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014 誕生日と水魔法

前回のあらすじ

 Q 親父から魔物図鑑を読ませてもらったんですけど、夢が膨らみますね

 A 早く外に出られる様になったら良いですね

 親父のお許しが出た事で、俺の活動拠点は子供部屋と親父の書斎の2ヶ所になっている。何だかんだ言って、親父も結構優しい人間だ。

 賢者の石ドーピングも続けており、もう自分の魔力量がドーピングを始める前の何倍あるのかさっぱり分からなくなっている。

 3級の賢者の石ならば、多少大きかろうと瞬時に作れるようにもなっていた。

 当然と言えば当然だ。

 賢者の石をずっと作り続けていた俺は、今日で3歳になったのだから。


「ヌギャーーー!!!」


 誕生日ということで、早めにドーピングを済ませておく。

 自分の拳と同程度のサイズとなった1級賢者の石は、最初の頃の高級感をあまり感じさせてくれない。もはや、ただデカイだけの玉である。


「もう、エイルったら……また変な声出して」

「……ごめんなさい」


 俺の叫び声を聞きつけ、母上様がご登場なされた。エプロンを付たままということからも、御馳走を用意してくれているのだろう。

 この世界アマツチでは、3年ごとに誕生日を祝うらしい。なので、今回が俺にとって初めての誕生日パーティーになる。

 パーティーとは言っても、ささやかな物だ。

 親父は仕事ということで夕方過ぎから参加となっており、実質母上様と二人だけの誕生日会になっている。と、そんな風に考えていたのだが、どうやらそうでもないらしい。

 コンコン、と控え目なノックの音が鳴り、来客を告げる。


「あ、姉さん達来たみたいね」


 それを聞き、母上様が玄関へと駆けていく。

 昨日教えられた事なのだが、俺の始めての誕生日会という事で、伯母と従姉が来てくれる事になったと言うのだ。

 俺が産まれて間もない頃に会った事があると母上様は言うのだが、正直俺は覚えていない。詰め込むべき知識が多すぎて、何時の間にやら忘れてしまっていたのだろう。産まれて間もなくと言うのなら、もしかすると目が見えていなかった頃なのかもしれない。ならば、別に覚えていなくとも失礼ではないだろう。


「まあ、子供だしね」


 そう一人で納得し、玄関の様子を盗み聞く。


「いらっしゃい、ありがとうね姉さん」

「別に良いわよ。久しぶり、元気してた?」

「元気よ。子育ても拍子抜けする位上手くいったから、最近はまた剣術の練習を始めたくらいだし」

「へぇー」

「ママ、暑いから早く入ろうよ」

「はいはい。はあ、堪え性の無い子なんだから……」

「元気で良いじゃない。ミリシアちゃん、久しぶり。さ、入って入って」

「おじゃましまーす!」

「こらミリシア! 靴を揃えていきなさいっていつも言ってるでしょ!」


 聞こえてくる声から察するに、母上様の声を少しハスキーボイスにした方が伯母だと思って間違いなさそうだ。

 では、近付いてくるこのドタドタと落ち着きの無い音を立てているのが、従姉のミリシアとなるだろう。

 元気一杯といった足音。歳は幾つ位なのだろうか。

 その足音は段々と近付いてきて、開け放たれた部屋の扉から人影が見えた瞬間に鳴り止む。


「あ!!!」


 扉から覗く人物から受けた第一印象は、水色。髪が淡い水色だったからだ。

 子供らしく、丸みを帯びた体をしている。肌の色はごく普通で、親父や母上様とは違った印象を与えた。母上様は元々から薄い紅茶色の肌をしているが、親戚であるミリシアにはその色が遺伝しなかったのだろう。

 目は少し吊り目。虹彩の色は赤茶色。顔の作りは普通より少し上といったところだろうか。端的に言えば中の上。これからの成長に期待しよう。

 おっぱいは論外の大きさ。俺はそれだけで見切りを付けられる、潔い男なのだ。


「エイル君だ! おっきくなったね~!」

「せやろ」


 浅黄色のワンピースを靡かせ、ミリシアが突進してくる。『ドドド』とか背景に書かれていそうだ。

 ミリシアは俺の目の前で急制動すると、しげしげと俺を観察し始めた。


「う~ん? 何でそんな髪の色してるの?」

「男は黒に染まれって有名な雑誌に書いてあったので」

「え~……闇魔法はあんまりだよ? お姉ちゃんと同じ水魔法にしようよ」


 どうやら、ミリシアは髪の色が示す通り、水魔法に適性を持っているらしい。確か親父が持っていた本には、属性への適性があればある程に髪の色が濃くと書かれていたんだったか。

