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031 貯金と幻の行方

前回のあらすじ

 Q オッチャンに自転車作成を依頼しました

 A 完成が楽しみですね

「しょ、少々お待ち下さいっ……!」


 ルリーさんに話しかけられたギルド職員は、緊張した声音を隠せないままに奥へと引っ込もうとしていた。

 ファンデル金物店での一悶着も終わり、俺とルリーさんが今居るのは、目的のデートコースである冒険者ギルドだ。

 ルリーさんの膝の上に乗せられ、俺とルリーさんは二人で一つの椅子に座っている。誰もが羨む程のラブラブっぷりを周囲に見せ付けているのだが、それより問題なのは俺の後頭部に当たっている幸せな2つの巨峰だろう。

 デカイ、とにかくデカイ。そして柔らかい。なのに張りがある。

 正直、こんな幸せな物がこの世に存在していることが不思議なくらいだ。流石は異世界、もう土下座物である。

 ああ、地球にもそんな物があったらしいね……でも過去の遺物だから。液晶の中や遠目でしか拝めなかったそんな物、もうどうでもいいんですよ。


「いや、別にギルド長じゃなくて君でも構わないから……ああ、そうだった。エイル、アンタには担当のギルド職員が居るんじゃないかい? その歳であのスキルと魔法を持った1つ星なんだから、有望株として担当が居てもおかしくはないのだけれど」


 後ろから顔を覗き込むようにして、ルリーさんは俺にそんな質問を投げかけてくる。

 そんなことをして頂けると、更に幸せになってしまうのですが。


「おほっ!? なんちゅうもんを当ててくれるんや……なんちゅうもんを…………失礼、少々俺の紳士なところが溢れ出してしまいましたね。はい、居ますよ。あの人です」

「ああ、やっぱり。すまないね、あちらの職員の方を呼んできて頂けるだろうか?」

「か、畏まりました!」


 そうしてミシェルさんの方へと駆けて行った職員さんだったのだが、肝心のミシェルさんはというと、大袈裟なまでに手を振っている。

 こちらに対して手を振っているのではない。先程の職員さんに対して振っている。それはつまり、拒絶の表れだった。

 しかし、そういう訳にはいかなかったのだろう。ミシェルさんは渋々といった足取りで、けれどその顔を明らかな緊張で引き攣らせながらこちらに歩いてきた。


「も、申し訳ありません。大変長らくお待たせしました……。私がエイル・ライン様を担当させて頂いております、ミシェル・ファゴットという者です」

「え、様付け? どういう風の吹き回しですか?」

「こらエイル、そんなことを言うものではないよ。失礼になっちゃうからね」


 ルリーさんはそう言って、自分の体ごと俺の頭を落とす。これは、俺に頭を下げさせているのだろう。ミシェルさんからはルリーさんの旋毛が見えているはずだ。

 ミシェルさん相手にここまで畏まる必要があるのかは少々疑問ではあるが、今なら……いや、今だからこそ言おう。ありがとうございます、と。

 俺は2つの幸せをもっと堪能する為、頭だけは少々の抵抗を試みる。

 邪な感情に任せて上がっていった目線だったのだが、それに映ったのはミシェルさんの青い顔だった。


「ノ、ノエイル卿!? あ、頭を上げて下さい! うわわわ……」

「……ノエイル卿?」

「すまないけれど、その名で呼ばれるのは好きじゃないんだよ。ええと、ミシェル君もそう呼ばずに、ルーレルと呼んでくれないだろうか?」

「も、申し訳ありません! 畏まりました……」


 ここまで条件が出揃うと、流石の俺でもおおよその事が分かる。

 先程の職員さんの態度、そしてかなり緊張しているミシェルさん。オッチャンの戸惑いっぷりも、今なら頷くことができる。

 『卿』という言葉からも、ルリーさんの身分は貴族かそれに準じるものなのだろう。

 未だ現代日本の価値観を引き摺っている俺だから驚きが少ないのだろうが、そんな人物が頭を下げたのだ。下げられたミシェルさんは堪ったものではないだろう。


「つまり身分違いの恋ってやつですね。ええ、大丈夫です……その方が燃えまひゅから」


 決意を新たにする俺だったのだが、両の頬がルリーさんに引っ張られた事で上手く喋ることができなかった。

 しかも、結構痛い。俺の婚約者はなかなかの力持ちのようだ。これならば、家事に関しても期待が持てる。


「アンタは一体なにを言って……まあいい、大事なのはそんなことじゃないんだよ。どちらから話を進めようか……そうだね、早く済みそうな方からにしよう。ほらエイル、鞄の中からさっきの皮袋を出すんだよ。そうしないと、お金を預かってもらえないからね」


