遺跡実習開始
昨日は皆で服を見て周り、何度も試着してその度に色々悶着(ぽろりは無いよ)があったりしたけど概ね楽しく過ごし、「レアリア」で今度は食事ができたので、僕としては満足だった。それに良い事もあったし。皆も楽しく過ごしてくれたようで、笑顔で一日を終えた。
そして今日から遺跡実習が始まる。
いよいよ生徒だけで遺跡に潜ると言う事になって、教室の雰囲気は少し浮ついた物になっていた。先に遺跡に潜った者も居る様だったけど、そういった者達でさえ教室内の雰囲気に中てられて、騒がしい雰囲気になっていた。
「さて、今日から潜って行く事になるけど、コージ。体調は万全か?」
「うん、おかげさまで。昨日も楽しんだおかげでリラックスできたしね」
ランバルトが僕の体調を心配して聞いてくる。彼は回復の要だけあって、そういった事はやはり凄く気になるようだった。お見舞いにもわざわざ来てくれたぐらいだもんねぇ。
班は七つにわかれている。僕たちの班とセリナの居る班の六人が一番少ない人数で、多い所は十人。他はだいたいが八人ぐらいで構成されている。班のメンバーは仲が良いだけでなく実力も大体揃っている面子で構成されている。メンバーが多い班はそれだけ実力が低いとみなされているようだ。・・・あれ? 僕がこの班に居るのはおかしくない? あー他のメンバーが優秀すぎるから、転入生の中で一番駄目な僕を押し付けられちゃったって事なのかなぁ。うーん、足手まといにならないように頑張らなきゃね。
「ほいで、よくよく考えたら班の名前をまだ決めとらん。なんかええのんないか?」
あれ? まだ決めてなかったんだ。そう言えば誰がリーダーかも決まってないのかな?
「じゃあ、リーダーの俺が決めさせて貰って良いか?」
あ、ランバルトがリーダーなのね納得。
「なんや、言うてみ。気に入ったら挙手で」
「トリックスターというのはどうだろうか。ひと癖もふた癖もある奴等ばかりだからな」
その言葉に苦笑いをしながらも皆が渋々という風に挙手していた。
「ようし、じゃあトリックスターで決まりやな。これでようやっと形が整ったわけやな。で、こないだの訓練で出した課題なんやが」
そこで言いよどむラインハルト。なんかこっち見てる。
「皆の意見を見せてもろたんやけど、わしとしてはコージが指摘してくれた事が、正しいような気がするんやけど、言うてええか?」
「え、うん。いいよ」
この間の訓練で、苦戦した原因を考えて紙に書いてラインハルトに渡していたのだ。他の皆も渡していたから、パーティの力を向上させる為に真剣なんだなと分かった。
「まず分断されたのは、わしが突出しすぎてしもうたのが原因の一つやな。セシーの魔法剣の詠唱の時間を稼ごうとしたのが裏目に出たんやな」
「確かに。あれで前衛が乱戦になってしまったからね」
「そんで、突破した二体を対処できるやろうと、任せてしまったせいで分断できる空間ができてしもうた。護衛対象が居るっていう前提をすっかり忘れてたのが原因や」
そう、護衛対象が居るなら優先順位をちゃんと考えないと、ちょっとした事で崩れてしまいがちなのだ。そして、大概が取り返しのつかない事になっちゃう。ゲームだとリセットすれば良いんだけどもね。
「で、エリー。エリーの魔法が氷系にもかかわらず、炎の壁に近いオークに足止めの魔法をかけようとした。炎の近くにある氷なんかすぐ溶けてしまうわなぁ。迂闊やったわ」
「・・・」
「そこで切り替えて、攻撃呪文にしておけばオークの意識を分断できてもう少し楽に守る事ができたはずとコージが書いとるんやけど、その通りやと思わんか?」
「そうですわね。あまり固執しすぎると良くないのは意識しているつもりなんですが、咄嗟にできないのは、まだ私も未熟という事なのですね」
「うん、臨機応変にいかないと駄目・・・だね」
いや、なんかそんなに落ち込まれると少し罪悪感がある。
「えっとごめんね。なんか変な事書いちゃって」
