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022 スキル試験と試験官

前回のあらすじ

 Q 今度は実技試験になるようです

 A 頑張りましょう

「やっぱり本当に使えるか確認するんですね」

「はい。ですので、少々お時間を頂く形になってしまいます。たまに見栄を張って嘘を書く人がいますので……これ、内緒ですよ?」


 カウンターの左手の壁。そこに設けられた扉がミシェルさんの手によって開かれると、広々とした空間が広がった。

 天井付近と床付近に大きく開かれた窓があり、そこから空気が出入りしている。広さは30メートル四方といったところだろうか。観客席の無い体育館といった風情の其処は、何処か無機質な雰囲気を漂わせている。


「こちらが実技の試験場となっております。本来、魔法やスキルの記入欄を埋められた方、ランクを上げたい方、他国のギルドから移籍された方がご利用される場所です。エイル君の場合は記入された量が多いですから、お時間が掛かるかもしれませんが……大丈夫でしたか?」

「はい、時間は大丈夫だと思います。……うへぇ、緊張する」


 表情が硬くなっていく俺に、ミシェルさんは小さく苦笑いを零す。彼女からしてみれば、こんな子供に実技試験を受けさせるのは抵抗があるのかもしれない。だが、それはそれだ。

 俺も嘘を書いたつもりはないので、もう少し自信を持とう。これは俺が今までやってきたことの確認作業でもあり、ちゃんと実力を示す為のものなのだから。

 ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。幾分、気持ちが楽になった気がした。


「最初は何をやればいいんですか?」


 もう緊張はしない。口から出た言葉も、確かな自身を持った声としてミシェルさんに届いたはずだ。かなり反響したので、相当なものだったのだと思う。


「流石は彼のお方のご子息ですね……肝が据わっていますね。では、最初は『ステップ』からになります。もしスキルの使用で体調に異常を感じられた場合、すぐに教えて下さいね。その時は試験の一時中断か中止になってしまいますが、大切なことですので」

「了解です。あと、親父はそんなに高潔な人間ではないと言うか……家ではごく普通の親父してますよ」

「いやいや、そんなまさか……そんなことないですよね?」


 少しうろたえるミシェルさん。だが、事実は事実だ。

 これ以上の追い討ちはちょっと気が引けるものの、あまり妄想が成長しすぎるのも良くはないだろう。


「あれ……? もの凄くナイスミドルな方じゃないんですか? 私はそう聞いたのですが……」

「顔色の悪いファンキーな髪色をした気弱そうな顔の親父です。良い親父だとは思いますけど、そんな美化されるほどの容姿ではないかと……」

「あれ……? え……あれ? わ、私の理想は……?」

「理想って妄想と際どいラインで並び立つものですよね。ごっちゃになっても仕方がないと思います」


 させるものか。

 親父がモテモテになるなんて、絶対に許さない。ただでさえあんな美人な嫁さん貰ってるのに、もし親父が更にモテモテになった暁には、俺は夜な夜な枕を濡らさなければならなくなる。

 もしかして、ミシェルさん以外にも親父が凄い人物だと思っている女性は多いのだろうか。もしそうだとすれば、親父は本人の知らぬところで美化されていっているのだろう。

 一度固まった印象とは、なかなかに崩れにくいものである。それはつまり、親父がモテモテへの道を歩み出している訳で……。リア充駄目! 絶対!


「親父は非モテで居てほしい……そんな俺の子心です」

「嫌な子心ですね……。うーん、やっぱり理想通りの人ってなかなか居ないのかもしれません。……少し待ってて下さいね、試験官の腕章を取ってきますので」


 なかなか理想の高そうなミシェルさんは、少しトボトボとした足取りで壁際に備え付けられていたロッカーの一つを開くと、一つの腕章を付け始めた。そしてそれを付け終わると、少し勢いを付けてこちらを振り向く。


「さあ、私が試験官です!」


 そして、ちょっとドヤ顔。多分、この瞬間を楽しみにしていたのだろう。

 俺もまさか彼女がそういった資格を持っているとは思わなかったので、少々驚かされてしまった。まだ二十歳前後だろうという外見から、別の人が試験官として来てくれると思っていたのだ。

