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012 二足歩行と御伽噺

前回のあらすじ

 Q 賢者の石を親父に持っていかれました。親父は何処に持っていったのでしょう?

 A ミッドラル魔法大学です

 こんにちは、元4WDのエイルです。

 そうですね、『元』4WDです。

 そろそろ産まれて1年半が過ぎようとしております。

 そう、それだけの月日があれば、獣たる我が身とて進化するのは当然でしょう。

 完全な2足歩行、つまりは人間の仲間入りを果たしたのです。と言っても、つい先日の事なんですけどね。


「長かったなぁ……」


 しみじみと過去を振り返り、俺は感傷に耽る。

 あの大惨事の後、俺はこの家の財力を知った。

 次の日には職人が現れて壁に開いた穴を塞ぎ、5日後には親父が更に装飾の細かい大理石の大机を買ってきたのである。

 一体何処からそんな金が……と思わないでもないが、どうやら親父はかなりの高給取りらしい。流石は魔法大学の教員といったところか。

 『魔力結晶』改め『賢者の石』が引き起こした事件の爪痕は、5日という短い期間で完全に失われた。

 それどころか、1月後には隣の家族が引っ越しで家を手放したとかで、親父は金にものを言わせて土地ごと買い上げ、更地にして我が家の小さかった庭と合体させてしまったのだ。

 げに恐ろしきは親父の財布事情である。

 賢者の石は親父に回収されてしまったものの、俺としても左肩を見事に外してくれた曰く付きの品を手元に置いておきたくはない。新たな事実を教えてくれたという一点のみに感謝し、あれは無かった物として処理した。

 その新たな事実というのが、賢者の石は運動エネルギーを極めて失い難い、という性質だ。衝突だろうが空気抵抗だろうが、一度初速を得てしまうととにかく止まらない。

 ただ、元が魔力だからだろうか、『投げる』もしくは『打ち出す』といった明確な意思を持って初速を与えなければ、その性質を発揮しないようだ。

 ちなみにあの事件は3級という大した物ではなかった事が、あの程度の被害で済んだという結果に幸いしている。

 2級は直径が1ロル(こっちの世界での10ミリメートルらしい)だろうと、窓の外へ軽く爪弾いた程度で放物線を描かずに空へと消えていった。

 少々勿体ないとは思ったものの、1級でも試してみたが……苦笑いしか出来なくなった事を覚えている。赤子の指で弾いただけだったのだが、あろう事かロケットの如き速度で空へと消えていったのだ。それどころか、分厚い雨雲に小さな穴まで開いていた。

 正に唖然、である。取り扱いには一層の注意が必要だと俺は悟った。

 流石は『賢者の石』などという大それた名前を冠しているだけはあるということなのだろう。

 後は、賢者の石は3級だと時間経過では劣化しないという事もほぼ確認できた。かなりの期間放置しても、空気に溶けていかないのだ。

 では2級と1級はどうかと言うと、こちらは非常に緩やかな速度で劣化する。それでも、一月二月ではなく、もっと長い期間を要するらしい。

 気付けたのは偶然に近い。劣化がある程度進むと、持った時に僅かに魔力を吸われる感覚がしたのが切っ掛けだった。

 以前は固体になった時点で空気に魔力が溶け出さなくなると思っていたが、正確には『3級以上は溶け出しにくくなる』だったのだ。

 ちなみに、劣化で溶け出した分の魔力を補充すれば、元の等級に戻る。賢者の石はほとんど1級にしてドーピングに使っている俺にとっては、だから何だという話ではあるのだが。

 そんなこんなで、賢者の石自体については分かる事が増えてきた。

 そろそろ本格的に魔法についても学んでいく頃合ではないだろうか。

 魔法については文字を読めないと親父の書斎にある本が読めないので、目下勉強中だ。簡単な文字は分かるのだが、専門用語はもちろん、難しい単語がまだまだ沢山あるので、更なる勉強が必要だろう。


「今、何時だろう?」


 息を吐き、一度頭の中をリセットする。

 そろそろ寝る時間のはずだ。

 寝る前に恒例となっているドーピングをしたいのだが、今日はさせてもらえるだろうか。無理ならば、明日の朝に回すとしよう。

 逡巡していると、廊下から足音が聞こえてきた。間違いない。これでドーピングは明日に持ち越し決定だ。


「エイルー、絵本のお時間よー」

「あい」


 元気にお返事などしてみる。

 ここのところ寝る前の恒例行事となっている、母上様の絵本タイムだ。これは文字の勉強になる為、非常に助かっている。

 欠点は、ドーピングが翌日に持ち越されること。おそらくだが、俺がドーピング時に上げる叫び声が原因だろう。絵本を読み聞かせるだけなら、別に寝る前である必要は全くないはずだ。母上様なりの気遣いなのだろう。


