僕だって普通に幸せが欲しい
「はぁ、疲れた~」
今日一日の授業が終わり、机の上にぐでっとした。
「コージ君達は、今日は検査とか測定とかそんなのばかりでしたものね」
くすくすと笑いながら話しかけてくるセシリアさん。セシリアさんの言うとおり、僕達はずっと測定ばかりしていたのだ。やっぱりというか、なんというかミミは武術などの物理攻撃の面で凄い評価を受け、セリナは魔法関連の評価が物凄く高いものであった。白夜とヒロコに関しては、特異存在としての評価が成されていた。まぁフレームと精霊だからとんでもない力があるんだろうな、きっと。
そして僕はというと、なんとも平凡な成績しか残せなかった。可もなく不可もなくというものだ。あえて良い所を言うならセリナに教えて貰ってた炎の系統の分野のみ良い評価だった。
「だけど、みなさん凄い才能をお持ちなんですねぇ」
「うん、皆凄いんだよ。僕なんかと違って凄い才能があって、それをちゃんと鍛えてるっていうか。こうやって評価されると嬉しいけど、頑張らないと駄目だなぁって痛感させられちゃうねぇ」
こんな凄い子達が、何故か僕と一緒に居てくれる。そんな僕の取り得といえば・・・おかしな道具を作れるのと、この世界に無い魔法を使える事・・・かな? この学園では使いにくい才能だよね。うん。その点、セリナ達は皆にわかり易い才能を持っている。
「コージ、お家に帰りましょ」
帰り支度が済んだセリナが僕を呼びにきた。ミミ達もすでに準備はできてるようだ。
「分かった、帰ろう。じゃあセシリアさん、また明日」
「はい、また明日」
セシリアさんに手を振って、教室を出る。広い校内なので門を出るまで十分は優にかかる。しかも一学年は四階に教室があるので、無駄に階段を上らないといけない。鍛えてると思えば、苦にもならな・・・い訳が無いよね。しんどいものはしんどいです。
「コージは、早速新しい女の子をひっかけましたね」
「えぇ?」
門に向かって歩いていると、不意にセリナがそう呟いた。目がじとーっとしてる。
「いや、隣の席の人ってだけでひっかけたとかそういう訳じゃない・・・よ?」
「しかも貴族の方ですし。貴族の方なら私が何も言えないのを知っていてひどいです!」
「そ、それは言いがかりというか、考えすぎだよ~・・・」
セリナが貴族を苦手だというのは知っていたけど、セシリアさんみたいな普通に見える人でも駄目っていうのは驚いた。というか、セシリアさんとセリナが仲良くなれれば意外と貴族に対する苦手意識が消えたりしないだろうか? 貴族って人外みたいな所があるけど話をしてみれば、案外普通の人間と変わらない。そういった所をセリナに知って貰えれば貴族を怖がる事が少なくなるかもしれない。所詮、貴族も人だって分かればきっと。
「むぅ・・・」
黙って考え込んでる僕をみて唸っているセリナ。髪型が変わって更に可愛さがアップしている。一人で歩いていたらナンパとかされそうだよなぁ。
「あのねセリナ・・・」
このまま黙っていると、セリナに変な勘繰りをされそうなので、僕の考えを話してみた。
「うーん・・・確かにセシリアさんからは、そんなに怖いというイメージが無いですね。ですけど、攻撃できるかと言われればやっぱりできないと思います」
「そっちの方が都合が良いと思うよ。仲良くなってきて、貴族がどういう人間なのかが分かってきてから、攻撃できるようになれば、貴族恐怖症を克服したって事にならない?」
「でもぉ・・・うーん・・・仲良くなれますかねぇ・・・」
そういえば、今でこそ普通の表情をしてくれるけど、ちょっと前までは知らない人にはすっごい仏頂面で会話してたもんね。でも、今のセリナなら大丈夫じゃないかなぁ。
「そこらへんは、僕も協力するし皆も協力してくれる・・・よね?」
「「「うん(む)」」」」
今まで黙って聞いて歩いていた皆は、一斉に返事をしてくれる。僕とセリナが話をしている間、じゃんけんをずっとしていたようだけど・・・何を賭けてたんだろう・・・?
