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048 貪るバッタと探すべき場所

前回のあらすじ

 Q 道中でセシルと色々な話をしました

 A 森ではとある方がアップを始めています。早く行ってあげましょう

 豊かな森林が目の前に広がっている。後数10メートルも進めば、その中へと踏み込めるだろう。

 だが、俺達はその近くにある大岩の影に隠れていた。


「バッタがおる……なんか食っとる……」

「あれ、マダライヌだよ……。多分、他の冒険者が倒したんだ。皮が剥がれているから、間違いないと思う」


 虹色に輝く巨体をユサユサと揺らし、巨大なバッタが肉塊を貪っている。その光景は、俺が想像していた以上に衝撃的なものだった。

 まず、バッタが想像していた以上にデカイ。図鑑では最大70ロル(70センチ)となっていたが、それより大きいのではなかろうか。

 そう思うのもそのはずで、どうやら足や触覚を含まない大きさでの表記だったらしい。足まで含めると、その威圧感は尋常ではなかった。

 しかも、見た目からしてかなり厳つい。後ろ足だけではなく前足にも棘が付いており、見ているだけでも強いだろうことが分かる。

 バキバキと骨を噛み砕く音も聞こえてくるので、顎の力も相当なのだろう。

 なにより、肉を喰らっているというのが恐ろしいのだ。

 俺が知っているバッタとは、草原を跳ね回って雑草とかを()んでいる小さな奴等だった。だが、目の前のバッタはその固定概念を一気にぶち壊してくれている。


「バッタ怖い……」

「あれはちょっと怖いね……」


 大岩からこっそりと顔を出して観察しているのも、全ては奴の迫力のせいだ。

 図鑑でも雑食とは書かれていたが、犬を食うとはどんなバッタだとツッコミを入れざるをえない。


「あれで果物とか雑草とかも食べるって、信じられない」

「俺も同じこと考えてたわ……あれは狩人の目ですよ。多分、人殺しとか平気でやるレベル。スカベンジャーとかいわれても信用できないんですが……」

「スカベンジャー? 腐肉食のこと?」

「セシルも大概難しい言葉知ってんな……そう、ああやって死んだ動物とかを食べる性質を持ってる奴だよ。こっちから手を出さない限りは大丈夫らしいけど……」

「母さんのこともあるからね。近付くのは危ないと思う」

「違いない。あれはこの前のクソガキ達より絶対強いわ……触らぬ神に祟りなし、ちょっと迂回して森に入ろう」

「わかった」


 なんとも面倒なことではあるが、こればかりは仕方がないだろう。俺一人ならまだしも、セシルまで危険に巻き込むの絶対に駄目だ。

 なにより、俺もバッタが怖いのである。

 誰かは知らないが、魔物を倒したらちゃんと後始末してくれと言いたい。リーデさんの言葉通りなら、本来あのニジイロバッタはこの時間には森を留守にしていたはずなのだから。

