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027 冒険者のススメと回復薬買い取り

前回のあらすじ

 Q エリクシア作ったのでお出掛けします

 A 行ってらっしゃい

「おや? こんにちは、エイル君。ギルドカードはちゃんと届きましたか?」

「ええ、おかげ様で。ありがとうございました」


 早速向かった先は、冒険者ギルドだ。前回と同じく、ミシェルさんが対応してくれるらしい。

 あれから彼女は焦げた天井の件で怒られたのだろうか。少し不安に思っていたのだが、ミシェルさんの表情は別段何かあったというものではなく、むしろ少し上機嫌であった。


「エイル君、さっそく1つ星ですね。おめでとうございます」


 窓口に座った俺にミシェルさんが急に顔を近づけてきたので、一瞬焦ってしまう。

 だが、その声が興奮している割に小声だったので、内緒話の類だとすぐに分かった。


「え、ええ、ありがとうございます。……小声ですけど、どうしたんですか?」


 俺も倣うようにして、声を潜める。カウンターを挟んで内緒話というのもどうかと思うのだが、幸いにして他の受付は俺の後から来た冒険者の団体の対応に追われているらしい。


「天井の件なんですけど、お咎めなしになりましたよ。それもこれも、エイル君の実力の方が重要視されたおかげみたいなんですよ。えっと、もう6歳になったんですよね? それでも、エイル君の年齢であのスキルと魔法はやっぱり凄いことだったんです。優秀な冒険者になるだろうって、ギルド長が色々と気を回してくれまして」

「おお、それは俺としても一安心ですね。あの時は悪いことしちゃったなって思ってたので」

「いえいえ、あの時は私も不注意でしたので。それでですね、私があの時の担当だったので、そのままエイル君の担当になったんですよ」

「えっと……冒険者に担当職員とか付くものなんですか?」

「普通はある程度実力を付けた冒険者に付くんですけどね。1つ星の冒険者に担当職員が付くのは、結構珍しいことなんですよ?」


 ある程度の自覚はあったが、やはり俺の年齢であのスキルと魔法の習得数は異常だったらしい。確かに、ギルドから送られてきた手紙にもそんな内容が書かれてあった。

 まさか担当職員が付くとは思わなかったが、1つ星からいきなりスタートできたという事実からも、今までの努力が評価されたということなのだろう。

 ギルドからの手紙には結構細かい内容が書かれていて、俺は魔法に無駄に多くの魔力を込める癖があるのかもしれない云々といった注意喚起の一文があったのも記憶している。そこは俺としては少々の疑念を持ちたい部分なのだが……ドーピングのことは何となく知られてはいけないようにも思えるので、母上様から同じことを言われた時も適当に誤魔化していた。

 ともあれ、冒険者としてはまずまずの出だしと言えるのではなかろうか。


「そんな訳でして、かなり珍しいことになっちゃいましたので、他の冒険者さん達が聞いたら嫉妬とかされるかもしれません。あまり言いふらさないようにして下さいね?」

「なるほど、それで小声だったんですか……了解です。次からはそれとなくミシェルさんの窓口に並ぶ形にすればいいですか?」

「はい、そうするようにお願いします。実は最近、エイル君の他にも低年齢で1つ星になった子が居まして……」

「もしかして、その子もミシェルさんが担当を?」

「はい、その通りです。初めての担当が二人になっちゃったので、もしかすると、お手数をお掛けすることになるかもしれません。それで、御了承頂ければと……」

「ああいえ、それは構いませんよ。なんかミシェルさんも大変ですね……」


 おそらく、新人教育の一環なのだろう。

 家に送られてきた書類の中に、1つ星の冒険者が受けられる依頼のことも書かれてあった。なんでも、1つ星までは危険度の低い依頼が多く、星無しと1つ星は、経験を積む為の期間でもあるらしいのだ。

