エピソード12 致命傷
Episode12
登場人物
加地 伊織:主人公
池内 瑠奈:朱雀の宿主
難波 優美:白虎の宿主
吾妻 碧:青龍の宿主
源 香澄:黄龍の宿主
室戸 達也:優美のボディガード
山猫 :メカアニマルプロジェクトのリーダー
静かだ、鳥のさえずりが聞こえる。 曇り空なのが残念だけれど、こんなに開けた空を見たのはもしかしたら初めてかもしれない。 何だかのどかだな。
伊織は草原に寝転んで惚けていた。 頭上から見下ろしているのは…ゴスロリ。 この暑いのに、…よくやる。
優美:「いい加減に戻って来なさい。 たいした量の毒でもないでしょうに。」
伊織:「…えっ?」
絶望で逃避していた頭が次第に冴えて来る。 我に返り思わず立ち上がって見回す。 それは驚くべき光景だった。
すぐ傍まで接近していた残りのヘビ型ロボットは全て活動停止していた。 5000匹?のアリンコ軍団も、今やただの胡麻塩、土煙を上げて走り回っていた馬型ロボットまでもが地面に転がったままの小道具と化していた 。
優美:「こんな電波で動く 玩具はシロの敵ではないわ。」
得意満面にシロが闊歩していた。
優美:「それよりも、貴方達、早く服を脱いでその蟻ンコを払った方が良いわよ。 そいつら、電波が切れると…漏らすのよ。 その…毒だか、酸だかをね。 おかげで研究室の床がぼろぼろになってしまったわ。」
瑠奈:「へぇっ!」
二人とも大急ぎで、服を脱ぐ、ズボンも、パンツも、ブラジャも、靴下も、体中に付いた蟻型ロボットを払い落とす。
瑠奈:「やだ、こっち見ないで、伊織クン!」
伊織:「見てません、って。」
瑠奈:「よーく見ないと、ちっちゃいから…とんでもない所にまで入り込んでいるわよ。」
瑠奈:「うそ! まさか、…こんなとこもぉ?」
優美:「主に、…髪の毛の中よ。」
言った優美の顔が赤くなる。
碧:「伊織、大丈夫?」
声の方を振り返ると 、碧が室戸にお姫様抱っこされていた。 何だか、いつもより30倍くらいシオラしい。 ちょこんと室戸のコートの端をつまんでる。 顔も何故だか赤らめている。
室戸が、そっと碧を下ろす。
碧は確実に「二枚目キャラに胸キュンしてしまった少女」に成り下がっていたが、…そいつはいつぞや警官を二人 瞬間芸で病院送りにした人間凶器なんだ ぞ。
いや、それ以前に…
伊織:「なんで碧がここに?」
碧:「この人達に、助けてもらったの。」
優美:「あんな警備の甘い所に置いておいたら、あっという間に拉致されて当然でしょう? 此処に来る途中に連中のアジトによったら、この子が居たから、ついでに連れて来たのよ。」
優美:「この子も…ビジョンの宿主なのでしょう。」
伊織:「ありがとな。 優美。」
優美の頬が少し赤く染まる。
優美:「そ、そう言う事を言う前に、早く服を着て…そのミジンコみたいな物をしまったらどうなのかしら?」
言いながら、優美も、碧までもが、伊織の股間を凝視していた。
碧:「ミジンコ…。」
ようやく身支度を整え直す。 払い落とされた蟻型ロボットからは、確かに刺激臭のする液体がしみ出し始めていた。
伊織:危なかったな。
伊織:「でも、どうして此処が判ったんだ? 研究所に置いて来たメモを見てくれたのか?」
優美:「メモ? そんなものは知らないわよ。」
優美:「大体、そんな物がなくても、友達が困っている事くらい何処に居ても判るわ。 …だってそれが、友達ってモノでしょう?」
伊織:いや、すごく感動的な台詞なんだけど、普通は分からないと思うよ。
優美:「前に香澄が言っていたでしょう。 ビジョン達には精神感応があるって。」
優美が十字架を指差した。
優美:「この下に、香澄が埋まっているのよ。」
スピーカーの音が復活する。
山猫:「あ、あ、聞こえますか?
