表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/55

023 冒険者のあれこれと魔法の試験

前回のあらすじ

 Q スキル試験は無事終わったので、次は魔法の試験です

 A 頑張りましょう

 今更になってから分かったのだが、この試験は良く考えられて作られたものらしい。スキル試験の順序は勿論のこと、スキル試験の後に魔法試験を持ってきているのが理由だ。

 スキルは体外に魔力を放出しない為、極めて燃費が良い。ほぼゼロと言ってよいほどだ。それが魔力の少ない人間でもスキルを扱える最大の特徴でもあるのだが、だからこそ連続して魔法試験を受けられる。

 俺が詠唱を始めると同時に、ミシェルさんからの強い視線を感じ始めた。ちょっとやり辛いが、それは試験なので仕方のないことなのだろう。

 そして魔法が発動すると、その可否を教えてくれる。今のところは認定しかされていないので、この分だと中級に関しても問題はないと思えた。

 それで少しリラックスできた俺は、ちょっとした世間話を彼女に振っていたのだった。


「ギルドっていつもあんな感じで閑散としているんですか?」

「いえ、そういう訳でもないんですよ。朝は依頼の取り合いで込み合いますし、夕方は依頼を達成された方々が帰ってきますので、このお昼時が一番空いている時間帯なんですよ。お母様がこの時間に登録してくるようにエイル君に言ったのも、そういう理由からでしょうね」

「へえ、それだと朝夕は騒がしいんでしょうね。 火よ集え 『小火』」

「はい、火の初級は合格です。これで風の中級までと火の初級は認定されました。そうですね、朝夕はかなり込み合いますので……この時間帯が職員達にとって人心地つける時間にもなっていますね。お昼ご飯はちゃんとした休み時間があるんですけど、やっぱり朝の疲れは結構厳しいものがありますから……」


 ミシェルさんの苦労話はさておき、冒険者ギルドは国営らしい。

 なので、ミシェルさんは公務員になる。

 あと、ちょっとした情報として、ミシェルさんの年齢は17歳とのこと。この国の成人年齢は16歳なので、ミシェルさんは成人してすぐに公務員になったということになる。認定官の資格も持っていることからも、それなりに優秀なのだろう。

 確かに若そうだという印象は持っていたのだが、予想以上だった。やはり形は違えど、仕事着という物は、人間を引き締めて見せるらしい。


「依頼はやっぱり魔物の討伐とかそういうのが多いんでしょうか?」

「そんなことないですよ。家の草むしりから迷子のペットの捜索、最近多いのが家畜の見張りですね。マダライヌが増えてきているらしくて、ニワトリの被害が後を絶たないんですよ」


 思った以上の冒険者らしからぬお仕事。いや、勝手に妄想を膨らませていた俺が悪いのかもしれないのだが……。

 ちなみに、マダライヌの魔物としてのランクは星1つ。鳴声に相手を怯ませる効果があるとかで、そのせいで魔物扱いされている。噛む力も小動物には十分だが、人間には脅威足りえない。


「なんか、冒険者って何でも屋って感じですね」

「実際、2つ星まではそうかもしれませんね。3つ星からは個人の護衛や魔物討伐が増えてきますが、駆け出しだとどうしてもそうなります。3つ星以上になれば、ある程度は自分の好みの依頼を受けられるようになるんですけどね。例えばエイル君のお母様の場合、護衛の依頼ばかりを好んでやっていたそうですよ。それで盗賊共を皆殺しにする勢いだったとかで……」

「付いた渾名が『じゃじゃトカゲ』ですか。とんでもないですね……」


 知りたくもなかった情報だ。母上様……。


「冒険者ギルドは労働者の受け皿という側面もありますからね。職にあぶれた人達でも、その日のご飯くらいは食べられる依頼が沢山あります。そうそう、依頼主から食事に誘われることもありますよ」

「世知辛いなぁ……。 闇よ散らせ 『暗玉』」

「よく喋りながら魔法使えますね……。先程の風の中級も遠隔でやってましたし、やはり血筋の影響も大きいのでしょうか? 大きさも暗さも問題ありませんので、闇の初級も可とします」


 指先に浮かぶ直径5センチ程の暗い球体を見て、ミシェルさんは俺の登録用紙にサラサラと何か書き込んでいく。

 風の中級は回復魔法の『風治』なのだが、どうやって認定するのか不安だった。だが、「少し待っていて下さいね」と言ってミシェルさんがギルド受付へと戻ると、腕から血を流した男を連れてきた。

