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テルマ・輝真・てるま  作者: コリドラスA
第一章  Kapitel Ⅰ
13/18

第十二節『結果』 Abschnitt Ⅻ: “Folge”

第拾貳節『結果』

Der zwölfte Abschnitt : “Folge”


 目を開くと知らない天井…。


「目を覚まされましたか殿下?随分と楽しそうな夢を見られていたご樣子でしたが…。」

 ヴィルヘルミナは暫くぼーっとした意識で、『何してるんだろうアタシ…早くテーブルの片付け終わらせなくちゃ…』などと考えていた…が、漸く、自分がヴィルヘルミナではなくブリュンヒルトだ…と、思い出した。

 首を巡らせ、声の主をテルマだと認識する。


「夢…を見ていたのか?」

「はい、施術によって全身に(きず)が出来ました。暫く(きず)の痛みに激しく苦しむことになりますので、(きず)()えるまで姬には薬でお休みになって頂きました。薬の力で『眠り』と『除痛』をしてまいりました…『除痛』の副作用でイロイロ夢を見ることが多いのですが、殿下も何か夢を見られていたのですか?」

「…そうか、薬の副作用だったのか…夢か…夢を見ていたのか…」

 まだ夢から()めやらぬ感じで(つぶや)くブリュンヒルト。


「手術は成功です、無事終わりました、ブリュンヒルト樣。鏡をご覧になられますか?」

「ああ、頼む。」

 渡された手鏡を覗き込んだブリュンヒルトは、そこに神の御業かと思われる程の美しい(かんばせ)を見た。豊かな黄金の髪に囲まれた碧い瞳の少女…完璧(カンペキ)なバランスの扁桃(アーモンド)型の(まなこ)、愛らしい高さの整った鼻、魅惑的な口元…木目細(きめこま)かな肌、そして何より均整の取れた(しな)やかな肢体。

 ブリュンヒルトは言葉を失った。

「如何ですか?」

 テルマの問いにも、暫くの間をおいて。


「見事じゃ…。」そう呟くのが精一杯(せいいっぱい)であった。


✳・……・✳・……・✳・……・✳・……・✳


 最初はだれもが耳を疑い、その事実を信じようとしなかった。


 あまりの変化に皇帝オットーⅡ世ですら替え玉によるすり替えだと主張した。

『在り得ない…あの鯔姬(とどひめ)が、このような姿に変身するなどと…』情けなくも実父である皇帝の言葉である。


 ついにはその真偽を疑う皇帝陛下により査問会が開かれた。査問会には皇帝オットーⅡ世以下、古参の宮廷貴族たち六人と、テルマ、そしてブリュンヒルト皇女本人が召喚された。

 会は、休憩を含みながら丸三日間かけてじっくりと行われ、審議が重ねられた。


 最初、同一人物とは信じられない程の凄まじい体格変化、子供のころの火傷の(あと)が消えたこと、目立つ場所にあった(いぼ)が消えたこと、性格が変わったように感じられることなどが一斉に追及されて、一時テルマは窮地に立たされたが、証人として施術の実例、ブリュンヒルト付きの侍女ツェツィーリエとその実家の父親であるウルップシュタット男爵も証人として招かれて、美容施術の術前・術後の証拠写真…いや写絵(うつしえ)を持参してのプレゼンを行った上で、さらに会場での実演…査問に携わった貴族の一人…顔に(あざ)のある人物の顔からその場で(あざ)を除去する施術を行い、また別の一人のわかりやすい鼻の頭の(ほくろ)(先から毛が生えている奴)を簡単に消して見せると、会場の空気は大きく変わり始めた。とどめは、オットーⅡ世からの課題、皇帝家に血の繋がる者しか扱えぬ筈の皇帝の玉笏・その古代の特殊咒紋が刻まれた宝玉を輝かせること…を、ブリュンヒルトが軽々とクリアして見せたことで、(さすが)の懐疑的な皇帝も納得した。これで、ここに居る絶世の美少女が、かつて鯔姬(とどひめ)と陰口を叩かれたブリュンヒルトが本人であることが、晴れて証明された。