 ならば、そういった冒険者と一緒に職員も成長させましょう、という方針なのだろう。俺とミシェルさんが話す1つ星になった子は、彼女と共に成長していく形になるらしい。


「それでも、エイル君に関しては異例なことに間違いないんですけどね……。『チャージ』が一つ星というだけで、他も鑑みれば3つ星の冒険者にも引けを取らない訳ですし」

「え……?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。高く評価してくれるのは嬉しいのだが、そこまでとは思わなかった。


「そうなんですよ。……ただ、経験は絶対に必要です。これは口を酸っぱくして言わせて頂きますが、経験の有る無しで依頼の達成率は大きく違ってきます。勿論、冒険者さん達の安全に関してもです。そういった理由から、どれだけ実力があろうとも、新規登録の方は1つ星が上限になってるんですよ」

「な、なるほど……」


 俺としても、いきなり3つ星から始まるとかは御免だ。経験で他の冒険者達と水をあけられているのに、いきなりそんな土俵に上げられても困る。

 どうやらこの冒険者登録システム、それなりに考えられてから作られた物らしい。


「ですので、いきなり危険な依頼とかは受けられません。エイル君にどれだけ自信があったとしても、こればかりは申し訳ないのですが……」

「了解です。俺としても、いきなり危ないのはちょっと……って感じですし」

「そう言って下さると助かります。先ほど話した1つ星の子も、最初は無難な依頼から始めていますからね」


 おそらくだが、ミシェルさんはその1つ星の子のことを先に話すことによって、俺が増長するのを防ぎたかったのだろう。

 確かに、自分だけが特別ではないと思うのは大切だ。むしろ小心者の俺にとって、その事実は結構ありがたかったりする。


「その子はもう結構な数の依頼をこなしているんですか?」

「いえ、まだ沢山はこなしていませんよ。ですので、エイル君も依頼を受ける時はゆっくりと少しずつやっていくようにして下さいね」

「アイアイサー」


 ミシェルさんの言葉が本当かは分からないが、俺もそうやって取り組んでいきたいと思う。

 なにせ、俺はまだまだお子様だ。この世界に関して無知なところも多々ある。いくら魔法やスキルが使えるとしても、その事実は揺るがない。自分に関しては少し厳しめの目線で見ておくのがよいだろう。

 その辺、今日はダイコン代込みで30ブールしか持たせなかった母上様は偉大だった訳だ。


「最初にお伝えするのはこの辺まででしょうか……では、エイル君。此処に来たということは、今日は依頼の受注ですか?」


 ミシェルさんは元の姿勢に戻ると、ニコリと微笑んできた。説明と注意喚起も終わったので、ここからは通常通りということなのだろう。

 俺も倣うようにして姿勢を正し、少し表情を引き締める。


「ああいえ、幾つか確認しておきたい部分がありまして、今日は依頼を受注しにきた訳じゃないんですよ。……あれに関しては最後でいいか」

「ああなるほど、書類は大人向けに書かれてありますからね。分からない部分も多かったでしょう。分かりました、なんでも聞いて下さいね」


 フムフムと一人納得しているミシェルさん。

 確かに俺の見た目はお子様なので、そう思うのも無理はない。実際は彼女が思っている以上には内容を理解しているとは思うのだが、これはこれで質問しやすい状況になったと言える。