 この俺がドヤ顔に反応してしまうとは……不意打ちだったにせよ、敗北感が心を蝕んでいく。


「え……資格持ちですか?」

「いやー、これ取るのって結構難しかったんですよね。でも、そういう反応して貰えると頑張った甲斐があったなぁって思います」


 ミシェルさんは誇らしげにその場でクルリと一回転すると、ニコニコとした顔で言葉を続ける。


「勿論ちゃんと勉強して取った資格ですので、安心して試験を受けて下さいね。バッチリ見てますから!」


 頼もしくもあり、ちょっと気が引き締まるような、そんな一言。

 ならば、こちらも気を引き締めなおして頑張らなくてはならないだろう。母上様と親父から教えられたことは、全てちゃんと取り組んできたのだ。その集大成というやつを見せてやろう。


「『ステップ』の試験はどこまで高く跳べるかになります。そちらの壁に目盛が書いてありますので、その前で『ステップ』を使った跳躍を見せて下さい」

「了解です」


 ミシェルさんが指差す先の壁には、高さを表す目盛が描かれている。一番上の目盛は、8メートルくらいの高さになるだろうか。

 その下まで行って、ちょっと間抜け面をしながら仰ぎ見てみると、かなりの高さに感じられた。子供の目線ということもあって、余計にそう感じてしまうのだろう。

 ともかく、俺も今までどれくらいの高さまで跳べるかは正確に測ったことが無かったので、楽しみだ。


「……ふう」


 力強く息を吐き出し、集中する。

 下半身に跳躍に使う魔力を漲らせ、上半身の内臓や脳といった重要器官に『ガード』用の魔力を巡らせていく。

 そこまで魔力を練って気付いた。この『ステップ』から始める理由は、試験を受ける人間が確実にスキルを使えると証明する方法だからなのだろう、と。

 そも、垂直に飛ぶタイプの『ステップ』は、『ガード』が使えることが前提なのだ。『ガード』が使えなければ、その時点で体にガタがくる。これに失敗すれば、後々の試験を受けるのが難しくなってしまうだろう。

 ミシェルさんは俺が4大スキルを使えるのを前提として、この試験を最初に持ってきたのだ。そしてこの試験でちゃんとした結果を出せば、俺自身に対する信憑性が上がる。

 俄然やる気が湧いてきた。俺だって男の子な訳で、格好良いところを見せたいと思う気持ちもあるからだ。

 基本、『ステップ』と『チャージ』は一緒の物と考えていい。どちらも四肢の動きに合わせ、体内で洗練した魔力を勢い良く移動させる。そこには『地面を蹴れ』や『相手を貫け』といった命令も含まれるのだが、それは既に慣れたものだ。

 また、俺はたまたま全てのスキルを習得できたのだが、下半身の『ステップ』は得意でも、上半身の『チャージ』は上手くできないという人も居るらしい。そして、そいうった特定のスキルは得意だが、他のスキルは上手くできないという人は、ある程度の年齢になってからスキルを覚えた人であるということも教わった。

 そういう意味でも、母上様には感謝しなければならないだろう。例えそれが、現在も扉から覗いている変質者であろうとも。ヤバイ、気になって集中が途切れそうなのですが……。


「はい、お願いします」

「OK、いきます!」


 ミシェルさんの声を皮切りに、太ももから爪先へと洗練した魔力を一気に移動させる。

 密度は3倍。4WDの頃から研究していた、体内での限界値だ。

 靴底が鋭く床を押し、同時に俺の体は空中へと投げ出される。目に映る景色は一気に下へと流れ落ち、その色を変えていく。

 ついでに視覚強化の『ステアー』も使っていたのだが、頂点付近で確認できた目盛は6ハル、つまり6メートルだった。そこから落下に切り替わる際、口をあんぐりと開けたミシェルさんの顔も拝めたので、ちょっと満足だ。

