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038 悪ガキとお仕置き

前回のあらすじ

 Q 最初こそ暗雲が立ち込めていた依頼でしたが、なんとかなりそうです

 A その調子で最後までやり遂げましょう

「ハハッ! 見ろ、シロヨモギが山のようだ!」


 あれから3時間ほどが経過した。結果は、竹筒から溢れんばかりに白い山を築いているシロヨモギだ。合計して36本にも上るシロヨモギは、こうして束になると巨大な白い花のようにも見える。

 結構な魔力を使ったはずなのだが、その感覚は全くない。少なくとも、この後でスキルや魔法を使う分には、何一つ問題がない程度には残っている。

 もう少し粘ってもよかったのだろうが、今日はまだ依頼初日だ。まだ二日も余裕があるのだから、のんびりと構えていても問題はないだろう。

 気が早いかもしれないが、嵩張るので依頼主であるルリーさんに預かってもらいたい。それに自転車の件もあるので、オッチャンの店にも顔を出しておきたいというのもある。

 なので、現在俺は帰還の途についていた。

 正門までは残り500メートルほど。ニコニコ顔でその道程を歩いていた俺は、他の冒険者から羨ましがられているような、もしくは微笑ましいような目で見られていた。

 だが、吉ばかりが続かないのは世の常らしく、俺は思いもよらない形で凶を引いてしまったらしい。


「おい、ガキ」

「お子様体型だからってバカにしないでちょうだい!!!」


 目の前には、日本の中学1年生ほどの体格をした男の子が二人立っている。


「あ? 意味わかんねぇこと言ってんなよ、ボコボコにされてぇのか?」

「ボコボコというよりふっくらしている顔だと思うんだけどね、俺。嫁さんにも好評な丸ほっぺに文句を言うんじゃありません」

「今からボコボコにされてえのかって意味だよ!」

「はあ……それでガキをガキと呼ぶガキが何の用? ずっと跡をつけてきて、君等も随分と暇してるみたいだけど。その腕章、尾行の為の物じゃないんですけど」


 二人組みが腕に付けている腕章は、俺と同じシロヨモギ採集の物だ。

 まあ、跡をつけられてる時点で予想はしていた。そういう輩も居るのだろう、と。


「俺達もシロヨモギが必要なんだよ、さっさとそれを寄越せ」


 つまり、カツアゲである。周囲に他の冒険者が見えなくなってから話しかけてきたのだから、間違いない。

 シロヨモギ危機を逸早く脱した俺から、こいつ等はシロヨモギを取り上げたいのだろう。嫉妬されるだけならまだしも、こういう馬鹿が居るのはどうななのだろうか。


「知らんがな。悪ガキは家の手伝いでもやって、その性根を叩き直してきなさい。そうしたら、一本くらいは分けてやってもいいから」

「あぁ!? こんのっ!」


 これはよろしくない。この程度の軽口で切れてしまうとは、将来が心配なお子様だ。まして体格も年齢も全く違う子供に暴力とは、腐っている。

 俺が明らかなお子様にこんなことを言われたとしたら……うん、我慢できると思う。子供の挑発なんて可愛いものだ。それで目くじらを立てるのは恥ずかしい。嗜める程度でよいはずだ。