 促されるままに鞄から大金の入った皮袋を取り出す。

 ムニムニと頬を弄くられながらなのだが、そこは気にしない。

 傍から見れば、俺達は微笑ましい物に見えるのようだ。現に、ミシェルさんの顔にも余裕が生まれてきている。子供の貯金を大人が手伝っているという図式は、俺達が婚約者同士という事を差っ引けば、心温まる光景と言ってよいのだろう。


「あ、御用件はエイル君の貯金だったのですね。私はてっきり、依頼についてかと……失礼致しました。では、金額の確認の方をさせて頂きますね……………ね!?」


 俺からミシェルさんへと手渡された皮袋は、彼女の慣れた手つきによって開封された。

 だが予想通りと言えばよいのか、そこから零れ出てきた金額に、ミシェルさんは硬直している。

 俺だって、いきなりそんな大金が目の前に現れたら硬直するだろう。


「ええっと……こちらはノエ……ルーレル様が御自身の口座へと入金されるという形で宜しいのですか?」

「ああえっと……それは違うよ。そのお金は、このエイルの物なんだよ。だからエイルの口座を作って、それに入金という形になるね」


 産まれたての小鹿のように震えるミシェルさんに対し、ルリーさんは気遣いながら告げている。

 カタカタと音がしそうな動作でこちらを見るミシェルさんは、まるで壊れかけのロボットのようだ。


「え…………・嘘…………あれって本物……だったんですか? これってその買い取り金額……?」

「はい。100ブールじゃなくてよかったです」

「本物? ああ、エリクシアのことだね? そうか……エイルは最初、ここで買い取ってもらおうとしていたんだね。それならウチに持ってきたのは分かるのだけれど……100ブールというのは?」

「え……え? どういうことですか? 100ブールが80万ブール? 私、間違ってます?」


 気持ちは分かる。もしかすると、彼女は100ブールでエリクシアと賢者の石を買えたかもしれないのだ。

 だが、エリクシアはエリクシア。100ブールで買おうとする方が間違っている。

 しかし、ミシェルさんは100ブール使うとお昼ご飯が食べられなくなると言っていなかっただろうか。つまり、彼女の財布の中には日本円で千円しか入っていなかった訳で……尚更可哀想になってきた。

 17歳ながらも公務員である彼女。そんな人間が持つ財布の中身がそれでは……。


「エイル……彼女は大丈夫なのかい? 酷く動揺しているようだけれど、何か悪い物でも食べたんだろうか……体調が悪そうだし、他の人を呼んでもらうのも……」


 ミシェルさんの動揺に気付かないルリーさんは、結構な大物なのだろう。貴族だと思われる彼女にとって、ミシェルさんが震えている理由は遠いものなのかもしれない。


「ちょっと落ち着くまで見てみましょう……暖かい気持ちで。きっと色々と悩み事があるんですよ。普段はちゃんとしている人ですから、もう少ししたら落ち着くはずです」

「それならいいのだけれど……」

「あっれー? 私、子供に貯金残高で負けるんですかー……?」




 口座作りと入金は、ミシェルさんが落ち着くと同時にすぐさま終わった。

 小難しいシステムではなく、ただ預かるだけという仕組みらしい。聞けば、俺の冒険者情報を記した書類に、口座への入出金を記した紙が添えられる程度なのだそうだ。

 それでも額が額なだけに、ミシェルさんの面持ちは硬かった。

 だが、それも少しの間だけだ。入金が終わると、ミシェルさんはガックリと肩を落としながら話しかけてきた。


「エイル君は大物ですね……お姉さんは色々と負けた気分がしてきましたよ。冒険者ギルドってこんなに暗い場所でしたっけ? もう少し照明を付けた方がいいと思いませんか?」

