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036 シロヨモギ危機と打開策

前回のあらすじ

 Q 嫁が悲しんでいる気配がします

 A 昔のことで悩んでいるらしいです

 太陽が真上から嫌になるほどの光を浴びせてくる。

 午後になったばかりのこの時間、雲一つ無い晴天の中、俺は途方に暮れていた。


「無いやん……全然無いですやん! これアカンやつや!」


 そんな時間になっているというのに、俺が集めたシロヨモギは現在3本である。そう、たった3本しかない。

 正門付近は全滅。現在地である東側に辿り着くまでに1本。そして、ミシェルさんお勧めの場所である此処で2本の、計3本だ。

 少しでも状態を良くしようと買った竹筒に、巻尺と水とサンドイッチも手に入れ、万全の状態で始まった初依頼だったはずなのだが……この様である。

 花瓶代わりの竹筒に生けられたシロヨモギが、そよそよと風に揺れている。それが無性に憎らしく思えてくるのも、この状況では仕方がないと思う。

 ミシェルさんや手渡されたプリントの説明通り、シロヨモギ自体は珍しい草でも何でもなかった。注意して探さなくとも、結構な頻度でそこらに生えている。見分けるのも簡単で、シロヨモギはその名の通り霜を被ったような白い草なので目立つのだ。ヨモギとは言うが、見た目はセイタカアワダチソウに近く、それが真っ白になった物と言うのが一番適切な表現だろう。

 では、そんな簡単に見つけられる草がなぜ集まらないのか。それも簡単な理由で、25ロルを超える背丈のシロヨモギがほとんど見つからないから。

 今まで見つけたほとんどのシロヨモギに共通する点として、一度採集された跡があった。手持ちのシロヨモギにさえその痕跡があるのだから、この依頼がどれだけポピュラーなものかを窺い知ることができるだろう。

 そう、今現在も俺以外の冒険者がシロヨモギを探しているたりする。

 俺はサンドイッチを頬張りながら木陰で休んでいるのだが、彼等も大変らしい。俺が見つけた比較的背丈のあるシロヨモギに嬉々として近付く冒険者には、哀れみさえ感じる。


「可哀想に……」


 残念ながら、彼の狙いのシロヨモギは18ロル。規定の長さを満たしていない。

 ミシェルさんは25ロル未満でも葉が3本残るならば取ってよいと言っていたが、それが暗黙の了解になるのも、仕方がないと言える。25ロルは、かなり厳しい。20ロル前後でさえあまりないのだから、かなり無茶な条件になってしまう。

 先程の彼も、数分前の俺と同じくして巻尺片手に肩を落としている。悲しい現実が、そこにはあった。

 1つ星の依頼という意味が、嫌というほど身に滲みる。一つ下のランクになっていた同内容の依頼が無期限になっていたのも、こういう理由があったのだろう。

 しかし、ちょっとした絶望感が俺を含めた冒険者達の間で漂う中、けれど精を出している人達も居る。それは、道路工事をしている人達だ。

 石で出来た大きなローラーを、二人掛かりで『ステップ』を使いながらゴロゴロと転がしている。動き出しの時は『チャージ』を使っているのも分かった。

 その二人が共に掛け声を出た瞬間、人間が動かすのは不可能なのではないかというローラーが動き出すのだから、実は見ていて楽しかったりする。凄まじいマッスルパワーだ。

 ローラーから少し離れた所に居る別の人は、双眼鏡のような物を三脚で地面に固定し、そこから工事の様子を眺めている。おそらく、あれは工事現場等で使う『レベル』みたいな物なのだろう。彼が地面が水平かどうかを確認する役目らしい。

 ローラーの少し先では、『トンボ』と呼ばれる地面を均す道具、そしてスコップを持ったガチムチのおっちゃんが汗を流している。二つの道具を武器に、大きな不陸(凸凹のこと)を取っているようだ。

