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010 奇妙な夢と最初の言葉

前回のあらすじ

 Q 両親が部屋で内緒話してるんですけど……

 A 変な一人息子を心配しています

 此処は何処なのか。真っ暗な空間の中に、赤い水を湛えた池がある。

 血の池地獄。そんな言葉が頭をよぎる程、この光景は不気味だった。

 そして何より異様なのは、その中心近くで白い影が蠢いていることだ。


「骨が折れるのう……」

(…………)

「よくもまあ、瞬く間にここまで杯を広げたものじゃ。理想とも言えるのじゃが、やはり気の毒に感じるのう……」


 何やらぶつくさと呟きながら、白い影は池の上を歩いている。よく沈まないで居られるなとも思うが、影に重さもクソも無いだろう、と気付いた。

 フヨフヨと漂う影は、しかし確かな足取りをもって進む。どうやら、その意味の分からない行動自体が目的らしい。

 影が通ると、その跡に白い軌跡が描かれていく。あれは一体何の意味があるのだろうか。


「ふむ、この程度は取っておかねば困るかのう。残りは……誰じゃ、紫と赤なんぞ入れおった奴は! 余計な事を……」

(あの~……)

「むう……基本故、緑は仕方が無いのう。あの性悪にくれてやるのは少々癇に障るが……」

(あの!!!)

「ぬ? 何じゃ其方、見ておったのか。いかんぞ、此処は覗いて良い様な場所ではない故」

(あ、そうなんですか?ならすぐ帰りますけど……貴方は何者で何をしているんですか?)


 他人のモノローグに反応しているこの白い影、不気味にも程がある。

 そんな奴が何かゴソゴソとやっているのだから、気になって当然だ。おそらく此処は、俺の夢の中なのだから。


「何者で、か。まだ知らんで良い。何をしているのかもじゃ」

(えぇえ……)

「先に知れば、其方は歪む。導いてやっても良いのじゃが……それはあまりにも無粋じゃ。其方には人間と竜と魔物……全ての生きる者達と、そして『アマツチ』をその眼で見定めて欲しい故」

(アマツチ?)

「この星の名じゃよ。そして、この世界の名でもある。穢れてしまった世界じゃ」

(言ってる意味が良く分からないんですが……穢れ、ですか?)


 俺が首を傾げていると、白い影はフイと顔を背けてしまう。

 どうやら、まともに答えてくれる気は無いらしい。


「それもまだ知らんで良い。我は忙しい故、其方は目が覚めるまでそこらで呆けているのが良かろう」

(放置プレイは酷いと思うんですが……)

「う~む、やはり白も絶対に必要じゃな。うむ、絶対に必要じゃ。紫と赤は端に除けてしまって良いじゃろう。金は……味噌っかすで良いな。他も味噌っかすで十分故、要らぬ要らぬ」


 やだ、ゾクゾクしちゃう。あまりの空気扱いっぷりに、いっそ清々しい気持ちになってくる。

 サドっ気のありそうな白い影は、また池の上を歩き出す。暫らく三角座りで眺めていると、池の上は何やら円グラフの様相を見せてきた。白い線が領域を分け、不恰好な形を作り出している。


「ふむ、この形が良いじゃろう。やはり白が一番故、残りの半分はこれで決まりじゃな。赤と紫と緑もこの程度で良い。他も塵芥故、これで良い。ふむ、なかなかに上手くいったのう……」

(あ、終わったんですか?)

「何じゃ其方、まだ居ったのか。ふむ、これで終わりじゃ。どうじゃ、美しかろう?」

(いえ、ちょっと意味が分かんないんですが……あの辺は放置ですか?)