 落下の衝撃に備え、再び『ガード』を展開。内臓や脳だけではなく、特に負担のかかる膝関節にも魔力を集中させる。


「どぉすこいぃ!」


 そしてそのまま、かなりの音量と共に着地した。

 毎度感じるのだが、やはり『ステップ』による跳躍は楽しい。短い間ではあるものの、飛翔とも呼べるほどに空中に居られるのだから。


「天辺は無理かぁ……」


 ちょっとした不満を漏らしつつ、体に異常は無いかも確認しておく。

 母上様曰く、俺のスキルは年齢からすればおかしいレベルらしいので、そういった部分にも気をつけた方が良いとのことだった。


「特に目立った異常は無し、と。う~ん、やっぱりもうちょっと行きたかったなぁ……」

「え、ちょ、えぇ!? だ、大丈夫ですか!?」


 何故か『ステップ』を使えと言ったミシェルさん本人が慌てて駆け寄ってくる。いや、それは当然なのかもしれない。見ようによっては、6ハルの高さから子供が落ちたのだ。もし『ガード』がちゃんとできていなかった場合、大事になるだろう。

『ステップ』はそれ自体でもある程度の防御力を得られる為、足を骨折したりはしない。しかし、下半身から離れた内蔵や脳は別だ。『ステップ』の難しい点として、真っ先にそれが挙げられる。同時に2つのスキルを使わなければならないということで、垂直に飛ぶ『ステップ』はかなりの難易度を誇るのだとか。

 ともあれ、俺の体は無事の一言だ。それを表すように、軽く両手をひらひらと振ってみせる。


「大丈夫だと思います。体も特に異常は無いみたいですし」

「あんなに跳ぶなんて聞いてませんよ……。一つ星程度跳べるものだとばかり思っていたんですが、ちょっとこれは私も考え直さないと……。本当に体は大丈夫なんですか?」

「はい。『ガード』も使っていたので」


 ちょっとドヤ顔をしてみた。

 だが、そんな俺の方を見る素振りさえなく、ミシェルさんは顎に手を当てて俯いきながら、何やら呟いている。


「まさか4つ星まで跳ぶなんて……どうやったらこの年齢であそこまでスキルを上達させられるんでしょう?」

「あ、あの……」

「エイル君、『ガード』も併用したということで間違いないんですよね?あ、いえ……それは当然ですか」

「え、えっと……そうです。『ガード』は結構得意なので……」

「この垂直跳びの3つ星以上を完璧にこなしますと、自動でその一つ下になりますが、『ガード』も認定されます。エイル君の場合、この試験で『ステップ』の4つ星と『ガード』の3つ星が認定されたということですね。えーと、『ガード』の試験なのですが、あちらの振り子に付いた鉄球を受け止める試験になります……危険なのでお勧めしませんが、やってみたいですか?」

「……怖いからやらないです」


見事にスルーされた、俺のドヤ顔。その虚しさが俺の心を締め付けていく。どうしてドヤ顔なんてしてしまったのだろう。少し過去に戻れたならば、俺はあの時の自分を全力疾走しながら殴り飛ばしたい。


「あれ、ちょっと顔が赤くなってますよ? もしかして無理してません?」

「……いえ、突然の発作のようなものです。過去に書いた日記帳が母親によって机の上に置き直されていた時みたいな……」


 穴があったら入りたい。俺は、顔を両手で覆っていた。


「あー……私もそれやられました。とんでもない仕打ちですよね。とすると、エイル君は恥ずかしがっているんですか? いやいや、その歳でこれだけのスキルを使えるんですから、もっと胸を張っていいんですよ? 恥ずかしがる必要なんて何もないんです」

「ありがとうございます……慰めが良い感じに追い討ちを掛けてきますね……」


 本当にどうでも良い理由で顔を赤くしている俺なのだが、ミシェルさんは無駄に気を遣ってくれているらしい。


「うーん、次は負担の少ない『ステアー』にしましょう。視力検査のようなものですので、気楽に構えて頂いて結構ですよ」


 ミシェルさんは俺に壁際のベンチへ座わるように促すと、その反対側の壁、20ハル程離れた位置へと移動する。どうやらこれが、『ステアー』の試験の格好になるらしい。確かに、これは全くと言ってよいほど、体への負担が無い試験だ。