 やはりここは腐っても冒険者ギルドということで、怪我人には事欠かないのだろう。

 『風治』によって傷を癒されたその男は、試験に利用された事に対してなにも思っていないらしく、ただ一言の礼と一緒に頭を下げて、その場を辞していた。


「血筋、ですか。あんまり考えたことないですね。親父も母上様も家では普通の人ですし、意識させられるような場面が無かったというか……あ、ただ剣術の時の母上様はちょっと勘弁願いたいです。ところで、闇は記入してある通り中級まで使えるんですけど、下級は中級の劣化版になりますし、いきなり中級の方をやってしまっても?」

「はい、問題ありませんよ。闇は最上級を除いて階級が上がると上位互換になってしまいますからね。対象はそうですね……先程『チャージ』の試験で使った装置を狙ってみて下さい」

「了解です。 ……揺らぎ喰らう闇よ、彼の者を繋ぎとめよ 『暗月』」


 中級ということで、魔力を冷却して密度を上げてみる。

 結果、狙いの装置より無駄に大きな範囲を覆う巨大な黒い球体が現れた。人間なら大人4,5人は余裕で入れそうだ。

 尤も、あの中に入れば視界を奪われるだけではなく、思考さえも削ぎ落とされてしまうのだが。


「ちょ!? 大きすぎですよ! そんなに頑張らなくても合格出来ますから! ……あの、あとで倒れたりとかしないで下さいね?」

「流石に倒れるまではやりたくないです……。でも、大丈夫ですよ。まだまだ余裕もあるみたいですし。それより、これで記入した魔法全てを試したことになるんですけど……もう少しだけお付き合いして頂いても良いですか?」

「大丈夫って……かなり魔力量に自信があるみたいですね。えっと、まだ何かやりたいことでも? 他の利用者もまだ居ませんし、問題ありませんけど……くれぐれも魔力の使いすぎには注意して下さいね。急に倒れちゃうかもしれませんから」

「はい、そうなりそうなら中断しますので」


 我儘に取られると思っていたのだが、案外あっさりと認められたのは意外だった。

 まあ、ここからは本当の蛇足になる訳で……というのも、試したいことがあるのだ。

 以前、親父から貰った魔法を記した紙束。その中でも、親父は闇と火魔法を重点的に習得しろと言っていた。

 闇はゲーム風に言うとデバフやステータス異常を引き起こす魔法なのに対して、火はそのほとんどが攻撃魔法だ。なので、室内で使う事自体が不可能に近い。

 だが、此処ならば何一つ問題はないだろう。


「できるかどうか分からない魔法をやってみますね」

「構いませんけど……じょ、上級以上はここでは駄目ですよ? 子供が上級を使うなんて、王侯貴族以外では聞いたことないですけど……。もし上級以上を使えるとか……言わないですよね? もし使えるんでしたら、此処だと流石に被害が大きすぎるので、騎士団の練習場まで足を運ぶことになりますが……」

「いえ、流石に上級はちょっと……火の中級まで試せればな、って思ったんです。それなら良いですか?」

「なるほど、確かにエイル君の髪の色なら、火魔法も使えて当然ですよね。わかりました。中級までなら大丈夫ですので、練習するつもりで試していただいて結構ですよ」


 ちゃんとしたお許しが出たので、思わず安堵の息が漏れ出た。

 そうと決まれば話は早い。早速とばかりに、魔力を練り上げていく。3倍より密度を上げた魔力を使った魔法。それがどれほどの威力になるか、ずっと試せなかった。だから、この機会は凄くありがたい。

 体外へと魔力を放出し、先程よりも密度を上げる。そして、色付く一歩手前まで濃くなった魔力を用い、大気中から必要な気体を集めていく。

 このアマツチと地球の大気は、組成がかなり似ている。だが、こちらの方がメタンと思しき可燃性流体の含有率が多い。

 親父に何度か火の初級魔法を見せてもらい、その指先に集まる風に何が含まれているのか、俺は自身も風魔法を使って必死で調べた。

 結果、メタンだと当たりをつけたのだ。水素と酸素を混合比まで考えて反応させるといった小細工は、必要なかったらしい。ただ集めて燃やせばよいのだから。


「火よ焼け」


 下級の、そんな短い詠唱。

 その言葉と同時に、指先にチリリとした刺激が走る。

 詠唱は、魔法発動の簡略化だ。例えイメージが曖昧だろうと、言葉がそれを補ってくれる。その余裕により、魔法に込める魔力に集中する事が可能になるのだ。だからこそ、詠唱を込めて魔法を発動すれば、無詠唱の物よりも威力が跳ね上がる。

