プロローグ
「………よかった。普通だ」
そう呟いて、私はそっと安堵のため息をついた
「なにを悠長に本なんか読める立場になったんだ?
そんな無駄なことをするひまがあればさっさと掃除しろ」
……のもつかの間、さっそく仕事を言いつけられた。
「……わかりました、お父様」
〜 〜 〜
私は、かつてはこの世界に召喚された盗賊……いや、途中からは違ったが、とにかく私は以前、この世界に来てしかるべきことをこなしたはず……だ。とりあえずは自分の役目は果たした。うん。
それから親友の魔法で元の世界に帰り、勉強して医者の資格をとった。
それからは孤児を三人ほど引き取りはしたが、それ以外はごく普通の生活をしていた。
三人の養子も立派に育ち、子どもまで作った。
そして、養子の子どもの一人に見守られ、私は死んだ。
………はずなのに、なんでまたこの世界に。
なんだ、トリップの次は転生か。
この世界との不思議な縁に思わずつっこんでしまった。
しかしまぁ、こうしていてもしかたない。
こうなれば一般人としてそこそこの生活をしようと思ったのだが……
「あら、なにをそんなところでボーッとしているの?
ちゃんと掃除なさい」
「はい、わかりましたお母様」
あいにく、私はいわゆる平民の家ではなくそこそこ身分のある貴族の家に生まれてしまったようだ。
しかも私は両親とは全く違う黒髪と黒目をしていたために歓迎されず、気が付けば小間使いのようになっていた。
まぁ、別にそこまで不満があるわけでもないのだが。
「また手が止まってるわよ。今日はリリスの誕生日なのよ?
早く終わらせなさい。」
「はい、お母様」
「ここの掃除を終えたら、次は庭掃除よ。ちゃんとキレイにしておきなさい」
「わかりました、お母様」
私のなかではすでにお決まりとなった言葉をいうと少し満足そうになって廊下を堂々と歩き去っていく女性を(あれを自分の母だと認めたくない)見て、今日も眠れそうにないな、と私は静かにため息をついた。