、あの時が異常だったんだな。これが普通なんだよな?」

「50ブールも子供としては大金だと思うけどね。これが現在の俺の財力でございます」

「いやまあ、普通でいいんだよ。駆け足なんて転ぶだけだからな」

「ご忠告痛み入ります……」

「こ、このナイフも格好良い! 僕も騎士になったら色々買いたいな……。おじさん、いつか剣を買いに来るから! 絶対に買いにくるから!」


 微妙な空気の中、セシルが元気が声を上げている。

 だがしかし、このファンデル金物店では剣を取り扱っていない。

 興奮するセシルを横目に、俺とオッチャンは苦笑いを零すのだった。

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