許されざる罪
「“彼の者の眠りを覚ませ ウェイク”」
バルトの覚醒呪文がコージにかかる。これですぐにでも目を覚ますやろう。しかし、コージが今回が初陣とは驚いた。訓練の時も、別に慌てたり騒いだりせんかったし武器にしても、使い込んでるあとがあった。それに十五階層まで潜ったって言ってたよなぁ? まったく戦闘せんかったんやろかいな? というか、コージの奴オークをぶった切った時の反応はまさしく初陣の奴の反応やったよなぁ。 そやのにオーガと戦った時は的確な指示を飛ばしてくれたからのぉ。なんやこいつはよう分からん奴や・・・
「・・・ん・・・あれ? 僕・・・」
「おはようさんやコージ。生憎、天国に行くのはまだ早いで」
きょとんとした表情でこっちを見るコージ。すると、途端にコージの腹が鳴った。
「お腹減った・・・」
「コージは、大物よね・・・」
うん、その意見にはわしも賛成やセシー。こいつはきっと大物になるわ。
僕が起きた時、メンバーと講師陣が周りに居た。どうやら、ガイドクリスタルが僕達の危機を知らせてくれてたらしい。だけど、講師が到着した頃にはオーガは倒されていたようで僕達は過剰なまでの戦果を上げられたようだ。しかし、なんというか遺跡に潜るのは二度目なんだけど、どっちともヤバイ敵が出てきた。運が良いやら悪いのやらだ。
「ほいじゃ帰るで」
「え? もう帰るの? まだ来たばっかりだよ?」
「あほぉ。オーク六匹にオーガ一匹倒しといてこれ以上何をせー言うねん」
そう言われればそうかもしれない。そして今思い出したんだけど僕、左腕折れたままだった・・・ 回復魔法で骨折は治らないのかな? 治る前にリフォーガが終わったのかなぁ?
「ランバルト、骨折って治せる?」
「どこが骨折しているんだ、見せてみろ」
「左腕・・・あれ?」
ずきずきしてたから、てっきり折れたままだと思ってたんだけど大丈夫だった。うぅ、痛いや、これ。
「骨折は治ってるが痛みはしばらく続くはずだぞ。リフォーガをかけっぱなしだとそれも和らぐが、反省もかねてそのままにしとけ。長くても一時間ぐらいだ」
「あー・・・ごめん」
骨折した原因を思い返し謝る。ていうかラインハルトにちゃんと謝らないとね。
「ラインハルトごめん! オーガの攻撃喰らったの僕のせいだよね」
「わしは頑丈やさかい、気にすんな。それより、平気か自分?」
「どうだろう。ちょっと時間が掛かるかもしれない。ごめん」
平気かと聞かれて、僕が吐いていた事を聞いているのだと分かる。魔物の血を見ただけで、かなりのトラウマだったもんなぁ。あれを克服して自分の手でしっかりと倒すとかできるんだろうか? いや倒すとかじゃないね、殺す事ができるのかな。そもそも選択肢が出る能力が勝手に発動しちゃうから殺すって感覚が全く無くなっちゃう。
生きる為には生き物を殺す必要がある。
毎日食べるご飯は、そうやって殺した生き物を食べている事をちゃんと理解しないといけない。今まではそういった事から目を逸らしていたけど、冒険者として生きていくなら、知らない顔はできない。できないよね。
知らず知らずため息が出る。この世界に来てから、どれだけの生き物をこの手で殺してきただろうか。簡単にアイテムにできるって単純に喜んでただけで、その裏にある、アイテムを残して全てを消し去るという現実から目を逸らしていた。血も内臓も転がる事がなければ、殺したという実感はまるで無かった。
「・・・重いなぁ」
まずは僕がこの世界で生きていく為にも、命をかけて戦う戦場に慣れないとね。
「おーい、暗い暗いでコージ! 俺達はオーガを倒した英雄なんやで? 辛気臭い顔してんなや、な?」
「なにそれ。悪いけど僕は英雄なんてガラじゃないからパス」
「あほぉ。英雄は勿論わしや! おまえは従者その一や」
「あ、それ良いね! でもどうせならセシリアの従者がいいなぁ」
「あら、私ならいつでも待ってるわよ? なんなら今日からでも屋敷に来る?」
「えぇええええええ遠慮しときます」
くすくすと笑うセシリア。からかわれてると分かっているけど、セシリアみたいな美人にそんな事を言われるとやっぱりドキドキしちゃうね。そんな事を考えてると後頭部を撫でられる。・・・エリー?
