親睦を深めたい!
遺跡調査の班を結成したからには、班の人達と仲良くならなければならない!
やっぱり一緒に戦う仲間って、仲良くなればなるほど強くなると思うんだ。現にセリナ達と仲が良かったからこそ、遺跡でキラーマシンを撃破できたと思うし。
「というわけで、みんなでご飯でも食べに行きたいと思うんだけど、どうですかっ!」
この世界に来て一気に友達が増えたので、てんぱってるのは見逃して欲しい。そんな僕の台詞にラインハルト君はにやりと笑う。にやりって笑うの好きだよね。
「転入生のおごりっちゅーなら、いくらでも行くで~?」
「おごりかどうかは兎も角、親睦を深める為にもそういった事は賛成だ」
ランバルト君は浮ついた感じではなく、落ち着いた感じで僕の意見に賛成してくれる。
「うん、いいかも。でも、これから行くにはちょ~っと準備が足りないかも?」
「でも善は急げとも言うし、そんなに気張らなくても良いんじゃないかな」
セシリアさんもレイモンド君も、特に反対ではないようだ。それじゃあ、トレイルさんに顔見せついでに、良いお店を教えて貰おうかなぁ? うん、そうしよう。
西ブロックの冒険者学園の校舎は魔法教会と隣接していて、実験場は共有して使用していたりするのだ。なので、トレイルさんを探すのに時間はかからない。
「じゃあ、良いお店無いか知り合いに聞いてくるね! ちょっと待ってて!」
「お、おう。急いでこけるなよー?」
ラインハルト君の声を背に、魔法教会に駆け込む。そして門番の人にトレイルさんを呼び出して貰う。しばらくすると、なんだか美しい雰囲気を背にトレイルさんがやってきた。
「コージ、珍しいな今日は一人かい? 西ブロックに来てるのは知ってたけどひどいじゃないか。もっと顔を見せに来てくれても良いんじゃないか?」
そうやって抗議する姿も決まっていて美しく、いまひとつ迫力に欠ける。
「あはは、ごめんなさいトレイルさん。僕、こないだから隣の冒険者学園に通う事になったんです。それで、それでクラスの人と遺跡調査の班を組んだんだけど、いま一つ皆の事が分からなくって。それで班の皆と仲良くする為にご飯を食べに行きたいんだけど、どこか良いお店知らないかなぁ?」
「おぉそうか、学園に通うのか。でも、君は学園に通わなくても充分やっていけるんじゃないのかな? セリナ嬢が推薦するぐらいだしねぇ」
いやその、そのセリナ嬢も学園に通っているのですよトレイルさん・・・
「え? あ、そういえばそんな事言ってたなぁ。参ったなぁ、セリナ嬢がいたら講義しにくくて仕方ないなぁ・・・あ、話が逸れたね。えっとどこか良いお店って言うと・・・学生さんでも行けそうな所となると「ビアハイム」って所が良さそうだね」
そういって「ビアハイム」の場所を詳しく教えてくれる相変わらずポーズが美しいトレイルさん。なんだか動く度に光の粒子が飛んでるように見えるほど洗練されてきている。何をしたんだろうか?
「僕を入れて六人なんですけど、大丈夫ですかね?」
「それぐらいなら大丈夫。任せておきたまえ、お店には連絡しておくから楽しんでおいで。一応僕からの入学祝いって事で、支払いは任せたまえ」
「え、いや教えて貰って悪いですよ、そんなの」
「まぁまぁ。悪いと思うなら、わたしと再戦してくれればそれで良い。わたしとしてはそれはとても価値があるものなんだよ、コージ君」
なんだか凄く真剣な目で見られる。何もポーズは取ってないんだけど、凄くかっこよく見えた。うーん、心苦しいけどお言葉に甘えちゃおうかな。
「じゃあ、また再戦すると言う事で、今回は甘えちゃいます。ありがとうございます!」
「ふふ、じゃあ楽しんでおいでコージ君。また暇を見つけてこっちに来てくれよな」
「はいっ、それではありがとうございました!」
にこにこーと満面の笑みで見送ってくれるトレイルさん。なんだかお世話になりっぱなしだなぁ。今度、新しい術式を見て貰う事にしよう。トレイルさんならきっと使える筈。
皆を待たせないように校舎の四階までダッシュで昇る僕。結構息が切れるなぁ・・・
「お、コージ戻ってきたな。だめやったか?」
笑顔で駄目な方に期待しないで欲しい。
「ううん、「ビアハイム」って所で予約いれて貰ったよ。お金も気にしなくて良いって」
「は、なんで?」
予想外の答えにそんな短い反応しかできないラインハルト君。
「奢って貰ったの。ひさしぶりに会いに行ったら入学祝いだーって」
「いや、あそこって結構高くなかったか?」
眉間にしわを寄せてそう聞いてくるのはランバルト君。そういったお店に詳しいのかなぁ? ちょっと羨ましい。
「そうねぇ。別に食べられないという訳じゃないけど、たまになら行けるかもって感じの値段だったと思うわ」
「それを六人分奢ってくれるとか、凄いなぁ。お金持ちなのその人って?」
王子様がそう聞いてくるけど、お金持ちかどうかは知らないなぁ・・・
「うーん、どうだろ? でも、すごく気軽に決めてたのは確かだよ?」
「ええんかなぁ・・・? なんというか話が大事になってきた気がするわ」
「まぁ、楽しめば良いんじゃないかなぁ? その人にはいつでも会えるからその時にでも改めてお礼も言うからさ」
お礼だけじゃなく、戦ったりもするけどね。なので安心して、皆でご飯に行く事にした。母さんには携帯で連絡したから、問題ないしね。
「コージはまだ帰ってきてませんか?」
班割りを即効で終え家に着くなり、るりさん(おかあさん)に尋ねるも、なにやら今日は晩御飯を外で食べてくるとの事で、帰ってくるのは遅いそうだ。
「ミミをほったらかしにするなんてぇ・・・もぉ」
今日はみんな不機嫌だ。遺跡調査の班割が誰もコージと一緒になれなかったからだ。ただでさえコージは優しくて素敵なのに、何も知らないクラスメイトと触れ合う機会が増えちゃうと、ライバルが増えそうで捨て置けません。
「それにちょっと心配です・・・」
なんだか学園に入ってからのコージは、少し落ち込んでるように見えるのです。それというのも、あの測定を行ってからです。たまたま私たちの判定が高かったのを見て、ショックを受けてたようですし、ヒロコと一緒に訓練しているようですけど、家の中ではどこか上の空ですし。あんな判定ひとつでコージの強さは測れませんし、コージの強さはわたしが良く知っています。だけど、コージは判定の結果にすごく納得しているように見えます。そして自分が平凡でないと駄目なような振る舞いをします。
「コージはね、理由を欲しがってるんだと思うんだぁ」
「なんの?」
「ミミ達がぁコージと一緒にいる理由、かなぁ」
あの判定で、自分が私たちに劣っていると思い、判定で優秀な私たちが一緒に居る事に疑問を感じたのでしょうか。自分が平凡だと思い込もうとしているのは、そんな自分でも私たちが離れていかないか確認したかったのでしょうか?
「理由なんて無いのにねぇ。あえて言うなら好きだからだもんね~」
「ですよね、大好きだから一緒に居たいって思うのに」
貴族と戦えないわたしでも、居ないと駄目だと力強く言ってくれたコージ。
はやくちゃんと伝わって欲しいです。コージが大好きです、と。
愛されコージ。