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041 お仕置きと助けた少年

前回のあらすじ

 Q カツアゲの現場に遭遇しました。これからお仕置きタイムです

 A 了解、射殺します

「ヒャッハー! 悪い子は居ねえかぁああーーー!? 『風刃』! 『風刃』! 『風刃』んんんんん!!!」

「や、止めてくれ! もう止めてくれ! 兄貴が! 兄貴がぁああ!」

「き、君……もうその辺にした方が……」

「うぶぅううう! ゲロゲロゲロ…………」


 ひらり、とまたもや暗闇から襤褸切れが出てきた。これはもう、パンツさえ手遅れかも分からんね。

 この『暗月』、自分が使っておいて思うのだが、随分とえげつない魔法である。こちらの魔力が尽きない限り解除されず、その上こちらは無防備になった相手にやりたい放題。相手は慈悲を求めることさえできず、自分が一体どうなっているのかさえ分からない。

 『風刃』は手加減しているので、掠り傷程度で済んでいるはずだ。勿論、ヤツの服は無残に切り裂かれているのだが。

 ちなみに、俺の今日使った魔力はシロヨモギ19本分。俺の魔力量は、その程度では魔力を使用したと感じないほどにある。つまり、まだまだお仕置きタイムは続く。首を狙われた恨み……許さない、絶対にだ!


「これは首の分! これも首の分! そしてこれが……首の分だぁあああああ!!! 『風刃』! 『風刃』! 『風刃』んんんんん!!! あ、これは虐められていた少年の分ね。『風刃』っと」

「く、首狙われてたんだ……」

「悪かったから! 代わりに俺が謝るから! 兄貴を許してやってくれ!」

「うぶふぅう……誰か助けて、もう黄色いのしか出てこない……」




 何度『風刃』を繰り返したのか、もうハッキリと思い出せない。

 ただ、溜飲が下がって『暗月』を解除した時、倒れていた馬鹿ガキの尻が意外と綺麗だったのが印象に残っている。だが、俺のプリケツに比べればまだまだだ。この争いは戦う前から勝敗が決していたのである。

 全身を痣と細かい切り傷に覆われた雑魚は、長時間の『暗月』に意識を奪われて気絶していた。それを見てクソガキAとスネちゃまが焦って何か言っていたが、生きているだけマシだと思って頂きたい。こちらは本当に命を狙われた訳で、俺が街に帰ったらギルドカード剥奪になるのだろうが、本当にその程度で済んで良かったと考えるべきだ。ぶっちゃけ、俺が警戒しすぎて氷魔法なんて使っていたら、あの馬鹿ガキはミンチになっていたのだから。

 王都に帰ってからも悲惨だろう。こういった娯楽の少ない社会では、奥様方の楽しみとして噂話がある。奴の意外と綺麗な尻ととても大事な部分は、面白いネタとして供されるはずだ。


「君、強いんだね……」


 馬鹿ガキを引き摺りながら去っていくクソガキAとゲロ吐きスネちゃまを見送っていると、先程の虐められっ子が話し掛けてきた。

 今更になってから気付いたのだが、かなりの美少年である。将来は女共から黄色い声援を送られることになるだろう。まだ魔法への適性を得ていないらしく、白い髪をしているのだが、それもまた似合っている。……助けなければよかったのかもしれない。

 しかし、この少年にも確かに落ち度はあったのだ。それについては、俺からも言わねばならない。


「俺のことは置いておくとして……それより、なんで君は腕章してないんだよ? 腕章なしでシロヨモギを採取したら違法だって知らんの?」

「うっ……」


 少年の反応から察するに、どうやら知らなかったという訳ではないらしい。

 ただ、見る限り少年は真面目そうだった。一方的な暴力に対して反抗しなかったのは、彼がクソガキ共に敵わないということ以外にも、負い目があったからなのかもしれない。

 そこを子供に聞いてやるのが、大人のマナーである。捩くれた根性をしているガキならまだしも、普通の子供が悪いと知りながらも良くない行動を取るのは、大抵は理由があるからだ。


「シロヨモギが必要ってことは、お金が必要なの? それとも、誰か怪我をしているとか?」


 俺がそう訊ねると、少年は顔色を変えた。ちゃんと理由を聞いてくれたことが、よっぽど嬉しかったらしい。嬉しそうな、けれどそれを顔に出してはいけないといった表情で頷いている。