 そして、ローラーで押し固められた地面を歩いている人物は、土魔法の使い手らしい。彼が歩いた後の地面は、色が少し明るくなり、見るからに固くなっている。

 原始的な方法とファンタジーな方法がゴチャゴチャになっているものの、彼等の丁寧な仕事ぶりには頭が下がる思いだ。その仕事のおかげで、こうして外の道さえも平坦になっているのだから。


「あの人達、本当に凄いよね。さっきも『今日は涼しいな!』とか言ってたよ。……へぇ。君は3本見つけたんだ。小さいのに偉いんだね」


 ぼんやりと道路工事をしている人達を眺めていると、横から声を掛けられた。声の方を振り向くと、15~6くらいの女の子が佇んでいる。外見から察するに、種族は人族のようだ。俺や他の冒険者と同じく、シロヨモギ採集の腕章を付けている。どうやら、彼女も同業者らしい。

 ちなみに、工事している人達が暑がっていないのは、俺の氷魔法のおかげだったりする。ただジロジロと観察するだけでは悪い気がしたので、自分と彼等の周辺温度を下げているのだ。ちょっとしたのつもり見物料である。


「この辺、やっぱり木陰だから涼しいね。隣、いいかな?」

「はい、いいですよ」


 女の子冒険者は一言礼を口にし、疲れた仕草で俺の横へと腰を下ろした。腕章が近くなったことで見えたのだが、彼女も俺と同じ1つ星冒険者である。


「お姉さんも昼食ですか?」

「うん、そんな感じ。今日は目標数を達成したから、少し休もうかなって」

「へえ、10本くらい見つけたんですか?」


 もしそれだけ見つけていたとしたら、羨ましい限りだ。

 まあ、俺は俺で三日で50本というノルマがあるのだが……。日割りで計算すれば一日17本程度、あまり考えたくはない。

 だが、彼女は苦く笑いながら首を振る。


「そんなに見つからないよ。遠くまで足を運べばいけると思うけど、今日はそこまでしたくないし……危ないもんね。私が今日見つけたのは7本。結構時間掛かっちゃった」

「なんだか慣れてる感じがしますね。俺なんてまだ3本ですから、倍以上じゃないですか」

「あはは、私は朝から走り回って探してたからね。『ステップ』には自信あるし。君は……えっ、一つ星なの!?」

「あ、はい。一応、そうなってますね。そうか、その手があった……こんなに早い者勝ちになってるなら、『ステップ』使えばよかったんだ……」


 だが、もう遅い。既に日は真上から射す時間なので、他を回っても手遅れだろう。


「はぁー……でもそっか、君みたいな小さな子が外壁の外に居るんだもんね、一つ星でも不思議じゃないのか。でも凄いなぁ、私が一つ星になったのって、13歳だったのに。君って夜族だから5歳くらいでしょ?」

「最近6歳になりました。ちなみに、夜族と人間の血を引いてます。お姉さんは人族ですよね?」

「うん、両親共に人族。もしかして、君はこの依頼が初めてだったりするの?」

「……当たりです。正直、途方に暮れてますよ。こんなことなら、無期限の方を選んでおいた方がよかった、って後悔してますもん」


 弱々しい笑いを浮かべつつ、嘆息する。今朝までの俺は、冒険者を舐めていたとしか思えない。

 依頼達成の為に遠くまで足を運ぶのも考えたが、それでは安全という二文字を放棄することになってしまい、本末転倒だ。あまり考えたくない方法ではあるのだが、明日は日の出から出掛けるべきなのかもしれない。

 思えば、文面だけならば簡単に見える依頼だったのだ。誰もが飛びつき、シロヨモギの争奪戦が起こっているのは当然のことだったのだろう。


「うわぁ、期限がある方を選んじゃったんだ……?」

「ええ。嫁が依頼主だったんで、それが決定打になっちゃいまして」

「嫁!? あ……ああ、おままごとか。そっか……私は無期限の方だから、のんびりやればいいんだけど、君は大変そうだね」

「本当にそうですよ……。もうね、回復とか薬に頼らず、魔法でやってくれって思うレベル。むしろ自然治癒でいきましょうと提案したいです」

「それはちょっと……回復魔法は難しいし、魔力の消費も大きいからね。それに傷を治すのに魔力を使って疲れちゃってたら、いざって時に何にもできなくなっちゃう」

「あ、あ~……なるほど」

「それに、魔法も薬も応急処置みたいなもんだからね。無理をすれば傷が開いちゃうし、そもそも傷を埋めるのにも体が消耗しちゃうし。同じくらいの効果しかなかったら、魔力を使わないで済む薬の方がいい時の方が多いんだよ?」