「今日はどのお話?」


 寝る前の絵本はローテーションに近い。

 この世界での本は安い品ではないからだ。活版印刷ではあるのだが、所々印刷にムラがあるので手刷りという事が分かる。なのでページ数の少ない絵本ではあるものの、毎日違う本とはいかないらしい。

 内容は殆どが英雄譚で、誰々が何処々々で何々をやっつけました、とか。何処ぞの偉い人が疫病等の問題を解決しました、とかそんな話ばかりだ。

 正直、内容はどうでも良い。母上様には悪いが、俺が知りたいのは文字であって、御伽噺ではないのだから。


「今日はこれよ!」


 そう言って、母上様は絵本を胸に掲げる。

 それは、今まで家に無かった絵本だった。どうやらありがたいことに、買ってきてくれたらしい。


「ありがとうー」


 赤ん坊らしく、くだけた口調で返事をする。最初に大ポカをやらかしてしまったので、なるべく意識するようになってしまった。

 母上様は俺を抱きかかえると、ベッドへ寝かせ、俺に絵本の内容が見えるようにして開く。

 彼女が小さく息を吸うと、柔らかな声と共に物語が始まった。


「昔々、この世界『アマツチ』は海だけの何も無い世界でした」


 早速の新出単語だ。

 この世界は『アマツチ』というらしい。

 海だけということは、まだ地殻移動も隆起も何もなかったということだろう。


「そんな寂しい世界を不憫に思ったのでしょう、星の海から大精霊様が現れました」

「あいあい」

(また出たよ『大精霊様』……)


 他の絵本でもやたらと出てくる名前だ。

 これはきっと、大精霊様とやらを最高神として祀っている宗教があるに違いない。


「大精霊様は、大精霊様だけが使える魔法を使って塩の大地を作ってくれました。そして、人間や動物を作ってそこに住ませてくれたのです。大精霊様は皆が幸せそうに暮らしているのを見守ってから、星空へと帰っていきました」


 これは初めて聞く話だ。どうやら、大精霊様は創世の存在だったらしい。今までの絵本では『大精霊様の加護が~』といったぼやけた存在だった為、その存在自体の必要性が俺の中で問われていたのだ。