「じゃあ、明日から貴族の人とも仲良くしていこう。ねっ」
なんにせよ、クラスメイトと仲良くなるのは良い事だよねっ。明日から僕もがんばろっと。
「で、主よ。今日こそ誰と入るか決めて貰うぞ」
鼻から息がでるぐらいの勢いで、胸を張って脈絡もクソも無く宣言する白夜。人の事を破廉恥王とか言うくせに、そういった事はさせようとするのが分からないっ! 万が一言う事を聞いて風呂に一緒に入ろうものなら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「絶対いやだっ! 僕は一人で入るんだぁああああああ!」
「あ、逃げおった! 待てぃ!」
「コージ待ってぇ~~~!」
もじもじとしているセリナとヒロコ以外は、僕を追いかけてきた。だけど、僕の平穏を保つためには捕まる訳には行かない。行かないのだ!
どうにかこうにか家まで逃げ切り、部屋に立て篭もる。頭脳戦が苦手な二人で助かった。くそぉ、女の子とお風呂なんてそんな素敵うらやましい事なんか・・・だめだ想像しただけで鼻血でそう。しかも一回許しちゃうと後はそれが当然になっちゃいそうで怖い。まだ女の子と付き合った事もないのに、女の子とお風呂に入って出血多量で死んじゃうとか辛すぎる。
「で、どっちと入るんですか?」
「ボク・・・だよね?」
しまったぁあああああ!? 裏をかいたつもりがセリナにしっかり見破られてたぁ!? もじもじしてたからてっきり、追って来ないとばかり・・・不覚。
「いや、あのね。そういう事はやっぱりお付き合いしてる人とするんじゃないかなぁ?」
「じゃあ、付き合って下さい」
「ボクもボクも」
「付き合うのは一人でしょうがっ!? ていうか、どうしてこうなったぁ!?」
「だって、コージを今のうちに繋ぎとめておかないと、学園できっと奪われます!」
いや、今日の教室でも誰も僕なんか見てなかったよ? 買い被りもいい所だと思う。
「それはないない。だって僕って別にイケメンでもないし。心配しすぎ~」
というか、今の状態が女の子と一番接触している。今までは、女子と話しするとか遊びに行くとか、まったく無かったもんなぁ。それに僕の気のせいじゃなければ、セリナ達って僕の事・・・いや、無いか。ちょっとちやほやされたぐらいで、勘違いしてちゃ駄目だよね。
「にぶちん。もう知らない」
「にぶちーん」
ぷいっとそっぽを向くセリナ。ヒロコは面白がって真似をしている。最近、ヒロコの行動基準が良く分からなくなってきた。なにか宇宙から電波でも受信しちゃったのだろうか・・・
「とりあえず、男と一緒にお風呂に入りたがる、はしたない女の子は駄目です」
「「むぅ」」
建前はそう言っておこう。ここで本音ぶちまけたらきっと引かれる。
「でも、それだときっと収まらないのが君達だ! よって水着着用ならオッケーだ!」
「「はいっ! 準備してきます!」」
目の色を変えて部屋を出て行く二人。だけど、扉をロックできないように鍵を壊して、チェーンロックも破壊していくところは微妙に冷静だ。どこまで僕の理性がもつか分からないが、これ以上はこんな騒動を起こすのはごめんだ。しかし、お風呂場で水着を着た女の子と一緒・・・でも裸で来られるよりは大丈夫だ、きっと・・・
「光司も成長したわね・・・母さん嬉しい」
「疲れて突っ込む気も起きないよ、母さん」
「まぁ、しばらくは覚悟しなさい。あなた、今朝だれも褒めなかったでしょ? 誰のためにお洒落したと思ってるんでしょうねぇ、この唐変木は」
「え?」
「ううん、なぁんでもなーい。それじゃご飯は後で食べれるようにしておくわねぇ~」
そういって、いつの間にか来ていた母さんは、楽しそうに食堂へと消えていく。お洒落を褒めなかったからこうなっちゃったって事? うーん・・・女の子って良く分からない・・・
はぁ、嬉しい事なのに覚悟を決めなきゃ駄目とか、訳わかんないよもう。
光司の評価はいたって平凡。本人も勿論納得。