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018 喜ぶ母とスキルの天才

前回のあらすじ

 Q ねんがんのスキルをてにいれた!

 A 昔取った杵柄ってやつですね

 レイラは唖然としていた。

 彼女の息子であるエイルがした一瞬の動作。赤黒い髪が柔らかく舞い、朱色の虹彩と白い肌が、僅かな残光を残してぶれていた。

 彼女が唖然とするのも無理はない。何故なら、まだ年端も行かない彼女の息子が『チャージ』をいきなり使ったのだから。それも、ほぼ完璧な形で。

 敢えて文句を付けるとすれば、発動が少し遅かった程度か。だが、いきなりのスキル発動、それも先ほど説明したばかりと考えるならば、異常なことだった。


「……やっぱりだ」


彼女の息子は自分がしたことに対し、さも当然とばかりに頷いている。そこには、彼がたまに見せる思案顔が浮かんでいた。


「な、なんで!?」


信じられない、とレイラは声を上げる。

それにエイルは小首を傾げ、驚くべき一言を口にした。


「魔力、ですよね? 意思を込めた魔力を必要箇所に移動させて、その運動を強化する。それがスキルの正体じゃないんですか?」

「せ、正解だけど……」


 魔力による運動補助。それがスキルの正体だ。

 強化する部位や効果によってその名前が違うが、単純な言い方をすればそうなる。

 確かに、レイラはエイルの前でスキルを使って見せた。『ステアー』を除き、まずはどういった物なのかを説明する為に。

 エイルの目には、自分の動きが急に変わった程度に映っていただろう、とレイラは思っていたのだが、まさかスキルの正体まで見破られるとは予想できなかった。

 魔力は不可視で、たまに気配を感じ取る人間も居るのだが、それはあくまで限定的なことに対してのみだ。先程の一連の動作は体外へと魔力を放出した訳ではなく、体内だけで魔力を移動させていた。その気配を感じ取れる人間など、特殊な例を除いて居るはずもない。

 それ故、先程のスキルが魔力による物だと初見で理解できるのは、異常なことである。まして、それをすぐに実行出来る人間など前代未聞だ。

 スキルに対して若い頃から才能を持っていたレイラですら、スキルが魔力による肉体強化だと気付いてから使えるようになるまで10日程度の時間を必要とした。

 彼女が初めて使えたスキルは『ステップ』。それも、跳躍が30ロル伸びた程度だった。

 エイルの『チャージ』の出来とは、比べるべくもない。


「次は『ガード』を試してみるか……。お母さん、ちょっと俺の右肩辺りをぶっ叩いてくれますか?」

「え、えぇ!?」


 さらに恐ろしい事に、エイルは『ガード』を使ってみると言う。

 『ガード』は魔法寄りのスキルで、『攻撃から身を守る』という意思を込めた魔力を必要箇所に集める物。それを使うと言うのだ。しかも、ぶっ叩けとまで付け加えている。


「わ……わかったわ。失敗したらすぐ回復しなさいよ」

「はい、失敗したらそうします」


 レイラは、もしかしたらと思う反面、それはありえないだろうと自身を静める。

 だが、やはり我が子の才能を信じたいと思ってしまうのは、彼女が母親だからだろう。

 なので、敢えて手加減をしなかった。


「せい!」


 踏み込みこそ行わなかったものの、体全体を使った強烈な一閃。

 それは、一切の乱れを感じさせない美しいものだった。

 だが……


「なっ!?」


 エイルの右肩に袈裟に走る一撃が迫り、そのまま彼の肩に食い込むと思われた残撃はしかし、簡単に跳ね返された。

 見ると、木刀には浅く亀裂が入っている。

 再び唖然とするレイラ。

 対するエイルはそんな攻撃など無かったかのように軽く右肩を回し、そしてまた思案顔に戻り、呟く。


「3倍はやり過ぎか……。やっぱり、命令を『攻撃を防げ』に変えれば『ガード』になるんだな。なるほどなるほど」


 彼の独り言にも近い声は、レイラの耳に届かない。

 何故なら、レイラもまた混乱の渦に身を飲み込まれているからだ。


(木刀が折れる程の『ガード』!? いくら草臥れていたとしても、こんなの子供の範疇を超えてる。さっきの『チャージ』といい、どうなってるの?)


