イレギュラー
「“我が力に答え、その身を護りたまえ。ホーリーコート!”」
ランバルトの物理防御呪文が響き渡る。
「ぼさっとするな! ハルトッ! 引き付けろ!」
「!」
まさかのオーガの登場に、一瞬立ち止まっていたラインハルトだが、ランバルトの声に我にかえって、オーガの一撃をかろうじて避ける。その太い手足から繰り出される攻撃は、恐ろしく早く範囲も広い。油断しているとあっという間に持っていかれそうだ。僕もうずくまったままだと、足手まといになるので一旦後方へと下がる。
「セシリア、エリー、足止め!」
「「“氷よ! 冷気をもって我が敵を留まらせよ! コールドロック”」」
二人が詠唱を揃えて魔法を唱える。片足ずつ凍らせる事ができたが、ほんの数秒で動き出すオーガ。力も半端じゃないようだ。
「“風よ! 我が敵を戒めよ! ヘティス!”」
レイモンドが魔法を飛ばす。ほんの少しでも敵を弱める効果のある呪文をかけておいて、本気を出せないようにしないとやばい。僕も「ギル」のモードを雷にして、オーガを麻痺させるべく突撃する。
ラインハルトとセシリアの間を通って、オーガと相対する。だけど、剣を向けた途端にさっきの血しぶきを思い出し同時に吐き気がこみ上げる。
「コージ無理すんな、下がっとけ!」
僕の異常に気づいたラインハルトが僕を気遣うが、その隙をオーガが狙ってきた。
「ハルトッ!」
セシリアが叫ぶがラインハルトは反応が遅れている。僕は咄嗟にラインハルトを突き飛ばすも、直撃が避けられただけで勢い良く吹っ飛ばされてしまうラインハルト。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされたラインハルトを見て、形振り構わずオーガへ斬りかかる。だが、そんな幼稚な攻撃はオーガになんなく弾かれ、逆に僕も吹き飛ばされてしまった。
「あぐっ」
しまった、これで戦力が一気に減ってしまった。咄嗟に利き腕は庇えたけど、左腕がきっと折れてる。レイモンドが前に出てくるけど、彼は攻撃よりも回避が得意なので攻撃を加えて注意を引き付けるという事はできない。
「“満ちるマナよ、彼の人達を癒せ! リフォーガ!”」
自分と転がっているラインハルトに回復呪文を唱える。うん、これは大丈夫か。
「ランバルト! 仲間にかける身体強化の祝福呪文ない?! あったら教えて!」
「俺は使えんぞ!?」
「いいから、はやくっ!」
今のところ、オーガの注意はレイモンドに向いているけど、彼に攻撃力が無いと分かればきっと後回しにして、倒しやすい敵を狙いにくるはずだ。そう、僕やラインハルトを。その前にレイモンドとセシリアに身体能力向上の呪文を唱えて対処して貰いたい。僕の知ってる身体強化は自分自身にしか掛けられないのだ。
「“我が身を削り、祝福を与えたまえ! ブレス!”というのが、仲間の身体強化の呪文だ。体力をごっそり使うはずだから気をつけろ」
「分かった。“我が身を削り、祝福を与えたまえ! ブレス!”」
まずはレイモンドに向けて呪文を唱える。なんの説明も無しに魔法を掛けたけど、うまく立ち回ってオーガに強烈な一撃を見舞いながら攻撃を回避している。
次はセシリアにも唱えたいんだけど、リフォーガが掛かっているとはいえ、オーガから一発喰らった状態なので、この呪文を唱えただけでかなり疲れてしまった。魔力には余裕があるから、体力を回復しよう。
「“満ちるマナよ、我を癒せ! リフォー!” 続けて“我が身を削り、祝福を与えたまえ! ブレス!”」
リフォーで体力が回復したのを確認し、続けざまにブレスを唱える。セシリアにも掛けたのでこれ
でしばらくは時間が掛けられるはずだ。ラインハルトの方を見るとランバルトが回復呪文を唱えている。それで少しは落ち着いたようだ。
