安心
無我夢中に走り出し、階段を上ったり下りたりしているとひっそりとした場所に出てきた。ベンチが一脚だけあって、一人になりたい時に丁度よさそうな感じだ。そう、今の僕にぴったりの場所だなぁ。
「はぁ・・・」
セリナ達やラインハルト達と話していると、クラス中からいろいろな視線を浴びているのは分かってたんだけど、こうまではっきり言われるとやっぱりへこむ。最初にラインハルトがセリナ達を狙ってる奴が多いって言ってくれてたから、まだ心構えができていたんだけど、今日みたいに既に気持ちが沈んでる時に言われると、自分がすごく駄目で価値がなく誰からも顧みられない人間に思えてくる。元の世界に居た時も似たような事があったっけ。あの時もクラス中から色々言われて逃げ出したなぁ。こっちの世界に来て少しは変われたかなって思ったんだけど、人間ってそう簡単に変われない・・・か。
「ん・・・?」
ふと人の気配を感じて頭を上げる。
すると、丁度こちらに向かってきている女の人と目がばっちり合った。黄色のリボンをしているので一個上の二年生なのが分かる。
「あれ? 先客が居るのね、珍しい。どうしたの?」
「え?」
どうしたとはどういう事なんだろう? と疑問に思っているとハンカチを僕に向かって差し出してきた。いや、ハンカチは持ってるんだけども?
「そんな顔してると、心配されるわよ? ひどい顔」
あー・・・しょっぱい味の素で顔がひどい事になってるのか。ぐしぐしと制服の袖で乱暴に顔を拭いてしまう。
「あらあら。そんなんじゃ袖が汚れるよ? 男の子はこれだから、もう・・・」
仕方ないわねぇという具合に僕を見る上級生のお姉さん。というか、この場所はこの人が良く使ってる場所なのかもしれない。だとしたら、邪魔しちゃって悪いなぁ。
「ごめんなさい、ここ先輩の席なんですよね? 僕行きますから」
そういって、目礼をして先輩の横を通り過ぎる。
「アイシャ」
「ん?」
「私の名前よ、な・ま・え。君は?」
あとでここを使った事で文句言われるんだろうか。聞こえなかったふりで逃げよう。
「失礼します!」
「あ、ちょっとぉ! きみっ、まちなさいっ!」
光る浮き輪君を即座に取り出し、全速力で走る。追いつかれたらアウトだ! 後ろで先輩が何か言ってるみたいだけど、無視だ!
「・・・はやっ。でも、わたしから逃げ切れると思ったら大間違いよ。二年で生徒会長をしてるのは伊達じゃないんだからね」
残された女生徒はそういって不敵な笑みを浮かべるのだった。
結局、逃げて来たのは良いけど鞄を教室に置きっぱなしなので、そのまま帰る訳には行かない。なので、しばらく時間を潰して皆が帰る頃合を見計らって教室に戻った。うん、教室には誰も居ないみたいだ。
「はぁ・・・明日から気が重いなぁ・・・」
あれだけはっきり言われるとなると、これからは結構本格的に何かされそうだし、こないだの魔法実習も実は狙われていたと言われても驚かない。しかもクラスメイトの結構な人から敵意を向けられてたし。かといって、セリナやラインハルト達に守って貰ったりすると余計にヒートアップしそうだもんなぁ、あの手の人って。
「これからは、なるべく一人で居るのが一番って事かなぁ」
そもそも学園には冒険者の事を学ぶ為に来ている訳だし。しっかり勉強して実力をつけさえすれば、文句を言われる事も無くなるだろう。・・・たぶん。
バガンッ!
教室の扉が異様な音を立てて乱暴に開きミミが飛び込んできた。
「コージィ!」
「ごふっ!」
なんかこれ前にも喰らったような気が・・・す・・・る・・・
「コージ、駄目ですよ。一人になんてさせません! コージの事を知らない人が何を言おうが気にしなければ良いのです。それとも、私達はもう要らないのですか?」
携帯電話を片手に教室に入ってくるセリナ。どうやら、この教室にだれかの携帯を通話状態のまま置きっぱなしにして、僕が帰ってくるのを待ち構えていたらしい。良くそんな事を思いついたねぇ・・・
「コージは、ミミ嫌いになっちゃったのぉ?」
不安そうに僕を見上げるミミ。その瞳は涙が滲んでいて、今にも零れそうだった。
「みんなが僕に付き合う必要は無いよ。僕と一緒だと面倒な事に巻き込まれちゃう」
「それは違うぞ、主よ」
「え?」
「おぬしが居なければ、わし達は何も始まらん。そもそも主が居れば面倒な事など、屁とも思わんわ!」
「だねぇ。それにぃコージとぉ一緒に居れないならぁすぐ辞めちゃうよぉ?」
「あぁ、それは良いですねぇ。そもそも学園に入ったのはコージと一緒に勉強したいだけですし、遺跡に潜るのなら私達だけで全く問題ないですしね。うん、辞めましょう」
「ボクも賛成! マスターってば学園に来てからおかしいもん。辞めよう辞めよう!」
一斉に辞めようと言い出すセリナ達。そんなの駄目だろう・・・
「駄目だよそんなの。せっかく入ったんだから、ちゃんと勉強しなきゃ。辞めるなら僕一人で良いから」
「コージのわからずやーーー!」
バシッ!
え、セリナが殴った・・・
「私達が冗談で言ってると思ってませんか? 学園を辞めるのは本気ですよ。ね、みんな」
そのセリナの言葉に力強くうなづく皆。
「私達にとってコージが一番なんです。あなたを傷つける者は許せませんし、あなたが喜んでくれるならなんだってします。それぐらいあなたが大事なんです、コージ」
まっすぐな瞳で僕を見つめながらセリナは言う。でも・・・
「なんで・・・?」
「コージが大好きだからです。ほんとだよ?」
「そうです、大好きなんですコージ」
ミミとセリナが微笑みながら告白してきた。なぜかその言葉は僕の心にすとんと入ってきた。と同時にみるみる内に顔が熱くなってきた。なんだこれ。
「うっ・・・くっ・・・」
親以外の人から好かれるなんて思いもしなかった。昔から人付き合いの苦手な僕は家族以外の人にとって無価値なのだから。今でこそ他人と会話もできるけど、それはお母さんのおかげなのだ。だから僕も家族以外の人を好きになるなんて考えなかった。いや考えたくなかった。家族なら死ぬまでずっと家族だから、好きになっても安心だった。もし好きになって離れ離れになるのはとても辛いから。
「コージ・・・」
突然泣き出した僕を、みんなが優しく抱きしめてくれた。それはとても幸せな時間だった。
今日は短めです。すみません。
家族大好きは家族愛です、もちのろん。大好きだから安心して、ほっておけるし、甘えられる存在。そんな感じ。
そして明日は一話だけの予定です。風邪引いたようです。あふん。