「まだ日は沈んでいませんし、十分明るいと思うんですが……」


 ミシェルさんの目が浜辺に打ち上げられて干からびてしまった魚のようになっている。

 こんな子供相手に対抗意識を燃やしているのもどうかと思うが、確かにやられたらやられたでキツイものがありそうだ。

 やはり、彼女には何か贈り物を用意してあげた方がよいのだろう。美味しい物でも贈呈するのがよいだろうか。


「二人はとても仲が良いようだね」

「うぅ!?」


 いけない、ルリーさんが嫉妬している。

 ミシェルさんに意識を取られていたが、それは間違いだったのだろう。ニコニコといった表情に見えるのだが、それは間違いだ。細められたその目は、きっと笑っていない。笑っている筈がない。

 微笑む様な形を作っている唇も、本心ではない筈だ。きっと、彼女の心中はグチャグチャなのだろう。自分の婚約者が他の女と仲良く話しているのだ、これで嫉妬しない方が不思議と言える。

 なればこそ、俺がすべき行動は決まっていた。


「すみません、ミシェルさん。俺はルリーさん一筋なんで……浮気とか絶対にしませんよ」


 そう言って、未だ俺の頬を弄くり続けるルリーさんの手に、自らの手をそっと重ねる。二人の間に入り込む余地など無いという、これ以上ないアピールだ。


「おや? もしかして私、振られたんですか? 子供にまで振られるとか、何だかまた悲しくなってきたんですけど……」

「ちょっと黙っておこうか、エイル」


 再びルリーさんから両の頬を抓られた。自慢の丸ほっぺが無様に伸ばされていく。

 リア充アピールは流石に衆目がある中でやるべき事ではなかったのかもしれない。だが、俺の想いは伝わったはずだ。俺も若干顔が熱いので、そんな言葉を送られたルリーさんの頬はもっと朱に染まっているに違いない。顔面を前へと固定されているため、その頬を拝めないのが残念だ。


「いひゃい、ルリーひゃんいひゃいでふ」

「アンタが喋るとおかしな方向へと進んでしまいそうだからね。はあ……とりあえず、一つ目の目的は済んだかな」

「一つ目というと、別の御用件が?」

「ああ、むしろこちらが本命でね……とある行商人を調べてほしい」


 ルリーさんは俺の抗議を聞き入れ、頬を引き伸ばすのを止めてくれた。だが相変わらず、その手は俺の頬っぺたを弄繰り回している。

 そんな熱々の俺達なのだが、「行商人を調べて欲しい」というルリーさんの一言は、やけに真剣みを帯びていた。

 対するミシェルさんも、その表情を引き締めている。


「御依頼となれば可能ですが……それは冒険者へのご依頼ですか? それとも直接、ギルドに対してでしょうか?」

「ギルドへの依頼という形でお願いしたい。費用はそちらで計算してくれて構わないから、なるべく早く、正確に。可能ならば、その身柄も確保してもらいたい」

「は、はい……。では、詳しい外見をお聞かせ願えないでしょうか? また申し訳ないのですが、行商人とのことですので、確保できるかは確約できないのですが……宜しいでしょうか?」

「お願いする立場だからね、そこまでの贅沢は言わないよ」


 ルリーさんがそう答えると、ミシェルさんはカウンターの裏から一枚の紙を取り出した。どうやらそれが保管用の依頼用紙らしく、ミシェルさんはルリーさんに細かな説明を求めていく。


「期限は何時までが宜しいでしょうか?」

「そうだね……5日程度で。相手は行商人だから、それ以上は足取りを掴むのも難しいだろうから」

「料金についてはこちらで算出して構わないとのことでしたが、上限は如何致しましょうか? それによって人員も決まってしまいますので……」

「一応の目安は30万ブールでお願いしよう。けれど、これはあくまで私個人が出す金額になるかな。一応、明日にでも城にも伺うつもりだから……明言はできないけれど、結果次第でもっと増えるだろうね」

「さ、30万ブールですか!? ルリーさん、たった一人の人間を探す為にそんな大金使っちゃ駄目ですよ!」


 ルリーさんが口にした金額に、俺は思わず抗議の声を上げる。

 30万ブールとは、とんでもない大金を提示したものだ。ましてそれが、本当にただの行商人相手ならば。

 ルリーさんが探そうとしているのは、俺が聖水を買った行商人だ。その行商人は聖水を扱っていただけで、賢者の石や魔王の石とは一切の関係がない。だからこそ、ルリーさんは今、30万ブールという大金をドブに捨てようとしている。

