新生活の第一歩
クーデター終結からはや一週間。
飛行ユニットでハイローディス軍の度肝を抜き、その戦慄の覚めやらぬ内に交渉をすすめなんとか丸く収めて父ちゃん達は帰ってきた。疲れて帰ってきた父ちゃんが言うには狐と狸の化かしあいだったそうだ。お疲れ様、父ちゃん。
父ちゃんが出発してからグレイトエースは平穏そのものだった。貴族たちが続々と押し寄せると思っていたんだけどそんな事は全く無く、どこかで父ちゃんの宣言を聞いて領地へと戻って行ったらしい。だけど今回の件について黙って済ませる訳には行かないので、三日後には貴族の意見というか弁明を聞くために招集するそうだ。そして、今回の件で貴族たちの血の呪縛が良く分かった父ちゃんは、あまり刺激しすぎるとまずいのが分かり、しばらくグレイトエースの復興の為という名目の元、貴族の長子を呼び寄せて働かせる措置をとるそうだ。最初は税金を上げて金を取ろうとか言ってたんだけど、それだと結局住民が苦しむだけで、貴族は屁とも思わないだろうという事で、人質を取るという事になったのだ。政治って難しいねぇ。
さて、そういった政治には不向きの僕達はロバスのとある一軒家でのんびりしていた。というのも、僕がいきなり王様の息子ですよーって出て行っても何も良い事が無いのでしばらく隠しとおす予定だからだ。まぁ貴族の力なんて僕には効かないんだけど、父ちゃんに印が無くなったってばれるのがまずい。一応保険として、アンチ貴族パワーマシンを作ったから、お城の中では父ちゃんも無事なんだけど、それでも父ちゃんに印が無い事を知ってる人間が少ないに越した事は無い。ヒューイが言いふらしているだろうけど、お城にいる限り貴族の力では父ちゃんに傷1つ負わせられないので、その内そんな噂も消えてなくなるだろう。
そして、何故一軒家に居るかというと。
「ミミちゃん、お母さんと一緒におやつ作らない? 甘くてぷりぷりでおいしいの」
「う、うん。作りたい! 食べたい!」
最近わかったんだけど、ミミは集中すると語尾が普通になるようだ。いまもよっぽど食べたかったんだろう、語尾がまったく間延びしてなかった。クーデターの討伐の間、ずっと僕達と別れてここに居た母さん。その鬱憤を晴らさんとばかりにミミにかまい倒し、セリナを連れ出し、ヒロコと遊び倒している。白夜まで着せ替えを楽しんで遊んでるようだった。僕? 僕はいっつも母さんと一緒ですよ。とほほ。
「ほら光司、はやく来なさい。あなたが来ないとできないでしょ! もうっ」
「もうって・・・ それ僕の台詞なんじゃないかなぁ・・・」
台所でみんな並んで、プリン作り。作業を手分け・・・するほどでもないので僕がまとめて作る事になる。あれ? 母さんとミミが作るんじゃなかったっけ・・・?
