013 魔物図鑑と膨らむ気持ち
前回のあらすじ
Q 母上様から御伽噺を聞かせてもらえました。あと、2本足で歩ける様になりました
A 大丈夫?アマツチの御伽噺だよ?
この世界は3日働き、1日休むという労働サイクルを送っている。
人間の仲間入りを果たした俺は、機動力に物を言わせ、今まで以上に家の中を探索するようになっていた。
その主目的は文字の勉強と、この世界の知識を身に付けることだ。
今日は休日ということで、残念ながら親父が書斎に居る。いつものように休日出勤していれば良い物を……。
一番勉強しやすい環境が親父の書斎だった為、親父が仕事の日には書斎に入り浸ったいた俺なのだが、親父が休みとあらば書斎は無理だろうと諦めていた。
……のだが、書斎の前で入れてくれないかとチラ見しまくっていたら、少し嬉しそうな顔をして入室を許可して貰えたのだ。
「エイルが読めるような本はあったかな……」
親父はそうごちりながら、本棚を見渡している。人差し指をゆっくりと横に走らせ、俺が興味を持ちそうな本を探してくれているらしい。
「お、これなら良いか」
親父が指を止めた場所には、『魔物図鑑』と背表紙に書かれた本があった。
「ほらエイル、魔物が沢山載っている本だぞ」
「親父、ありがとうー」
『親父』という単語に、親父は苦笑いを零す。
「なんでレイラは『お母さん』で、俺は『親父』なんだ……誰が教えたんだ、それ?」
「禁則事項です」
「そうか……エイルは難しい言葉を知ってるんだな。ほら、大切に読むんだぞ」
「あい」
親父が俺の目の前に本を置く。
その厚さはかなりのものだ。一枚一枚の紙が厚いのもあるのが、ページ数もかなりあるのだろう。
早速とばかりに、俺は『魔物図鑑』を開く。
「ほうほう……」
「意味わかってんのかね……」
親父は小さく笑いながら、本の虫になった俺を見つめている。少し居心地が悪いので、今すぐ止めて欲しいのだが……。
図鑑は丁寧な作りになっていた。おそらく低年齢でも読めるように作ってあるのだろう、現在の俺でも内容を把握するのに問題はない。
もしかすると、この世界は識字率も低いのだろうか。もしそうならば、この分かり易い内容も納得だ。
図鑑には魔物の全体像と特徴が書かれており、それに付け加えて魔物から取れる素材についても書かれている。
竜についても一応は書かれていたが、本当に申し訳程度でしかなかった。名前の横に危険度として星印があるのだが、竜は全て星5つで最高となっている。小型の竜ですら、それより大型の魔物より星の数が多い。母上様が竜に会ったら逃げろと言っていた理由が分かった気がした。
星一つ多ければどれ程の危険度が増すのだろうか。五段階評価とか懐かしすぎる物を久しぶりに見て、ちょっと笑いが込み上げてきた。
図鑑の魔物は同じ星の数でも危険度の大小があるのだろう。何となくではあるが、5つ星の魔物はこの本の執筆者にとって相対すれば死ぬレベルなのが分かる。説明文があまりにも大雑把だからだ。
もちろん、俺とて5つ星の魔物なんぞには出会いたくもない。
なので、星の数が少ない魔物を重点的に見てゆく。
特に注目しているのは、素材だ。摩訶不思議なこの世界には、絶対に地球では手に入らない材料があるはずだと思っている。
良い例として、賢者の石がその一つだ。あんな物質、地球には無かった。
人間が作れるのだから、魔物も常識外れの物質を持っているかもしれない。
そう思い、どんどんと読み進めていく。
「あ、イヌトカゲ」
「はは、そう言えばエイルはイヌトカゲが好きだったな。イヌトカゲは草食で、怒らせなければ仲良くできるんだ」
「そうなんだ」
イヌトカゲが好きだと明言した事は無かったはずなのだが、親父の中では俺がイヌトカゲ好きで通っているのだろう。
ともあれ、図鑑にも同様の説明文がある。
草食で大人しく、卵から育て上げると完全に人に懐くらしい。体長4ハル、体高1.5ハル。ハルはメートルと同程度なので、やはり出鱈目な大きさだ。これで星2つとは、この世界はどうなっているのだろう。
ちなみに、イヌトカゲから得られる素材は皮くらいらしい。注意書きが書かれており、『人の物であることが多いので狩らないこと』となっている。なら、図鑑に載せるなと思う。
他にもマダライヌ、ニジイロバッタ、クサレイノシシなんて魔物も載っていた。こちらは全て星1つだ。バッタと同列に扱われるイノシシやイヌに同情を禁じえない。
そして、やはり不思議な世界には付き物のスライムも居た。だが、そのほとんどが体長0.1~0.3ハル。素材さえも記されていない。
一番大きいのがクロスライムで、体長0.8ハル。一応、素材も取れるらしい。素材名は黒粘土で、鋳型の材料として鍛冶屋で引き取ってもらえるとのこと。他にも子供の玩具として人気だとか……哀れクロスライム。
読み進めていく内に、この本は実用書に分類される物だとわかる。素材の利用方法や何処に持っていけば買い取ってもらえるかが書いてあるからだ。
親父は冒険者でもやっていたのだろうか。そんな事を考えながら、ペラペラとページを捲る。
そして、とあるページで手が止まった。
『コンゴウガメ』
最大で1ハルにまで成長する光沢のある乳白色の甲羅を持つ亀。風の大陸では絶滅寸前まで乱獲されており、その理由は武器や防具の材料として優れた甲羅に因るものだった。
気性は温厚。草食。攻撃されると甲羅に引っ込むので、その捕獲難易度の低さから人間に乱獲されていった。
……なんとも悲しくなるエピソードだ。やはり、この世界でも人間の手によって絶滅する動物はいるのだろう。
「親父、コンゴウガメはもう居ないの?」
「ん?ああ、魔法大学には居るぞ。あれはどこの研究室だったか……まあ、とにかくまだ居る。というより、読めるのか!?」
「ちょっちゅねー」
どうやら、絶滅危惧種に対する保護という概念はあるらしい。
図鑑に載っているコンゴウガメは、見るからに穏やかな顔をしている。文面にもある通り、人間に襲われも無抵抗だったのだろう。やめたげてよお!
「いやいや、流石に全部は読めないはずだよな……。あの本はまだ渡さなくても……う~ん……」
親父が何かぶつぶつ呟いているが、俺はそれをあまり気にせず読み進めていく。それからも幾つか面白そうな素材を見つけ、どうすれば手に入るだろうかと考えてみる。
ここはやはり、冒険者とやらになってみるのも一つの手かもしれない。確か、母上様がそうだったはずだ。まだ先の事にはなるだろうが、俺は将来に胸を膨らませる。
何か面白い物を作ってみたい。そんな漠然とした夢を、いつしか俺は抱き始めていた。