 早速『ステアー』を使うと、壁に貼られた絵が見えてくる。

 それは、幾つもの星だ。ただ、一つ一つの形と大きさが異なっている。おおよそ、星にある足の数を当てるというのが試験なのだろう。


「じゃあ、いきますよ。『ステアー』を使って、今から指し示す星の形を大声で教えて下さいね」

「了解です」


 やはり、思った通りの内容だった。本当に視力検査と一緒だったので、ちょっと笑いそうになってしまう。


「これはどんな形ですか?」

「4つ足の星です」

「では、これは?」

「8つ足ですね。真ん中に白い穴があります」

「では、こちらは……」


 そんな感じに、次々と星が指し示され、それを答えていく。

 かなり順調と言えるのではないだろうか。この調子ならば、何一つ問題無く『ステアー』の試験を終えることができそうだ。

 と、そう思っていたのだが、それはやはり違ったらしい。


「では、こちらを見て下さいね。今からこれを回転させますので、こちらの指示があった時に言い当てて下さい」


 いきなり試験の内容が変わった。

 ミシェルさんが指し示すのは、円筒形の物体。どうやら、動体視力を強化できるかの試験らしい。こちらを向いている面には何も描かれていないので、おそらく背面に言い当てるべき絵柄があるのだろう。


「了解です」

「では、行きますよ……そいぃ!」


 ミシェルさんは気合を込め、計測器具をぶん回した。何気に『チャージ』も使っていたので、その回転速度はかなりのものだ。

 回転数が一定まで落ちるのを待っているのだろう、彼女は計測器具の上面を眺めている。


「いいと言ったら当てて下さいね。……もう少し……もう少しですから」


 来る時に対し、俺も意識を気持ちを引き締めた。

 今度は、完全な『ステアー』を使う。そも、『ステアー』には二つあるのだ。

 一つは視力のみを強化する『ステアー』。これは、遠距離を見通す場合等に使われる。程度こそ魔力密度に左右されるものの、時間を掛ければ誰でも使えるようになるほど、簡単なものだ。強化するのも眼球だけでよいので、使用する魔力自体も非常に少ない。

 だが、それはあくまで眼球だけならば、である。

 もう一つ、完全な『ステアー』は、脳も強化しなければならない。具体的には、脳を強化して認識力と反応速度の向上を図るのだ。これこそが、本当の『ステアー』なのだと母上様は言っていた。

 確かに、止まっている物の詳細を見るだけでは、実戦にてクソの役にも立たないだろう。母上様が俺に教えたものは、剣術だけに止まらず『スキル』さえも実戦を意識したものだった。元が腕利きの冒険者なのだから、そうなってしまうのは仕方がないのかもしれない。

 だが、実際に使えるようになってから分かった。


「もうそろそろ……い!」

「上から5つ足、7つ足、一番下がひし形の中央に3つ足の星です。確認お願いします」


 この『ステアー』というスキルは、絶対に役に立つだろう、と。


「……ま? あれ!? まだ回転が早い内に見えちゃったんですか? 全部? ……ちょっと止めますね」

(あ、今度は『ガード』と『チャージ』使ってる)


 ミシェルさんの体から魔力の気配を感じる。その直後、彼女はまだ結構な速度で回転する円筒を簡単に停止させた。やはりと言うべきか、彼女も一通りスキルを使えるらしい。


「……ちょっとずば抜けてますね。エイル君、おめでとうございます。全問正解ですので、最高評価の5つ星です」

「よっしゃ! ……って喜びたいんですけど、それってどれくらい凄いことなんですか?」


 素直に疑問に思ったので、そのまま口に出してみる。5つ星が最高ランクだというのは分かったので、それがどの程度のものなのかが気になった。これで大したことはなかったりしたら、俺はまた顔を赤くしなければならなくなるだろう。