ブレスが効いているとはいえ、オーガには再生能力がある。二人の一撃の威力は上がりはしたけど再生能力がある為に、オーガを倒すより先にブレスの効果時間が切れるだろう。だけど力を溜めたラインハルトの一撃を喰らわせる事ができれば、なんとかなるはずだ。なので考え付いた作戦を実行したいと思う。
「そのままで聞いて。レイモンドとセシリアは善戦してるけどこのままじゃ持たない。そして回復呪文をかけたとはいえ、僕はオーガから逃げ切れる程じゃない。だから、オーガを倒すしかない」
「なにか手があるのか、コージ」
ランバルトが真剣な表情で尋ねてくる。作戦はあるけど成功率はわからない。僕としては7割は成功すると考えているんだけど。
「僕の持ってるアイテムが鍵になるんだ。このアイテムを使うとオーガに無防備な背中をさらさせる事ができるんだ」
「背後を取れるという事か。そこをハルトに攻撃させるんだな。まずは足か」
さすがランバルトだ。アイテムの説明をしただけで僕がしたい事を分かってくれる。
「うん。その通り、足を狙って攻撃してもらうつもり」
「背中を向けるなら、それこそ背中めがけて攻撃した方がええんやないんか?」
「僕としては、機動力。つまりは足だね、そこを攻撃して動けないようにして安全に攻撃をしたいんだ。片足だと立ってられないだろうから、それだけで大分安全になるはず」
「て事だ、ハルト。一撃でオーガを倒せるなら別に背中を狙って貰っても構わんがな」
そういう事。いくらなんでもオーガを一撃で倒せる人間は英雄とかそういう人間だけだろう。
「なるほど、足だけなら俺でも立てないぐらいにはできそうだな。わかった、それでいこう」
「私は何をすれば良い?」
「エリーは囮なんだ。エリーが使える一番強い攻撃魔法であいつの怒りを買ってほしいんだ。できる?」
「やる。任せて欲しい」
本当は僕がやれれば良いんだけど、剣であれ魔法であれまだ攻撃できそうにないんだ。
「で、こっちに向かってくる所を僕がアイテムを投げつけるから、あとは僕が合図をしたらラインハルトは思いっきり攻撃して欲しい」
「分かった、思い切りぶちかます」
これで準備は整った。僕達ならできるはず!
「エリーお願い!」
「少し待って・・・
・・・
・・・
“氷よ! 全ての動きを凍てつかせよ! ブリザード!”」
しばらく魔力を練っていたのだろう。瞑想をしてから呪文を唱える。そしてエリーの詠唱を聞いた途端、青ざめた表情でオーガから離れるレイモンドとセシリア。今の呪文が彼女の放つ最強呪文と知っているのだろう。事実、すごい勢いで通路が凍りつきエリーから猛烈な冷気がオーガに向かって放たれていく。
「グ・・・ガッ」
さすがにこの呪文は堪えたのか、動きが鈍くなっていく。だけど、それも束の間。オーガの体表面にまとわりついていた氷は、すぐに水蒸気になり怒りの形相でエリーに向かってくる。
「グガァアアアアア!」
ズシンズシンズシン!
ここが勝負どころだ。反転フィールドを二個投げつけ準備完了だ。
「ラインハルト! 攻撃準備お願い!」
「おぉっ!」
ぐっと身体を沈みこませ、解き放たれる直前の弓矢のような力強さを感じる。そして、オーガが反転フィールドまで差し掛かる。
「いまっ!」
その掛け声と共にオーガに解き放たれるラインハルト。それと同時に反転するオーガ。
そして見事にラインハルトはオーガの足を切り飛ばした。
「グガッ!?」
ズシン! ズザー!!!
右足を半ば以上斬られて転がり、先程のブリザードの効果が残る通路をまるでスライディングをするかのように滑っていくオーガ。そして、その先でブレスの効果のかかった二人がそれぞれ腕を狙って突撃する。
「おおおおっ!」
「はぁあああっ!」
さすがにラインハルトのように、斬り飛ばす事はできなかったが深手を負わす事ができた。これであとは落ち着いてやれば倒せるはず・・・だ・・・
そこまで見届けて僕は緊張の糸が切れたのか、ふっと意識を失った。