 こればかりは、何としてでも止めなければならない。


「エイル、今回は特別なんだよ。賢者の石だけならば、ただの掘り出し物で済んだのかもしれない。ああいった形でエリクシアや賢者の石が発見される場合もあるからね。でも、『あんな物』まで持っていたとなっては……その行商人が何者なのか、絶対に調べる必要があるんだよ。恐らくは過去の魔王の縁者だとは思うけれど……『あれ』を手放す理由が分からない」

「だからって駄目ですよ! そんな大金は使っちゃ駄目です。結婚費用に取って置いて下さい!」

「あ、あの……魔王に賢者に『あれ』とか『それ』とか……ええと、ルーレル様ですので、ご依頼理由は必要ないとは思うのですが……あの、私が担当させて本当に宜しかったのでしょうか? どうやら大事のようですし、上の者をお呼びしても……」

「ちょっとミシェルさん! ミシェルさんからも何か言ってやって下さいよ! ウチの嫁が無駄遣いしようとしてるんですよ!?」

「嫁!? そういえばさっき、結婚費用とか……ルーレル様、結婚されるんですか!? それもエイル君と!?」

「ちょっとアンタは本当に黙っておこうか。ああええと……どこまで話したんだったか。とにかく、依頼料は30万ブールで、期限は5日。依頼内容は『ある行商人を探せ』で……依頼理由は、過去の魔王、もしくは勇者の血族と縁のある人物かもしれないので、でお願いするよ。ただ、これは一時的に私個人からの依頼となっているけれど、明日には正式に国からの依頼となる可能性もある。そうなった時は、君の上司が対応してくれる筈だから」


 三度、両の頬が引き伸ばされていく。

 自分でも驚く程に良く伸びる頬だが、今は置いておくとしよう。問題は、ルリーさんが本気だということだ。

 『嘘を吐くには、ほんの少しの真実を混ぜるのが良い』と言うが、今回はそれが裏目に出ている。おそらく、あの行商人はもう、この王都を発っているだろう。探しても見つからない可能性が高い。

 それに何より、見つかったところで、彼はただの行商人だ。そこから得られる情報など、皆無なのである。


「うわぁ……う、承りました。ええと……では、その行商人の特徴等をお聞かせ願えないでしょうか? 可能な限りで宜しいので」

「ヒュトッフ、ヒュトップ! スターップ!!! はあ、やっと開放された……」

「ご、ごめんねエイル。つい……悪いんだけれど、このお姉さんにアンタがエリクシアを買った行商人のことを話してやってくれないかい? もし『あれ』が1つではなかったとしたら……お願いだよ。些細なことでもいいから、話しておくれ」


 心なしか、ルリーさんの声は懇願に近い物のように感じられた。

 魔王の石にどれほどの価値があるのか、俺には分からない。分かりそうにもない。しかし彼女の声音は、酷く真剣みを帯びていたような気がする。

 俺は居心地の悪さを感じながら、探り探りで言葉を吐くことにした。


「…………見た目は普通の人族でした。髪の色や形は帽子を被っていたので分かりません。ゆったりとした服を着ていたので、体格も分かりにくかったのを覚えています。年の頃は30中盤から40手前、露店はこの冒険者ギルドが面する広場の中央、行商人達が露店を開いている場所の正門寄りにありました。特徴として、頬に小さなほくろがあったと思います。ただ、近日中に出立すると言っていましたし、今日見た限りでは、もう出立しているみたいです」


 俺の心境を知ってか知らずか、ルリーさんが後ろから俺を抱き締めてくる。その腕は俺が痛くない程度に加減はされていたが、拳は白くなる程に握り締められていた。きっと、彼女にとってはそれだけ大事なことなのだろう。

 だから、嘘は言えなかった。けれど情報を取捨選択して、なるべくぼやけた像として提示する。


「なるほどなるほど……うーん、ちょっと厳しいかもしれませんね。どちらの頬にほくろがあったのかは覚えていませんか?」

「……覚えていません」


 これは嘘だ。本当は、左の頬にあったのを覚えている。

 そんな小さな嘘だったのだが、けれど一層の罪悪感を感じてしまう。

 おそらく、この程度の情報では行商人は見つからない。『中年の人族で、頬にほくろがある』だけでは、情報として少なすぎるからだ。行商人自体は数も多く、露店の顔ぶれも前回と違ってきている。今居る行商人達の中にも、俺が聖水を買った行商人ではなく、さっき言った特徴を備えている人間も居るだろう。