 ならば、ミリシアは水魔法を勉強中と言ったところだろう。体格と声から、彼女の年齢は5~6歳位に見える。


「水魔法はどんな事ができるんですか?」

「エ、エイル君、言葉が上手だね……えっとね、回復とか色々出来るよ!」

「あれ? 回復は風じゃないんですか?」


 風魔法は中級に『風治』がある。俺が始めて人に向かって放った魔法なので、間違える筈がない。

 水魔法にも回復魔法があるのだろうか。


「風魔法とかあんまりだよ? あれって面倒臭いじゃん。水魔法の方がよく効くし」


 風魔法とは何だったのか。風魔法に特化している親父が今の台詞を聞いたらどう思うのだろう。

 まあ、子供の言う事だ。聞くのは話半分程度で良いだろう。

 しかし、それとは別に聞き捨てならない事を言われた気がする。


「水の方が回復効果が高いって事ですか?」

「そうだよ! だからエイル君も水魔法を覚えようよ! 私が教えてあげるから!」


 ……どうすべきか。答えるだけなら簡単だ。YESかNOと言えば良い。

 今まで、親父の書斎では材料関連の本ばかり読み漁っていた。魔法についてはもう少し体が成長してからと思っていたのだが、教えてくれると言う相手が目の前に居るのだから、よく考えて答えなければならない。

 3歳児のワガママボディで腕を組み、熟考する。


「う~ん……」

「あれ、本当に3歳なの……? なんで敬語使ってるの? なんで腕組んでるの?」

「姉さん、あれが子育てが楽だった理由なの。あの子、テッドの真似をするのよ……」


 気付けば、部屋の入り口で母上様と母上様2Pカラーがヒソヒソ話をしていた。

 子供だからと舐めてもらっては困る。ちゃんと聞こえているのだから。




 ミリシアの母親であるアリア伯母さんは、母上様にそっくりだった。母上様が若干垂れ目になり、髪の色を青くして、少々マダムチックになった外見と言えば良いだろうか。

 ミリシアは彼女の父親似らしく、損をしているなと思ってしまう。

 ちなみに、ミリシアの水魔法ゴリ押しは、アリア伯母さんの手によって止められた。曰く、人に教えるにはまだまだでしょう、とのこと。

 ミリシアはブー垂れていたものの、後で教えてあげるね、と俺に耳打ちして納得した振りをしていた。

 そんなこんなで、母上様と伯母さんが仲良く雑談しつつ、俺はミリシアちゃんと適当に遊びつつ、夕方になって帰ってきた親父を加えて誕生日会の開催となったのである。

 ケーキこそ無かったが、食卓に並べられていた料理は質は高く、そして品目も多かった。母上様もかなり頑張ってくれたらしい。

 皆は俺への祝辞もそこそこに、料理に手を付け始める。美味しい美味しいと口に出し、母上様を褒めながら。

 で、主役の俺はというと、やはりまだまだ体が小さい事もあって、少し料理を口にした程度で満腹になってしまった。やはりこのワガママボディでは限界が低いのだろう。せっかく母上様が腕によりをかけて作ってくれたというのに、残念でならない。

 代わりと言っては何だが、ミリシアと伯母さんがバクバクと食べ、次々と皿を空けていってくれたのには感謝すべきなのだろうか。

 満腹になれば、やはり眠くなる。子供の体だとは言え、それが少し恨めしい。

 落ちそうになる目蓋を何とか支えていると、親父がこちらに近付いてきた。


「エイル、3歳の誕生日おめでとう。これはパパとアル……パパの先輩からの誕生日プレゼントだ」


 そう言って、親父は2冊の本を手渡してくれる。

 それぞれの表題には、『魔物図鑑~冒険者のススメ~』、『失われた氷魔法の全て』と書かれてあった。

 どちらが親父の選んでくれた物かは分からないが、俺にとってはどちらも最高のプレゼントだ。

 特に、氷魔法の本が素晴らしい。きっと、これが親父のセレクトに違いない。失われたと付いている事からも、これは貴重な資料の筈だ。

 そして、7属性と聞いていた魔法が否定された瞬間でもある。本当は、氷を含めた8属性だったのだ。


「ありがとう!」


 思わず、声にも力が入った。

 そろそろ手を付けようかと迷っていた魔法の本と、以前親父に読ませてもらった物以上の厚さを持った図鑑だ。知識が必要だと感じている俺にとって、何よりの贈り物だと言える。