「そうですね……冒険者は3つ星からが一人前とされています。その3つ星の冒険者でも『ステアー』は3つ星が平均になりますね。最高ランクの5つ星の冒険者でも、『ステアー』は4つ星の方が多いです。残念ながら、『ステアー』は評価され辛いという面もあるのですが……少なくとも、エイル君の『ステアー』は一流と言って差し支えない、と言えばよいでしょうか?」

「マ、マジですか……」


 予想外の結果になったものだ。

 しかし、『ステアー』は評価され辛いというのは意外だった。やはり他のスキルに比べて地味だからだろうか。

 まあ、それはどうでもいい。俺自身は絶対に役立つ確信している訳で、それが最高ランクの評価を得たのは喜ばしいことなのだから。


「そういえば、冒険者のランクって幾つあるんですか?」

「6つになりますね。一番上が5つ星で、一番下が星無しです。後日エイル君の家にギルドカードと一緒に届く書類がありますので、そちらに色々と細かな事項が書かれてあります。ちゃんと目を通さないと駄目ですよ? 分からない事があれば、いつで聞きに来て下さって構いませんから」

「む、了解です」


 窓口では時間の都合上、説明しきれない部分もあるのだろう。

 取り扱い説明書はちゃんと見るべきということだ。後々になって部品が余ったとか、プラモデルで何度も経験している。同じ轍は踏みたくない。


「ではえっと……次は『チャージ』の試験になります。ちょっと待ってて下さいね」


 一言断りを入れてから、ミシェルさんは部屋の隅にある用具箱入れ思しき箱を漁り始める。流石に素手で『チャージ』の試験をするとは思えないので、何か武器を探してくれているのだろう。

 ガチャガチャと金属のぶつかる音が響く試験場の中、そんな彼女の後姿を呆と眺める。どんな武器が出てくるのだろうか。上手く使える武器なら良いのだが……。

 程無くして、ミシェルさんは数本の剣をこちらへと運んできた。


「エイル君の体格に合いそうな剣を探していたのですが、この辺が限界みたいですね。どれか一つ、自分でも扱えると思う剣を選んで下さい。どれも真剣ですので、取り扱いには十分に気を付けて下さいね」

「やっぱり真剣になりますか……。今まで持ったことがないんですけど、大丈夫ですかね?」

「貴族や王族なら普通なんですけど、本来『チャージ』の試験はエイル君位の年齢の子供が受けるものじゃないですからね……。危ないと判断した場合はこちらから声を掛けさせて頂きますので、無闇に振り回さなければ大丈夫かと」

「なるほど、調子に乗っちゃダメー! ってやつですね」


 はっぴーにゅーにゃー、はじめまして真剣。俺は君に『チャージ』という名のオーバーランをあげようと思う。

 ミシェルさんは俺に釘を刺した後、一つの測定器具を指差す。それは、試験場に入った時から気になっていた物だった。


「あれを見ていただければ分かるかと思いますが、あの器具に並んだ5枚の板を何枚貫くことができるかが『チャージ』の試験になります。その木材はかなり硬い上に粘り強い物ですので、『チャージ』を使わないと貫けませんよ。あと、『ステップ』で加速するのも禁止です。『ステアー』でちゃんと見てますので、違反があった場合はやり直しになってしまいます。注意して下さいね」

「なるほど……わかりました」


 一つ頷き、ミシェルさんの元から一振りの剣を手に取る。

 彼女が選んだ剣は、全てが刺突剣だ。俺が選んだ物は、その中でも中間と呼べる程度の長さの物。無骨な鞘と、僅かな装飾があしらわれた鍔を持つ剣だった。重さは1キロ程度で、この世界の単位で言えば100ノードになる。