全く、電波姫の非常識な攻撃には参っちゃいますね。 一斉蹂躙電磁攻撃なんて想定外でしたね。 結構強力な電磁シールドしてあったんですけど、ずいぶんやられちゃいました。 …さて、仕切り直しといきますか。」
優美:「貴方の飼い主って、もしかして「ヴァーハナ」なのかしら?」
再度、暫しの沈黙。
伊織:「ヴァーハナって?」
優美:「ヒンズー教の神話に出て来る神の乗物、聖獣の事よ。 「サリナ」の夢に出て来た、共にこの世を浄化するって言う組織の二つ名でもあるわ。」
優美がそんな事も知らないの? と言う蔑みだか哀れみだかの眼差しを向けて来る。 …知っている方がどうかしてると思うぞ、
山猫:「違う。 その様なモノは知らないな。 …仮にもし知っていたとしても、そんな事は口が裂けても言えないだろうけどね。」
新手のラジコン飛行機が襲来してくる、何か黒いものを噴出している。
山猫:「さて、ちょっとシラケちゃったけど、気を取り直して…解説しよう。
蝿型ロボット、ロボットって言っちゃったけど、実はロボットではない。 正確にはサイボーグかな? だから、なまじっかの電波攻撃で指令系統を破壊しようとしても効きません。 本物の蝿に、細菌兵器を媒介させる簡単な仕掛けを組み込んだものです。 時速15km! 特定の匂いにだけ反応し、ターゲットを選別。 攻撃します。 因みに特定の匂いは、さっき加持君が十字架に触れた事で付着済みです。 今回特別に3000匹ご用意しました。」
あの、十字架に付いてたヌルっとした奴か!
一斉に押し寄せて来る蠅の軍団! 瑠奈が朱雀の炎で燃やすが、全部は燃やしきれない。
山猫:「解説しよう。
君達聖獣の弱点は、宿主または聖獣自身が攻撃対象を意識しないと攻撃できない事ですね。 逆に認識しさえすれば、局地限定的に物理法則を無視した反則攻撃が出来るのだけれど、これだけ分散してると、一つ一つ潰していくのは大変だよね。」
山猫:「僕のメカアニマル達が優れている点はそれだけじゃない。 大量生産できるし。 気難しい操縦者のご機嫌を取る必要も無い。」
碧の方を睨みつける優美。
優美:「貧血トカゲ、いい加減に出て来なさい!」
突然、碧の頭の上に、トカゲが現れて… ひょいと、地面に降り立った。
碧:「うわっ、何これ!」
優美:「行きなさい! あの蠅どもを一網打尽にするのよ!」
かすかに青っぽい半透明のトカゲは、滅茶苦茶素早く、空を駆け上って行く。 いや正確には…空中に飛び交う蠅を踏み台にして、空中を飛び回っている。
そして幽霊トカゲに触れられた蠅達は、皆一本の細い紐の様なモノでくっ付いていた。 いや正確には…蠅自身が生きたまま空飛ぶロープの一部、網の一部 になっている。 いかにも飛びにくそうだ。 …そして、墜落する。
近くで見ると、気色悪い。
驚くべきはそれからだった。
再び地面に降り立った幽霊トカゲが蠅でできた網に触ると、次々の蠅から糸が吹き出して来て、それが互いに絡み合ってあっという間に黒い蚊帳に変形した。 更に二本の黒い蠅でできた柱まで現れて、見る間に蠅でできた蚊帳をテントの様にして 張り巡らせる。 しかも、その蚊帳には粘着性があるらしく、 何故だか、残りの蠅達はそのハエ取り紙ならぬハエ取り網に自分からくっ付いて来て身動きが取れなくなってしまった。
正しく、一網打尽。
瑠奈:「凄い…でも、なんで?」
伊織:「なんか、新しい…。」
山猫:「馬鹿な! 60年代のアメリカ製アニメじゃ有るまいし。 まあ…良いですけど、」
山猫:「それなら…。」
いきなり何かが飛んで来て、伊織の右の耳をかすめた。
はっ…として、耳を確かめようとするが、…何かおかしい。 うまく耳に触れない。
碧:「伊織っ!」
碧の顔からみるみる血の気が引いて行く 。
伊織の右腕が…吹き飛んでいた。
伊織の右耳は地面に落ちている。
右肩は、鎖骨のあたりから切り裂かれ、かろうじて脇腹の肉でぶら下がっていた。
多分、致命傷。
伊織はそのまま、倒れる。 血が、どんどん流れ出しているらしい。 碧が駆け寄り、ナントカちぎれた右腕をもとの位置に戻そうとするが、
山猫:「解説しよう。
やっぱり、チッチャイロボットばっかりじゃ嫌なんだよね。 なんていうか、僕の美学に反する。 もっと、趣味なロボットが、血生臭くやった方が、面白いと思わない?」
山猫:「こいつも、生体ロボットだから、なまじな電波攻撃は通用しないよ。 因みに、中身は人間だけどね。 改造人間って言うのかな、そんな感じ。 今使った武器は刃渡り20cmのダガーナイフを4つ十字手裏剣の形に加工した物だ。 毎分3600回転で高速回転して射出されるからよく切れるね。」
いつからそれは地面に伏せていたのだろう。 地面と同化していた為なのか、全く気づかなかった。 体長は裕に2mは超えているだろうか。 異常なまでに盛り上がった筋骨で、既に人間という形を失っては居たが、そこ二足二碗の生き物が立っていた。 両腕に、巨大なボウガンの様な物を抱えている。
山猫:「そろそろ、ノーサイドかな?」
優美:「貴様! よくも伊織を!」
改造人間の腹部から、山嵐の様に金属針が吹き出す! 血液から抽出した金属を針の様にして、おそらく今度は内蔵を確実に貫通させているはず…。
と、同時に…優美の即頭部に何かが直撃した。
山猫:「今使った武器はゴム弾だよ。 さしもの白虎も、ゴムの弾には瞬時に反応できなかったって訳だ。 改造人間だから、色んな武器を使いこなせて便利だろ。」
山猫:「「彼ら」との約束だから致命傷にはしなかったけど、頭蓋骨陥没くらいはしたかもね。 頭に血が上るなんて、電波姫らしくないなぁ、一寸失望しちゃたかも。」
十字架ピアスが、跳ぶ!