「ううん、むしろそう言った事を指摘して貰える方がありがたいわよ。ね、エリー」
「そうです。まだまだ上を目指したいのでお願いします、コージ」
「ま、なんつーかこのぼけぼけーとしたコージが、まさかここまで的確な意見を出してくれるとは、信じられんやろうけどホンマの話や」
「ぼけぼけーって・・・僕そんなに緊張感無い顔してるかなぁ?」
いつもラインハルトは失礼な事を言うなぁ、もう。
「緊張感無い顔や思われとう無かったら、今日の実習で頑張る事やな、コージ」
「はいはい、わかりましたよーだ」
遺跡の実習に入る前に、それぞれ装備や荷物を登録する事になっている。実習なので、遺跡で得た物品は全て、学園が管理する事になっているのだ。実習から帰ってきた時に、入る時に持ってなかった装備をしていたり、アイテムが荷物の中に入っている場合は、横領していると看做されるので罰則が科せられる。なので、間違いなく申告する必要がある。あー・・・でも指輪に山ほど武器を保管しちゃったんだよねぇ。とりあえず「ギル」を二本だけ装備しておく事にして他の物は出さないようにしよう。あとは反転フィールドが五個にアタックオプションが十個。あー光る浮き輪君も念の為荷物の中に入れておこう。
アナライズの魔法と併用して、講師陣が装備や荷物を次々にチェックしていく。今日は一年全員が遺跡に行くという事で百人程の生徒がいるのだけど、あっという間に僕達の番がきて、すぐに終わった。全員が登録を終わるのを待って、遺跡の入り口へと向かった。
僕達は人数が少ないので比較的早く入り口についたようで、六番目に突入する事になった。
「なんやコージの武器って、今まで見た事ない武器やけどそれ武器やんな?」
僕の腰にぶら下がっている「ギル」を見て、ラインハルトが不思議そうに聞いてくる。そういえば、皆には初めて見せるんだっけこれ。
「うん、僕にしか使えない武器なんだ。他の人が触っても使えないから便利なんだ」
「もしかして、アーティファクトって奴か?」
僕の話を聞いて、ランバルトがぬっと出てきた。びっくりしたぁ!
「ううん、自分で作っただけだから別に大層な物じゃないよ。僕にとって使い勝手が良い様に作ったから、どっちにしても他の人が使うのは難しいと思うけどね」
「自分で作ったって、そんなんで大丈夫なんか?」
う、そうか。知らない人から見れば僕が作った武器って不安材料になるか。一応、安心させておこっか。
「そいじゃまぁ、大丈夫な所をお見せしましょう。まずは「炎」」
Bボタン連打で炎に合わせ、Aボタンをスライド。炎の魔法剣を選択する。
ぼぉおっ!
「なんや!? どういう仕組みや?!」
「続いて「雷」」
Bボタン連打で雷に合わせる。すでにAボタンはスライドしているので、後はBボタンを押しっぱなしにするだけで雷の魔法剣になる。
パリッパリパリッ!
紫電をまとわりつかせた雷の魔法剣となる。そして、Aボタンのスライドを戻し、Bボタンから指を離して元に戻す。
「というわけで、他にも色々な属性を持つ剣を出せるし魔法も撃つ事ができる武器って訳。ここじゃ危ないから魔法を撃たなかったんだけど、なんなら後で見せよっか?」
・・・あれ? 返事が無い。
「おーい、ラインハルト? この武器、大丈夫だよね? ね?」
あまりの無反応ぶりに心配になってくる。
「おい「トリックスター」遺跡に入れ。お前達の順番だぞ」
「あ、呼んでるよ皆。早く行こう?」
「あ、あぁ・・・」
何故だか呆然としている皆をひっぱって、遺跡へと入る。ようし、頑張るぞ!
結局作るだけ作って余り使う機会のなかった「ギル」を使う事にしました。
ちなみにリュートが奪った「ギル」は、すでにカートリッジが切れた事があったので、メンバーの女の子がカートリッジにコマめに魔力を注いでいました。
そして、忘れ去られている魔力を吸う設定のグローブ。なんだかんだで魔法をグローブで受け止めるのって勇気がいるので使えてないという駄目アイテムになってます。