「それで良いんですか? こちらの方が軽いのですが……」

「いえ、これでやらせて下さい。運動エネルギーは1/2にmとvの二乗を掛けたものですからね。速さ、そして質量が揃えば完璧に見えるレベル」

「えっと……そんな願掛けしても『チャージ』の威力は上がりませんよ?」

「やっぱり通じないのね、この公式……」


 ちょっとうなだれてしまったが、運動エネルギーの計算式からも分かる通り、こと突きに関しては剣の質量と速度は大切な要素だ。

 勿論、剣の形状によっても左右されるのだろうが、そこは知らない。そもそも、真剣を使うのが今回で初なのだから。

 しかし、見れば他の剣も、鞘の形状から殆ど同じ太さの剣であることがわかる。あくまで試験用ということで、長さだけが違うのだろう。


「ふぅ……」


 一呼吸置き、刀身を鞘から抜き放つ。

 開け放たれた窓から差し込む光に照らされたその姿は、なかなかに見栄えのする物だった。

 そして、思った以上に重く感じられる。これは先程とは違い、柄だけで刀身を支えているからなのだろう。もしかすると、心理的なものもあるのかもしれない。

 ただ、少し気になる点があった。


「……鋳造ですか?」

「おや、随分難しい言葉を知ってますね。そうです、剣は鋳造で作るんですよ」

「鍛造ではなく?」

「いえ、形を整えるには勿論打ちますよ。一からの鍛造となると、特注品になっちゃいますね。いつ折れるかも知れない物に、そこまでする必要はありませんから。あ、でも……4つ星以上の冒険者になると収入も増えますので、鍛造の剣を好む人も居ますね。やはり鍛造の剣の方が耐久性や切れ味等に優れているらしいので、そういった選択肢もあるのでしょう」

「そうですか……」


 これは少し困ったことになったかもしれない。

 せっかく護身用の武器を買って来いと言われたのに、鋳造の物ばかりなのはちょっと嫌だ。どうせならば、鍛造の武器が欲しい。最初に買った武器がいつまでも使えるなどとは思わないが、すぐに寿命を迎えてしまうようでは悲しくなる。


「その剣は手入れもちゃんとしてありますので、安心して使って頂いても大丈夫ですよ。なにせ、昨日は私は手入れの当番だったんですから」


 フンッ、と一つ鼻息を吐き出すミシェルさん。どうやら彼女、手入れに関しては一家言あるらしい。

 ならば、ここはそれを信頼させてもらおう。


「じゃあ、やりますね」

「はい、いつでも自分の好きな時に始めていいですよ」


 ミシェルさんの言葉に頷き返し、測定器具の方へと体を向ける。

 『チャージ』に関しては、それなりに自信を持っているつもりだ。速さに関しては、母上様からもお墨付きを貰っているのだから。

 一呼吸置き、魔力を一切の淀み無く上半身に巡らせていく。

 残念ながら『ステップ』による踏み込みは禁止とのことなので、より丁寧な準備をしたつもりだ。


「シッ!」


 後は、いつもと同じ。

 魔力は肩を通り、肘を抜け、拳へと伝わる。それも、貫くという意志の元、刹那の瞬間で。

 切っ先は真っ直ぐ走り、一切の横道を許さない。ただ、対象を貫く為にある。

 そんな、自分でもなかなかだと評価できる一撃を放ったつもりだったのだが……。


「一枚貫きますか……。おめでとうございます、エイル君。これで『チャージ』は一つ星ですね」


 肝心の切っ先は、2枚目の板に半分ほど突き刺さった時点で止まっていた。


「硬っ!?」

「試験用ですし、硬いのは当然ですよ?」

「いやいや、これやりすぎじゃないですか? それにこの剣……」


 そう言って、引き抜いた剣を勢いを付けて板に叩きつけてみる。

 結果は、数ミリめり込んだ程度だ。そう、めり込んだという表現の方が、切れたという表現よりも適当だ。いくら俺の体重が軽い事と元の筋力が足りないことを加味したとしても、肝心の武器がこれではあんまりなのではなかろうか。


「あんまり切れませんよ? 真剣ってこういう物なんですか?」

「切れ味に関しては刺突剣ですので、あまり求められていないんですよ。でも、貫く力は確かです。これがそういう木材なんですよ。少し加工すれば、防具としても通用するほどですからね。ちなみにこの厚さの板5枚で、サイリュウの鱗を貫くのと同じ力が要ると言われています」