 ちょっと悔しくはあるが、ここは彼女の好意を甘んじて受け入れよう。

 俺は襟足をポリポリと掻きつつ、気になっていたことを口にした。


「まずはそうですね……いきなり1つ星冒険者からスタートになったんですけど、やっぱり星が増えると色々と得があるんですか?」

「得と言ってよいかは分かりませんが、好きな依頼を選びやすい立場にはなりますね。えっと……こちらをご覧下さい」


 そう言って、ミシェルさんが取り出したのは一枚の依頼書だった。


「こちらの依頼書のこの部分をご覧下さい。星印の横に『-』と書かれてあります」

「これは?」


 その依頼書には『シロヨモギの採集 ☆-』と書かれている。

 内容は、シロヨモギと呼ばれる薬草の採集だ。

 依頼主はアンドレイ薬剤店で、茎の長さが20ロル(20センチ)以上のシロヨモギを30本集めてほしいといった内容だ。ちなみに、期限は無制限となっている。

 確か、シロヨモギは多年草で成長が早く、一番下級の回復薬であるポーションの材料になるのだったか。


「こちらは本来1つ星冒険者が受けるべき難易度の依頼書となっているのですが、危険性が低い為、星無し冒険者でも受注できる依頼書となっております」

「つまり、この『-』が付いていると1つ下のランクに居る冒険者でも受注可能な依頼ということですね?」

「その通りです。そして、依頼書の星の数が増えていくごとに依頼の難易度は上がっていきます。エイル君は現在1つ星冒険者ですので、『☆☆-』以下の依頼ならばどれでも受注可能となっております。ですので、5つ星の冒険者の方でも星無しの依頼を受注できるんですよ。現在のエイル君のランクでは2つ星以上の危険な依頼を受注できないようになっていますが、これからランクを上げていかれるのであれば、高ランクの依頼も受注可能になりますね」

「ふむふむ……ランクが上がると上限の依頼の危険度は増すけど、その分、選り好みが出来るようになると……。ランクを上げるにはどうればいいんですか? 書類にも書いてあったんですが、もう少し詳しく知っておきたいので」


 危険度が上がることに関しては、考えていた通りといったところだ。それは覚悟していたので、ある程度は納得している。

 次に聞いておかねばならないのは、ランクを上げる方法についてだ。

 1つ星でも現状は問題ないだろうが、後々になってから不都合が出てくるかもしれない。ランクを上げる手段が冒険者としての登録年数とか言われない限り、積極的に上げていくべきだろう。少なくとも、一人前と呼ばれる3つ星冒険者にはなっておきたい。


「ランクを上げるには、ご自身と同じ星の数の依頼を20、その一段階上のランクの依頼を10成功させ、その上で昇級試験を受けて頂く形になります。エイル君の場合ですと、『☆』の依頼を20、『☆☆-』を10成功させたうえで昇級試験を受ける、という感じですね」


 書類にも書いてあったことだが、結構な依頼数はこなさなければならないようだ。まあ、そこはコツコツやっていくしかない。

 問題は、昇級試験というやつだ。


「昇級試験というのは、どういったものになるのですか?」

「基本的には先日エイル君に受けて頂いた実技試験に性格診断テストが加わったものです。性格診断テストは簡単ですので、余程の問題が見つからない限りは誰もが合格できると思います。ですので、あまり難しく考えなくてもいいですよ。次に実技試験に関してですが、エイル君の実力はスキルや魔法だけを見れば、本来3つ星冒険者のものとなっています。それはこちらでも確認していますので、3つ星まではパスできるかと」

「ま、まじで……?」

「まじです。だから異例なんですよ」


 つまり俺の場合、依頼さえこなせば3つ星冒険者になるのは何一つ関門がないということになる。

 敢えて問題を挙げるとすれば、このお子様体型と経験値くらいのものだろうか。そこは時間と努力でどうにかするしかないのだが。


「エイル君が星有りからスタートとなったのは、そういった背景があったのですよ。2つ星からスタートにしてはどうか、という意見もあるにはあったのですが……」


 畏まるミシェルさんだったが、そこは俺も異論はない。


「いえ、そこは納得していますから。むしろ、いきなり星を貰えたことの方に驚いていたので。そういえば、星の数を維持するのに必要なこととかもありましたよね?」

「そうですね。3年に一度、試験を受けて頂く形になります。試験内容は、2つ星以下ならば実技試験のみ、3つ星以上ならば昇格試験と同様のものを受けて頂きます。基本的に皆さん合格していらっしゃるので、こちらも問題はないでしょう。ただ、何度も依頼失敗を繰り返しますと、ギルド側の判断によってランクを下げるといった処置を取る場合もありますので、それだけは御注意下さい。また、故意に違法な行為へと手を染められた場合、その程度にもよりますが、最悪登録抹消となってしまいます」

