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026 エリクシアと2度目のお使い

前回のあらすじ

 Q また両親が内緒話してるんですが……

 A 反抗期かと疑われています

 初めての外出から時は経ち、今日はオッチャンとの約束の日だ。

 鋼製のギルドカードが予定通りの日数で送られてきたのは意外だったが、逆に言えば、それだけこの世界の郵便も発達しているという解釈でよいのだろう。

 そんな訳で、昨日から俺は正式な冒険者になれた。そして、輝く6歳児でもある。

 そう、6歳だ。時の流れは速いもので、これで俺も少しは大人に……全くなれた気がしない。相変わらずのお子様体型、4WD時代のワガママボディでこそないものの、子供は子供である。

 まあ、心境的な変化が無いかと言えば、結構あるのが幸いだ。なにせ、母上様に断りを入れるだけで外出できるようになったのだから。

 そんな自由な身分を手に入れられたのも、ギルドカードのおかげだったりする。更に言うと、普通ならば星無しの冒険者から始まるはずが、俺の場合は星1つからスタートとなったのだ。

 星1つということは、一般人よりも自衛能力を有しているという証明でもあると、母上様が教えてくれた。どうやら母上様には俺が一つ星スタートになるという確信があったらしい。驚くどころか当然だと言い切っていたのだが……果たして、尾行のおかげで予想できた部分はどれくらいになるのだろうか。

 むしろ驚いていたのは親父の方で、こちらは事前情報が少なかったせいだ。柔和な笑みで「おめでとう」といってくれたのは、今思い出しても嬉しくなる。

 昨日は嬉しいやら恥ずかしいやらで、ちょっと顔が緩みっぱなしになりそうだった俺は、誕生日パーティーが一段落したのを見計らい、早々に布団の中へと潜り込んだのだった。

 そして今日、母上様からの命令でダイコンを買ってくる事を条件に、俺は再び街へと繰り出す。

 今は、その事前準備をしているところだ。


「さて、やりますかね。これでいきなり躓かないことを願うばかりだけど……」


 目の前にあるのは、一つの小瓶。

 中に入っている液体は、この世界で『聖水』と呼ばれている物。

 今から俺が作ろうとしているのは、最高級回復薬のエリクシアだ。以前親父が俺に話してくれた、賢者の石の利用法の1つになる。

 エリクシアの希少性は、おそらく高い。なので、もし作成に成功すれば、そこそこの値段で売れるだろう。

 ただ、どれくらいの高値になるかはサッパリ分からない。と言うのも、行商人達の店ではエリクシアが無かったのだ。実際の価格を知る為にいつかは作ろうと思っていたのだが、もう少し先になると思っていた。


「確か、聖水は水魔法で作るんだったか」


 俺はまだ水魔法を習得していないので、聖水は作れない。

 それに、『属性容量』のこともある。属性容量とは、魔力量に比例した魔法への適応力とでも言えばよいだろうか。この属性容量は、魔力量が大きければ大きいほどに増え、そして属性容量が大きければ、それだけ魔法を覚えることが可能になる。

 以前、親父が俺に火と闇を重点的に覚えていけと言ったのは、この属性容量を考えてのことだったのだろう。

 俺自身は1級賢者の石でドーピングを続けているので、その分、魔力量も飛躍的に伸びているはずだ。だが、この属性容量に関しては、増えているかどうかよく分からない。なので、結構不安だったりする。ただでさえ親父に言われた火と闇以外にも、風の中級までと氷の中級までを覚えてしまっているのだ。無駄遣いをしていなければよいのだが……。

 氷は賢者の石作成に必要な為、今後も伸ばしていくつもりでいる。

 なので、水は俺の属性容量がある程度分かってから手を出すべきだろう。もしかしたら、一生覚えられないかもしれないのだから。

 ただ、それはそれだ。俺が現在直面しているのはエリクシア作成であり、聖水自体は普通に買える。エリクシアを作成するだけならば、べつに水魔法を覚える必要はないと言っていい。