 眼前へと迫る拳を前に、俺はそんなことを考えていた。


「なっ!? なんだこいつ! まさか『ガード』使ってんのか!?」


 右目辺りに悪ガキの拳が当たっている。だが、痛くも痒くもない。それも当然で、俺は既に『ガード』と『ステアー』を使っていたる。

 振り上げられた拳が迫ってくる時、俺はぼんやりとそれを眺めていた。ただ「遅いから当たっても痛くなさそうだな」とだけ考えながら。

 実際、一切のダメージを受けていない。母上様の突きには生命の危機を感じる時もあるが、この悪ガキの拳には、なんの脅威も無かったのだ。

 一応は体内で魔力を操作しようとしていたらしいが、全くの貧弱貧弱ぅ! である。あんなに適当では、『チャージ』を習得するのは当分先になるだろう。


「坊やの母ちゃん何処に住んでるの? 言いつけてやるから、感謝しておけよ」

「あぁあ゛!? ちょっとくらい『ガード』使えるからって、いい気になってんじゃねぇぞ!」


 クソガキは腰に手を回そうとしている。その手にしようとしているのは、幅広のショートソードだ。まさか、こんな子供相手に抜こうとでもいうのだろうか。

 見れば、脇に控えていた奴も柄に手を添えている。

 話しかけてきた奴の方が体格がよいので、おそらくアイツはス○夫ポジションなのだろう。

 ともかく、この状況は危険だ。いくら俺に『ガード』の自信があろうと、防具も着けていない状態で剣を受けるのは厳しい。最悪、殺されてしまうだろう。

 ならば、こちらも相応の対応をしなければならない。

 ――瞬時に『ステップ』を展開し、クソガキの懐に肉薄する。人間に対して使うのは気が引けるが、悪いのはあちらだ。少し痛い目にあってもらおう。


「おりゃあ!!!」


 生憎と、両手はシロヨモギを取り落とさない為に塞がっている。

 なので、使うのは『ステップ』。腕で攻撃するなら『チャージ』だが、足ならば『ステップ』になる。

 繰り出すのはハイキック。俺の身長なら、脇腹に入るはずだ。

 瞬間的に懐に入られたクソガキは唖然としているらしく、未だに反応できていない。もう一人の方も、先程の姿勢から変化していなかった。

 その全てを『ステアー』で捉えつつ、思いっきり足を振り上げる。軸足の靴底で砂を磨り潰すように、俺の体は足を繰り出す為に捻られていく。

 そうして放たれたハイキックは、俺の意図の通りに相手の体へと吸い込まれていき―――――グニャリと、嫌な感触を足の甲へと伝えた。


「……あっ……」


 失念していたのだ。

 俺の体は、そんなに柔らかい方ではない。なので、足を上げるのにも限界がある。

 なので、鳩尾を狙ったはずの蹴りが、大切な所に当たってしまったのは事故だ。俺に過失は無かった……と思いたい。これは、未必の故意というヤツである。

 加減をしたので潰れてしまったとは思わないが、それでも『ステップ』込みの一撃を急所に喰らったクソガキは、泡を噴いて倒れた。

 スネちゃまも唖然としている。


「お…………お前等が悪いんだぞ! お、俺は悪くない!」

「ス、スヴェン!? しっかりしろ!」

「お、お前等が……お前等が……うわぁ~~~~~~!!!」


 気付けば、俺は昼ドラの犯罪者よろしく逃げていた。全力の『ステップ』を使った逃走である。

 母上様からは、「相手が男なら股間を狙え」と言われていたものの、実際にやってしまうと罪悪感がとんでもない。

 きっと、あのクソガキは本日のおトイレにて苦しむことになるだろう。潰れた感触こそなかったものの、確かな手応えならぬ足応えを感じてしまったからだ。

 俺は悪くない。相手は脅しのつもりだったのだろうが、それでも剣を抜こうとしたのだ。逆に殺されなかっただけでも幸運だったはず。そう、俺に非なんてあるはずがない。


「お前等が……お前等が…………アホ~~~! お前等の母ちゃん、教育不足~~っ! 俺は逃亡犯じゃない、お前等が悪い子だったんだよ!」

「か、母ちゃんは関係ないだろ!!! 待ちやがれクソガキィィイイ!」


 遠くからスネちゃまの声が聞こえるので、もう結構な距離が開いてしまったようだ。スヴェンとかいうクソガキの容態におろおろしていて、俺の逃走を許したスネちゃまが悪いと思います。