 そしてそこに明確なイメージと正しい手順、尚且つ適正を超える魔力が込められればどうなるのか。


「『火玉』」

「ひっ!」


 頭上に掲げられた指先には、直径1メートルほどの『火玉』が浮かんでいた。


(あ、発火の際に雷の初級も使うよな。記入するの忘れてた)


 などと、今更なことを思い浮かべつつ、それを風魔法によって前方へと射出する。

 ゴウッと強烈な風を巻き起こし、『火玉』は一瞬にして巨大な火柱へと変わった。その先端が、天井を小さく舐め上げている。

 だが、それも一瞬だ。魔力の供給を停止すると、流入する燃料が無くなり、火はすぐに収まった。


「……あ! あぁぁあああああああ! 天井が焦げてる!? 下級にあんな魔力込めるなんて、聞いてませんよ! あぁあああ、怒られちゃう! 先輩に怒られちゃう!」

「あ……あうあう……」


 まさかの威力に、俺自身タジタジになってしまう。

 仰ぎ見れば、天井が少し焦げてしまっている。結構な轟音も立ててしまったので、ちょっとやり過ぎてしまったかもしれない。弁償とかにならなけば良いのだが……。


「い、今の何なの!? まさか上級とか使って……なさそうですね。ミシェル、何があったの?」


 やはりと言うか、なんと言うか……先程の音を聞きつけて別の職員さんが現れた。

 見れば、ミシェルさんの顔が青くなっている。最早、魔法の試験どころではなくなってしまったのかもしれない。


「へぁあ!? な、何でもないです! ただの下級魔法ですよ、下級魔法です!」


 焦げた天井を見られたくないからだろう、ミシェルさんは自分の体を衝立代わりにして、乱入してきた職員さんの視界を塞いでいる。


(これはヤバ過ぎる……いきなり中級とかやらなくて良かった……)


 そんな感想を胸の中に抱きつつ、ミシェルさんに頭を下げた。

 やってしまった事はもうどうしようもない訳で、後は悪事が明るみに出ないのを祈るのみ。

 かなりの罪悪感を抱えながら、俺は試験の終了を悟ったのだった。




 最終確認ということで、俺とミシェルさんはギルドのホールにて、ここに来た時と同様にカウンターを挟んだ形で座っている。

 心持ちお互いの表情が暗いのは、気のせいではないのだろう。


「おっそろしいお子様ですね……あんな『火玉』見たことないですよ……。頑張らなくても合格なら合格になるって言ったじゃないですか……」

「返す言葉もございません……」


 現在は俺が怒られる立場で、ミシェルさんが怒る立場。だが、あの焦げた天井が見つかる事になれば、ミシェルさんが怒られる立場になるのだ。彼女が怒るのも無理はない訳で、俺の背中は丸くなる一方。

 せっかくの『ドキドキ!初めての冒険者ギルド体験』は嫌な意味でドキドキさせてくれる様相を呈してきた。

 あまり視界に入らない天井部分だとは言え、いつかは見つかってしまうだろう。それが時効を過ぎてからである事を祈るのみだ。

 ……きっと、犯罪者というのはこういった気持ちを抱えているのだと思う。


「まあ……もうどうしようもないので、最終確認をしましょうか。エイル君、お手数ですが、もう一度登録用紙に記入間違いが無いか確認して頂けますか?」

「き、恐縮でござる……」


 ジクジクと良心が痛むものの、此処はミシェルさんのお言葉に甘え、少しの間忘れることにする。

 そしてそのまま、言われた通り登録用紙の再確認をしていく。記入の際に何度も確認していたので、書き漏らしているところは無さそうだ。

 と、書類の下の方まで視線を走らせたところで、意外なことに気付いた。


「あれ? ミシェルさん、火の下級は分かるんですけど、雷の初級も認定してくれるんですか?」

「はい、エイル君は何の発火装置も使わずに火魔法を使っていましたし、指先に小さな電が走るのを『ステアー』で見てましたから」

「おぉ、ありがとうございます」


 一応は『火玉』を使ったことへの救いもあったらしい。練習だと前置きしていたのだが、ミシェルさんは試験官としてちゃんと見ていてくれたのだろう。……いけない、さらに罪悪感が芽生えてきた。

