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029 魔王の遺物と日本男児

前回のあらすじ

 Q なんとかエリクシアを買い取ってもらえました。ついでに1級賢者の石について聞いてみたんですが、とんでもないことを言われました

 A そういうこともあります

「魔王の遺物……?」


 いきなり出てきた不可解な単語に、一瞬呆気に取られてしまった。まさか、自分がそんな物騒な物を作っているとは思わなかったのだ。


「そう。竜達はこれを竜神の名と共に呼んでいるらしいけれど……。もう無くなった……いや、無いとされていた魔石だよ。知る者さえ殆ど居ないだろうね。2000年前、嵐竜王に殺された最後の魔王も、そして文献に載っている殆どの魔王も作り出すことができなかった物。作り出せたのは、最初の人であった勇者だけだと言われている。エイル、君は賢者の石が魔王によっても作り出されていたことを知っているかい?」

「いえ、知りませんでした。そうなんですか? それに『竜神』というのは?」


 初めて聞く単語だった。

 竜の神ということは、とても強い竜とかそんなのだろうか。


「ああえっと……賢者の石についてから話そうか。魔法を極めた者、賢き者が作った魔石、だから賢者の石なんだよ。そしてこれは、賢者の石に魔王の魔力が大量に籠められた物だと言われている。賢者の石は、作り出した者以外の魔力を受け付けないらしい。魔王が居ない今、作った魔王自身なら魔力を籠められるかというのは確かめられないことなのだけれどね。聖水は今でこそ悪い精霊を祓うの為につかわれているけれど、その由来は賢者の石に作成者以外の魔力を介入させる実験の副産物なんだそうだよ。……次に『竜神』なんだけれど、これは竜達が崇める神だね。大精霊様が大地に縫い付けたとされている、最初の竜、『悪い竜』のことだよ」


 どうやらルリーさんは相当な物知りらしく、次々と知らなかったことを教えてくれる。

 悪い竜。

 これは、随分昔に聞いた気がする。確か、この世界の創世記とも言える御伽噺に出てきた存在だったはずだ。


「そういえば、そんな話を聞いたような……。それと、親父の持っていた本には、賢者の石は竜の腹の中や秘境から稀に見つかる魔石で、竜の心臓や眼球やただの魔石が変化した物かもしれないとか、枯渇寸前とか書かれてたんですけど……それはどうなんでしょう?」

「その本を書いたのが誰かは知らないけれど、それは違う……と思うよ。少なくとも、枯渇寸前という部分は間違いだね。多分、相当に古い文献だったんじゃないかな? 正確には、非常に手に入れ難いだけではなく、市場に流す人間が少ない、ということになるね。アタシは今回、賢者の石を『回復薬の材料』としての値段でエイルから買ったんだよ。でも、そうは思わない人もいる。そういう人達は、もっともっと沢山のお金を払ってでも賢者の石を手に入れようとするんだよ。エリクシアにもせず、かといって魔石としても扱わず……嘆かわしいことだけれどね、ただ『欲しい』から買うんだよ。だから、本当に必要とする人達の手に渡るのは、ほんの一握りになる。賢者の石自体は、高位の竜なら必ずと言ってよいほどに持っている。その竜が死ねば手に入るんだから、枯渇という表現は間違いだね。賢者の石がどうやって出来ているかについては……これは、私もよくは知らない。だから、色々な説が飛び交うのも仕方がないんだよ。けれど、多くの書物には『魔王は何も無い所から賢者の石を作り上げた』と記されている。御伽噺だと馬鹿にする人も多いけれど、私はそうじゃないと思ってるんだよ。往々にして、御伽噺というのは真実を含んでいるからね。なら、沢山の書物でそう語られているならそうなんだろう、って」

「なるほど……確かに、俺もそう思います」


 実際、第三者の目から見れば、そう見えてしまうのも頷ける。一から魔力で作り出す物なのだから、それは不思議な現象に見えるだろう。


「すまないね、少し横道に逸れた。この黒い賢者の石……これには人が呼べる名前が無いんだよ。それくらい、人の歴史からずっと置き去りにされていた物だったからね。仮に呼ぶとすれば、『魔王の石』とかそんな感じになるかな。勇者達はこの魔王の石と『勇者の鎧』、そして禁呪を持って竜達に挑んだとされている」

「禁呪は分かるんですけど、勇者の鎧っていうのはなんですか?」

「勇者の鎧というのは、そのまま勇者達が身に着けていた鎧のことだよ。血のように赤い色をしていたとも、そうでなかったとも言われている。ああ、以降の魔王も勇者の鎧を一部なら作り出すことができたそうだよ。でも、全部は無理だったらしい。だから、勇者の鎧も無くなって久しいということだね」

「禁呪もですか? でも……」

「いいや、禁呪は無くなっていないよ。竜王達がずっと守っているし、そして彼等は使えるからね。氷の禁呪は死竜王から漏れたらしいけれど、誰か使えたと言う話は聞かないね。もし使える者が出てきたとしたら、2000年ぶりの魔王になる。世界中が大騒ぎになるだろうね」