 それでも頑張れば追えない距離ではないと思うのだが、スネちゃまが追ってこようとはしないのは、俺を警戒しているからだろう。

 スネちゃまは、自分もトイレで苦しむのが嫌なのだ。もちろん、俺もその時はさっきの必殺キックを繰り出す予定である。

 自分が相手の立場なら死んでも御免願いたいものだが、そこはそれだ。いやはや、相手が不良君ということもあり、やった方はちょっとした爽快感を得られる。

 俺は大事なところを蹴ったという罪悪感と、悪ガキを退治したという奇妙な高揚感を胸に抱きながら、正門へと駈けていった。




 正門をくぐった俺は、真っ先に冒険者ギルドへと向かっていた。先程の悪ガキ二人組みについて話しておこうと思ったからだ。

 どんな理由があるのかは知らないが、あんな行為は許されるはずがない。

 残念ながら悪ガキの住所を聞きそびれてしまったので、親に直接注意してもらうのは無理だ。だが、俺と同じ腕章を付けていたのが仇になった。奴等も冒険者なので、ギルド側から注意してもらえるだろう。


「……そういうことがあったんですよ」

「うーん、またあの子達ですか……」


 先程の経緯を聞いたミシェルさんは、不快げに眉を顰めている。


「また、ですか?」


 ミシェルさんの口ぶりからすると、どうやら初犯ではないらしい。とんでもないクソガキである。

 腕前は大したことがなかったので、おそらく自分達より格下に見える人間をターゲットにしているのだろう。


「ええ、職員の間では有名なんですよ。悪行が過ぎるので、カードの使用を禁止されていたんです。で、先日カードの再使用許可が下りたばかりなんですが、それで早速やっちゃうとは……」


 眉間の辺りを指で揉み解しながら、ミシェルさんは口にする。

 あのクソガキ共、免許停止処分を喰らっていたらしい。それが解除された途端にまたやらかすとは、本当にどうしようもない奴等だ。


「切りかかろうとさえしてましたからね。もう免許剥奪してやって下さいよ」

「ですね……冒険者同士の争いは原則禁止となってますし、私もそうすべきだとは思うのですが……今回はエイル君に実質的な被害が無かったので、厳重注意になると思います。すみません……」

「む、そうなんですか……。いえ、注意してくれるだけで助かります。また繰り返すようでしたら、剥奪とかになるんですか?」


 服に泥でも付けてくればよかったのだろうか。確かに俺は無傷で、物も盗られていない。

 だが、それはたまたまだ。相手が油断していたのもあるし、俺のスキル錬度が高かったのもある。もし俺と同年代の子供が奴等にたかられたら、シロヨモギを盗られていただろう。なればこそ、厳罰を求めるのは当然のことだ。


「ええ、そうなるはずです。次に被害者が現れたなら、間違いなく剥奪となるでしょう。上にもそのように報告させて頂きますので、安心して下さい」


 ミシェルさんは薄い胸をドンと叩くと、そう力強く宣言してくれた。

 やはりあの悪ガキ共の悪行は許せないらしく、鼻息を荒くしている。次の被害者が出てからでは遅いと思わないでもないが、現状はこれで精一杯なのだろう。


「お願いします。多分、すぐ剥奪処分になると思いますので」

「うーん、そんなに反省していませんでしたか……。そんなだから上のランクに上がれないんですよ、あの三人組」

「三人組? 俺が会ったのは二人でしたけど」

「ええ、本当は三人組なんですよ。二人兄弟と子分一人の組み合わせですね。悪ガキ三人組として、結構有名になってるんです」

「ふ~ん……」


 まあ、それは俺には関係のないことだ。

 3本の矢は折れないとは言うが、蹴り飛ばせば意外と折れるものである。俺のジャスティスキックがあれば、あの程度なら三人集まろうと大丈夫だと思うし、その日のおトイレで苦しめるのは可能と言ってよい。

 できれば二度と関わりたくない、というのが本音ではあるが。


「なんにせよ、お疲れ様ですエイル君。かなりの本数を集められたみたいですね。もしかして、回復魔法も使いましたか?」

「お、当たりです。もしかして、あれがミシェルさんの言っていた裏技だったりするんですか? 有名だったり?」

「ええ、その通りです。かなり魔力を使っちゃうので、本当はお勧めできない方法なんですけどね。たまに依頼の途中で倒れちゃう人もいるほどですし……。もしエイル君が集めるのに苦労していそうなら、その時は教えようかなと思っていたんですが……大丈夫ですか? 疲れていたりとかしていません?」

