学園初日
初めて学校に行く朝は緊張する。
それは、初めて行く学校でうまくやっていけるのか、新しい環境に期待をしているのか、色々と学べる事に対して嬉しさを感じているのか、よく分からない。不安と期待がない交ぜになって、結局は緊張するという心に落ち着く。だけど、見知った四人が居るからそういった緊張も次第に解けていった。
そのかわり、何か面倒な事が起きるだろうという予感めいた物はあったが。
結局、学園の合格通知は皆に届いた。誰一人欠ける事無く無事に合格したのだ。年齢はそれぞれ違うのだが、みな同じ学年からのスタートになる。この学園は意外と年配の人も通っているそうで、色々な年代の人間が居るそうだ。
今日から学園に通うという事で、みんな髪型を変えていたのが面白かった。セリナはくくっていた髪を下ろして、ふんわりとしたパーマが掛かってる。この世界でもパーマってあるんだーって感動した瞬間だ。ミミは相変わらず髪を括っているのだが、ツインテールからポニーテールに変化した。心なしか色々と成長してる気がする。ヒロコはなんかベリーショートになっていて前にヒューイックで買った髪飾りを付けている。最初誰かわかんなかった、思い切りが良すぎるよ、ヒロコ。そして白夜。何故かこの子がツインテールになっていた。
「楽しみですね、学校って行った事無いんですよね、わたし」
「ミミもぉ、行った事ないからぁすぅっごく楽しみなんだぁ~」
「ボク、寝てていいかな?」
「我もあまり勉学という物はしたくないのぉ。戦闘とか破壊とかは得意なんじゃがなぁ」
「・・・」
人じゃない二人のあんまりな言葉に台詞を失う僕。一番常識を叩き込みたい二人に限ってまったくやる気が無いのはどういう事だろうか。
「ヒロコ、白夜。しっかり勉強しないなら離れに住んで貰うよ?」
そう家には離れまであるのだ。そこは本館から結構離れたところにあり、ちゃんと人が住めるような環境ではあるんだけど、どちらかというと人と会いたくない時に使う為のものであり、普段住まいするような場所ではない。そして、人が好きな二人は当然その場所を嫌がる。
「そ、それは嫌なのじゃ。せっかくこの姿になれたのに、あんまりな仕打ちじゃぞ!?」
「ボクがいくら自然が好きだからって、それはちょっと・・・」
「じゃあ、頑張って勉強する事。いいね?」
「「わ、わかった」のじゃ」
ようし、これで赤点取った日にゃ、あそこへ閉じ込める事にしよう。
そうして、真新しい制服に身を包んだ僕達五人は、冒険者学園の門をくぐった。
「え、五人とも同じクラスですか・・・?」
「あぁ、そうだ。まぁ色々あるわけだ。あはは」
そう言って軽い調子で笑うこの人が、僕達のクラスの担任のセイベール先生だ。男装の麗人って雰囲気の男性だ。ん、男性なのに男装っぽく見えるんだこの人。本当は女性だ! って言われてもしっくり来るね、うん。
「まぁ、全員同じクラスに入れた方が問題なさそうだしね。ま、観念しなよ」
観念しなよと言われても、なにをどう観念すれば良いのか分からない。そう言って教室まで案内してくれた先生は、先に教室に入り何事かをクラスに伝えている。良くある転校生イベントの台詞だろう。そのうち、入れと言われたので皆一緒に教室に入った。
かわいぃー! きれーい、きゃーなどの台詞が飛び交い、僕に注目している人間は居なさそうだった。そりゃこんだけ可愛い子が四人も入ってきたら、誰でもそっちを見て喜ぶよね?