 俺の指差す先は、まだ線引きがされていない領域だ。

 かなりの広さがあり、線引きがされている部分の方が圧倒的に小さい。やっつけ仕事にも程があるだろう。


「いや、あれこそが其方の意味故、な。既に八つは杯の上に割り振られた。故にあの部分は不可侵じゃ。杯が脹らみ、その口が変わろうとも、この形は変わらぬ。其方が辿り着いた時、その意味が分かるじゃろう」

(は、はあ……)


 よし、何一つ分からない。コイツはちょっと電波さんが入っているのだろう。あまり係わり合いにならない方が良いかもしれない。


「あまり見るものではないぞ、この成れの果てを。楔に縫い付けられ、ただ流れ出る事しか叶わぬもの故。既に欠片を手にしている其方だからこそ、この哀れな姿を見てやって欲しくはない」


 その上、中二病まで患ってらっしゃる。

 楔とか欠片とか、俺が分かってる事前提で話をしているのだろうか。分かる筈が無い……俺はあくまで一般人であり、漆黒の歴史は全て前世の過去に置いてきた。なので、サッパリ分かりません。ちょっとコイツ意味わかんないけど格好良い事言ってんなとか、微塵も思ってませんから。


「此処は其方の深淵故、記憶には残らぬ。しかし、だからこそ我は其方に謝っておかねばならぬのじゃ。本来なら其方がこの杯の全てを思い通りに出来たの物を、我等の都合で決めてしまった故に」

(えっと……色々とツッコミたいんですが、あのでっかい部分と白がどうとか言ってた部分についてですか?)

「うむ。ああいや、白は最上の色故、其方も絶対に満足するじゃろう。感謝するが良い。我はあの大きな部分を言っているのじゃよ……すまなんだな」

(えっと……)

「じきに日は昇る。其方も現へと帰るじゃろう。此処での事は忘れ、今まで通りに精進するのじゃな」

(うわぁ……投げっぱなしですね)


 ちょっと酷い。相手が悪い奴ではない事は何となく分かるのだが、それでもこの扱いはどうかと思う。忘れてしまうとはいえ、もう少し事情を教えてくれても良さそうなものだが。


(俺が起きちゃう前に何か一言だけ教えるってのは駄目ですか?)

「う~む……」


 懇願してみると、白い影は少し悩む素振りを見せてくれた。どうやら、ちょっと考えてはくれているらしい。


「では、これだけは教えてやろう」

(お? お願いします!)

「居もせぬ偶像を信じぬ事じゃ。其処に意味は無い」

(ありがとう、サッパリ意味が分からん事を教えてくれて)

「礼は良い。では、我はもう寝る。人間の杯に干渉する事がここまで骨が折れるとは思わなかった故。次に現で会うのは、いつになるじゃろうな。10年か20年か……あるいは、もっと先か。其方が辿り着くのを待っておるよ」


 ちゃっかり締めに入ろうとする白い影。もうこれ以上の問答は無意味と知るべきなのだろうか。

 だが、これだけは確認しておきたい。


(また、会う事になるのか?)

「其方次第じゃな。もう行く。精進するのじゃぞ」


 それだけ言い残して、白い影は煙の様に消えていった。何とも奇妙な体験だったが、この意味はあの影と再会すれば分かるのだろうか。

 モヤモヤとした思考は意味を成さず、気付けば俺の意識は浮上していく。白い影の言う事が確かならば、このまま此処での事は忘れてしまうのだろう。少し残念な気もするが、この蟠りを忘れられるのは良いことなのかもしれない。

