030 デートコースと金物店
前回のあらすじ
Q 賢者の石について色々教えてもらったら、ルリーさんとデートすることになりました
A デート、頑張って下さいね……
肝心要の初デートだったのだが、先約は忘れていない。
ルリーさんは一刻も早く冒険者ギルドへと向かいたがっているようだが、俺が先約があることを告げると、渋々とではあるものの付き合ってくれた。
旦那を立てるとは、良く出来た女房だ。早く結婚したいです。
そうして、俺達はファンデル金物店に居る。
「オッチャンこれ、前に言ってた物の3面図。急いで描いたから色々抜けがあると思うけど、これで大体のイメージは掴めると思う。作るならどれくらいの費用が掛かって、どれくらいの日数が掛かるとか、概算でいいから出せないかな?」
「ああ? サンメンズだぁ? っておい……お前、絵が上手なんだな。これが上から見た形で、こっちが横から見た形で……この数字は寸法か? 結構デカイんだな。何なんだこりゃ?」
「自転車だよ。正確には三輪車になっちゃうんだけど、要は人力の馬車みたいな物かな。上手く作れば、普通に人が走るよりも早く移動できる乗り物になる……はず」
そう、オッチャンに作って貰いたかったのは自転車なのだ。本当に正確に言えば、変則的な形をした三輪車になる。
このアマツチという世界、馬車はあるが自転車が無い。せいぜいが手押し車だ。
それはこの世界の人間がどれだけ運動を得意としているかという事の裏返しなのだとも思うが、やはり自転車は魅力的に思える。走る以上に速く移動でき、それでいて積載量もそれなり。さらなる積載量を求め、三輪車を思いついた。
これは、予想される需要以上に俺が欲しいと思っていたのもある。冒険者としてやっていくなら、移動や荷運びが絶対に絡んでくるからだ。
なので、後部の2輪の所はそれなりの大きさを持ったカゴでも取り付け可能にしてみた。後輪駆動にしたかったので、自転車にサイドカーが付いた形になっている言えばよいだろうか。
一応、設計図では大人でも乗れる大きさになっている。サドルの調整次第で、俺より小さい子供でも乗れるかもしれない。一応、全体の大きさはこれからの成長を見込んだ上でのものとしている。
3輪あるので、地面に足が届かなくてもこける心配はないだろう。
本当は変速機とかも付けたかったのだが、そこは知識不足だったので却下となった。
「これは……この部分を足で蹴るのかな? 何とも面白い物を考え付くものだね。店主、少し拝借しても宜しいだろうか?」
いつの間にやら、ルリーさんが背後から首を出して自転車の図を眺めている。
やばい、凄く近い。甘くて良い匂いがする。
「え……ええ、どうぞ」
だがオッチャンがすぐに図面を手渡してしまった為、その香りは遠ざかってしまった。
残念で仕方がなかったのだが、そんな俺のことなど露知らず、オッチャンは焦った様子で耳打ちしてくる。
「おっ前ぇ! なんで坊主がアセリア薬剤店の店主様と一緒に居るんだよ!? お前はあれが誰か分かってて連れまわしてんのか?」
「え、いやいや……彼女、俺の婚約者らしいですしおすし」
「こここ、婚約者だぁあ!? なんじゃそりゃ!? お前、本気で頭沸いてんのか? あ、いや……ならあんなモン描いて来る訳ねえか……いやいや、そうじゃねえんだよ! あの人はな……」
「ありがとう店主、お返ししよう。実に興味深い物だね、おおよその実物像は掴めたよ。もし完成したら私も見せてもらって宜しいだろうか? 『ステップ』を使えるとはいえ、その乗り物は非常に魅力的に思えてね。それはそうとエイル、アンタは本当に何者なんだい? さっきといい、これといい……しかも、1つ星冒険者なんだよね?」
「1つ星!? お前、いきなり1つ星冒険者かよ!?」
オッチャンは気になるところで話を切ってくれた。
しかし、本人の知らない所で内緒話というのもどうなのだろうか。こういう事は、本人の口から聞くべきだ。まあ、それは追々で構わないだろう。ゆっくりと育んでいきたいことでもある。
「うん、1つ星冒険者からスタートになった。それとルリーさんの質問なんですけど、これは俺が冒険者としてやっていく為に必要かなと思って考えた、オッチャンに作ってもらいたい物なんです。何者かと聞かれても……お子様冒険者としか言い様がない気がします」
「自分から子供だと言う子供はあまり居ないと思うんだけれどね……」