「定期的に依頼を受ける必要はないんですか?」

「ありませんよ。兼業としている方も多くいらっしゃいますし、そちらが多忙で冒険者として依頼を受けている暇がない、といった場合が考えられますので」

「兼業冒険者……なんだか凄い響きですね」

「むしろ、そういった方が大多数を占めているんですけどね。他に聞きたいことはありますか?」


 粗方事前に聞こうと思っていたことは聞けたので、満足だ。

 ただ、さっきの依頼書で少し気になる部分があった。


「さっきのシロヨモギ採集の依頼書なんですけど、あれって無期限になってましたよね? もし依頼を受けて、他の依頼を受けたくなった場合は破棄しちゃっていいんですか?」

「低ランクの無期限依頼につきましては、破棄しても失敗とはなりませんのでご安心下さい。また、依頼は同時に3つまで受けることができます。ですので、破棄する必要性を求められる場面は少ないかと思います。ただ、御自身の能力を鑑みた上での受注をお願いしておりますので、複数の依頼を受注される場合、無理のない範囲でお願いしますね」

「なるほど、了解です」


 依頼に関しては、思っていた以上に自由度が高そうだ。

 問題なのは、依頼を失敗した時のこと。だがそれも、新人の冒険者ならばある程度は大目に見られると、ミシェルさんは付け加えてくれた。


「う~ん、ミシェルさんの話を聞いていると、何か依頼を受けてくのも悪くない気がしてきますね。危険性が少ないやつで、子供でも可能なのってあります?」

「あ、とりあえず見て行きますか? エイル君なら問題なさそうな依頼もありますから」


 難しい注文かと思ったのだが、ミシェルさんは意外にすんなりと頷く。

 そして、カウンターから依頼書が貼られている掲示板へと進むと、2枚の依頼書を手に戻ってきた。


「お待たせしました。こちらが先程の条件に合ったご依頼となっております」

「お、ありがとうございます」


 1つ目の依頼書は『クロスライムの討伐』だ。

 目的はクロスライムではなく、クロスライムから取れる黒粘土らしい。規定数は10。依頼主は冒険者ギルドとなっているが、これはおそらく、鍛冶屋から定期的に需要があるからだろう。黒粘土は、確か鋳型に使えるとなっていたからだ。

 無期限で、成功報酬は250ブールとなっている。


「クロスライムってあのクロスライムですか?」

「ええ、あのクロスライムです」


 魔物に関してはそれなりの知識を持っているつもりだ。

 クロスライムとは、直径80センチ程の丸い体をしたスライムで、1つ星の魔物になる。体全体がそのまま消化器官となっており、体液は弱酸性とのこと。

 主食は昆虫や小動物らしいのだが、能動的に捕食するのではない。待ち伏せ方の魔物で、巣から落ちてしまった鳥の雛や、暗がりを求めて近付いてきた昆虫を食べている程度らしい。稀に体全体を使って獲物に襲い掛かるらしいのだが、それでも相手は怪我や病気で弱った小動物という。夜行性らしく、夜間は行動的とのことだが、その移動速度はダンゴムシにも劣る。

 そんな彼等が何故魔物なのかというと、その体型を維持するのに魔法を使っているかららしい。

 実はこの世界の魔物、その定義付けは生態に魔力が関わっているかどうかというものだったりする。なので、全ての魔物が危険な生物という訳ではないのだ。

 ちなみに、クロスライムはスライムらしく、物理攻撃には非常に高い耐性を持っている。有効な属性は確か……


「雷属性が弱点なんでしたっけ?」

「そうです。エイル君、物知りですね。クロスライムは初級の雷魔法でさえ倒せるほど、雷魔法を弱点としているんですよ。エイル君は『火玉』の時に小さくではありましたが雷魔法を使えていたので、問題ないと思います」