 気を紛らわすように、気になったことを聞いてみる。


「発火装置って事は、火打石みたいな物を使って『火玉』を発動する場合もあるんですよね? 本でもそういったことが書かれてはあったんですが、結構そういう人って居るんですか?」

「あまり多くはないと思いますけど、いらっしゃいますね。松明とか小さな紙切れに火を付けた物で引火させる形です。武器屋さんでも、そういった商品が取り扱われていますよ」

「へぇ……」


 皆色々と工夫しているのだろう。俺もできるなら、指先から小さな炎を出して引火させたい。きっと、凄く格好良く見えるだろう。その時の決め台詞は「燃えたろ?」で行こうと思います。


「特に記入漏れは……無いみたいですね。これでお願いします」

「分かりました。では、最後に魔力量の測定をしましょうか。」

「あれ? そいうのって試験の前に測るものじゃないんですか? 魔力を使っちゃった状態でもいけるとか?」

「あ、はい。試験の後と言うより、魔力を使った後の方が正確な数値を測り易いんですよ。魔力は時間経過と共に回復しますからね、魔力量という器に流れ込む魔力で測るタイプの測定器具なので、その方が良いんですよ」

「なるほど、そういうタイプもあるんですね」


 うろ覚えだが、赤ん坊の頃に使われた魔力量測定器はちょっと違っていた気がする。なので、今回使うのは違う物になるのだろう。

 ミシェルさんは一旦奥へと引っ込むと、すぐにそれと思しき機械を手に戻ってきた。


「お待たせしました、こちらが魔力量の測定器になります。両手でこの両端の部分を握ると、あとは勝手に数値が出ますので、数値が安定したら見せて下さいね」

「分かりました。こんな感じですか?」


 そう言って、ミシェルさんから手渡された測定器を両手で握る。

 測定器は手で測るタイプの体脂肪計に似ていた。ただ、真ん中が液晶画面ではなくダイアル式だという違いがあるのだが。

 そのまま力を込めて握っていると、ダイアルが急に動き始めた。クルクルとエライ勢いで回っているのだが、こういうものなのだろうか。

 ちょっと不安になりながら見ていると、その動きは段々とゆっくりになっていく。……だが、そこからが問題だった。


「あの……下の桁の部分は止まったんですが、一番上の桁が痙攣して止まらないんですけど……これ、壊れてませんか?」

「え? あ!」


 一旦手を離してみるものの、やはり一番上のダイヤルがピクピクと痙攣を続けている。手を離してもプルプルしているとは、これ如何に。

 ちょっと測定器が可愛く見えてきてしまった。きっと、もの凄く頑張ってくれているのだろう。この測定器には萌えの冠を進呈してあげたい。

 だが残念なことに、他の桁こそ安定しているものの、これは故障していると判断しなければならないのだろう。このままでは、俺の魔力量が『?00326』と書かれてしまう。


「すみません、すぐに別の物もお持ちします。おっかしいですね……さっき私が持った時はどうともなかったのに……」


 ミシェルさんは測定器を回収すると、また奥へと引っ込んだ。

 またボッチになる俺。

 心なしか、他の職員さん達の視線を集めている気がする。確かに、こんなお子様が長々と窓口に座っているのもおかしな風景に見えるだろう。

 段々と居心地が悪くなってきた。顔が熱くなってきたのは、恥ずかしさから来るものだと思って間違いない。ただ見られているというこの状況は、前世での研究発表の時より居心地が悪いのではなかろうか。ゴリゴリと精神が削られていく気がする。

 そしてとうとう俺が両手で顔を覆おうとしたところで、救いの女神が舞い降りた。


「何度もお待たせして申し訳ありません……。これなら大丈夫です! さっき先輩にも使ってもらいましたから」

「あ……あぁあ、ありがてぇ! ありがてぇ!」


 まるで極貧生活の末に白米を供された人間の如く、俺はミシェルさんの降臨を喜んだ。

 対するミシェルさんは「え? 何なのこの子?」みたいな顔をしているが、それはどうでもいい。現にミシェルさんが帰ってきたことによって、職員さん達の視線が離れていったのだから。