納得のいかないといったルリーさんだが、そこは我慢してもらおう。前世の記憶を持っていますとか、それが他の世界の記憶なんですとか、そんな話は場を混乱させるだけだ。
それに、オッチャンには悪いが、この後も色々と予定が立て込んでいる。話を本筋に戻し、その上で交渉しなければならない。
「それでオッチャン、これは幾ら掛かって何日で出来そうなの?」
「お……おう、材料がわかんねぇところはお前と相談になると思うが、それも込みで最低20日程度は見た方がよさそうだな。お前の頭ん中に完成した物があったとしても、まず型が無ぇ。それになにより、一品物になっちまうと5万ブールは掛かるぞ」
「5万ブールね、わかった」
案の定、費用はかなりのものになってしまった。だが、今の俺は結構な財産を所有しているのだ。それに比べれば安いと言っていい。
肩掛け鞄の中に手を突っ込み、ルリーさんから渡された皮の巾着の中を漁る。そして、5万ブール硬貨である大金貨を取り出した。
「とりあえず、これで。多分、別途費用が掛かるとも思うから、その時はその時で別に払うよ。これで当面は問題ない……よね?」
意識して何気ないことのように振舞ったつもりだったのだが……徒労に終わったようだ。
オッチャンはあんぐりと口を開けて停止しており、その表情は驚愕の一言で表されるだろう。
大金貨の出所であるルリーさんはルリーさんで、後ろで頭を抱えているらしい。
「マジか…………お前、やっぱりただのお子様じゃねえんだな。漢だよ……やべえ、俺も頑張んねえと……甲斐性見せねえと……」
「子供が特注品で、しかも5万ブール……? そうか、次代が……次代で良いのかな……? 狂ってる……」
いけない、皆が混乱している。
しかし、それもそのはずで、お子様が5万ブールという大金をポンと支払ったのだ。これで混乱しない大人が居るだろうか。この国の平均月収がどのくらいかは知らないが、流石に50万には届かないだろう。地球でも50万と言えば大金だ。それを一介の子供が易々と支払うという光景は、今更ながら異常と言っていい。
「エイル、アンタはこの為にあの薬を?」
「う……正解です。これをオッチャンに作ってほしかったから、買い取りをお願いしました」
「はあ、確かに良い発明品だとは思うのだけれど……なんとも勢いが良いと言えばいいのか、思い切りが良いと言えばいいのか……」
ルリーさんのぼやきも尤もだ。例え自転車をどれだけ欲しがろうとも、エリクシアと天秤にかけるのは、薬剤店を営む彼女にとっては悩ましいところなのだろう。
俺はエリクシアを作ろうと思えば幾らでも作れる訳で、その辺の認識が全く無かった。だが、あらゆる傷と病を癒す薬と、ちょっと日常生活が便利になる程度の発明……個人がどちらを望むかでいえば、考えるまでもない。
それでも、ルリーさんは自分の中で納得してくれたようだ。俺の頭に軽く手を乗せると、ワシャワシャと乱暴に撫でてくれた。
「エイルはこれをどうしても作りたかったんだね。男の子ならそういう時もあるんだろう」
「Exactly」
「あ……? 薬? イグザ……おい、お前今、なんて言ったんだ?」
対して、オッチャンは混乱の境地から抜け出せていない。オッチャンには色々と迷惑を掛けている気がするが、困ったことに時間も押し迫ってきている。この後の予定もある訳で、あまり時間を取られすぎるのもよくない。
此処にはまた明日にで来ればいいので、その時にでも詳細を詰めていくのがよいだろう。
「オッチャン、この後も俺とルリーさんはデートしなくちゃいけないんだよ。ごめん、だから詳しい話は後日にしよう。えっと、この部分だけでも試しに作ってくれてると嬉しいかな……鋳造でいい」
「お、おう……おい、そうなのか!? マジなのか!? お前その歳で5万ブールもポンと払うだけじゃ飽き足らず、そういう趣味持ってんのか!?」
「デート!? 一体、アンタは頭の中はどうなって……? あと、そこの店主! はいぃ!? 『そういう趣味』ってどういう趣味で言ったんだい? 言ってみな!!!」
どうやら、オッチャンとルリーさんは水と油の関係にあるらしい。……いや、本当は分かってるんですけどね、俺が悪いって。本当にごめんなさい。
ただ、折角の二人でのお出掛けなのだから、楽しみたいのは本当だ。何せ、初めて血の繋がっていない女性とツーマンセルお出掛けしているのです。
つまりこの状況は、俺への試練の一つなのだろう。