「ほうほう。クロスライムはどの辺に居るんですか? あんまり遠出したくはないと言いますか、母上様がうるさそうなので……」


 流石に依頼の為なら外壁の外に行く程度は許されると思うのだが、問題はその距離だ。まだ徒歩しか移動手段がない為、歩いて半日とか言われたらお手上げである。


「えっと……徒歩で1時間くらいの場所にある森なんですけど、大丈夫ですか?」

「1時間ですか……行けないことはないと思うんですが……。すみません、もう1つの方も見せてもらっていいですか?」


 初めての依頼なので、できれば近場で終わるものにしておきたい。1時間ならば問題ないとも思うが、それはもう一つの依頼書を見せてもらってから判断した方がよいだろう。


「いいですよ。うーん、一度穴場を見つけたら簡単でして、結構おすすめな依頼だったんですけどね……。不人気な依頼だったりで、あまり引き受け手が居ないんですよ、コレ。クロスライムは放置してるとどんどん増えるので、間引きしてくれって森の管理をしている人達がせっついてくるんですよ。黒粘土は鍛冶屋さんからは需要が絶えないし……間引きだけならイヌトカゲを森で放し飼いにするのもありなんでしょうけど」

「イヌトカゲはクロスライムと何か関係があるんですか?」

「スライムは動物達の胃薬ですからね。特にイヌトカゲは好んでクロスライムを食べる習性があるんですよ。鍛冶屋さんのことを考えなければ、間引きという意味では悪くないと思うんですけど……とと、もう1つの依頼ですね。こちらになります」

「いや、それはそれで短絡的と言いますか……」


 ミシェルさんへのツッコミもそこそこに、もう一枚の依頼書へと目を通す。

 内容は『シロヨモギの採集』……先程の『☆-』と同じ内容かと一瞬疑ってしまったが、ちゃんと『☆』となっており、内容にも違いが見られた。


『            シロヨモギの採集

                              成功報酬:750ブール

                              期限:3日 規定数:50

 シロヨモギを期限までに乾燥していない状態で採集してきて頂きたい。

 シロヨモギは直接店舗まで運んで頂けるよう、お願い致します。

                              依頼主:アセリア薬剤店』


 短い依頼内容だが、これはいい線をいっているかもしれない。


「確か、シロヨモギって何処にでも生えてるんですよね?」

「はい、外壁の側にも生えていますよ。ただ、結構取りつくされちゃってるかもしれませんけど……それでも、クロスライムの森より遠出する必要はないですね」

「3日ですか……これってどうなんでしょう?」

「3日で50本、それも状態まで指定してありますからね。そのせいで1つ星になっちゃってますけど、エイル君なら……とと、数を集めるのに困った時は相談して下さい。いきなりこれ教えちゃうのはダメらしいので……。初の依頼受注ということで、もし失敗してもそれほど評価には響きませんし。ご依頼主様も信用の置ける方ですよ」


 ミシェルさんの口ぶりからすると、この依頼には裏技的な方法があるのだろう。

 いきなり教えるのは駄目とのことなので、本当に困った時に聞いてみるのがよさそうだ。


「失敗してもOKと……それはちょっと安心できますね。ちなみに、初依頼の成功率ってどれくらいなんでしょう?」

「うーん、いきなり1つ星の依頼という場合ですと、5割を切るかと。なので、あまり意識しすぎない方がよいと思いますよ」


 半数以上の人達が初依頼を失敗しているならば、これを受けてもいいかもしれない。

 そもそも、現状は移動手段と行動範囲に制限が掛かっている。ミシェルさんが俺に対してこの2つの依頼書を持ってきたことから察するに、他の1つ星依頼はもっと遠出が必要なものか、俺の体格では危険が伴うものばかりなのだろう。ならば、この辺が妥当なラインだ。