その事に気付いたのは、みんなでプリンをおいしく食べて後片付けしている時だった。
最初はミミと母さんだけでこの家に住む予定だったんだけど、結局僕やセリナにヒロコ、白夜も加わってこの家に住んでいる。結構広い家で、部屋もたくさんあるので皆が一部屋ずつ使っても大丈夫なのだ。それに、ロバスの冒険者学園に通う予定なのでこの家に住むのが都合が良いんだ。
すでに昨日に、編入試験を受けていて結果待ちである。それぞれ特技もあるのでたぶんみんな合格してると思うけど。
この世界に来て家族みんなで無事に再会できて、厄介事もほぼ片付いて僕もこの世界で生きて行くのに色々と学ぶ必要があるので、学園は丁度良い。ミミも過去が過去だけに知らない事の方が多いし。元の世界に居た頃は勉強なんかしようとも思わなかったんだけどこっちに来たら、やっぱり知らない事が多いというのは不安で、生きる為には学ぶ必要があると感じたのだ。
「主よ、今よいか?」
こんこんと軽いノックの音と共に白夜の声が扉の向こうから聞こえた。
「はい、どうぞ。白夜どうしたの?」
扉を開けて白夜を中に招き入れる。今日は長い髪を後ろでまとめて浴衣みたいな服を着ている白夜。
「珍しいね僕に会いに来るなんて、なにかあった?」
「それじゃ! なんでお主はわしをほったらかしにするのじゃ。まったくもぉ」
「え? 毎日一緒にご飯食べてるし、一緒に住んでるじゃない? 僕なんかした?」
どうして、僕の周りの女の子はこう不思議な台詞が多いんだろうか。
「一緒に寝ておらん! 風呂も別々だし、ちっとも構ってくれん! わしの主の自覚が足りんのじゃ! ひさしぶりに帰ってきてもハーレムはそのままだし、この破廉恥王!」
「いや、女の子とそんな事しちゃ駄目でしょ? なにぶっ飛んじゃってるのさ!?」
白夜の台詞に面食らっていると、部屋の扉がバガンッと勢いよく開け放たれる。
「そうです、そういった事はまず私が最初にするんですよ、白夜さん!」
「ボクはとりあえず来たよ、マスターうっひょー」
「コージは最近、女の子を拾って来すぎだとぉ、思うなぁ~?」
またややこしくなってきた・・・ そしてヒロコ。君は最近どこかに頭のネジを落としてきてないか・・・?
「みんなお風呂は入って来たの? だったら僕もお風呂に行きたいんだけども」
一人ずつ相手にするならともかく、四人も相手をするのはもう収拾がつかないのでお風呂に逃げようと考えた。だけど、そんな考えはお見通しの四人だった。
「じゃあ、みんなで一緒に行きましょう!」
「それは良いな! 主、準備してくるぞ」
「「賛成~!」」
「じゃあ、みんな準備してきて~」
「「「「はーい」」」」
バタン、ガチャッ、ガチャン。
ようし、うまく追い出す事ができた。もう今日はお風呂いいや。明日の朝にでもゆっくり入る事にしよう。
翌朝。
ベッドでぐっすり眠っていた僕は、隣に誰か寝ているのに気付き驚く。
「母さん? 物心ついた子供のベッドに潜り込むのはどうかと思うんだけど?」
「せっかく若くてぴちぴちになったんだから、有効利用しないと勿体無いと思わない?」
「そういうのは父さんにしてください。というかどうやって入ったのさ」
鍵をかけてさらにチェーンロックまでしてた筈なのに。
「な・い・し・ょ☆ 言ったら次から入れなくなっちゃうもん」
「いい大人がもん言うな? まったくもう、母さんも早く出て出て!」
「あんっ」
変な声をだすな。まったくもって恥ずかしい限りだ。朝の生理現象を悟られないように強気で母さんを追い出す。そんなのばれたらあの人は何をしでかすか分からない。
「エド、どうしてるのかなぁ」
今日も夢の中にエドは来なかった。彼が会いに来るなら。まず夢の中で約束すると思うのだけど、こないだ別れてからは全くそういった事はない。彼の能力は特殊だからきっと何かされてるとかは無いと信じたい。
今日あたり冒険者学園からの通知が来るはずだ。きっと皆合格しているので学園生活が今から楽しみである。可愛い子とか居るのかなぁ・・・? 今現在、可愛い女の子四人プラスワンに囲まれている生活にも拘わらずそんな事を考える僕はおかしいのだろうか。
僕も頭のネジを一本どこかで落としてきたんだろうな、きっと。
まだバルトス国はごたつきそうですが、勇司がうまく処理するでしょう。
光司くんは学園で何を見て、何を感じるのでしょうか。
目立つメンバーを引き連れてるので、何かと目をつけられそうです。