 この依頼は成功する確率自体が限りなくゼロに近い。その上、例え見つけ出せたとしても、得られる物は何も無いのだ。

 だから俺は、言わずにはいられなかった。


「この依頼は、俺からの依頼という形でお願いします」

「えっ!?」

「エイル!? 何を言ってるんだい!?」

「これは俺が持ち込んだ厄介事です。それにルリーさんが懐を痛めるのは間違ってる。幸い、今の俺ならさっき提示された依頼量を払うことができます。それにさっき貯金した金額も、俺には多すぎるくらいですから……」

「でもだね、エイルがそんなことを気にする必要は……そもそも、私が言い出したんだよ? 私が払うのが当然なんだから、それは駄目だよ」

「はぁー……エイル君も言いますねぇ。男の子の意地ってヤツですか?」

「そんなところです」


 案の定、ルリーさんは抗議の声を上げてくる。

 だが、こればかりは譲れない。


「駄目もクソも、とにかく絶対に俺がこの依頼を出します。もしルリーさんが譲らないとか言ったら、俺は別口でこの依頼を出しますよ。それって可能ですよね?」


 俺の問いに、ミシェルさんが飲まれたようにして頷く。


「は、はい、可能です。……ですが、それは……」

「なんでそんな無駄なことを……エイル、意固地になってはいけないよ。そんなことをしても、意味はないのだから」

「意味がないなら、ルリーさんが折れて下さい。それに俺も男ですから、ちょっとくらいは意固地になる時もあります」


 またもや、俺の頬が引き伸ばされる。

 だが、すぐに元の丸ほっぺへと戻され、加害者のルリーさんは大きな溜め息を吐いた。


「その歳で男だと言い張る辺り、アンタは大物だよ。ミシェル君、君はどう思うだろうか? 私としては、絶対に止めさせたいのだけれど……」


 ルリーさんとしては、ミシェルさんと一緒に俺を止めたいらしい。

 肝心のミシェルさんはと言うと、眉根を寄せて難しい顔をしていた。


「うーん……そうですね、エイル君は絶対に引き下がらないんですか?」

「男に二言はありません」


 力強く、そう答える。

 ルリーさんは納得してくれそうにないが、目の前の受付嬢様ならば、なんとかなりそうな気がした。


「なるほどなるほど……ルーレル様、これは引き下がりそうにありませんよ? こんなに鼻息も荒く言ってますし」

「いや、私はこの子を嗜める言葉が欲しかったのだけれど……」

「自分で『俺は男だ!』って言っちゃってますからね、これで引っ込んだら格好も付かないでしょう。確かに30万ブールは大金ですが、現在のエイル君ならば払えない額ではないとも言えますし……」


 ミシェルさんは、俺に対して肯定的なことを言ってくれる。

 だが、「50万ブールなら、数年後には追いつけるかも……」と小声で呟いたのは、しっかりと聞こえていた。

 ともあれ、彼女の本音はルリーさんに聞こえなかったようだ。


「確かにそうかもしれないね。けれど、ここは大人である私が……」

「いやいやいや、未来のお嫁さんにお金を払わせるのはですね……いひゃい、ほっへたを引っひゃらないへ……」

「平行線になりそうですね。ルーレル様、エイル君と連名でご依頼されては如何でしょうか? それでしたら……」

「絶対に駄目へっはいひはへ!!!」

「はい、分かりました。それでは、頬っぺたが面白いことになっているエイル君の勝ちということで。ここで引いたら格好悪いですもんね。なにより、男の子ですし」

「ちょっ!?」

「イヘーイ!!!」


 貯金額で俺に対抗意識を燃やしているミシェルさんだったが、この時ばかり輝いて見えた。先ほど小声で言っていたことも、今は水に流そう。

 彼女のおかげで、俺は自分の尻拭いができたのだから。

依頼を引き受ける話が多い中、依頼を出す話って少ないなと思って書いたものになります。と言っても、実りの無い話だったり……;

簡単に無視できる事柄ではなかったのが大きいです。


ついでに、ミシェルの密かな趣味は貯金です。

頑張って貯蓄しているらしいです。

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