 流石にあの巨体だと森の中での生活に適していないと思うので、俺達の後で森に入ってくるとは思えないのだが、それでも不安になる。

 いざという時を考え、『ステアー』は常時使用しておくことにしよう。初動が早ければ、対処も楽になるはずだ。


「あれは無理だわ……」

「だね……でも、美味しいらしいよ」

「例え美味しかろうが、俺は食いたくないですわ……」


 姿勢を低くし、足音を殺しつつ、俺達はバッタを大きく避けるようにして森へと向かう。

 あのバッタとは絶対に戦いたくない。勝てるかどうかではなく、触りたくないからだ。

 俺の苦手な物。それは重量級の虫である。

 この国ではセミが少ないからよいのだが、もし大量発生とかしていたら、俺は軽く引き篭もっていただろう。

 奴等は大声で鳴きながら体当たりをかまし、あまつさえ小便まで引っ掛けてくる。黒いアイツ並に嫌いだ。

 黒いといえば、何故かカブトムシやクワガタなんかは平気だったりする。むしろ格好良いとさえ思ってしまうほどで、なんとも人間の感性とは不思議なものだ。

 では、あのバッタはどうかというと……完全にアウト。一部の隙もなくアウトである。

 微妙に柔らかそうなお腹の辺りとか、もう鳥肌が立ってしまう。あれで体当たりとかしてこられたら、もう俺は泣いてしまうのではなかろうか。

 なので、絶対にバッタとの戦闘は避けるべきだ。俺が冷静ではいられない時点で、奴は俺にとって現状最大の敵と判断せざるをえない。


「バッタ怖い……」


 背筋を駆け上る怖気と共に、俺は何度目かになる感想を漏らしていた。




 森の中に入ると、周囲の温度が幾分下がったように感じられる。日差しを遮る巨木達と、朝露による気化熱のおかげだろう。

 立ち入る冒険者もそれなりにはいるようで、先程も13~4歳ほどの少年少女4人組と擦れ違った。

 森自体もそれなりに手入れがされているらしく、人が通りやすいように細い道も作られているのがありがたい。

 本当に初心者向けの場所だと思う。依頼のことを忘れてしまえば、この場所はとても落ち着ける空間に感じられた。


「いないなぁ……大きなクロスライム」

「見える所にいるのは狩り尽されてるんだろうな。外来種らしいし、容赦する必要もないってことか」


 現在、俺達はシロヨモギ危機を彷彿とさせるクロスライム危機に直面している。シロヨモギ同様、クロスライムもなかなかの品薄っぷりを発揮していた。おそらく、星が少ない依頼はどれもこんな感じなのだろう。

 それでも一応は何匹か見つけられたのだが、そのどれもが直径10センチ前後という赤ちゃんサイズで、狙いの60センチには程遠い大きさだった。

 そんな訳で、俺達は早くも森の奥深くへと足を踏み入れている。

 濃厚な緑の香りが鼻梁を通り、爽やかな気分にさせてくれることだけが救いだ。


「人の歩ける道の周辺は無理っぽいな……セシル、その紙には他にどんなことが書かれてある?」

「えっと、クロスライムって湿気が多い所とか好きみたいだよ。水辺が好きらしい。あと、落ち葉が沢山ある所とか、コケが生えた所とかも好きなんだって」

「汚部屋のスプリンターみたいなヤツだな……」


 しかし困った。落ち葉とはいうが、この森は日本の森と酷似している。なので、足元には腐葉土が敷き詰められているのだ。

 水分も多量に含んでおり、セシルの言う条件を十分に満たしているように思える。コケにしてもそうで、腐葉土から突き出した木の根や倒木には、分厚い緑の化粧が施されていた。

 おおよそクロスライムの楽園とさえ思える環境なのだが、そんな場所でも見つかるのは小さなクロスライムばかり。状況としては、かなり悪いと断じてよい。このままでは、さらに森の奥深くへと立ち入らねばならないだろう。