「サイリュウって竜の中でも一番半端とか言われてる竜じゃないですか? 図鑑に載っていたんですけど、なんかトカゲと竜の中間みたいな微妙なヤツですよね? ちょっと竜の鱗って硬すぎません……?」

「サイリュウも一応は竜ですからね。私はむしろ、そんな小さな体と細腕で2枚目の中ほどまで貫けたのが驚きなんですが……突きの形も結構様になってましたし、誰かから師事を?」

「剣術は母上様に教わりましたけど……う~ん、ちょっと『チャージ』の試験だけ難易度が高い気がするのは気のせいですか?」


 愚痴でも文句でもなく、これはあからさまに感じたことだ。悔しかったのも事実だが、それ以上に理不尽さを感じてしまう。


「『チャージ』は剣士の力量を測る上で一番重要なスキルですから、一番評価が厳しいスキルになるんですよ。ですので、エイル君の年齢からなら十分過ぎる結果かと。……なるほど、剣術は御母様からですか。テッド・ライン様の伴侶って誰なんでしょう?」


 言葉尻を呟くように言って、ミシェルさんは手に持った俺の登録用紙へと目を向ける。


「…………なるほど、レイラさんですか。ふむふむ、それなら納得です。しかし、凄い両親をお持ちですね」

「指導の時は凄まじいですからね、ウチの母上様は……母上様の冒険者時代って、幾つの星があったんですか?」

「えーと、ご家族だから話しても大丈夫……ですよね。私がここで働き出す前に居た冒険者さんなので、又聞き程度でしかないんですけど、4つ星の冒険者だったと聞かされています。確か、騎士団からの誘いを断って結婚したとかで……周りも、レイラさんなら仕方ないとかそんな感じだったとか」

「へえ……」


 名うてだと聞いて、てっきり5つ星だと思っていた。

 5つ星というのは、簡単になれるようなランクではないのかもしれない。


「では、次は魔法の試験にしましょうか。こちらは後日受けることも可能なのですが、どうしましょう?」

「あ、はい。そうですね……ついでですし、今日受けさせて下さい。時間にも余裕がありますし」

「わかりました。では、こちらの白線の所に立って下さい。魔法の試験はスキルの試験よりも手短に終わるものとなっていますから、安心して下さいね。今エイル君が扱える魔法を全て、詠唱込みで発動して下さい。ゆっくりでも結構ですよ。効果に不足があった場合は認められませんが、エイル君の場合は数も結構多いですし、一つ二つ認定されない程度では問題になりませんから安心して下さいね」

「わかりました。では、開始の音頭をお願いします」

「ちょっと待って下さいね。私も所定の位置まで移動しますから……」


 ちょいと片手を上げ、ミシェルさんは俺の後ろ、壁際の位置まで下がった。そこが魔法の試験における試験官の定位置なのだろう。

 なので、俺はミシェルさんに背を見せる形で立っている。

 確かに、背後ならば安全だ。親父も言っていた事だが、魔法使いの近くに立つならば、その後ろが一番安全らしい。

 だが、少しやり辛くも感じてしまう。遥か昔に経験した、授業参観を思い出してしまうから。


「順序はお任せします。では、始めて下さい」

「了解です!」


 そして、魔法の試験が始まる。

 先程の『スキル』も勿論そうなのだが、やはり異世界らしさと言えば魔法だろう。

 それに、この場所は広い。試したかったことも、断りを入れれば許してもらえそうだ。

 そんなことを考えていた俺だったのだが、だからなのだろう、背後に立つミシェルさんが呟いた声。


「自分で認定しておいて何ですが、『チャージ』1に『ガード』3、『ステップ』4に『ステアー』5ですか……この年齢だと異例中の異例ですね。これで魔法まで本当に使えるとなると……最初から1つ星になるのは確実でしょうね」


 その言葉は、全く聞こえていなかった。

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