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テルマ・輝真・てるま  作者: コリドラスA
第二章  Kapitel Ⅱ
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第五節『偶然』 Abschnitt Ⅴ: “Zufalls”

第伍節『偶然』

Der fünfte Abschnitt : “Zufalls”


 数ヶ月してとある知らせが(もたら)され、ホーエンテムペル城に震撼(シンカン)が走った。

帝國騎士(ライヒスリッター)エトガル・ギュンター・フォン・ヴァイゲルが7日後の朝10時にホーエンテムペル城を訪問する予定である。如何か……』……と、先触(さきぶ)れの使者が訪れたからである。……エトガルとは……例の縁談の相手である。エルメンガルトに予定を()くと……『その日は全く何も入っていない』……との即答。迂闊(うかつ)だった……使者の前でそう答えられては、断れる筈もなく、()()()は渋々OKを出した。

 そうなると……エルメンガルトらメイド軍団は女主人(おんなあるじ)のお見合いセッティングをせねば……と、騒然となった。エルメンガルトは、サヤカとヴェローニカを指揮して、山のような必要物資リスト作成して買い出しやら楽団の手配やらに取り掛かった……。厨房を仕切るユリアーネはジェーシーと一緒に腕に撚りを掛けた御馳走の考案、及び食材の吟味。アンネゲルトはフロレンツィアと一緒に、テルマのドレスの制作に取り掛かった。

 テルマ自身、断れないからという理由で受けることになってしまった縁談だが……正直……困っていた。メイド達は女主人(おんなあるじ)の晴れの舞台にやたらハッスルしていたが、テルマからすれば、

『男と結婚するなんて困った……どうやって断ろうか、断らせようか……でも、相手に恥を掻かせる訳にも不可(いけ)ないし……。』……と、葛藤している真っ最中だったりする。

 色々と図々しくてはっきりモノを言う()()()ではあるが、意外と大切な人たちには恥ずかしがり(シャイ)で、

『自分はイケメンの男性よりも可愛(かわい)い女性が大好きです‼』……とは、ずっと言えずに居たからである。


 不細工メイクしてわざと嫌われる振る舞いをしようか?……とか、ダンスで足を思いっきり踏みつけて負傷させようか?……とか、会食中の無作法な噫気(ゲップ)放屁(オナラ)攻撃はどうか?……などと、小学生の悪戯(いたずら)レベルの作戦を考えていたが、全く(らち)が明かず、日時は刻々と過ぎ……当日になった。


✳・……・✳・……・✳・……・✳・……・✳


「ハァ……。」


「テルマ様……。」


「ハァ……。」


「テ・ル・マさまっ。」


「ハァ……。」


「テェ~ルゥ~マァ~さぁ~まぁ。」


「ハァ……。」


「テルマ様‼‼いい加減に返事をして下さいまし‼‼」


「わ、わわわわゎ…………なんだ、エルメンガルト……吃驚(びっくり)させないでよ‼」


「それは、こちらの台詞(セリフ)でございます。テルマ様がため息ばかりで、呼び掛けてもお答え頂けないから……つい、声が大きくなってしまいました。」

「……ぁ……ああ、御免(ごめん)なさい……。つい……考え事を……。」

「幾ら、素敵な殿方とのお見合いを控えているとはいえ、もう少しシャキッとせねば、肝心の殿方に嫌われてしまいますよ。……それとも……何か別のお悩みですか?」

「……いや……ちょっとね。」

「この、エルメンガルトに全てお話ください……きっと、お力になります。」

「……いや、……その……ちょっとね、ホントにちょっとね……まぁ、ね。」

 朝から繰り返されるこんな感じの会話……。テルマの心中など露知らず、勝手に準備は整えられてゆく……。豪華な食事やら、演奏会の予行演習を始める楽団やら。飾り付けられてゆく舞台設営やら……。


「アンネ(アンネゲルトの愛称)(いま)何時頃?」

 テルマとエルメンガルトの遣り取りを見物していたユリアーネだが、ふと気になって隣りにいたアンネゲルトに問い掛ける。

「えーっと……10時40分ぐらいかしら?」庭の日時計(ひどけい)(のぞ)き込んでアンネゲルトは答える。日時計(ひどけい)だから……均時差を含めても20分程度までしか誤差はないはずである。明らかな遅刻だ……一応……マナー違反である。

「ちょっとお腹減ってきたわね……こんな御馳走目の前にして……我慢するなんて、なんて……ひどい仕打ち……ああ、早く食べたいわ……。」アンネゲルトは思わず(つぶや)く。テルマと同じ食卓で食事を摂るわけではないが、女主人(おんなあるじ)や客人が食べ残した御馳走や、(あま)りものとか予備の食事などがメイド達に回ってくるのは、会食が終わった後……当然、お見合いや会食が始まらないことには、彼女達も飢えたままである。

「たぶん、もう少しで白馬に乗った騎士樣が現れて、会食が始まるわ……そしたら、奥で余り物でも出すから。それまで辛抱(シンボウ)なさいな。」ユリアーネは笑って応対するが、

「どうせアンタは『味見』と称して、もうちゃっかり食べちゃってるんでしょ。」

「そ、そんなに食べてないわよ。」……やっぱり食べたようである。語るに落ちた……。

「それにしても、白馬の王子樣は遅いわね。」話題を強制的に方向転換試みるユリアーネ。

「何、話を()らそうとしてるの?……ユリア(ユリアーネの愛称)⁈」

「……いや、遅いな……っと思って。」

「……まぁ……確かに遅いわね。」


✳・……・✳・……・✳・……・✳・……・✳


「……遅い遅い遅い遅い、お腹減ったお腹減ったお腹減ったお腹減ったぁ……。」アンネゲルトが(つぶや)くと、食事の支度をするユリアーネも流石に予定を狂わされて少しイライラして応じた。

「本当に遅いですね御婦人(ダーム)との会食に遅刻するなど、全くマナーがなっていないわ。……ちょっと、料理など温めなおしてきます。肉も火を通し直さなくては……。」

「エルメンガルトさん……どうも、かなり遅くなりそうですから、この場はホムンクルス達に任せて……交替でみんなに食事を摂らせては?」アンネゲルトは提案する。

「時刻は……16時30分……6時間30分の遅刻ですか……(あま)りにも遅刻しすぎですわね。……ええ、一旦屋外の会場は片付けて、屋内の大広間に準備を始めましょう、合間に交替で食事を済ませましょう。じゃ、アンネゲルトさん会場変更の準備お手伝いいただけるかしら?あと、テルマお嬢様のお色直しをお願いしますね……。」

「はい……分かりました……。」

 食事が更に遠のいたと少ししょげるアンネゲルト。




 だが……その日(つい)ぞ来客は来なかった。




 後日、正式に縁談のお断りの手紙が()()()の元に届いた。

 色々修飾文でゴタゴタ飾り立てて書いた非常に読みにくい書面であったが、要約すると。

『テルマ嬢とのお見合い会場に向かう道中で、可愛いネコを見かけました。テルマ嬢への手土産(てみやげ)にしようと追いかけましたが、殊の外凶暴なネコで、返り討ちにあって重症を負ってしまいました、ついでにネコに手玉に取られたトラウマで色々自信をなくしてしまい、今はうつ狀態で寝込んでいます。だから今回のお話はキャンセルさせてください……。』……と、いうことらしい。


 ……もしかすると、『()()ちゃんず』の誰かがやっちゃったのかもしれない。


 チャンチャン。




 ま、結果オーライということで……。


いつもお読みくださって有難うございます

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