 だが、創造神であれば色々と納得がいく。それだけ偉い神様なのだから。


「長い長い幸せな日々。けれどもそこに、星の海からとっても悪い竜が舞い降ります」


 宇宙からの悪竜……俺の中で、その存在が像を結ぶ。

 間違い無い、キングギ○ラだ。


「悪い竜は、塩の大地より大きな体を持っていました」


 訂正。いかんせん大きすぎる。


「悪い竜は太い首を使って次々に人間や動物を食べてしまい、沢山の悲しみが生まれました」


 極悪としか言い様がない。他人が作った世界、いわば他人の家で勝手にタダ飯を食うとか、どういった神経をしているのだろう。


「そんな悲しみを哀れに思ったのでしょう。また大精霊様が星の海からアマツチに帰ってきてくれました」


 これは、大精霊様も激怒していたに違いない。

 俺の中で、大精霊様がゴジ○に重なって見えてきた。怪獣王である。


「大精霊様は悪い竜と戦いました。その戦いは大変なもので、塩の大地は裂け、海は荒れ、空には雷鳴が轟きました」


 まさに大怪獣バトルだ。周りの事なんて気にしない。勝てば官軍なのだろう。


「長い長い戦いの後、とうとう大精霊様は悪い竜に勝ちました」

「あぅ……」


 キングギ○ラもゴジ○も大好きな怪獣だった為、ちょっと悲しい。話し合いで解決してほしかった。

 そうか、キングギ○ラは倒されてしまったか……。

 俺が戸惑いの声を上げた為か、母上様は薄く笑むと、俺の頭を軽く撫でてくれる。


「けれども大精霊様も悪い竜との戦いで大怪我をしてしまい、星の海に帰る事ができません」


 やるじゃないかキングギ○ラ。怪獣王にそこまでの傷を与えるとは。登場回数も伊達ではなかったし、ボスキャラみたいな設定がされていただけのことはある。

 おそらくゴジ○を一番苦しめた怪獣はキングギ○ラ。異論は受け付けます。


「せっかく助けた人間や動物も、このままでは長い戦いのせいで海に溶けていく塩の大地と一緒に溺れてしまうでしょう」


 この世界の怪獣達はちょっとやりすぎだと思う。何もそこまで暴れなくとも……。


「大精霊様は人間や動物を助ける為、竜の体を8つに切って、それを海へと投げ入れました」

「えぇ!?」


 突然のグロ描写である。本当にやりすぎでしょう、大精霊様。


「竜の体は火の大陸、水の大陸、風の大陸、土の大陸、雷の大陸、氷の大陸、光の大陸、闇の大陸になりました」


 母上様の言葉通り、この世界には8つの大陸があるらしい。これは他の絵本でも書かれていた事だ。

 だが、ちょっと待ってほしい。

 それだとキングギ○ラも創世に一枚噛んでいるのではなかろうか。ギ○ラ教とかもあるかもしれない。

 他の物語では、竜は全て悪役になっていた。ギド○様だけでも報われていて欲しいと願う。


「そして大精霊様は自分の体も切り分けて、火の精霊様、水の精霊様、風の精霊様、土の精霊様、雷の精霊様、氷の精霊様、光の精霊様、闇の精霊様を生み出したのです」


 ちょっと理解できない。大怪獣達は、もっと自分の体を大切にした方が良いと思う。


(しかし、またしても『精霊』、か……)


 他の物語でも頻出する名だ。それが魔法の属性と同じなので、もしかしたら魔法の源か何かだと認識されているのだろうか。

 だが、それだと氷についてはどういうことになるのだろう。俺が聞いた話では、魔法に氷は無かったと思う。確か、7属性だったはずだ。


「突然大精霊様が居なくなって、人間達は困りました。悪い竜の血から、新しい竜達が生まれてしまったのです」


 8つ切られた程度では完全に死なないとは如何に。凄まじい生命力である。失礼ながら、プラナリアを想像してしまう。


「しかし、辛く苦しい竜達との戦いの中で、精霊様に選ばれた8人の勇者が現れます」

「8人も?」

「そうよ、竜はとっても強いんだから。エイルももし出会ったら、すぐ逃げなさいね」


 どうやら、この世界には竜が居るらしい。

 ちょっと期待はしていたが、まさか本当に実在するとは思わなかった。ならば一目見ておきたいと思うのは、俺が別の世界の記憶を持っているからだろうか。


「8人の勇者は、精霊様から8つの武器を授かります」


 伝説に登場するドラゴン退治には、伝説の武器が付き物だ。やはり、この辺はアマツチでも王道らしい。


「勇者達はその武器を使って、竜達を倒してくれました」

「今も竜は居るんだよね?全部は倒せなかった?」

「沢山居たからね。勇者様でも全部は倒せなかったんでしょう。今でも人の住めないような所には、竜が沢山いるのよ」

「そうなんだ……」


 8人の勇者と聞いた時は多いと思ったが、竜はそれ以上に多かったらしい。母上様の口ぶりからも、かなりの強さを持っているいう事が窺える。


「そして勇者達は魔王になって、人間達に魔法を教えてくれたのです」

「魔王!?」

「ええそうよ、一番凄い魔法使いになったの」

「へえ……」


 失念していたが、この世界での魔王とは憧れの存在だ。元の世界では『勇者』=正義で、『魔王』=悪とされていた。

 どちらも大きな力を持った存在である事には変わりが無いので、その線引きがこの世界ではされていないのだろう。


「人間達は魔法を使い、末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし」


 最後にそう言って、母上様は絵本をパタリと閉じた。俺はそれを確認して、少し眠そうになっている振りをする。毎度お決まりの、考える時間を得る為の演技だ。

 頭の中では、今までに読んでもらった絵本とは明らかに毛色の違う、先程の御伽噺について考えていた。


(勇者が魔法を人に教えた……勇者は魔王で、魔王という事は禁呪を使えたって事だ。さっきの話だと、精霊が与えた武器が禁呪という事になるのか?)


 だが、そう判断するには材料が少ない。

 一応、魔法のルーツは勇者だとは分かった。この御伽噺は頭の隅に置いておいた方が良さそうだ。

 俺が無言になった事で、母上様は俺が眠くなったと判断してくれたのだろう。絵本を小脇に抱え、最後に俺の頭を優しく撫でてから踵を返す。


「おやすみ、エイル」


 部屋の扉がゆっくりと閉められるのを確認して、俺はまた考え始める。

 賢者の石、魔法、文化と歴史の考察、文字の習得。一度に全部手を付けるのは無理があるだろうか。

 ならば、文字と賢者の石について学びながら、ついでに他の事が分かったらラッキー程度に構えよう。

 まだまだ俺にできる事は少ない。なればこそ、手の届く範囲からゆっくりと進めるべきだ。

 そう決め、俺は目蓋を閉じた。

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