「大丈夫ですよ。それなりの長さをしたヤツに使ってた程度なので。それでも結構な魔力を使ったとは思うんですけど、まだまだ余裕もあるみたいですし」


 どうやら、あの方法は結構有名らしい。確かに、あんなに簡単なのだから、知られていない方がおかしいのだろう。


「まだまだって……あの、回復魔法は何回くらい使ったんですか?」

「何回と言われても、覚えてませんよ。これ、36本もあるんですよ? 使ったのはその内の33本ですけど、それに使った魔法の回数を数えるとか、馬鹿らしくなりません?」

「33本!? ちょちょちょ、エイル君の魔力量なら、普通は3~4本くらいで打ち止めですよ!? 本当に、本当になんともないんですか?」


 なんともないかと聞かれても、本当になんともない。予定があったので早めに切り上げた訳で、もしそれがなければ、あのまま50本集めていただろう。

 魔力を使ったという感覚こそあるものの、その割には消費した感覚が全く感じられない。


「いや、本当になんとも……それより、これ今からルリーさんの所に持っていこうかと思ってるんですけど、迷惑にならないですよね?」

「え? ええと、依頼品の前渡しは結構喜ばれるので、問題はないと思います。その本数ですから、確実に依頼を達成してもらえると喜ばれるでしょうね…………って、違います! エイル君!」


 バシン、とミシェルさんの両手がカウンターを叩く。それで結構な人の視線を集めたのだが、彼女はそれに気付いていなかった。


「うぅう!?」

「魔力量! 魔力量の測定をもう一度しましょう! そんなに回復魔法を連発できるなんて、魔道師並の魔力量がないと無理なんですよ。あの時は計器が壊れていたかもしれませんし、やりましょう!」

「は……はい、分かりました……」


 矢継ぎ早にまくし立てられ、その迫力に呑まれながら頷く。

 他の職員さんや冒険者から注目を集める俺達だったが、肝心のミシェルさんは俺の了承を得た途端、奥へと駈けていった。

 居た堪れない空気が、取り残された俺を襲う。


「またこれかよ……いい加減泣くぞ……」


 視線が痛い。ヒソヒソ話が聞こえてくる。「あ~、またあの子……」「可哀想に……あの子、俯いてるぞ」「あ、ちょっと震えだした。おいおい、ミシェルさんも早く帰ってきてやれよ」とか聞こえてきた。……よかった、世間の目は暖かなものだったのだ。

 皆の同情を一身に受け、俺は待ち続ける。そうして程無くして、ミシェルさんは少し弾んだ息をしながら帰ってきた。

 ドスン、と計測器をカウンターの上に置き、荒く息を吐いている。


「お待たせしました。 これですこれ、新品ですよ新品! 前にエイル君が使ったヤツは、あの後少ししてから本当に壊れちゃいましたからね。今度は大丈夫ですよ!」

「いや、今の衝撃で……」

「これはそんなヤワじゃないんです。水に沈めても大丈夫って売り文句があるんですから!」


 随分と無駄な性能を持った計測器だ。水中で測る機会でもあるのだろうか。

 まあそんな疑問はともかくとして、さっさと測定しよう。さっきからミシェルさんが俺の頬っぺたをムニムニ触ってきている。このままでは顔の形が変わってしまいそうだ。


「わかった、わかりましたから。測りますから。やめて、やめ……頬っぺた虐めないで!」

「あ、すみません……ルーレル様がやっていらしたので、私もどんなものかと……エイル君は良い頬っぺたをお持ちですね。それはそうと、やはり前回の測定結果は間違っていたと判断してよさそうです。これで沢山の魔力量まで持っていたら……エイル君は五つ星の冒険者になれるかもしれない逸材なんですよ!」