コートに仕込んであった剣を抜いている。 室戸が武器を使うのを見るのは初めてだった。 改造人間に向けて放たれたその剣筋は、確実に上半身を両断するものかと思われたが、その肩口で阻まれた。 剣が肉体にのめり込んで行かない。 これはただの筋肉ではない?
返す刀で脇腹を逆袈裟懸けに切り上げる。が、これも通じない。
表面の肉を切られて血は出ているが、改造人間の活動を停止するには至っていない。
更に、返して、今度は喉元に剣を突き立てる。 これは、見事に改造人間の首を貫通する。 確実に脳幹をえぐれる位置だった。
にも関わらず、改造人間の活動は停止しない。 室戸めがけて超接近戦の至近距離からゴム弾を発射する。 これを避ける室戸。 剣を捨て、握り込んだ指の第二間接を心臓の位置めがけて打ち込む。 しかしこれも反応が鈍い。 既に室戸の反対側の手には拳銃が握られている。 これを5cmの距離から全弾顔面に撃ち込む。 …それでも、改造人間の活動は緩まない。 力任せの裏拳を室戸に叩き込んで来る。 これを捌いて、その反動で首に手刀を叩き込む。 しかし、これもダメージには繋がらない。
一旦離れて、体勢を立て直す。 こいつには、まともな技が通用しない。
今度は、改造人間の方から攻め込んで来る。 無造作に間合いを詰めながら、室戸めがけてダガーナイフの十字手裏剣を発射する。 これを最小限の足捌きでかわす 十字架ピアス!
次の瞬間、地面が…割れた。 局所的地盤沈下していきなり足場を無くし、転倒、埋没する改造人間。 吹き上がった地面が一瞬のうちに粉砕して、まるで意思を持った煙の様に改造人間に襲いかかる。 土煙の中から精錬された何十本のもセラミックナイフが、そのいびつな筋骨の塊に突立つ。
土煙の去った跡から、香澄が現れた。
香澄:「よくも、…こんな暗いコンテナに閉じ込めてくれたわね!」
おそらく危険物を排除する目的で身包みはがされたのだろう、…全裸に白衣一枚の格好だった。
山猫:「あらら、何で起きちゃったのかな? 君は眠ってたんじゃなかったのかな?」
香澄:「何か、滅茶苦茶むかついたのよ! …よくわかんないけど。」
香澄は辺りを見渡し、数秒で状況を理解した。 さすが博士だ…。
室戸に優美を介抱する様に指示を出し、負傷した伊織に近づいてくる。
既に、虫の息だった。
香澄:「散々ね、…でも安心して、片腕が無くったってお姉さんが代わりになんでもやってあげるから。」
香澄:「…もう少し頑張ってね。」
香澄の深呼吸とともに、黄色い猿の形をしたビジョンが輝きを増す。
大地を引きはがして吹き上げる煙状のシリコンが、一斉に飛び散って空中の敵を粉砕する。 更にそれから精錬されたファインセラミックのディスクが、改造人間に襲いかかり、その手足を切り裂いていく。 しかし、やはり骨まで分断するにはいたらない 。
山猫:「おいおい、酷い事するなぁ、そんな格好しているけれど、それでも一応人間なんだよ。 全く、どうやってそのディスクをコントロールしているのか、いい加減漫画みたいな非常識設定は止めて欲しいんだけど、これの骨格は、そんな簡単には切断できないよ。」
したたか、切り裂かれて剥き出しになった骨格と内臓、
それを見て、瑠奈が嘔吐する。
むき出しになった肋骨の内側から、小さなもう一人の人間が、じっとこっちを見ていた。
香澄:「あんた達、一体、何を造ってるの?」
そうして、伊織の息が、止まった。
碧の恐怖と落胆は、強烈な怒りへと転化する。
碧:「許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない…」
青龍が、突撃の体勢を整える。




