幸せが僕を天国へ
「ん・・・?」
気付けば朝。昨日は帰ってから武器作りをしながら寝てしまったようで、お風呂に入った記憶もなければ、ベッドに入った記憶もない。現に今、なにか柔らかい物に巻き付かれている。・・・柔らかい? しかもなんか良い香りがする。
それが何か気付いた瞬間、がばっと覚醒する。
「きゃん」
「にゅっ?」
上がった悲鳴は二つ。僕に巻き付いて寝ていたセリナとミミだ。半分眠りながらもベッドには入ってたようだけど、部屋の鍵を掛け忘れていたようで、ベッドの上にはみんなが勢ぞろいしていた。セリナ、ミミ、ヒロコ、白夜。それぞれが好きなように僕のベッドで寝ていた。
「あ、おはようございますコージ」
「コージィ、おはよぉぅ~・・・」
別に何も悪い事はしていませんよ? って感じで挨拶をしてきたのがセリナ。まだ寝ぼけ眼でとりあえず挨拶をしているのがミミだ。
「おはよう。なんで皆僕のベッドで寝てるか聞いていい?」
こんな嬉し恥ずかしなイベントは心臓に悪い! だって朝起きたら美少女達が一緒に寝てるんだよ? 美少女一人でもありえないのに、それが四人も!
「えっと、それはですねぇ・・・」
「だぁって、コージがぁ昨日は構ってくれなかったから寂しかったんだもん~」
「そうだそうだ! しかも班も別々だったよ、マスター!」
「そうじゃ、主と離れるとかなんでなんじゃ。もおぅ」
「と、そんな感じで寂しかったから部屋を覗いたら鍵が締まってなかったんで、夜這いにきたのです。えへっ」
えっと、僕が居なくて寂しかったって事なの? それは嬉しいけれど、こんな普通な僕にそんな夜這いなんかしなくても良いんじゃないかなぁ・・・・?
ぎゅむー
僕がぽかーんとしていると、みんなが寄ってきてぎゅーっと抱きしめられた。
「あー、しゃあわせぇ~・・・」
「補給補給。ふー・・・」
「うむやっぱり生身はいいのぉ・・・」
「うふふ・・・意外と逞しいんですねっ」
あ、ちょっとこれはそのダメダダメダヤバイヨソノハゥッ!?
どばひゅっ!
「えっ!? コージ!? 血がっ血がっ!?」
「え、なになに? どうしたの? え、えぇ?」
「主しっかりするのじゃ! 気をしっかりもてぇえええ!」
「ふぇええぇぇ?」
鼻血が出てしまった僕を許して欲しい。だけど、そんな破壊力満点なボディが悪いんだ・・・最後に見たのは皆が焦って僕を揺さぶってる姿だった。
「ん・・・ここは・・・?」
目が覚めると、いつもは使っていない部屋に寝ていた。一階にある広い部屋で皆でおしゃべりをする時に良く使っている部屋だった。
「あら目が覚めた? 気分はどう?」
気付くと傍らには母さんが座って、本を読んでいた。なんだか、頭がふらふらするし喉も乾いて仕方が無い。
「の・・・ごほっごほっ」
喉が渇いて水がほしいって言おうとしたんだけど、喉がカラカラなせいで咳き込んでうまくしゃべれなかった。なので目で母さんに訴えて見る。みずーみずー。
「水が欲しいのね、どうぞ。ゆっくり飲みなさい」
やさしい手付きで水差しを使って、上手に水を飲ませてくれる母さん。ふぅ~おいしい。だけど、頭はふらふらな上にずーんと重くなっている。風邪っぽいといえば風邪っぽいかなぁ。でもこれって単純に血が足りないだけの症状なんだろうか。さっき確か凄い勢いで鼻血でちゃったもんなぁ。
「驚くかもしれないけど、光司。あなたが鼻血を出して倒れてから二日経ってるわよ?」
「!?」
鼻血だしてそんだけ倒れるとか、どんだけひどい状態だったんだろう僕・・・あの美少女たちにはちょっと自重して貰わないと・・・
「ミミちゃん達は今、学校に行ってるわよ。来週から遺跡の実習があるんですってね。それに行きたいなら、もうしばらく安静にしときなさいな」
僕の班は六人ぎりぎりだから、一人でも欠ける事ができない。だから、実習に間に合うようにしっかりと治さないと駄目だよね。
「学校にはちゃんと連絡してるから、大丈夫よ。あとミミちゃん達にすっごく心配掛けたんだから、後でちゃんとお礼を言っとくのよ?」
でもぶっ倒れる原因を作ったのは、そのお嬢さん達なんですけどもねっ。母さんの言葉にも一理あるので頷いておくけど。別にお礼を言うぐらいは大丈夫だろう。
「母さん、ご飯頂戴」
「え? 食べられるの? ちょっと待っててね」
まずはご飯をしっかり食べて、体力を戻そう。あんまりお腹は減ってないんだけど、寝てる間はろくに栄養を摂ってないないだろうから、回復も遅いはず。遅れてる分をちゃんと取り戻さないと、みんなに追いつけないし。しかも二日寝てたって事は、三日後には遺跡実習が始まる。たっぷり食べて、たっぷり寝て、超回復するぞぉ!