 だが、それは絶対にできないことなのだ。


「どうしようか……もう少し行ったら谷になる。その先はミッドラルタチトカゲの縄張りって書いてあるし……」

「いや、そこまでは絶対に行かないから安心していいよ」


 セシルの不安そうな声を聞き、安心させる為に断言する。

 ミッドラルタチトカゲ。

 見た目は恐竜としか思えない二足歩行のトカゲである。大きさも結構あるらしく、4メートルは下らないのだそうだ。

 ギルドで貰った紙にはクロスライムの他に、そのトカゲについてかなり厳しい文章が書かれてあった。

 この魔物は完全な肉食で、縄張りに入った者には容赦なく襲い掛かる激しい気性を持っている。

 一応は縄張り周辺の木に爪で傷痕を付けるらしいのだが、それを俺達が見つけるのは難しいだろう。

 3つ星でも上位の魔物であり、本来は4つ星以上の冒険者が相手をしなければならない。

 そんな魔物に1つ星の俺と一般人のセシルが立ち向かえるとは到底思えず、紙に書かれている通り、絶対に谷を超える訳にはいかなかった。


「まあまあ、そんな不安顔しなくていいから」


 にっちもさっちも行かない現状ではあるものの、実はあまり心配していない。

 やはり無期限の依頼という部分が大きく、のんびりと構えていればよいのだから。


「でも、ちゃんと見つけないと……」

「見つけられるさ。なあセシル……」


 そして俺が心配していない一番の理由は、先程セシルが放った一言にあったりする。

 クロスライムはジメジメした所がお好き。もっといえば、水気に富んだ所がお好きなのである。

 そんなに水を好む性質を持っている生物ならば、この広葉樹の森より打ってつけの場所があるだろう。


「なんで谷があると思う?」

「え……あ、川だ! 水が流れるから谷があるんだ!」

「その通り。しかもこの森は山から広がっている形だろ? 斜面から流れ落ちた雨水は、絶対に幾つかの流れを作る。多分、さっきセシルが言った谷には、それなりに大きな川がある。それに……」


 川を作り上げるのは、雨水だけではない。もっと継続的に水を供給できなければ、川の流れなんて作られないからだ。

 また、王都では平民も貴族も井戸を使っている。地下水は無尽蔵といってよいほどにあるらしく、水不足とは無縁だ。

 それもこれも周囲を豊かな自然に囲まれているからこそであり、そういった環境を育む山には、雨水よりも安定した水の供給源である場所が存在してもおかしくはない。


「多分、何処かに川へと流れ込む湧水があるはずなんだ。それを見つけられれば、きっとクロスライムも近くに居ると思う」


 クロスライムは外来種だ。

 水の大陸から来たという彼等は、元の環境では沼地に済んでいた。冒険者ギルドで渡された紙にも書かれているので、間違いはない。

 そんな彼等がだからこそ、常に水分を欲しているのだろう。

 つまり、川の流れを作り出す湧水。その場所こそが、俺達が現状で最も安全にクロスライムと遭遇できる可能性のある場所のはずだ。

 今まで通ってきた道はだんだんと上り坂になっているので、地下水が大気圧によって押し出されるという条件を満たしている。

 大気の重さが地下水のポテンシャルに勝り、押し出した結果が湧水となるのだ。チューブの中に入った物を、何かの重さで搾り出すといった表現が近いだろうか。

 きっと、近くに望む場所はある。それさえ見つけられれば、不必要に谷へと近付く必要もなくなるだろう。ある程度の安全マージンを確保しつつ、その周辺に居るであろうクロスライムを狩ればよい。

 まあ、そこに辿り着くまでが問題ではあるのだが……。


「分かった、湧水を見つければいいんだね? なら、僕が見つけるよ」


 どうやって見つけようかと悩んでいると、セシルは頼もしい発言をしてくれた。


「お、なにか秘策があるとでも?」

「うん。騎士は飲み水の確保とかも大事だから。水魔法でも沢山の水を作り出すのは難しいらしくて、だから水場を探すんだって。だから…………ほら、あそこ!」


 セシルが指差した先にあったのは、小さな獣道だった。

 その周辺だけ不自然にコケが生えておらず、腐葉土も踏み散らされ、僅かに下の土が覗いている。

 それは俺達の進んでいた方向から斜に伸びており、谷へと向かう方向ではあるものの、それより僅かに横道へと逸れている気がした。

 そして、勾配という条件も満たしている。


「おぉ……気付かなかった……」

「獣道だよ。もう谷に結構近いから、動物達も水を飲みに行くはずなんだ。この紙に書かれている通りなら、多分動物達も川には近付かないと思うから……」

「ミッドラルタチトカゲから離れて水を飲める場所……安全な水場があるってことだな? マジか……セシルお前、大手柄になるかもしれないぞ」

「へへへ」


 いやはや、このイケメンはなかなかやるようだ。インドア系だった俺とは違い、積極的にこういった知識を集めていたのだろう。

 今日セシルを連れてきたのは、大正解だったらしい。

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