 まるで自分のことのように興奮しているミシェルさんだが、果たしてそう上手くいくのだろうか。

 だが、再び魔力量を測定できるのは嬉しい。相変わらずドーピングは続けているので、魔力量も以前より増えているからだ。

 以前の326からどれだけ増えているのか、俺は受け取った計測器の両端を握る。そうして思い出した。俺の魔力はこの計測器と相性最悪である、ということをを。


「……また変な表示になってますね」

「えっ、嘘……あ、本当ですね。エイル君がまた壊した……」

「人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。それより、『38』ってどういうことなんでしょう? 魔力量が減るとか、こんなのあるんですか?」 


 示された数値は『?00038』。相変わらず、一番上の桁を示すダイヤルがビクンビクンと痙攣している。

 前回使った計測器もボロだったらしいが、これは更にその上を行っていると言っていい。親父の持っていた本には、魔力量は増えることはあっても減ることはない、と書かれていた。つまり、この測定結果も堕ちた計測器になってしまったのだ。多分、俺の魔力と相性が悪すぎて測れないのだろう。


「新品だったんですけどね……ちょっと失礼。……あぁあ……やっぱり壊れてますね」


 ミシェルさんは自分でも魔力量を測って確かめると、大きく肩を落とした。


「ごめんちゃい」

「以前の測定結果もおかしなものでしたし、一応、測れない場合があるのかも確かめたのですが……もの凄く珍しいんですけど、そういった方も居るらしいんですよね。ですので、エイル君もそういう人なんでしょう。シロヨモギ33本に回復魔法……少なくとも、魔力量2000はありそうなんですけどね」

「326から随分と多くなりましたね……本当にごめんちゃい」

「登録用紙にはその旨を書き添えておきますね。でも……この測定器は、もう……」


 心なしか、ミシェルさんが震えている。

 そんな彼女の肩に、後ろから優しげな手が乗せられた。その手の持ち主は、少しこめかみの辺りをピクピクさせた中年男性だ。


「ミシェル君、先程からやり取りを見ていたのだが、最初に測定器を雑に扱っていたのも原因ではないかと私は思うのだよ。うん、次の給金が少し減るかもしれないが、より丁寧な行動を心掛けるように」

「え……? ギルド長、これはエイル君が測定器と相性が悪いからであって……」


 どうやら彼がギルド長らしい。なんというか、物腰こそ柔らかいものの、結構なプレッシャーを感じる。やはりギルドを束ねる長ともなれば、腕も立つのだろうか。


「ああ、それは確かにあるのだろう。だが、事前にその可能性を知っていた上で、それでもなおエイル君の魔力量を測ろうとした。受け持ちの冒険者と共に喜び合うのは良いことだとは思うのだが、もう少し考えて行動しなくては、また測定器を壊してしまうだろう」

「やっぱりそうなりますよねー……」


 そもそも、防水性と耐衝撃性は全く違う。意外と勘違いしている人も多いのだが、ミシェルさんもそのクチだったのだろう。

 ミシェルさんの行動は俺の為だったのだろうが、ギルド長のツッコミは間違っていない。


「あの……本当にごめんなさい。俺、そろそろアセリア薬剤店に行かないといけないので、本当にごめんなさい」


 ミシェルさんに言ったつもりだったが、頷いてくれたのはギルド長だった。目尻の皺をより深いものにさせ、ダンディーな笑みで手を振ってくれる。


「ああ、ルーレル殿も喜んでくれるだろう。頑張りなさい」

「はい、ありがとうございます」


 出来た御仁だ。作り笑顔ではなく、本当の笑顔を向けてくれている。こういうのをジェントルメンと言うのだろう。俺とは別の進化を遂げた紳士である。

 そんな彼に俺も小さく手を振り返し、入り口へと向かう。ミシェルさんも心配だが、早くルリーさんの喜ぶ顔が見たい。


「保険は……保険は利きますか?」

「一応は利くだろう。だが、全てを保障はできないだろうね……」

「なるほど、またキャベツ生活の始まりですね。エイル君、ルーレル様にキャベツの味がお肉になる薬とかあるか聞いてきてもらえますか?」

「そんな乾いた笑顔で無茶な注文しないで下さいよ……」


 こちらまで泣きたくなる空気から逃げ出すようにして、俺はアセリア薬剤店へと向かうのであった。

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