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047 向かう先とお子様達

前回のあらすじ

 Q ギルドでの手続きも終わったので、クロスライム討伐に向かいます。イリスさんについてはノーコメントで

 A 彼女の嗜好を深く知ってはいけません

 間もなく目的地へと到着しようといったところで、俺達は小休止をとっていた。

 『ステップ』を使えばそれなりに時間も短縮できて楽なのだろうが、そこはそれ。スキルも万能ではないので、あまり頼りすぎるのもよくないだろう。

 まして今回はセシルもいるので、俺は『ステップ』を使っていなかった。おかげで足が少しだるくなっていて、少し重たく感じる。

 ではセシルの方はどうかというと、これが全く疲れている素振りを見せていない。一体なにが違うというのだろう。


「なんでセシルは平気なんだよ……俺は結構疲れたんだけど……」


 そんな疑問を投げかけると、セシルはちょっと得意気な顔をする。

 なんでも、毎朝走りこみとうさぎ跳びをしているのだそうだ。騎士になるなら当然と言い、少し誇らしげにしている。

 もしかすると、彼の『ステップ』はそうして備わったのかもしれない。自然とできるようになったと聞かされていてる彼の『ステップ』だが、そんな地道な努力の賜物でもあるのだろう。セシルも外に出られない時、家の中でピョンピョン跳ね回っていたというのだから。

 俺も母上様から剣術を教わっている立場だというのに、かたや石の上に腰掛けてるお子様、かたや立ったままナイフを眺めているお子様。いわずもがな、セシルの足腰は俺よりも鍛えられているようだ。

 そんな彼は、オッチャンの店で買い与えたナイフにご執心である。

 350ブールでも彼には高い買い物だったらしく、かなり遠慮されてしまった。だが、今も嬉しそうにナイフを眺めているその姿を見ていると、なぜかこちらも嬉しくなってくる。

 俺が休んでいる間、セシルはちょこちょこナイフを振り回しており、まさに騎士を目指す少年という風情だ。


「危ないから気を付けろよ」

「分かってる。ちゃんと鉄で出来た武器を持ったのは初めてなんだ。格好良い……」


 うっとりと目を眇め、セシルは光を反射するナイフに見入っている。

 俺は実用性を重視したオッチャンのナイフを高く評価しているが、その無骨すぎる見た目は一般の冒険者には不人気だ。

 だが、どうやらセシルに限ってはそういう訳ではないようで、ちょっと安心している。これで微妙な顔とかされたら凹んでいただろう。


「そういえば、エイルは剣術もできるの?」

「できるかどうかと聞かれたら、少しはできると思う。母上様から教えてもらってるんだけど、結構難しくてさ……スキル有りと無しじゃ違ってくるし」


 実戦にてスキルを使わないというのはないと思うのだが、元がしっかりしていないと意味がないとのことで、今朝も少しやらされたばかりだった。

 稽古では、スキルを使わない時間が半分、スキルを使った時間が半分といったところだろうか。

 母上様は俺の型がある程度決まってきた時点で、あまり口を出さなくなった。たまに体さばきと攻撃方法を指摘する程度だ。

 突きが基本にして必殺の一撃と教えるのは相変わらずで、特に突きに関してはやたらと目を光らせてくる。おかげで俺も突きにはちょっとした一家言が出来てしまった。


「それ、初動が大きい。突きを狙っているってすぐに分かるよ」

「じゃ、じゃあこんな感じで……」


 俺が指摘すると、セシルはもう一度突きの姿勢を取る。だが、突きの姿勢だと分かる時点で駄目なのだそうだ。

 これが地球と全く同じ環境ならば違ってくるのかもしれないが、ここは地球ではない。魔物や野生の動物は異常なまでに動体視力に優れているらしく、人間まで『ステアー』で見切ってくる。この前のクソガキリーダーにしてもそうだが、やはり初動は素早く気付かれないのが重要だ。


「そんなに体を捻らなくてもいいらしいよ。どうせ『チャージ』で補助するんだし、もっと普通の姿勢でいいと思う」

「こ、こんな感じ?」

「そうそう、それくらいで十分だってさ。母上様はそれくらいの姿勢から一気に突きを放ってくるんだよ……本当に命の危険を感じるレベルで」

「へぇ……エイルはお母さんから剣を習ってるんだ? 僕は誰にも教えてもらったことがないから……」


 自嘲するようにして、セシルは小さく笑う。


「親父は? リーデさんは剣術やってそうには見えないけど、親父なら男だから流石に剣の一つでも知ってるだろ?」


 我が家の親父は違うとして、と思いながらの質問だったのだが、セシルは小さく首を振った。

 そして、少し悲しそうな顔で告げる。


「父さんは僕が産まれてすぐに死んじゃったんだ……。冒険者だった、って母さんは言ってる。3つ星の冒険者だったらしいから、生きていたら教えてくれたんだろうけど……」

「うぐっ!」


 いかん、やらかしてしまった。罪悪感が半端ではない。何気ない言葉が人を傷付けるということを失念していた。

 思えば、セシルの家は母親が働いているにしては貧しかった。あれで父親も働いていますとなったら、流石に厳しすぎるだろう。

 少し考えれば分かりそうな答えだっただけに、自分の迂闊さに腹が立ってくる。


「でも、騎士なら違う。エイルには悪いけど、冒険者はやっぱり不安定だよ。お金をちゃんと稼ぐのも難しいし……。でも、騎士ならちゃんと稼げる。僕が騎士になれば、母さんも今みたいに苦労しなくていいんだ」