 既に役目を終えた木刀をに目を見張るレイラ。そしてその視線は、ヨロヨロとエイルと木刀の間を彷徨う。

 そんな彼女の反応から、エイルも彼女が握る木刀の様子を察したようだ。一瞬にして顔色を青くし、反射的に頭を下げてくる。


「ご、ごめんなさい! い、いつか弁償します! 今のところは出世払いで……本当にごめんちゃい」


 どうやら彼は怒られると思っているらしい。だが、レイラには不機嫌になる理由が全く無かった。

 それどころか、徐々に現実を受け入れつつある彼女は、その顔を笑顔に変え始めている。


「い、いいのよこんなの。別に大した物でもないんだし。それよりエイル、他はどうなの? 使えそう?」

「え? あ、はい。ありがとうございます……。そうですね、次は『ステップ』を試してみましょうか?」

「ええ、やってみて!」


 レイラが促すと、エイルは小さく跳躍を始める。

 最初は低く、だんだんと高く。10回程飛んだところで、その高さは3ハルを軽々と超えた。しかも全く身体に異常を感じていないらしく、涼しい顔をしている。

 それは、『ガード』を併用している何よりの証だった。


「す、凄い!」


 誰に言われずとも、スキルに必要なことを全て理解している。

 明らかになっていく我が子の才能に、レイラは興奮を隠し切れない。

 彼女の夫は、エイルは魔法の才能を多属性への適応へと費やしてしまった為に、伸び代が少なくなっていると言っていた。

 それが、スキルに関してはどうか。信じられない程の精度、その年齢からは考えられない程の効果、そして何よりスキルに対する理解力。

 その全てが、彼女に一つの事実を告げようとしている。

 エイルは少し恥ずかしそうにしていたものの、そんな事は彼女にとって些末事でしかない。


「次は『ステアー』を試してみて。目に魔力を集中させるの。そうね……あの通りの向こうにある貼り紙を読んでみて」

「は、はい。えっと……おぉ!? 『ここに飼いトカゲの糞を置いてくな』です!」

「完璧よ!!!」


 本来なら肉眼ではその内容を確認出来ない距離にある貼り紙。

 それを読めたということは、『ステアー』も問題無いということだ。発動時間も申し分無く、自分が教えられるレベルを超えている。

 嬉しくなったレイラは、思わず我が子を抱き締めた。


「凄いわ! エイルにはスキルの才能があったのね!」

「おうふ、お褒めに預かり光栄ですぞ」


 エイルには時々奇怪な言葉を使う癖があるが、現在の彼女にとって、それは全く気にならない。

 レイラは愛しい我が子の頭を乱雑に撫で上げる。


「お、お母さん、さっきの『ステップ』で魔獣が産まれそうになってるから離して。トイレに行かせて!」

「あ、ごめんね。すぐ戻ってくるのよ」

「具合次第だけどね」


 稽古の一時中断を求める、エイルの口調の変化。行ってくると言って、彼はレイラの抱擁から逃れた。

 駆け足で遠ざかっていくその背中が家の中へと消え、扉が閉まったのを確認してからレイラは叫んだ。


「天才よ!!!」


 そう、レイラの知る限りでは、エイルほどにスキルの才能に恵まれた人間はいない。

 そして彼女が教えた4つのスキルを完璧に使えるということは、実力のある冒険者になれる可能性が高いということだ。

 一流の冒険者ともなれば、騎士への道も明るい。騎士になれば、貴族にだってなれるかもしれないのだ。

 通りを歩く人々が何事かと彼女を眺める中、レイラは天にも昇る気持ちだった。

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