「コージ=H=アース、16歳です。趣味は・・・読書にします。よろしくお願いします」
そう言ってぺこりとお辞儀をする。一応男なんで、一番最初に自己紹介をした。ちなみにHはヒロセのHで、アースは地球の事。本名でもないけど偽名でもない名前を名乗る。
「セリナです。その内セリナ=H=アースになると思います。歳は17歳です。趣味は魔法の改良です。よろしくお願いします」
その挨拶はどうかと思うんだけど、セリナ・・・
「ミミ=H=アースです。18歳です。お願いします」
ミミは緊張しているようで、これだけ言うのも必死だった。その姿を見てクラスの反応はたまらなく可愛い生き物を見た! って感じになった。
「ヒロコです。16歳です。昼寝が大好きです」
欲望の赴くままだよね、君は本当に。昼寝が大好きと言われてもどう反応すれば良いか分からないと思うよ、うん。
「白夜じゃ。歳は聞くな。趣味は完全破壊や徹底抗戦などじゃ。よろしく頼む」
そういえば白夜の年齢っていくつなんだろうか。ルーツだから結構な歳だよね。たぶん。そんな事を考えてたら白夜に凄く睨まれた。怖い怖い。
「さて、それでは転校生達は適当に空いてる席に着け」
いやそこは、指示する場面でしょセイベール先生。面倒くさくなって投げたな。僕はせっかくだから、前の方で空いてる席を探す。教卓のまん前という非常に人が嫌がりそうなポジションが空いているので、そこへ座る事にする。僕の後ろも空いていたのだけど、四人が取り合いになって、結局ミミがそこに座る事となった。さすがミミ恐るべし。
「へへぇ。コージと一緒だねぇ、良かったぁ」
「だねっ。がんばろうね、ミミ」
そのミミの言葉に振り向いて笑いかける。ミミが一番学校に来たがってたもんね。一緒に勉強して頑張ろうね。
「よろしくね、コージ君。はじめまして、私はセシリア・アデルハイド・ミラーです。良かったらセシリアって呼んでくださいね」
と僕とミミの様子を見ていた右隣の女の子とばっちり目が合い声を掛けられた。
「あ、よろしくねセシリアさん」
背中まで金髪を伸ばした、凛とした雰囲気の女の子である。もしかして貴族なのかなこの子って。こんな貴族が来そうに無い学園なのに居るもんなんだねぇ。
「くすくす。お察しの通り貴族ですけど、あまりそういった事は気になさらないで欲しいですわ」
僕の視線が何かを語っていたようで、セシリアにそう釘を刺される。
「ごめん、じろじろ見すぎだよね。気をつけるね」
「いいえ、どういたしまして」
そうして、初めての授業が始まった。
最初の授業は剣術についての授業で、基礎体力をつける為に筋力トレーニングをしている。クラスの皆がそうやってトレーニングしている傍ら、僕達は体力測定を行っていた。腕立て伏せ、腹筋、えびぞり、50メートル走、持久走。そういった測定の結果、ミミはやっぱり断トツの成績でA判定で、白夜も当然のようにA。セリナとヒロコも意外と凄くB判定だった。僕は至って普通のC判定である。成績はA~Fまでのランクがあり、ごく普通の高校生の僕は大した成績じゃないのは思った通りなんだけど、女の子に負けてるのはちょっと男として駄目だよね。あははのはー。
だけど成績を気にしているのは僕だけだったようで、セリナ達は特に失望したとか言う表情ではなかった。不思議そうな顔はしていたけどね。
「主は本気を出しとらんのぉ。目立つのが嫌とかいう奴なのか?」
「え? いや僕の本気でだいたいこんな感じなんだけど、変かな?」
「質問に質問で返すな。普段の戦闘を見ているとAぐらい楽勝で出せると、踏んでおったんじゃが、そこはどうなんじゃ?」
白夜は眉間にしわを寄せながら、問いかけてくる。よっぽど不思議だったようだ。
「えー、別に手を抜いてる覚えは無いんだけどなぁ。みんなに負けてるのはちょっと恥ずかしいけどね」
「大丈夫です。そんなコージも大好きですからっ!」
急に出てくるセリナ。今は運動をするという事でポニーテールにしている。ポニーテールが大好きなので見とれてしまう僕。可愛いなぁ。
「えっと、なんだっけ。とりあえず僕は鍛えないと駄目って事だね」
「ミミと一緒に頑張ろうね?」
「いやーミミに付き合って貰うのは悪いよ、さすがに。スペックが違いすぎる・・・」
僕の訓練に付き合わせるのは、勿体無いよね。ここは少しでも近いほうが良いと思う。
「では、わたしが・・・」
「ヒロコ、一緒にやってくれる?」
「ボクならいつでもオッケーだよ、マスター! じっくり付き合ってあげよう!」
「よろしくっ」
ヒロコとハイタッチをしていると、何故かセリナががっくりしていた。なんで? まぁ基礎体力については鍛えておいて損はないはずなので、いっちょ頑張るとしますか!
ヒロコ。最近空気なヒロコ。戦闘には絶対不参加のヒロコ。
学園編です。古代遺跡へどんどん挑もうと思います。モチロン、フレームもいろいろ弄っていきます。