「若いって良いねっ!」
「誰にむかってぇ言ってるのぉ?」
あくる朝には、超元気になった僕。僕が居ない間はセリナとヒロコが料理をしていてくれたので、母さんの手料理を食べずに済んだというのも大きい。ここまで劇的に回復したのは今までに記憶にない。すこぶる身体の調子が良いので、心配するセリナ達をなだめて学園に行く事にした。昨日は学園から帰ってきたセリナ達に一斉に謝られた。だけど、僕がちょっと耐性が無かっただけで、普通に考えたら役得なのに謝られるのも変だ。なので素直にお礼を言ったら、みんなガッツポーズしてた。僕としてはそこで照れる仕草が欲しかったなぁ・・・
「でも、ほんとに大丈夫ですかコージ。今週一杯休んでた方が良いんじゃないですか?」
「うーん、あんまり休んでると体がなまっちゃいそうだし、早く皆と会いたいしね」
親睦を深めよう! ってご飯を食べたきり会って無いしね。僕が倒れたって事でランバルトとセシリアがお見舞いに来てくれたそうだけど、寝てて記憶が無い。
「むぅ。一緒の班になれなかったせいでコージが遠くに行っちゃうのです」
「もう大げさだなぁ、セリナは」
わざとらしく、俯いて泣き真似をするセリナ。それを見て他の三人も同じように泣き真似をする。ミミなんかは、僕の服のすそを掴んでそんな真似をするもんだから、周りから見たら僕って凄い極悪人に見える気がする・・・
「もう、みんなの事が大事なんだから落ち着いてよ。だから明日、皆で一緒に出かけるって事で良いでしょ? ね?」
「「「「いいよー」」」」
にやり。
泣いたカラスがもう笑った。カラスというか小悪魔たちというか。ほんとにこの子達は手間がかかる妹みたいな存在だなぁ。僕には妹なんて居ないけど。
「おはよー」
教室に入って、ラインハルト達に挨拶をする。今日は遅めに入ったせいで僕の方が教室に入るのが遅かったのだ。
「お、コージ! もう出て来て大丈夫なんか、自分?」
「あら、おはようコージ。元気そうね」
「おう、出てきたな。見舞いに行った甲斐があったな」
レイモンドは相変わらず女の子に囲まれてて僕に気付いてなくて、エリーはというと黙って片手を上げて挨拶を返してくれた。
「もう元気だから、平気へいき。今日さっそく放課後に模擬戦できるよ!」
「あほかおまえは。病み上がりでいきなりそんな事させるほど鬼やないぞ?」
僕の言葉に即つっこみを入れるラインハルト。だけど、ここは引く訳には行かない。
「でも明後日には、実習なんでしょ? 僕も皆の実力を確かめたいしさ。ね?」
「・・・意外とコージってば、頑固なのねぇ。ハルト、いいんじゃない?」
「あぁ、いざとなったら俺もいるから平気だろう」
とセシリアとランバルトが援護してくれた。
「うーん・・・まぁいっか。そやけど、なんか危ないと思ったら即止めるからな?」
「わかった。まぁ大丈夫だけどね」
おまえはほんましゃーない奴やなぁ、とラインハルトにこづかれながら苦笑された。放課後が楽しみだ。
コージ君、許容限界を超えました。超えすぎました。