 他の方々からもプレゼントを貰った。

 母上様からは革のボール、ミリシアからは黒粘土、伯母さんからは何故か木刀といった具合だ。

 それぞれに感謝の言葉を送り、贈り物をかき抱く。

 そんな俺を見て、皆は俺以上に嬉しそうな顔をしてくれていたのが印象的だった。




「叔父さんはなんで氷の魔術書なんてあげたのかな? 水の方が良いと思うのに……」


 ミリシア先輩による、早速の水魔法ゴリ押し。

 大人達は酒が入り、居間でワイワイと騒いでいる。そんな場に子供の居場所などあるはずもなく、俺とミリシアは子供部屋へと引っ込まざるをえなかった。


「失われたって、もう氷魔法は無いんですか?」


 ミリシアの手元には、親父からのプレゼントである氷について書かれた魔術書がある。


「ずっと昔に誰も使えなくなった、って学校の先生は言ってた」

「ふ~ん……」


 それは何故なのだろうか。氷に限らず、魔法とは不可思議な物だ。だが、この世界の人々は色々な魔法を使える。

 氷魔法だけが失伝されるには、何かしらの理由が必要に思えてならない。


「どうして氷魔法は無くなったんですか?」

「氷魔法を使える人達が居なくなったからだって」


 と言うことは、戦争か何かで死んだのだろう。

 だが此処にこうして魔術書があるという事は、伝え聞かされてはいたということになる。

 先ほど内容を少し確認したのだが、詠唱もちゃんと記載されていた。


「詠唱まで書いてありますね……。これで何で失伝しちゃったんでしょう?」

「氷の精霊様はとっても気難しいの。氷魔法を使える人達が居なくなったから、氷を作り出す方法を皆知らなくなっちゃったって……」


 ……氷を作るのに精霊様とやらの力なんぞ必要なはずが無い。何を言っているのだろうか、この小娘は。


「いやいや、冬になったら水が凍るじゃないですか」

「冬は氷の精霊様の季節なんだから、氷の精霊様が氷を作るのは当たり前でしょ?」

「何……だと!?」


 さも常識とばかりに言われた。

 これはアレだろうか、不思議は不思議のままに置いておくということだろうか。魔力なんて不思議物質があるせいで、その辺が放置されていると考えるべきなのかもしれない。


「えっと……ミリシアちゃんは水魔法が得意なんですよね? 水魔法はどうして出来るんですか?」

「それは簡単よ。氷の精霊様みたいに気難しくないから、集まって欲しい時にはちゃんと集まってくれるもの」


 ミリシアは「ほら」と言って手を掲げると、掌の上に小さな水球を作り上げる。


「こんな風に、水の精霊様はすぐに応えてくれるの」

「……空気中の水蒸気やないか!」

「何言ってるの? ……ははぁん」


 俺の激しいツッコミに何を感じたのか、ミリシアはニヤリと笑う。


「エイル君はまだ3歳だものね。良いわ、お姉ちゃんが魔法について色々と教えてあげる!」


 どうしよう、ちょっと腹立たしい。いきなり先輩風を吹かせ始めたミリシアに、若干こめかみが震えてしまう。

 確かに俺はこの世界について無知であると言えるが、こんな年端もいかない少女にお姉さん面される程の年齢でも……あった。いくら精神年齢が20台中盤だろうと、俺の見た目は3歳のワガママボディなのだ。


「ぐぎぎ……」

「まず、魔法を使おうと思ったら精霊様に呼びかける必要があります」


 俺の呻き声など聞こえていないらしく、ミリシアは魔法について語り始める。

 良いだろう、聞いてやろうではないか。


「精霊様に言う事を聞いてもらうには、自分の中にある魔力を使います。これでも、私は結構多い方なんだから」

「へぇ~~~……」

「次に、精霊様に何をしてもらいたいか、頭の中で考えます。これが上手くいかないと、願いを聞き届けてもらえません」


 これは分かる。魔法にはイメージが必要だからだ。だが、そこに精霊様なんぞの存在は必要ない。


「それが上手く出来たら、そのお願いを魔力にのせて精霊様に呼びかけます」


 ミリシアがその手に魔力を集中させている。

 今更な上に余談だが、俺は他人の魔力を見る事が出来るようになっていた。賢者の石によるドーピングのせいなのだろう、透明なようで輪郭を持った不思議な物が見えるようになったのだ。