 そんなことを思っていると、ゆっくりと視界が白んでくる。夢は終わって、また一日が始まるのだろう。






「あ~、あ~、マイクのテストちうぅ~」


 俺以外誰も居ない部屋の中、声を張り上げる。

 そう、まだまだ舌足らずながら、とうとう喋れるようになったのだ。グッバイ獣語、こんにちは人間語。

 長かった……本当に長かった。


「ギャひひ……」


 嬉しさのあまりにガッツポーズしてしまう。

 ドーピングを繰り返し、初期からは信じられない程に増加した魔力量。とうとう手に入れた人間語。まだ4WDの呪縛は解けないが、行動範囲も増えた。

 おかげで母上様から読んでいただく絵本から簡単な文字を覚え、その後家の中を爆走して絵本探し出し、復習をするなんて事も出来ている。

 輝かしい進歩だ。いや、進化と呼ばせて頂きたい。

 あれから4ヶ月程は経っただろうか。

 その間、ドーピングと平行して魔力結晶についても調べていた。と言ってもまだまだ解らない部分は多々あるのだが、1級魔力結晶はドーピングアイテムと見て間違いない。

 同じ大きさの1級が持つドーピング効果は、3回までだ。

 1回目は5~6割増加し、2回目は2~3割増加、3回目は1割程度となり、それが限界。それ以降は全く効果が無かった。

 なので、3回目以降のドーピングでは1級魔力結晶の大きさを上げる必要がある。

 だが、毛程にもならない程度でも大きさを上げると、増加した魔力量だろうと完成まで2日掛かるようになるのだ。おそらく大きくなればなる程、二次曲線と同じ形で魔力結晶生成に必要な魔力は増えていく。なので、一気に大きさを上げるのは苦しい。

 またそれとは別に、1級魔力結晶を取り込む方法は舐めるだけで良いという事も分かった。口に入れられないサイズになった時点でストップしようと思っていたドーピングだったが、これのおかげで現在も進行中である。

 今はビー球程度の大きさを摂取しており、これもまだまだ少しずつ大きくなっていくだろう。

 現在までの増加量は凄まじく、正に倍々ゲームの様相を呈しているのは素晴らしい。

 一応は効果のある3回目までを目安とし、二日掛けて大きさを上げた1級魔力結晶を作って摂取、次の2日はその日の魔力で作れる限界の大きさの1級を作って摂取……このループだ。

 魔力量が増える原理についてだが、これは推論の域を出ない。一応、個人的には風船を膨らませる感覚だと思っている。

 体内で魔力結晶に取り込まれていた魔力が爆発し、その勢いで魔力量という風船が膨らんでいく。一度膨らんだ魔力量は元に戻らず、単純な容量の増加という結果として残る。そう考えるのが、一番簡単だと思った。

 ただ、この推論が正しいとなると、怖いのは破裂する事だ。流石に破裂する寸前で何かしらの兆候が見えるはずなのだが、現在の所は終わりが全く見えてこない状況だったりする。

 もしかすると、魔力結晶の使用制限は無いのではなかろうか。

 そして、3級と2級の魔力結晶についてだ。

 1級では無理なのだが、2級と3級は合成ができる。これは昨日判明した性質だ。

 1級生成の片手間、気が向いた時に小さな2級と3級を作っていたのだが、昨日手の中でジャラジャラと遊んでいたらくっ付いていたことで判明した。

 これはと思い、再び別々の3級を軽く押し当ててみると、魔力を流す事で一つの球体になったのだ。では2級ではどうなのかと試してみると、2級でも同様だった。ただ、2級と3級では無理らしい。

 合成すると体積は増える為、かなりの大きさまで育てる事が可能だ。……問題は、この性質に利点が見当たらないことか。

 この性質を利用して特大の3級魔力結晶を作り、それを1級にしたとしよう。そしてそれを摂取したとしよう。

 うん、多分死ぬ。

 毛ほどでも大きさを上げるだけで死ぬんじゃないかという衝撃が全身を駆け巡るのに、そんな物を摂取するなど真っ平御免だ。

 しかしながら、人間とは愚かなもので……。


「…………」


 ちらり、と横を見る。

 そこには、成人男性の拳と変わらないサイズの3級魔力結晶があった。


「どうやって隠しょう……」


 面倒な事になってしまったのではなかろうか。調子に乗って手持ちの3級魔力結晶を全て合成したら、これだ。

 これは正直どうすれば良いのか分からない。

 枕の下に入れる……寝心地が最悪になる。布団も同様。

 ベビーベッドの下……母上様が掃除に手を抜かないのでアウト。

 玩具箱の中……すぐ見つかる。

 ……いや待てよ、あの場所なら見つからないのではなかろうか。

 そう、あのウサ耳ボールの中ならば。

 そうと決まれば話は早い。俺は早速とウサ耳ボールを玩具箱から取り出し、『風刃』で表面の布に大きな切れ目を入れた。中から大量の綿を取り出し、それに包む形で上手く大型3級魔力結晶を隠す。