「勉強になります」


 魔力の使用は計画的に、ということらしい。確かに、俺も獣さん時代は気絶したのだった。

 回復魔法も回復薬も、応急処置と言われればその通りかもしれない。親父から貰った紙束にも書かれてあったが、やはり瞬間的に傷を癒すのには限界があるらしいのだ。俺がそれを感じなかったのは、家の中でしか動かなかったからだろう。

 この世界の薬がどの程度の効能を持っているのかは知らないが、鞄に一つ二つは入れておいた方が良いのかもしれない。入れておくとしたら、一つは聖水で決定だ。エリクシアが必要になるような事態は御免願いたいが、選択肢として絶対に入れておきたい。


「そういえば勉強で思い出したんだけど、シロヨモギも回復魔法を使ってるらしいよ?」

「えぇえ!? 草が回復魔法!?」


 とんでもない世界である。草すら魔法を使うとは、もう何でもありなのではなかろうか。


「ああえっと、本当は回復魔法みたいなもの……なんだけどね。これ見てくれる?」

「ほほいほい」


 彼女が指差す先、そこには若いシロヨモギが生えている。背丈は5ロル程度だろうか、普通なら見向きもされない小物だ。

 俺が言われるままにそのシロヨモギへと注目すると、彼女はおもむろに一枚の葉をちぎった。

 一瞬、違法ではないのだろうかとの考えが頭をよぎったが、それはすぐに霧散する。ちぎられた部分に残っていた僅かな葉柄が、すぐさま萎れたからだ。


「これは一体……」

「こんな風にして、シロヨモギは傷口を塞ぐの。あと1時間もすれば、ちぎられた箇所は完全に枯れちゃって、その下は完全に傷口が塞がってるって訳」

「はぁ~、どうせ死ぬ細胞なら養分にしようってことですね。でもこんな急激にできるってことは、確かに魔力が関係してそうな気がします」


 俺が感心していると、お姉さんは小首を傾げている。何か間違っていたのだろうか。


「『さいぼう』……? それって何?」

「え?」

「『さいぼう』って何なの? 聞いたことない言葉なんだけど、魔法かスキル?」

「ええと、なんと言えばよいのやら……生き物の体って凄く小さい粒で出来てるっていうのは知って……ますよね?」

「えぇぇえええ!? やだ、気持ち悪い!!! そんな訳ないでしょ!!!」


 まさかの全力否定である。

 それから細胞について少々説明してみたが、結果は芳しくなかった。細胞膜やその中にある生体を構成する水溶液やらも説明したのだが、その殆どに否定の言葉が返ってきたのだ。

 曰く、見えない物は見えない。魔法という摩訶不思議な力が信じられているというのに、こんな反応しかされなかった。

 ここに来て、またもや世界間のギャップが俺を襲う。


「どう説明すればよいのやら……」

「君、そんな気持ちの悪いこと言ってると、精霊様から怒られるよ? その『そしき』だか『げんし』だか何だか知らないけど、もしそんな物で色々な物が出来てたら、バラバラになっちゃうじゃない」