 ……今まで聞いた情報を頭の中で整理してみる。

 1級賢者の石の名前は『魔王の石』。

 最初の魔王はこれを作っていた。

 次代の魔王達はこれを作れなかった……これは多分、違う。ドーピング効果について知らなかったのではないだろうか。それならば、別に1級にする必要は無い……かもしれない。とにかく、ルリーさんの言葉を信じるならば、作っていなかったことになる。それは、作る必要性を感じていなかったのではなかろうか。何かからくりがありそうだ。

 最初の魔王である勇者の装備品は魔王の石、勇者の鎧、禁呪。

 魔王の石は現在の俺でも作成可能だ。勇者の鎧はちょっと心当たりがある。……が、作れる自信はまだない。禁呪は氷の物を知っている。といっても、詠唱だけだ。試してみたい気もするが、属性容量の関係で未だ試せていない。

 氷以外の禁呪は竜王達が守っている。恐らく、竜王というのは複数居るのだろう。『嵐竜王』と『死竜王』という単語が出てきたので、8属性に対応して8匹は居ると考えてみるべきだろうか。もし氷以外の禁呪を習得したいのであれば、その竜王達に挑まないといけない……とかだったりするのだろう。

 そこまで考えを整理して、気が付いた。俺は何を考えているのだろう、と。賢者の石について知るはずが、いつの間にやら魔王になる皮算用をしている。

 止めよう。今はそんなこと、全く関係ないのだから。


「と、とにかく、これはそんなに古い物だったんですね? それで、凄く貴重な物だと」

「そうだよ。……正直、ウチでも手に余る物だね。とてもじゃないけど受け取れな……そうだった、エイルは6歳だったね……こんな物を持っていると知られたら、とんでもないことになる。ああ、どうしよう……本当にアタシにこれを?」

「え、いや、あげようかな~って……結納品的な何かとして」

「悪いとは思うんだけれど、これはウチで買い取れる代物じゃないんだよ。買おうと思えば、それこそウチの店全部ひっくるめても全然足りない。いいや、そもそも値が付けられないんだよ。こんな場所にある事自体が間違っていると言えばよいのか……」

「だからお金は要らないですって」

「君は無欲過ぎるよ! ああでも、だからといって……やっぱり城に持って行くべきなんだろうね……それが正解なんだろうねぇ……また嫌味言われそう……」


 どうやら魔王の石は城行きが決定してしまったらしい。結納品とか言うんじゃなかった……。

 だが、見る見る内にしょげかえるルリーさんは、見ていてちょっと可愛い。

 しかし、そうさせているのは俺な訳で……もういっそ、プレゼントした魔王の石を無かったことにしてしまうのが良いのではと考え付いた。


「あの、あんまりにも物騒な物なんでしたら、いっそ俺が食べましょうか? ソレ」

「食べる!? 魔王の石を食べるだって!? 意味が分からないよ! 君は何から何まで変わった子だね! ちょっと親の顔が見てみたくなったよ!」


 言ってから気付いたが、流石にこれはアウトだった様だ。

 だが待って欲しい。ルリーさんの尤もな突っ込みよりも大切なのは、彼女が最後に放った一言だと断言してよいだろう。『親の顔が見たい』これが意味することとは、つまり……


「う、家に挨拶に来てくれるんですか? 今は母上様しか居ませんけど……あ、今日は親父遅くなるんだった。まあいいか」

「行かないよ! 店ほっぽり出して……ああ!? 行商人だ!」


 何やら忙しないマイハニーがそう言うので、道路沿いの窓を見てみる。だが、そこには普通の通行人しか居なかった。


「どうしたんですか? 行商人なんて何処にも居ませんよ?」

「そりゃ居ないよ! アタシが言ってるのは、こんな物の出所だよ! ……エイル、今から冒険者ギルドに行くよ。貯金の手続きとかも手伝ってあげるから、悪いと思うけれど付き合って頂戴ね」

「あ、はい。ルリーさんって結構強引なんですね。でも……俺の心なら既に貴方の物ですよ。結婚を前提にとか、ちょっと憧れてたんです」

「ああもう、本当にアンタは可愛い子だね!!!」


 可愛いとまで言ってもらえるとは、嬉しい限りだ。

 そこで、はたと気付いた。気付いてしまった。ルリーさんと今から出掛ける……これは、所謂デートというやつになるのだろうか。

 やばい、また緊張してきた。

 賢者の石やついて色々聞かされ、もう少し考え纏めたかったのだが……そうと決まれば仕方が無い。

 婚約者様がデートに行こうと言うのだ、それに応えずして何とする。

 俺は男だ。元だが、日本男児なのだ。ならば、此処は腹を括るべきだろう。

 良いだろう、臨もうではないか。

 初デートとやらに。

エイルはポケモンで言う『メロメロ』と『こんらん』状態です。

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