エピソード13 覚醒
Episode13
登場人物
加地 伊織:主人公
池内 瑠奈:アイドル刑事
難波 優美:ゴスロリ美少女
吾妻 碧: 幼馴染み
源 香澄:痴女
舘野 涼子:ヤンデレ
室戸 達也:無口
山猫 :敵
碧の膝に抱かれていた。 けれども実際の自分の感覚は、既に柔らかな碧の身体の感触とは別の処にあった。 自分はそれを斜め後ろ上方から見下ろしていたのだ。
碧が、遠くで叫んでいるのが聞こえる。 まるで水中で聞く声のようだ。
息が止まっても直ぐには死なないらしい。 視覚、聴覚と次第に感覚は薄れていくが、脳に酸素が送られ無くなって、脳細胞が死に行く間も、ある程度何が起きているのかは認識できるらしかった。
不思議な事に青龍がひときわ輝いて見えた。
まさか、自分自身が幽霊になりかけているからだろうか? …などと考えたらすこし可笑しくなった。
本当に青いんだと、改めての感想。 「貧血トカゲ」とは優美の命名だが、青ざめているというよりは、もっと鮮明な宙のサルビアブルーに見える。
青龍のスピードは、恐らくビジョンの中でも群を抜いているに違いない。 一瞬の内に改造人間の身体に飛び移ると、青龍は甲斐甲斐しく何かを始めた。 それはとても愉快な現象だった。
改造人間の太い腕から、木の根が生え始めたのだ。 そしてあっと言う間に大地に根を張り伸ばし、改造人間の身動きを封じてしまった。 彼は力任せに腕を引き抜こうとしたのだが、既に木の根と化した腕はもろくも千切れてしまった。
更に木の根は成長を続け、その芽と枝が再び改造人間を取り込み、溶け込むように同化していく。 既に反対側の腕も大地にしっかりと根をはる樹に成り果てていた。
見る見るうちにそれは、しゃがみこんだままの格好で、1本の歪な樹木へと姿を変えてしまった。
香澄:「この力は、一体何なんだ?」
碧:「命の力! 作り変える力よ。」
ところが、改造人間はまだ完全には沈黙していなかったらしい。 改造人間から作り変えられた樹の幹が裂けると、内からもう一人の小さな人間が現れた。 その彼も、身体の半分は既に樹木と一体化し始めている。
彼はホースの様なものを抱えていた。 そうして最後の力を振り絞り、消防自動車の放水の様にそこから何か透明な液体を発射した。
その液体は、身が竦んで動けなくなっていた瑠奈を直撃する。
山猫:「一応、解説しておこう…
それはまだ試作テスト中のもの何だけど…まあ、良い実験の機会だろう。 ちょうど、電波姫も失神していることだし…。」
山猫:「それは粘菌型ロボットだ。 勿論いくら斬ってもまたくっ付くから無駄だよ。 少々動きが鈍いのと、まだまだ攻撃能力に工夫が必要なところが課題だが、今日は特別に試作中の媚薬をくっつけてみた。 君らを殺すと「彼ら」にしかられるので、ちょっと良い気持ちな幻覚をみてもらおうって訳だ。」
透明でべたべたした粘液が瑠奈の顔と身体に取り付き、のたうち、入り込み、奥深くまでを汚していく。 なす術も無く悶え苦しむ瑠奈。
最初液体のように見えていた粘菌型ロボットは、やがて一箇所に固まり何かの形を成す。 それはまるで、モルモットくらいの大きさの…巨大な透明ナメクジ。
それが瑠奈の口から這いずり出してきて、零れ落ち…彼女の胸元へ滑りこんでいく。
瑠奈は、白目を剥き、涎を垂らし、小刻みに痙攣を始める。
やがて、巨大なナメクジは失神した瑠奈の足元から再び姿を現した。 今度は伊織の身体を膝に抱く碧の方へ向かっていく。
碧は伊織の身体を庇ってその場を動こうとしない。 もう、そんなモノは手放して良いんだと伝えたかった。 そんな事すら出来ない自分がもどかしい。
香澄の黄龍がナメクジを攻撃する。しかし粘液状の身体を傷つける事はどうやら不可能のようだ。
碧:「上等!」
碧の決意を合図に青龍がナメクジに飛び掛る。 そうして再び始まる愉快な現象。
見る見るナメクジの透明な胎内に鮮やかな芽が吹き出し、その白い根はギラギラと繁殖して…巨大なヒヤシンスへと変化した。
そうして、とうとう…沈黙する。
山猫:「まっ、…いいだろう。 試作品だし…。
今日のところは、君らの勝ちって事にしておこう。 でも、僕はあきらめないよ。 色々興味深いデータも取れたしね。」
山猫:「今、もっと凄いメカアニマルを準備しているんだ。 近いうちに、またリベンジに来るから、その時まで御機嫌よう!」
終わったのか、
碧が泣いているらしい。 既に視力は失せて、暗闇の中…泣き声だけが聞こえていた。
零れ落ちる涙が伊織の顔を濡らしているに違いなかったが、
でもそれも…もう感じない。
もう眠ってしまっても…良いだろう。
優美は大丈夫だろうか。 …痛かったんじゃないかな。
曖昧なままの認識はそこで終わっている。
…気がつくと俺は病室のベッド に横たわっていた。
右手を握ってみる。
それで、右耳に触れてみる。
一体自分は死んだのか、それとも生きているのだろうか、生きているのだとして、今までの出来事は実際に起きた事なのだろうか、
それとも、腕を切り落とされた事も、死んで空中から一部始終を眺めていた事も、…全部夢だったのだろうか。
もしかして夢だったとするなら、自分は一体、いつから夢を見ていたのだろう。 幻想的な美少女との出会いや、幼馴染みからの意味深な発言、コロウの不良をタイマンで打ち負かした事も、全て、妄想だったのだろうか。
左腕で目頭を押さえる。
…何だか違和感を覚えた。
見ると、何故か手錠がかけられている。
手錠の反対側には、…もう一つ小さな手。
飛び起きる。
自分の隣に涼子が眠っていた。 自然と、涼子に覆い被さる格好になる。
不意に…赤ん坊の様な、ベビーパウダーの様な匂いが鼻腔に飛び込んできた。 思わず抱きしめてやりたい、護ってあげたい。 …そんな本能をくすぐる匂い。
見つめている内に、涼子が目を覚ました。
無言のまま、表情も変えず…じっと見つめ返して来る。
碧:「ちょっと、あんた、何寝込み襲おうとしてんのよ!」
伊織:「碧? へ、いや違う。」
運良く、部屋に碧が入って来た。
伊織:「俺、どうやって助かったんだ?」
涼子は、碧が持って来たヨーグルトを食べるのに忙しい。
ぼおっとその仕草を眺めながら、一応聞いてみた。
碧:「知らないわよ。 私だって無我夢中だったんだから、細かい事なんて覚えてないわ。 ただ…、」
伊織と並んでベッドの脇に腰掛ける碧の膝に、半透明のトカゲが現れる。 どうやら眠っている様だった。 …ビジョンも眠るのだろうか?
碧:「この子に一生懸命お願いしたら、助けてくれたのよ。」
碧が穏やかな感情で伊織を包み込む。 そっと、もたれかかって来る温もりが幾つもの緊張を解きほぐして行く …
碧:「ねえ、キスして良い?」
伊織:「なんで?」
碧:「何でも良いじゃない。 一回だけ、やらせろ!」
碧が、伊織を押し倒す。
そうして、目を閉じたまま…
初めてのキスは、レモンティーの味がした。
まあ、詳しい事は、後で博士にでも聞くとしよう。