「え、えっと……なんで拝まれてるのかは知りませんけど、とにかくもう一度測りなおしましょうか。はい、どうぞ」

「ありがてぇ! ありがてぇ!」


 ミシェルさんから仰々しく測定器を受け取り、何度も頭を下げる。確実に気持ち悪がられているのが分かるのだが、それでも止めてあげない。こうなったら一蓮托生で行こうと思う。

 またもや周囲の視線を集める俺達だったのだが、果たしてそれがいけなかったのか、またもや計測器さんのご機嫌が悪くなってしまった。


「……これも悔しいけど感じちゃう系測定器みたいですね」

「悔しいけど感じちゃう系? ……えぇえ!? さっき先輩と私が使った時は何ともなかったんですよ? 本当に……あ、本当に壊れてますね。これは不味いですね……流石にないと思いますけど、次も壊したら先輩に怒られる……。あ、下3桁はさっきと一緒ですね。……間違いないです、326です。エイル君の魔力量は326で間違いないです」


 まるでそれが妙案とばかりに、ミシェルさんの瞳が輝く。そしてそのまま、俺の登録用紙の魔力量の欄に『326』と書き込んだ。

 それで良いのかと思わないでもないのだが、一応は納得しておく。このままだと、第三の悔しいけど以下略を生み出してしまう事になりかねない。

 と言うのも、この現象の理由に、思い当たる節があるからだ。

 原因は間違いなく、賢者の石によるドーピングにある。異質であるが故に測れないのか、あるいは……


(測定出来ない程に多いか、かな)


 どちらにしても、この場では判断が付かない。俺としては後者が望ましいのだが、前者の可能性の方が高いような気もする。自分自身も裏技感覚でやっていた為、どうしても後ろめたい気持ちがあった。


「ちなみに326ってどれくらいなんですか?」

「ええと、平民の子供よりは多いのですけれど、王侯貴族や魔道師の方々と比べるのは……といった感じですね。でも、この魔力量であの『火玉』と『暗月』は……エイル君、気分が悪いとかは本当にないんですか?」

「特にありませんね。でもちゃんと数字として表れてるので、326でいいと思います。この後も用事がありますし、あまりお手数をお掛けするのも忍びないので」

「うーん……畏まりました。では、こちらの書類にギルド長の印鑑が押された時点で登録は完了となります。ですので、後日、早ければ明後日にはエイル君のギルドカードが完成します。ギルドカードが完成し次第、詳しい規約等を書いた書類と共に御自宅へと送付させて頂きますね」

「お、それは楽しみですね。そうですか……それでやっと俺も冒険者の一員になるんですね……」


 思った以上に時間の掛かった登録だったが、終わってみれば感慨深いものがある。

 それはミシェルさんも同様だったらしく、その表情は一仕事終えた後の爽やかなものだ。

 だから、その声は寝耳に水だったのかもしれない。


「ミシェル、手が空いてからで良いんだけど、シオン先輩が天井がどうとか言ってたから……頑張ってね」


 声の主は、先ほど試験場に乱入してきた職員さんだった。

 瞬間、凍り付く俺とミシェルさん。その表情がまだ笑顔だったのは、きっと俺達だけ時間が停止していたからだと思う。


「いやー、どうしましょうねー……何だか楽しくなってきましたよー……」


 ナチュラルハイ。もしくはパンチドランカー。そんな表現が、未だに笑顔で居るミシェルさんにはピッタリなのではなかろうか。原因は俺なので、何とも居た堪れない空気が漂っている。

 何とかフォローを入れたいとは思うのだが、今の彼女には何が慰めになるのだろうか。

 色々考えた末、俺は言葉を紡ぐ。


「あの……本当にすみませんでした。明日は休日ですし、ゆっくりと羽を伸ばせば……」

「あはは、ギルド職員って不定休なんですよねー……明日、私宿直なんですよー、自分へのご褒美ってヤツが欲しくなっちゃうお年頃かもしれませんねー……」


 だがしかし、俺の慰めは確かな手応えと共に、ミシェルさんにトドメを刺していた。

 口から魂を吐き出している彼女には、今度お詫びの品を送るべきなのだろう。そう心に決め、俺は逃げるようにして窓口の席から立ち上がる。

 今日の冒険者ギルドにて得られた一番の教訓は、確かな罪悪感とは、かくも居心地の悪くなる物ということだろう。

 世知辛い世の中なのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