 一旦(いったん)、事実が証明され、皇帝が公式にそれ認めると…それは、驚愕の業績となった。


 救い難い醜女(しこめ)の皇女を女神の(ごと)美姬(びき)に生まれ変わらせた奇跡の咒紋術師…。テルマは皇帝より改めてお褒めの言葉を(たまわ)ることとなった。

 忘れられていた天才少女、第十三席宮廷咒術師テルマの名が再び皇帝の記憶に(きざ)まれる時が来たのだ。鯔姬(とどひめ)ことブリュンヒルト皇女を、神殿の女神像の(ごと)き美姬に生まれ変わらせた…という驚愕の事実によって…。だが、テルマの名が表に出ることはなかった。皇帝によって事実に対し緘口令によって秘せられたからである。


 実績には結果が伴う…(たと)え、それが栄誉ある実績で在れ、結果には光の側面があり、そして(かげ)の側面も実在する。誰でも女性でありさえすれば、絶世の美女に変身させることができる。…などという能力は、国を破滅させる傾国美女(けいこくのびじょ)を大量生産出来る危険な力に他ならない。皇帝からすれば国家レベルの危険を手放しに放置出来るはずはなかった…。

 テルマ・アンジェリク・ツゥ・アルトブルグはそうした簡単な事実を失念していた。


 テルマはその功績によってホーエンテムペル城伯(ブルググラフ)の爵位、そして、郊外に風光明媚な別荘を(たまわ)った。しかし、同時に、貴重な技を持つ咒術師の厳重な保護を理由に、その別荘での待機を命じられた。これは…はっきり言って蟄居閉門の幽閉狀態である…。護衛という名の監視兵もたんまりと付けられた。あまり社会的に暗躍するなよ……ということである。

 最初、オット-Ⅱ世はテルマを側室として後宮に囲い込んで監視しようと考えたとも言われているが、現皇后以下樣々な妾妃・側室達に猛反対され、更にブリュンヒルト皇女の口添えもあって、この処分になったとか、そうでないとか…いいのか悪いのか。

 兎も角、()()()に行動の自由はなくなり…皇帝の息の掛かった仕事以外を引き受けることは非常に困難なった。

 古来、美女は重要な戦略兵器の一つなのである。それを簡単に製造しうるテルマには、行動の自由など認められるはずもなく…意図せずに自分の自由失う準備をしていた…と、いう事実に、()()()自嘲(ジチョウ)した。


 それ以降、彼女に与えられた仕事はもっぱら、後宮の女たちの美容整形(メンテナンス)…容貌の衰えてきた妃達の『お手入れ』…と嫁入り前の皇女達の『調整作業』である。

 ただ、こうした形で作業量が抑えられることがなければ、(あら)ゆる世界に於いて共通する欲望…古今東西(ここんとうざい)を問わず潜在的に存在する女性達の美に対する貪欲さが、いずれ牙を()いて()()()に襲い掛かってきたであろう…ことを考えると、まあ、これでもよかったのではないか…と、考え直して気持ちを落ち着けるのであった。

 多分、事実が(あきら)かにされていれば、娘の輿入(こしい)れを狙う貴族達が大挙して押し掛けて、多分()()()の生活は滅茶苦茶になっていたであろう。


 さしあたり、館の中では自由は保障されたていたし、仕事の内容は()()()からすれば軽いもので、時間的束縛も少なく、要望すれば大抵のものは手に入った…。その境遇と結果にとりあえず満足することにした。


※ 登場人物

❶ オットーⅡ世/Otto Ⅱ

   現皇帝。ブリュンヒルト姫の父親。

❷ ウルップシュタット男爵/Baron von Urupstadt

   ツェツィーリエの父親、ロスカスタニエ地方の男爵の一人。

❸ ホーエンテムペル城伯/Burggraf von Hohentempel

   ()()()の手にした新たなる地位。


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