「確か、ただ投入するだけでよかったんだよな?」


 聖水は分厚いガラス製の瓶に入っている。

 ちなみにこの聖水、行商人の露店で買った物だ。聖水というのは安い物なのか、たった30ブールで買えた。その行商人は近日中にこの王都を発たねばならないとか言っていたので、閉店セールでの価格だったのかもしれない。

 ちょっとバッタもん臭い聖水ではあるが、かすかな魔力を感じることから、本物であるのは間違いないだろう。安く手に入ったのだから、素直に喜びたい。

 そんなこんなで手に入れた聖水、その瓶の口はそこそこ大きく、直径30ミリ程度はあるだろうか。容量は200ml程度。これにどれほどの賢者の石が溶けるのかは、ちょっと予想がつかない。


「とりあえず、瓶の口に入る大きさを投入してみよう」


 魔力を体外へ放出し、それを冷却……魔力を粒子と捉え、その振動を停止させる。

 瞬時に直径26、7ミリの3級賢者の石が出来上がった。普段服用している1級はこれと比べるのは馬鹿らしくなるほどに大きくなっているので、この程度なら朝飯前だ。

 仄かな温かみのあるその結晶を、瓶へ投入する。


「お、おお?」


 親父の持っていた文献通り、賢者の石は聖水に溶け始めた。

 驚いたのは、賢者の石が聖水の中ほどに浮かびながら溶けていることだ。賢者の石は軽いので、てっきり浮くものだとばかり考えていた。色々と俺の常識を上回ってくれる物質である。

 賢者の石の周囲から靄の様な物が立ち上り始め、その周辺の聖水が色付いていく。その色は、3級と同じ桜色だ。結構綺麗な現象かもしれない。

 溶出を促す為に攪拌してよいのかは分からないので、とりあえず様子を見てみる。

 ユラユラと立ち上る桜色の靄と、色を変えていく聖水。暫らくそんなガラス瓶の中と睨めっこしていたのだが……


「止まりおった……飽和しとる」


 悲しいことに、賢者の石は直径が20ミリ程度になった時点で溶けるのを止めてしまった。

 聖水が賢者の石を溶かすという事実は得られたのだが、どうやらそれにも限界があるらしい。賢者の石にこれ以上の変化が見られないので、これは飽和していると考えるべきだろう。

 聖水自体は全体が綺麗な桜色になっており、色むらは見られない。なので、これがエリクシアで間違いないとは思う。だが、これは流石に格好が付かないのではなかろうか。


「なんか着色した水にビー球入れたみたいで安っぽいんですが……」


 無駄と知りつつ、ビンの蓋を閉じて振ってみる……が、駄目。

 俺の初めてのエリクシア作成は、何とも不恰好な形で終わってしまった。




 そんな残念なエリクシア作成だったが、お昼ご飯も食べたので、気持ちを入れ替えて出掛けることにする。


「行ってきます。ダイコン1本だけで良いんだよね?」

「そう、ダイコン1本。忘れ物はない? お財布はちゃんとポケットに入れた?」


 前回と同じく、母上様が忘れ物の確認をしてきた。思えば、前世の母ちゃんもいつもこんなことを言っていた気がする。

 だが、こちらに抜かりはない。エリクシアと3面図は既に肩掛け鞄の中、財布もポケットの中に入っている。財布の中には10ブール硬貨である銅貨が3枚。その程度しか入っていないので、ポケットの膨らみは微々たるものだ。


「ギルドカードは?」

「胸ポケットに入れてるよ。夕方までには帰ってくるから」

「もっと早く帰ってきなさい!」

「あいあい」


 現在、昼の12時半。

 予定通りに全てが終われば、そこまで時間は食わないはずだ。皮算用になる可能性も否定できないが、細かな可能性まで考慮しても意味はない。

 出発の一悶着もそこそこに、俺は再び街へと繰り出した。

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