「ふぅ……」


 これで良いはずだ。後は泣き叫ぶ事で母上様を召喚し、縫ってもらえば良い。

 若干良心が痛むが、こんな物を作っていると知られるよりはマシだろう。そう自分に言い聞かせ、大きく息を吸い込む。


「めギャ~~~~!!! うギャ~~~~~!!! ギャお~~~~~!!!」


 裂帛の気合と共に声を張り上げると、大音量で獣の叫びが家中を駆け回る。


「はいはい~、エイルどうした……ああ、破けちゃったのね?」


 期待に違わず、母上様の召喚に成功した。

 母上様は落ち着いた仕草で破れたウサ耳ボールに目をやると、小さな足音を残してこの場を後にする。裁縫道具でも取りに行ったのだろう。

 これで良いはずだ。ボールの形は少々不恰好になるだろうが、元々ウサ耳のせいで不恰好だったのだから気にならないはず。

 ほどなくして、母上様が小さな箱を持って現れた。


「大丈夫よ、エイル。こんなのすぐにママが直してあげるから」


 何とも頼もしい言葉だ。母上様は慣れた手付きでウサ耳ボールを縫合していく。


(流石母親だな……まだ若いのに、手馴れたもんだ)


 かなり大きく切り裂いたはずだったのだが、どんどんとその裂け目が小さくなっていくのが見て取れる。

 そこでふと、大切な事を忘れていたのを思い出した。


(そうだ、俺は喋れるようになったんだった。何て言葉を最初に聞かせてあげようか……)


 やはりこの場は「ありがとう」だろうか。いや、そこに「お母さん」と付け加えるべきか。親父には悪いが、先にそう母上様に聞かせておくのも良いかもしれない。

 どう言えば喜んでもらえるだろう。いや、単純にもっと簡単な言葉の方が良いだろうか。


「…………」


 母上様の手元を眺めながら、そんな思考を続けていた。

 気付けば、ウサ耳ボールは以前と変わらぬ姿に戻っている。自信満々とも取られる言葉だったが、納得できるだけの手際だったと言えよう。


「ほらエイル、もう大丈夫よ~」


 母上様はこちらまで笑顔になるような微笑で、元に戻ったボールをこちらに転がしてくれる。

 ころころと、俺の手元で丁度止まる程度の勢いだ。


(よし、これを受け取ったら言うぞ。『ありがとう、お母さん』これで決定だ!)


 ちゃんと言えるだろうか。不安は拭い去れない。

 だが、そう決めたのだ。優しい両親に対して、俺は大きな恩を感じている。

 ころころと近付いてくるウサ耳ボール。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 今までの感謝を込めて、告げよう。

 指先が、ボールに触れる。


「ありが……うぅお!!??」


 瞬間、俺は弾き飛ばされていた。


(何が起こったんだ!? クソ、肩が外れてる!)


 猛烈な痛みを伝えてくる左肩に回復魔法を施し、即座に間接を接合する。幸い、傷みはすぐさま和らいだ。

 しかし、一体何が起こったのだろうか。母上様が攻撃してきたとは考えにくい。では、先程の衝撃の正体は何が原因なのか。

 混乱する頭を落ち着かせようとしていると、背後から轟音が響いた。


「なっ…………!?」


 母上様と俺を結んだ直線上、背後の壁の下部に大きな穴が開いている。

 本当に母上様が何かしたのだろうか。・・・いや、我が子が死ぬかもしれない様な事をするはずがない。

 母上様を横目で見ると、先ほどの微笑みのまま顔を青くして停止している。

 俺は悪いとは思いながらも母上様をそのままに放置し、すぐさま4WDに火を入れて部屋の外に出た。


(この直線上にあるのは親父の書斎だ)