 今、ミリシアが練り込んでいる魔力はごくごく僅か。おそらく、先ほどより少し大きい程度の水球を作り出すつもりなのだろう。


「ちょっとこっちに来て」

「はいよ」


 ミリシアがもう片方の手で俺を手招きし、窓際まで誘う。

 彼女は窓を開くと、通りにある一本の木を指差した。


「あの木に下級水魔法『水弾』をぶつけるからね。よく見てなさいよ!」

「やんややんや」


 俺のワガママ拍手を一身に受け、ミリシアが魔法を発動する。


「水よ飛べ 『水弾』!」


 小さな掌の上で作られる水球。

 それをあろうことかミリシアは……


「行けぇ!」


 ぶん投げた。


「へ!?」


 風船が破裂するような音が通りに響く。

 『水弾』を当てられた木は、被弾箇所の外皮を捲れ上がらせていた。

 確かに、綺麗なフォームだった気がする。

 だが、俺の思う魔法の使い方とは、明らかに異なっている気がしてならない。風で飛ばすとばかり思っていたのだが、そうではなかった。水の珠を掴んで投げたという事で、風魔法は使っている事は確かだとは思うのだが……脳筋にも程がある。

 あまりの予想外の出来事に唖然としてしまう。

 それを感嘆している様子と取ったのか、ミリシアはペチャンコの胸を反らせ、鼻を膨らませた。


「これが水魔法よ! どう、凄いでしょ!?」

「や……やんややんや」


 俺は少し虚脱感を覚えながらも、とりあえずと労いの拍手を送る。


「ふふん、さっきのは『水弾』よ。水魔法の中では簡単なやつだけど、私のは命中率が凄いんだから」

「せ、せやな……」


 俺の中で何かが崩れていく。

 魔法使いとは、ゲームの中では後衛職と言えるものだ。高火力と器用さを持ち合わせている反面、打たれ弱い。近接職の剣士や戦士を体育会系と表現するならば、魔法使いは文化系だったはずだ。

 しかし、先ほどのミリシアの様子はどうか。正に体育会系である。

 しかもぶん投げた『水弾』をして、『命中率』とほざいたのだ。これではまるで、野球におけるピッチャーではないか。

 唖然とする俺を尻目に、ミリシアはさらなる熱弁を振るう。


「さっき言ったけど、水魔法は回復も出来るのよ! 風魔法とは違って、毒や病気を治したりも出来るんだから!」

「お、おう?」


 無視できない内容が聞こえたので、何処かへ旅立とうとしていた意識が現実に帰ってきた。

 なんと、水魔法の回復にはRPGで言う状態異常まで治す効果があると言う。

 ミリシアの自信満々っぷりからも、それが嘘ではないことは確実だ。年齢故の無根拠な水魔法ゴリ押しだと思っていたのだが、どうやらちゃんとした理由もあったらしい。

 これは是非とも見てみたい。


「使ってもらっても良いですか?」

「……今勉強中」


 ミリシアは少しシュンとしながら窓を閉める。

 少し贅沢が過ぎただろうか。為にならないとは言え、この世界で考えられている魔法の原理を知ることができ、下級の水魔法まで見せてもらったのだ。これ以上は高望みと言えるかもしれない。


「いつか見せて下さいね」

「うん……うん、そうね! 絶対に見せてあげる!」


 俺の言葉に、ミリシアは自信を取り戻したようだ。

 その後で、『水弾』の破裂音を聞きつけた両親と伯母さんの説教を二人して喰らったのは御愛嬌としておこう。

 気分が落ち込まなかったのは、ミリシアの笑顔が崩れなかったからだ。きっと、彼女にとって俺は弟分的な存在になったのだろう。

 この日、両親の勧めで俺とミリシアは子供部屋で眠ることになった。

 先に夢の世界へ旅立ったミリシアの寝息を聞きながら、俺も瞳を閉じる。

 親父から貰った氷魔法の魔術書の表紙を、指でなぞりながら。

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