「しょ、将来設計ばっちりですね……」


 およそ8歳の子供が言うべき台詞ではない。そのあまりにも真っ直ぐな瞳に、思わず後退ってしまう。

 環境が環境のセシルだからこそ出てくる言葉なのだろうが、どうやらこの世界のお子様は地球よりしっかりしてらっしゃるようだ。

 これは俺も負けていられないのではなかろうか。早くルリーさんと結婚して、ちゃんとした社会人として働くことを常に頭に入れておこう。


「でも、僕はまだまだ弱いんだと思う。エイルみたいに魔法も使えないし、スキルだって『ステップ』しか使えない……」

「いやいや、これからですしおすし」

「そうかもしれないけど、それじゃ嫌なんだ。騎士は人を守る仕事だから、ちゃんと母さんを守れるくらいになりたい。だから、エイルみたいに強くならないと駄目なんだ」


 やだ、ちょっと格好良いかもしれない。ウルっとくる台詞もポイントが高いのではないかしら。

 このイケメンは無罪だ、間違いない。イケメンを全てに恨みを持つ俺にとって、最大の敵になるのではなかろうか。

 ちょっとマザコンが入っている気がしないでもないが、子供が将来の夢を抱く切っ掛けの一つは両親の姿だったりする。なので、セシルの考え方も立派に思えた。

 それに比べて俺は……前世と合わせると30年近くも生きているはずなのに、セシルに負けている気がする。これは厳しい、子供の純粋さがこれほどまでに大ダメージを与えてくるとは思わなかった。

 そんな後ろ暗い気持ちからか、セシルの真っ直ぐな瞳に居心地が悪くなってくる。

 俺が使える魔法やスキルに対する憧れも、きっと俺に才能があると思っての部分があるのだろう。俺は5年以上も魔法や魔力の操作を頑張って部分があるので、才能があるか自分では疑わしいのだが……。


「でも、本当は騎士に憧れてたりするだけなんだけどね。だって、格好良いじゃないか!」

「え、ええそうですね。そういえば、冒険者でも3つ星なら騎士の試験を受けられるらしいですよ?」

「……なんで敬語なの? えっと、冒険者は父さんのことがあるから……絶対に母さんが許してくれないと思う。だから、騎士の学校に行くんだ」

「ん? 騎士の学校とかもあるの?」


 初耳だった。

 実のところ、母上様は俺を騎士にしようとしているのではないか、と最近思うようになっている。だから冒険者になるのを勧めたのだろう、とも。

 騎士の学校があるというのなら、そちらも良い選択肢だと思える。もしかすると、冒険者で3つ星になる方が早いとか、そういった理由があったのだろうか。

 なんにせよ、俺の将来は薬剤店の店員で決定しているので、あまり関係のある話ではないのだが。


「ある、って言ってもいいのかな? 魔法大学の付属の学校があるのはエイルも知ってるよね? 僕は再来年からそこに行くけるらしいんだけど、授業を選べるんだよ。だから、騎士になる為の勉強をするんだ」

「へぇ……学部みたいなもんか。他にはあるの?」

「剣術と魔法があるみたいだよ。エイルはやっぱり……魔法?」

「あ~……どうなんだろ? そっちになりそうな気がするなぁ」

「……そっか……」


 深く考えずに答えたのだが、セシルは明らかにしょんぼりとしている。

 ……なんでこんな表情までイケメンなのか。憂いを帯びた瞳と、斜めになった眉がいかしている。

 地球でも滅多に居ないレベルのイケメンだけに、その破壊力は抜群だ。残念ながら、俺には心の絶対領域があるので意味を成さないが。

 イリスさん辺りがこれを見たら、警察沙汰になるのではなかろうか。


「うごご……と、とにかく、まだまだ先の話だから分からないって。セシルも今からそんなので悩んでたら、若ハゲになるぞ」


 むしろ、そんな未来も見てみたい。もしそうなったら、もっと仲良くなれると思う。

 ハゲは人間の進化の象徴であり、決してバッドステータスではないと断言しよう。なればこそ、俺はハゲた方には敬意を表する。

 ……俺も将来はどうなるか分からないことですし。


「そうだね……うん、分かった。とにかく僕は、頑張らないといけないんだ! 頑張って荷物を運ぶよ! きっとそれが騎士になる為の第一歩なんだ!」

「お、おう」


 果たして、本日の彼の仕事が騎士になる為の一歩になるのかは分からない。だが、意気込んでいる人に水を差すのも無粋なので、あえて突っ込まない方向で話を進めよう。

 俺の心遣いであり、指摘してやるのが大人のマナーとか、異論は受け付けません。

 セシルが早く南の森に向かいたそうにしているので、俺も腰を上げた。


「さて、そろそろ行ってみますか。すぐ見つかればいいんだけどね、クロスライム」

「エイルならきっとすぐ見つけられるよ!」


 根拠皆無の励ましではあるものの、今はありがたく頂戴しておこう。

 最後に一口だけ水筒を煽り、気を引き締める。

 相手はクロスライムだが、魔物は魔物だ。どんなトラブルが起こるかも分からないので、セシルの分も安全を確保しておきたい。

 そう思い、両の頬を強く叩いた。


「よし、出発しよう!」

「おう!」


 一切の曇りなき返事を皮切りに、また行軍を始める。

 これから俺達が立ち入るのは、王都の南に位置する森。そこは野生動物達の住処であり、魔物の比率は低いのだそうだ。

 照りつける夏の日差しは相変わらずで、夜族のハーフである俺には厳しい。早く森林浴としけこみたいものだ。

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