「そこは分子間力とか色々あってですね……」

「ないない、そんな変ちくりんな名前の力なんて無いから。大精霊様が創った世界なんだよ? そのブンブン何とかって力は君がお昼寝してて夢に見たんでしょ」


 分子間力……確かに、名前だけならば中二病臭い。いかにも子供が考えそうな名前でもある。やはりもう少し分かり易い単語を使うべきだったのだろうか。

 いや、分子に対しても否定的なのだから、それも駄目だ。


「はあ……君も学校に通う歳になったら色々と教えてもらえるから、ちゃんと本当の勉強をしないとダメだよ? もう私、北の方へ行くからね。君も頑張りなよ?」

「ああっ! そうだ、静電気とか磁石とかその辺から攻めていけば!」

「じゃあね、今度会う時は人間を粒々だとか言わないでよね。暗くなる前に帰らないと、お母さんに怒られちゃうよー……よー……」


 お姉さんの声が遠ざかっていく。流石は『ステップ』に自信があると言っていたことはある。少し目を離した隙に、随分と遠くへ行かれてしまった。


「ちゃうねん! 変な子供ちゃうねん! 俺は変な子供ちゃうねん!」


 既に小さくなってしまったその背中に、俺は精一杯の弁明を試みる。

 何故、中学レベルの話をして引かれなければならないのか。縋るような俺の声は、周囲の冒険者達の注目を僅かに集めただけだった。虚しさが、じんわりと心に去来する。

 再び一人となった俺は、竹で出来たコップを氷魔法で冷やしつつ、冷えてきた頭で考え始めた。名前も聞けなかったお姉さんであったが、それでも重要なことを教えてくれた気がする。


(シロヨモギは魔法を使ってるのか? さっきのお姉さんの話だけだと少々疑わしいけど……。でも、もしかすると……)


 一つの仮説を立てた俺は、早速とばかりにそれを試すことにした。上手く行けば、このシロヨモギ危機から脱することが可能かもしれない。


「風の加護よ、彼の者に癒しを与え給え 『風治』!」


 詠唱を口ずさみ、風の回復魔法を発動する。対象は先程のシロヨモギだ。

 今まであまり考えていなかったのだが、回復魔法は人間以外にも効くのではないか。そして、もしシロヨモギが魔法を使っているのだとしたら、その力を回復だけに留めておくのだろうか。

 俺がシロヨモギの立場なら、より日光を浴びる為に成長する力に応用しようとするだろう。

 なので、この『風治』は傷を塞ぐのとは別のイメージを抱いて発動させた。

 そのイメージとは、植物の成長だ。地中には、窒素、リン酸、カリウム、その他カルシウムやマグネシウムといった植物の必要とする微量元素がある。それを根から水分と共に吸収し、管に通し、光合成によって得られた炭水化物と併せて成長に費やす。

 俺の中学時代から止まっている植物の生長に関する知識による魔法だったが、足りない部分はシロヨモギ自身が補ってくれたのだろう。

 果たして、俺の目論見は形となった。


「おっほう! お前は話の分かる奴だな、シロヨモギ!」


 僅か1ロル、つまり10ミリ程度の成長でしかなかったものの、確かにシロヨモギが成長したのだ。

 冒険者も使う回復薬なのだから、即応性が求められるはず。ならば、その原材料であるシロヨモギ自体が回復魔法に対する適性を持っていても不思議ではない、との考えだった。そして、その考えは間違っていなかったのだ。


「シロヨモギは成長を回復魔法で促進しているんだろうな……。やりおる! この世界の植物はやりおるぞ!」


 一回の魔法では1ロル程度しか成長は見込めない。だが、複数回使うなり込める魔力の量を増やしてやるなりすれば、望みの長さのシロヨモギが手に入るだろう。

 回復魔法の応用による、シロヨモギ危機からの脱却。これこそが、ミシェルさんが言っていた裏技なのではなかろうか。

 そうと分かれば、後はこれを繰り返すだけだ。そう、俺こそがシロヨモギ産出国である。


「ヒャッハー! こうしちゃいられねえ! 見逃してきたシロヨモギさん達、首を洗って待ってろよ!」


 意気揚々と、俺は駆けていく。

 最初の狙いは、俺と他の冒険者を失意のどん底に落とした、あの18ロルのシロヨモギだ。下の葉3枚といわず、5枚でも6枚にでも増やしてから収穫してやろう。

 そうして俺は、シロヨモギハンターとして輝かしい一歩を踏み出すのだ。

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