「分かりました。この依頼は受注から3日でいいんですか?」

「そうです。明日の夜にはこの依頼は取り下げになっちゃいますので、それまでに受注して頂けるのであれば、その時点から3日となります」

「了解です。なら、また明日の朝に顔を出しますので、その時に受注させてもらいます」

「かしこまりました。お待ちしていますね」


 こうして、俺の初依頼は決まった。明日の朝が楽しみなような、不安なような。

 なんにせよ、ランクを上げるには必要なことなのだ、今のお子様体型でもできる依頼ならば、やっておくに越したことはない。


「これが俺の初依頼かぁ……あ、そうそう、ここでは回復薬の買取とかもやってるんですか?」


 初めて受注する依頼が決まったので、ここらで本来の目的を切り出すことにした。

 地球のファンタジー設定がここでも適応されるのならば、冒険者ギルドは魔物の素材や薬剤の買取もやっているだろう。


「はい、可能ですよ。魔物から取れた素材や薬の材料、回復薬自体の買取も受け付けております」


 ビンゴだ。

 早速とばかりに、俺は鞄からエリクシアを取り出す。


「これなんですけど」


 だが、それを見たミシェルさんの表情が引き攣ったような気がする。……いや、気のせいではないのだろう。


「えーと……」

「エリクシアなんですけど」


 ミシェルさんは何やら胡乱な目をしているが、これは正真正銘、エリクシアのはず。

 最高級回復薬なのだが……どうやら、この反応はそうだと思われていなさそうだ。


「え、ええと……冒険者ギルドでの回復薬買取はハイポーションまでなんですよ。アムリタ以上は専門の薬剤店へとお願いしています」

「あれ? え……そうなんですか?」


 どうやらミシェルさんの言うことは本当らしく、彼女が差し出してきた書類には、その通りのことが書かれていた。

 だが、それとは別に彼女の反応が気になる。エリクシアは薬剤店で買い取ってもらえばよいことが判明したのだが、彼女の反応は本物のエリクシアを前にした人間の顔と呼べるのだろうか。

 もしかすると、俺は何か勘違いをしているのかもしれない。なので、ちょっとミシェルさんに質問してみることにした。


「ミシェルさんはエリクシアを見たことありますか?」

「え……ええと……はい、一応。まだ務めだしてから間もないですけど、これでもギルド職員ですから、一度だけ見たことがあります。でも、それと比べると……」

「比べると?」

「えっと……色が濃すぎますね。それに、中にビー球が浮かんでる物は……え、浮かんでるんですかこれ? なんで沈んでないんですか? なんですか、これ?」

「ビー球……」


 ビー球ではなく賢者の石なのだが……。

 ともかく、これは売るのに難儀しそうだ。

 飽和している時点で怪しさ抜群だったのだろう。おまけに、変な物まで浮かんでいる始末。俺は作った本人なので本物だと確信しているのだが、それでも賢者の石を知らないミシェルさんにとっては、俺は大層怪しい人間に映っていることだろう。

 だが、これが売れない事にはオッチャンとの交渉が成り立たない。特注品で、しかも部品点数の多い物を作ってもらおうというのだ、可能な限り懐を温かくしておく必要がある。


「怪しさ抜群ですけど……綺麗ですね。うーん……あの、よかったら私個人が買い取りましょうか?」

「え……本当ですか?」

「ええ、100ブールで如何でしょう?」

「ひゃ、100ブール……」

「お昼ご飯が食べられなくなっちゃいますけど、エイル君もこれを作るのに苦労したでしょうし……どうやってビー球を浮かせたんですか? これ、ちょっとした発明品かもしれませんよ」

「いやいや、流石にエリクシアが100ブールってのは……」


 ミシェルさんのお心遣いが虚しく俺の胸を抉る。

 最高級回復薬が千円程度の買い取り、それは一体どんな世界だと突っ込みを入れたい。それはとても悲しいことだな、って思います。


「あのこれ、ビー玉じゃなくて賢者の石っていいます。ちなみに聖水も使ったので、それに30ブール掛かってるんですよ」


 やばい、だんだんと不安になってきた。


「えぇ!? 聖水は150ブールくらいしますよ? アセリア薬剤店でも150ブールですけど……なんですか、それ本当に30ブールの聖水から出来てるんですか?」

「……はい」


 事実なので、素直に認める。

 だが、直後に後悔した。今この時ばかりは言うべきではなかった、と。


「エイル君……気を落とさないで下さいね。エイル君の手先が器用なのはよく分かったので、きっとコレの綺麗さを認めてくれる人が出てきますから……すみません、なんだか怪しすぎるので、私には買い取りができなくなりました……」

「ちゅねん、俺は詐欺師ちゃうねん……」


 要らぬ濡れ衣を着せられ、俺は長い溜め息を吐くのだった。

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