 廊下に出るのとほぼ同時に、またもやドゴンという破壊音が聞こえた。


「うおぁ!?」


 そして、続け様に3度目の轟音と親父の間抜けな悲鳴。

 書斎の扉が開いているのを幸いとして、俺は全速力で内部に身を滑り込ませる。


(これは……)


 見ると、書斎の壁にも穴が開いていた。

 それどころか、最近出世したらしい親父が奮発して買ったという、堅牢な大理石の大机が粉砕されている。その上本や書類まで散らかっているという惨たらしい光景の中、親父が呆然と立ち尽くしていた。


「い、一体何が…………?」


 親父がそんな呆けた声を上げた時だっただろうか、混乱する俺達に続いて母上様が書斎に現れた。


「な、何なのあのボールは!?」


 俺はその一言で、何とか我に返る事に成功する。


(まさか……)


 4WDに再び力を入れ、原因となったであろう物を探す。砕けた大理石の破片を縫うようにして進み、部屋に一陣の風を巻き起こしながら進んだ先……親父の座っていたであろう椅子の下で、それは見つかった。

 魔力結晶だ。


(椅子の足が曲がってる……いくら細い鉄パイプだからって、壁2枚とこの机を貫通してるんだぞ。それも、初速はあんなに遅かったっていうのに)


 だが、この事件の原因が魔力結晶である事は間違いない。よくよく観察してみると、ウサ耳ボールの綿や切れ端が壁をブチ抜いた所から点々と続いているのだから。

 親父はまだ呆然としていたが、母上様はなんとか落ち着いたらしく、弱々しく俺に声を掛けてくる。


「エイル、危ないから……」


 母上様はそう優しい声を出した所で、俺の視線の先にある物を見つけたようだ。


「何これ…………こんな物がボールの中に入っていたの?」


 窓から差し込む光を浴び、輝く3級魔力結晶。この大惨事を引き起こした原因は、母上様の目にはどう映っているのだろうか。


「テッドも大丈夫だった? 怪我とか……してないわね、うん」

「あ、ああ。何があったんだ? もしかして、エイルが魔法でもぶっ放したのか?」


 母上様の一言で現実に戻ってきた親父は、おそらくこの中で一番疑わしい俺に視線を送る。

 もはや言い訳の出来ない状況下において、俺は思わず顔を背けることしかできない。

 どうしたものか・・・そう悩んでいると、母上様が親父を嗜めてくれた。


「違うに決まってるでしょ! これよこれ! 一体何なのよこれ……」

「わ、悪い。えっと……ん?」


 親父は俺に一言謝ると、魔力結晶へと視線を走らせる。

 暫らく目を眇めて3級魔力結晶を観察し・・・そして、急にその目を見開いた。


「えっと……うん……」


 親父の指先が震えているのは気のせいだろうか。そのまま覚束ない足取りで魔力結晶に近付くと、それに恐る恐るといった仕草で触れている。


「『賢者の石』……だ……ね…………」


 そして、親父は気絶した。


「キャーーーー!!! テッド!!!」


 絶叫。

 絶叫である。

 母上様は足元の大理石の破片を蹴散らしながら、親父を抱え上げた。


「良かった! 死んでない!」


 確かめるべきはそこなのだろうか、と突っ込みたいのは山々なのだが、とにかく親父は無事らしい。

 母上様は親父をお姫様だっこで抱え上げると、部屋の隅に横たえる。何とも男気の溢れる母上様だ。


「ふう……何よ? 賢者の石って。誰のいたずらなのかしら。エイルは大丈夫だった? さっきかなり飛ばされてたけど……怪我とかないわよね?」


 ありがたいことに、全力前進していた4WDの事も心配してくれている。

 俺はこの惨事が自分のせいだと気付かれなかった事に安堵し、心を痛めながらそれに答えた。


「イエス、ユアハイネス」


 何故、舌足らずの口が流暢に動いたのか・・・それは全くもって分からない。

 とにかくそれが、俺が両親に放った初めての言葉だった。

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