「コージ頑張った。あなたが居なければこうして無事に帰れなかった。感謝してる」
「そうだね。魔法の支援もいろいろしてくれたから助かったよ。だけど、打ち合わせもなしにぶっつけ本番はなるべく勘弁して欲しいね」
さわやか王子様にさらっと笑顔で言われると、まったく嫌味に聞こえない。見た目って大事だよね!
「えーっと、ごめんね。慌ててたから、つい」
「ばーか、冗談だよ。みんなお前に感謝してる。勿論俺もだ」
がしっと頭をランバルトに掴まれてそう言われる。なんだか照れる。
「もう仲間なんだから、当たり前だよ当たり前! 僕も助けて貰ったんだからそういうの無し! 無しっ!」
大きな声でそう言ったけど、顔が真っ赤になっていたのだろう。僕が照れているのがばればれだったので、皆が仕方ないなぁって顔で笑っていた。
結局、その日の実習は僕やラインハルト以外は大きな怪我をする事もなく、無事に終えた。僕はともかくラインハルトが怪我をした事実は、クラスメイト達を驚かすのに十分であった。だけど、僕をオークから助けるために怪我をしたと説明すれば、皆納得した。オーガを僕達が倒したという事実は講師陣に伏せて欲しいと口止めされているので、本当の事を言う訳に行かなかったのだ。まぁ、授業料二年分を支払い済みにしてくれるという事なので、僕達にも良い取引なのだ。
「コージ、大丈夫ですか?」
セリナのその声に振り返ると、ミミやヒロコ、白夜が心配そうに僕を見ていた。
「うん、大丈夫だよ。ラインハルトに守って貰ったから大した事ないし」
と少し痛みが残る左腕をしっかりと動かして見せる。
「ラインハルト達も大変だな。転入生の中でもお荷物を押し付けられるなんてなぁ」
「そうだな。こんな浅い階層でハルトが怪我をするなんて、よっぽどだよな」
お荷物って・・・どう考えても僕だよねぇ・・・ そもそもラインハルトは学園に入学する前から、遺跡を駆け回って魔物を倒していたそうで、かなり有名らしい。それに「ハルトバルト」なんてあだ名が既に広まっている時点で相当有名なのだというのが分かる。
「でもミミちゃん達は良かったよね、お荷物と一緒にならなくて済んでさ。そればっかりは担任を褒めてあげたいね」
「そうねぇ~、おかげで一緒の班になれたもんね、うん」
セリナ達はやっぱり可愛いからクラスで凄い人気なんだなぁ。べっこり凹む事言われてちょっと悲しい。
「おい、おまえらっ・・・」
「誰がお荷物ですか、みなさん?」
あ。
「コージさんをお荷物と言うなら、演習場に行きましょう。私を倒してからそういった事をおっしゃってください!」
「セリナさん、そこまで庇わなくても・・・」
「そうよ、無理しないで?」
だめだ、こんな空気は僕には耐えられそうにないや。
「ごめんなさい!」
それだけ声を振り絞って言うと、ダッシュで教室から逃げ出した。ちょっとしょっぱいのは気のせいだと思いたい。ううん、気のせいだ。
凹んでるから立ち向かえない。光司くんは結構人に悪意をむけられると弱いです。
わかってない場合は強いんですが・・・