「そうなんだ! 母さんが怪我をして……バッタに蹴られて、手を切られたんだ。本当ならちゃんとした治療を受けないといけないのに、家が貧乏だから……」

「バッタ怖い……手を切られたって、切り落とされたとかじゃないんだよね?」

「うん。でも、結構深い傷なんだ。夏だから、化膿するかもしれない。痛そうにしてるから、仕事も上手くできないみたいだし……お願いだから、見逃してほしいんだ」

「う~ん……」


 理由が理由なので、見逃してやりたい。

 だが、見逃すにしても、この少年がシロヨモギからポーションを作り出せるのだろうか。


「聞きたいんだけど、シロヨモギからポーションってどうやって作るの?」

「え…………確か、乾燥させてからお茶みたいに煎じてやれば……」

「つまり、詳しくは知らないと。君のお母さんは知ってるの?」

「…………知らないと思う。母さんは野菜の収穫とかを仕事にしてるけど、薬草とかは触ったことが少ないって言ってた」

「ふ~む……」


 どうやら、かなり無軌道な計画だったようだ。子供らしいと言えばそれまでだが、流石に危険を冒してまでやったことが徒労に終わるのは、可哀想に思えた。

 なにより、自分と肉体年齢が近いだろうというのもある。感情移入してしまうのは仕方がない。もし俺が少年の立場だったら、同じことをやらかしてしまいそうだ。


「見逃しても、君のお母さんの怪我が治る可能性は低いと思う。それに、街に戻っても……君の家は王都なのかな?」

「そうだよ。下級区の南に住んでる」

「なら、門に居る衛兵さんに見つかるのがオチじゃないかな? 取り上げられたら、それこそ無駄骨になるよ」

「うぅ……」


 次々と問題点が浮き彫りになってくる。元より子供が考えた作戦なのだから、こういった穴はいくつもあるのだろう。


「お金が掛かるけど……君が冒険者ギルドに登録して、冒険者になるのは? それで依頼をこなして、稼いだお金でポーションを買うとか」


 言ってから気が付いた。なんとも本末転倒なことを言ったものだ。


「……母さんは僕が冒険者になるのを嫌がってるんだ。多分、言っても登録費用は出してくれないと思う。それに、そんなお金があったらポーションを買うよ」


 考えていた通りの理由で、少年に否定された。

 にっちもさっちも行かないとは、このことなのだろうか。俺が少年にカンパして冒険者にしてやるというのも一つの手だとは思うのだが、それも気が引けてしまう。無償の善意だと、この少年は嫌がりそうな気がする。なにより、教育に悪い。


「とにかく、そのシロヨモギはその辺に植えなおしておくのがいいだろうね。上手く薬に出来なかったら、シロヨモギが可哀想だし」

「……わかった」


 素直に頷いて行動する辺り、この少年は本当に優しい子なのだろう。今回が特別だったのだ。だからこそ、なんとかしてやりたい。

 ちなみにシロヨモギ、切った物をその辺の土に植えても再生するらしい。とんでもない生命力である。


「う~ん、冒険者になるのは駄目。シロヨモギは密猟ならぬ密採取になる。お金は無い……」

「あまり言わないでくれよ……」

「う~ん、お金が欲しいならバイトしたらいいんとちゃうとか、僕ちゃんは僕ちゃんは考えてみたりなんかし……これや!」


 解決策をグルグルと考えていると、一つの妙案を思いついた。もしこれが許されるのならば、今すぐ少年の母親を治療することも可能だ。


「ばいと? それって何? それをすれば、お金を稼げるの?」

「ああ、上手く行けばだけど。とにかく、一旦王都に戻ろう。本当はクロスライムを倒せるかどうか試すつもりだったけど、それは次の機会にするよ」

「分かった、君の言う通りにする。だから、そのバイトというのを教えてくれないかな? 僕は母さんを助けたいんだ」

「まあまあ、焦っても許可が下りないことには皮算用になるから。詳しくは王都の冒険者ギルドで」

「冒険者ギルド……? 僕は冒険者になれないって……」

「いいからいいから~テリーを信じて~。そんな歳で考え込んでると将来ハゲちゃうよ、をにいちゃん。せっかくの美少年が台無しですわよ」

「え、ああ……えっと、お兄ちゃん?」


 お兄ちゃんと言われたのが嬉しかったのか、はたまた美少年と言われたのに反応したのか、少年は少し照れている。本当に素直な子供だ。

 対して俺はどうかというと、照れていても格好良い少年の姿にビキビキきている。どうして神は不公平なのか……。

 疼く眉間を見られないようにしながら、王都へと踵を返す。

 なんにせよ、俺の初依頼は成功だ。此処に辿り着くまでに規定数は集めているので、俺もルリーさんに褒めてもらおう。それが何よりの目的だった訳で、俺も俺で素直な少年なのである。


「ありがとう、テリー。助けてくれて、本当に助かったよ」

「助けたのはたまたまだから、そんなに畏まらなくていいよ。あと、俺の名前はテリーじゃないから」

「えっ!?」

「テリーじゃないから」


 多分、俺は素直な少年だと思う。そう思いたい。

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